死神姫の再婚 / 小野上明夜
死神姫の再婚
没落貴族の娘であるアリシアは、14歳にして未亡人だった。名だけを必要とする成り上がり貴族の元での結婚式最中に、相手が殺されたのだ。以来、死神だの疫病神だの言われる羽目になったが、それから一年後。今後は、暴君と名高いカシュヴァーン・ライセンに嫁がされることになった。既に愛人を持ち、名だけがあれば良いと言い放つライセンだが、あっさりと受け入れて、喜ぶアリシアにあっけに取られて……
いやあ、楽しいですね。没落貴族の娘アリシアが、暴君と名高いライセンの元へ嫁いだら、いつの間にやら、アリシアのペースに乗せられて……みたいなお話なんですが、アリシアがいい性格してるんですよ。よく言えば節約しまくりで、悪く言えば狡い生活を続けてて、お金がほしいと言いながらも、汚い性格はしていないという不思議さが、とてもいい空気出してます。
面と向かって疫病神と言われても気にせず、ライセンの愛人たるノーラなんかは、これ見よがしに当てつけるような行動を取っているのに、むしろ「(自分を)お買い上げありがとうございます」とか言っちゃうんだから、無い腹を探ろうとする人たちとのすれ違いっぷりが楽しい限り。
まあ、そんなことをしていても、だんだんとアリシアの正体が知れ渡っていくわけですが、周囲の人たちや暴君とまで言われていたライセンでさえ、いつの間にやら毒気を抜かれていくのがいいですね。まさか暗殺者まで手なずけるとは思いませんでしたけど。
ライセンのもとに、いわば身売り状態できたため、聞きつけた貴族のティルナードが正義の味方よろしく、アリシアをライセンの元から引き離そうとするんですが、ライセンがいかに暴君してきたかを聞かされれば聞かされるほど、さりげなくライセンの弱さも見えて、だんだんとアリシアが放って置けなくなるところが、なんか良かったです。ライセンとの距離の縮まり方は、ベタながらクーとか言いまくりでした。
ただ、ライセン憎しで動いてるティルナードの行動が、どうにも稚拙というか、怒鳴り込んで追い返されるだけという、ワンパターンになっちゃってるのが物足りないかなあ。一番騒いでたのに、一番(とまでは言わないけど)印象弱かったです。ティルナード。ここのあたり、もうちょっといろいろあったら、もっと面白くなったかも。
最後は超急展開的に捻られてきたけど、あまりにも急すぎて……。いや、あれはあれでなかなかいい味でしたけど(悪党っぷりとか)、それでも、もうちょっとワンクッション欲しかったかなあ。
続けるのは難しいかなと思わなくも無いですが、激しい旦那さんと緩々な奥さんの距離が、もっと縮まるようなお話が読めたらとても嬉しいので、できれば続編を期待したいですね。
第1回B's-LOG文庫新人賞優秀賞×第9回えんため大賞ガールズノベルズ部門奨励賞作品。
死神姫の再婚 薔薇園の時計公爵
時計公爵とも呼ばれているアズベルグ家に、結婚の挨拶をしに行くという話を聞いて、アリシアは嬉しくなった。久しぶりに城から出れるのだ。それもカシュヴァーン様と一