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神話の子供たち / 金の髪のフェンリル / 新たなる神話へ 榎田尤利

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神を喰らう狼

神を喰らう狼 - 榎田 尤利

ぼくのいるところは、海に囲まれた島らしい。それがどんなものかは見たことが無いからよくわからないけれど、匂いはフェンの匂いに似ていると思った。時折、島を訪れるフェンは、ぼくより年上で、ぼくと同じ顔をしていて、そんなフェンが大好きだった。
だが、フェンが事故にあったとき、今までの平和は突如壊れて……

フェンの身体のスペアとして、閉ざされた島で育てられたボーイが、世界を感じて、自分というものに気づいていくというお話です。【clone】と一ページ目に書いてあったのに、そのことに気づいたのは、物語が始まって数十ページ読んでからでした。キュっと心臓をつかまれるような思いがしましたね。

自分はフェンの身体のスペアであると認識はしていても、それがどういうことかは、わかりきっていないだけに、無邪気に振舞う姿を見ていると心が痛くなってきます。フェンの心のうちは、はっきりとはわかりませんが、それでも、ボーイとのやり取りには、愛情らしきものを感じられるので、いったい何のためにボーイを?と疑問がずっと心に残っていました。
地位や名誉など、余計なものが重みとなるのでは、何のために頑張るのかわからなくなりますね。

フェン、ボーイ、リトル、ローズ、キナ……誰に感情移入しても、切ない気持ちになりますが、個人的に一番胸が張り裂けそうな気持ちになったのは、ローズの伝言を聞いたときです。フェンと初めて出会ったときのはしゃぎたくなるような恋心、リトルを妹のように大切に思う心。あの短いメッセージの中に、ローズの人生の全てを感じてしまった僕も、きっと、最後まで聞くことができなかったと思います。

楽園という美しいものの中で育ったボーイが、自分を見つけるまでの話は、美しくもあり、内に秘めた心の激しさも感じました。「あたしはここにいる」というリトルの言葉の力強さには、心を揺さぶられるものがありますね。

ファンタジー作品として成田さんからお勧めいただきましたが、クローンという題材を扱っていることもあり、SF的だなと思って読んでました。ですが、読んでいくうちに、印象が変わりましたね。世界観というか何というか、難しいことはわかりませんが、雰囲気はファンタジーな感じでした。
どんなものか迷ったとき、この表紙の瞳に射抜かれてしまったら、読んで損はないと思います。

これほどまでに綺麗に形作られたお話なだけに、続編で雰囲気が壊れないか、心配になってしまうところがありますが、これからボーイがどんな旅を始めていくのか楽しみですね。

神を喰らう狼 - 榎田 尤利

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隻腕のサスラ

隻腕のサスラ―神話の子供たち - 榎田 尤利

表情がなく、感情を表に出さないため、サラは他の学生から幽霊のようだと言われている。それでもよかった。他人と関わるなんて面倒なことをするつもりはない。
毎日を同じように淡々と過ごしていたが、ある日、亡くなった父の知り合いだという新任教師、エリアスがサラに「君の周りは敵だらけだ……」という警告を与えてきて、そしてサラの世界は動き始めた……

神話の子供たちシリーズの第二弾。「神を喰らう狼」から十年ほど経過したあとのシティが舞台ですが、前作とはかなり印象が違いますね。主役がフェンリルではなく、サラという少女だということが関係あるのかもしれませんが、より開かれて、先を思わせる展開だったからかな。いやあ、面白かったですね。

幼いころの記憶と左腕を失ったサラが、フェンリルに出会うための旅を始めるまでが描かれたお話なんですが、等身大の少女の視点から描かれる物語って感じが良かったですね。エリアスという男の得体の知れなさに警戒し、同時に親身な態度に戸惑うところとか、とても伝わってくるものがあります。

何かを持っているから狙われるんだろうとはわかるんですが、それが何なのかわからないまま、話が進んでいくので、とても引き込まれましたね。誰を信じていいのかわからないというところも、緊迫感に拍車をかけたと思います。あの「塔」の中の話を読んでるときは、ドキドキでした。

出会いがあれば、別れもあるわけで、一番悲しみが伝わってきたのは、あの海岸のシーンですね。家族のような存在を失ったなら、それも一人だけでなかったら……。感情を表に出さなかったサラが、涙を流すところでは、胸を締め付けられるものがありました。

シティの内情というか、ユージンの考え方については、既にわかっているものがありましたが、十年たっても人というのは変わらないんですね。
彼らの思惑に触れたサラが、怒りを持って獣のように目覚めさせていくところには、ああ、これが運命なのかと思わされるものがありましたね。

自分の意思とは違いながらも、旅立つことを余儀なくされたサラですが、今後はフェンリルを目指す旅物語になるのかな。今度はフェンリルのお話も読んでみたいけれど……、それともまた別のところのお話になるんでしょうか。
どの話にせよ、引き込まれることは間違いないので、楽しみですね。

隻腕のサスラ―神話の子供たち - 榎田 尤利

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片翼で飛ぶ鳥

片翼で飛ぶ鳥 -神話の子供たち- - 榎田 尤利

シティを出てから、ただひたすらに平原しかない中を歩かされた。今まで快適な生活しかしたことがないサラにとっては、辛い日々だった。みなに迷惑をかけたくない一身で動いていたが、はやる気持ちが裏目に出た。単独で動いたら、道に迷い行き倒れてしまったのだ。眼が覚めたとき、サラはラコタ族の集落で介抱されていたが、彼らはシティの人間に痛い目に合っていたため……。

フェンリルと出会うために、シティから離れたサラたちが、草原で暮らすラコタ族と出会うお話です。始めて見た外の世界をただひたすら歩いていく。先の見えない旅に、不安を抱くサラの姿は、今まで停滞していたことを考えると、しかたないことでもありますが、イライラさせられるところも多いです。ディンが叱り飛ばすところで、よく言った!と思ってしまったのは、僕だけじゃないはず(だと思いたい)。

自分に自信がなく、閉じこもろうとする姿は、どちらかといえば、甘えに似たものがあったと思いますが、そんなサラが変わっていったのは、ラコタ族の戦士ホークアイの一途な思いと、妹のような存在のティティに出会えたからでしょうね。今までと違った文化と人間関係によって、少しずつ前を向いていく過程が良かったです。こういった出会いもまた運命なのかなと思いました。

個人的に印象に残っているのは、やっぱり別れのシーンですね。サラと離れたくないというティティのまっすぐな気持ちには、思わず涙を誘われるものがありましたし、サラの旅立ちを見守らねばならないホークアイの愛に、胸を打たれました。いつか、また会える日があると願いたいですね。

シティの人間が Dエリアの人間を、特に女子供を連れ去るという話には、当事者たちからしたら辛い話ですが、逆に、シティ自身の歪みも限界が来ているのではないかと感じました。実際のところどうなのかわかりませんが、最後のやり取りを見ていると、未だユージンは諦めていないようなので、それどころか執拗さが増しそうな勢いなので、今後の展開が気になります。

片翼で飛ぶ鳥 -神話の子供たち- - 榎田 尤利

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おまえが世界を変えたいならば

おまえが世界を変えたいならば-神話の子供たち- - 榎田 尤利

地下取引取引、賭博、歓楽街に売春婦……欲望の溢れるサブシティ・ヴェガス。それがサラたちの目的地だ。偽造IDひとまずサラとエリアスが先んじて、レジスタンスの本拠地に向かった。そこでは、少年のころからフェンリルを見てきたというキラが歓迎してくれたが、サブリーダーであるズゥは、サラにそっと囁いた。―キナに気をつけろ、と……。

今までのシリーズを読んで、世界について思うものがあるだけに、このタイトルはしびれますね。というわけで、フェンリルからの使者を待ち受けるために、ヴェガスに身を寄せたサラたちのお話です。プロローグのほんの数ページで描かれているエリアスの心情を読んでるだけで、もう苦しくて苦しくて。こういうところから、入り込んでしまいますよね。

ヴェガスにいるレジスタンスのリーダーのキナは、ボーイを世話してたキナでした。久しぶりの姿に、何か嬉しくなりましたね。彼女がサラの力になってくれたら……と思ってたのに、やっぱり安心できる場所など、そうそうないんだなあ。心と体の痛みに、耐えるサラの姿を見るのは、辛いものがありますね。

そんな中、今回一番感じたのは、サラの成長ですね。常に停滞を選び、時に後ろを向いていたあのサラが、はじめこそ自信無さげでしたけれど、誰に言われるでもなく、銃を手に取り、向かっていくほどになったんですから。

エリアスを守りたい。

今まで守られるだけだったサラのその気持ちに、何とも言えないものを感じました。このあたりの描写って、ほんとうまいですよね。
そういえば、エリアスがサラに対して、今までとちょっと違うを見せてるように思えたけど(嫉妬?)、自分で気づいているのかしら。

後半は展開がものすごく速いですよね。新たに仲間となったアショクが、いい具合に楽天的なので、サラやエリアスとは違い、先へ行こう先へ行こうとしてくれるからかしら。決してページ数は多くないのに、これでもかと詰め込まれてるので、一気読みさせられるんですが、逆に言うと、心理描写的なところは、ちょっと物足りないかなーと思わなくも無いです。

それにしても、クローンの話は、何ともやるせないものがありますね。ただ、生きていたいだけなのに、それすら許されないなんて。囚われの身であるソーニャたちの何も知らない様子には、ただただ悲しいと思いましたが、それ以上に切ないのは、クローンのもうひとつの利用法でしょう。まさか、そんなことをしているとは思わなかった。

この事実が、今後サラにとって、どういう意味を持つか気になるところですが、さらにひとつ、大きな出会いが最後に待ち受けていましたね。ここから運命がどう動いていくのか楽しみです。

おまえが世界を変えたいならば-神話の子供たち- - 榎田 尤利

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沙漠の王 金の髪のフェンリル

砂漠の王 金の髪のフェンリル  - 榎田 尤利

灼熱の乾いた風、ひび割れた大地。沙漠でシティの人間に攫われそうになっていたDエリアの女性たちを助けたのは、「金の狼」ことフェンリルだった。いまや、革命の象徴であり、希望でもあるフェンリルだが、周囲の期待の重さに悩むこともあった。
そんなある日、フェンリルは、沙漠の王の言葉を受けたバダウ一族の聖者タウバに出会い、ひとりバダウへと赴いたが……

てっきり「おまえが世界を変えたいならば」の続きになるのかと思ったら、時系列はだいぶ遡ってますね。「神を喰らう狼」のあとぐらいでしょうか。革命の象徴となった「金の狼」ことフェンリルの迷いと決意が描かれたお話です。

期待が重いというのは、フェンリルの生い立ちを考えたら、わかる気がしますね。「外」については、同年齢の人たちよりもはるかに経験がないんですから。それでも、期待に応えようとするのは、失ったものの痛みから逃れるためということもあるんじゃないかなと思いました。
「ボーイ」として過ごしてきた記憶を沈めようとするフェンリルの姿を見ていると、フェンの存在というものが、どれほど大きいものだったのかが伝わってきますね。

そのことが、周囲に対しての壁になっていて、悪い意味での甘えにもなっていたような感じではありましたが、そんなフェンリルを鍛え上げるよう頼まれた、バダウ一族の聖者タウバがいい味出してたなあ。聖者のくせに、ビシバシ鍛えるタイプで、フェンリルが何かとやり込められるところが面白かったです。

個人的には、フェンリルが沈めていた記憶と向き合うシーンがとても印象に残っています。「ボーイ」という言葉だけで、思わず涙ぐんでしまうぐらい気持ちが高ぶってしまったのは「神を喰らう狼」を読んだときの思いがぶり返したからでしょうね。
彼がいたからこそ、今のフェンリルがあると、自らの気持ちを整理したところに、サラだけじゃなくて、フェンリルもこうやって成長していったんだなあと思いました。

驚いたのは、ここで彼女が出てきたことですね。そういえば、たしかに昔、出会っていたという話はあったなあ。この頃だったのか。子供っぽい素直な感情と、ひょっとしたら自分でもわかっていないかもしれないけれど、フェンリルを勇気づける言葉に、胸を打たれるものがありました。この出会いもまた運命だなあと思いましたね。ここのシーンもよかったです。

おまえが~」で知ったファームの話は、このころから始まったんですね。ただ、生きていく。同じ思いを持つはずなのに、手を取り合うことができるはずなのに、なぜこの二組が争わねばならないのでしょう。どちらも仲間を思う気持ちが伝わってくるだけに、胸が痛くなる思いです。同時に、ユージンに対して憤りを覚えましたね。

最後の最後で、驚きの事実を知って(怪しいとは思ってたけど、これほどまでとは思わなかった)、さらにひれ伏したときには、ゾクリとさせられました。彼ほどのものがやるからこそ、こういう気持ちになったんだろうなあ。
不吉な予言も気になりますが、新たな力を手に入れたフェンリルが、このあとどういう運命をたどっていくのか、楽しみですね。

砂漠の王 金の髪のフェンリル  - 榎田 尤利

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生まれいずる者よ 金の髪のフェンリル

生まれいずる者よ 金の髪のフェンリル - 榎田 尤利

タウバの教えで鍛錬を重ねていたフェンリルの元に、衝撃的な知らせが届いた。あのマーロン博士が死んだというのだ。続けて、フェンリルの元に、博士からの遺言があるのだという知らせが届いた。フェンリルは急ぎ、遺言を預かっているという人がいるという地に足を運んだが、すでにその人は身罷り、その人から遺言を預かっているであろう女性は、シティの人間に攫われたという……

フェンリルとタウバのやり取りは、師と弟子というよりは、兄と弟みたいな感じで微笑ましく思えますね。そんなふたりが、マローン博士の遺言を受け取るために、シティへ乗り込むお話ですが、印象に残ったのは、どちらかというと、ユージンやセシル側でしょうか。

ユージンにも想い合った人がいたというのは、別におかしなことではないんですが、意外に思えるのは、今まで家族とか仲間とかを思う描写がなかったからでしょうか。いや、今回のお話の中でも特別何かを話してるわけじゃないんですが、言葉には出さないことが、却って相手への思いを伝えている。そんな気がします。
本作のラストに短編的扱いで、ユージンの若いときの話が載ってましたが、温室でしか育たないと思っていたのに、その温室ですら守れなかったことが、ユージンを頑なにしていったのではないかと思ったり。

一方、ユージンの忠実な兵であるセシルですが、今回は独断すぎる行動が目立ちましたね。始めは、神のように思ってる人が、人としての感情を見せたことに居たたまれなくなったように思えましたが、親を取られてしまうことを危惧する子供のようでもあったのかな。感情を伝えるすべを知らないことが、悪い方向に働いているようですね。
ただの悪役のように思っていたんですが、愛情を与えられなかった人なんだなあと思うと、さびしいものがあります。

今回最も印象的だったのは、Dエリアの女性による代理母出産の実験台として連れ去られたソナムの思いですね。自分を連れ去り、妊娠させたという憎むべき相手であっても、子に罪はないと守り抜く姿には、なんと大きな愛を感じたことか。
自分以外のものに注ぐ愛情こそが、今、シティで最も足りないものだと思いました。

それにしても、最後はすごかったですね。既に知っている未来へと繋がっていくシーンには、これが運命というものかと感動して、体の震えが止まりませんでした。ああ、すばらしい。
次は、フェンリルとサラのお話になるみたいなので、とても楽しみ。また多くの感動を期待してます。

生まれいずる者よ 金の髪のフェンリル - 榎田 尤利

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銀の騎士 金の狼 新たなる神話へ

銀の騎士 金の狼 新たなる神話へ - 榎田 尤利

子供の生存率が圧倒的に低いシティでは、人工子宮ではなく、生きた子宮を使うという結論に達した。それが Dエリアの女性を『借り腹』として利用する「ドール計画」。そのための施設をキーツは、用意し始めていた。ここを叩き、シティの内情を晒すべく、サラとフェンリルは、かつてない大きな作戦に身を投じたが……

ついに、ですね。「金の狼」と「運命の少女」が手を組んで、さらってきたDエリアの女性を代理母とする施設「ドールハウス」を叩く、というお話です。主要メンバーが一堂に会すって何か嬉しいですが、初っ端にティティが出てきてくれたことも嬉しかったですね。ラコタ族とサラの繋がりが、いまだ深いものを感じるところには、心温まるものがありました。ホークアイをさりげなく皮肉るエリアスの大人気なさがカワイイったらないですね。

サラたちが「ドールハウス」を叩き、フェンリルたちが別の場所を同時に狙うってことで、同じ作戦でありながら別行動を取っていましたが、フェンリルにたらしな才覚があったり、アショクが人質となって情けなかったり、サラがまた無謀な行動に出たりと、面白さたっぷりで引き込まれてしまいました。

二人が力を合わせれば、キーツを打倒することだって無謀じゃない、と思ってましたが、どうしてどうして。さすがシティを支配していただけありますね。柔よく剛を制すじゃないですけど、自分を守りながら、相手を倒すのではなく、混乱に陥れる手腕は見事です。まさか、こんな展開になるとは思いもしませんでしたよ。
レジスタンスの行く末もさることながら、道を違えた者たちの行く末も気になります。

今回もっとも印象に残っているのは、エリアスの心情ですね。キーツに対する思い、侮辱されたときの静かな怒り、フェンリルへの複雑な思い、そしてサラへの愛などが描かれてて、それぞれとても心に残ります。特にフェンリルへがサラを連れて行くのではないかと不安に思うところには、意外なようで、判る気もしますね。周囲から見たら、当たり前のことでも、自分で気づかないってことは、誰しもあるでしょうから。
ただ、まあそろそろ自分のサラへの思いに気づいてほしいところです。

ともあれ、これで各自の目的がはっきりしてきましたね。フェンリルはクローン、サラは自分、そしてキーツはあの人でしょう。これだけの話を、次でまとめられるんだろうかとちょっと不安になりますが、「始まりのエデン」が待ち受けてるものを楽しみにしたいと思います。

銀の騎士 金の狼 新たなる神話へ - 榎田 尤利

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始まりのエデン 新たなる神話へ

始まりのエデン  新たなる神話へ - 榎田 尤利

致死量80%を超え、死神と呼ばれたGRウイルスをキーツが保持している。しかもワクチンの精製方法は、キーツしか知らぬ上に、彼のいる島へと入り込むことは不可能に近いのだ。いったいどうすべきかと、シティの代表者たちは悩み続けていた。
一方、方向性を違えたフェンリルは、タウバと共に単独でキーツを狙い、サラは仲間と共に、生まれ故郷を目指して……

キーツが切り札を持っていることを受けて、フェンリルはキーツを、サラは自分を探しに行くという最終巻です。いやあ、素晴らしかったですね。ひとつひとつのシーンが心に響いてきて、何度涙ぐんだことか。

一番初めに胸に来たのは、キーツがエデンとした島のことだなあ。まさか、そんなところにあったとは。キーツを追って島に入ったフェンリルが、戸惑いながらも、タウバという師と共に歩もうとするところが印象的です。
そこで出会ったクローンの子供たちの様子が幸せそうなだけに、もし事実を知ったらと思うと、辛くなりますね。フェンリルが子供たちを放っておかないのはわかっていますが、それでも今のこの島の危険性を知っている身としては、伝えられないことに歯がゆい思いでした。

一方のサラですが、はじめの聖ニコラス祭の描写が好きだなあ。お互いにプレゼント交換する祭りなのに、エリアスに何を送ったらいいかと戸惑うサラと、そんなサラを慈しむエリアスの空気が素敵過ぎです。告白としか思えないエリアスの言葉が、スッと胸にしみこんできて、いいですよね。

特別な人たちと故郷へ向かったサラですが、何といっても胸を打つのは、母なる愛が伝わってくる言葉ですね。一言一言に込められた思いに、じわりじわりと浮かんでくるものが止まらなかったです。ああ、なぜその手が届かないのか……。一瞬でもいいから、と思わずにいられませんでした。

ただ、ちょっと不満に思ったのは、展開が速いというか、各シーンの間を端折ってる感じを受けたところですね。もっと書き込んでほしかったなあと思ったのは、これが最後の巻だとわかってる者の未練かしら。

エデンに乗り込んだフェンリルの愚かにも優しい行動や、タウバの激しい屈辱、キーツが唯一持ち合わせなかったものなど、印象に残るシーンはたくさんありましたが、やはり戦いの最後が一番心に響きました。

わかっていたはずなのに。予言を覚えていたのに。どこかで否定したい気持ちがあったのかもしれません。
「わかっているな?」
たった一言で、すべてを理解させられて……
涙が止まりませんでした。

いやあ、ほんと良かったです。この素晴らしき世界を守った人たちのお話は、新しい世界でも語り継いでいかれますよね。きっと、そうなると、そうなってほしいと、願わずにいられません。最後の最後まで、切なく素敵な思いに浸ることができました。この物語が読めたことに、心からありがとうと言いたいです。
オススメ。

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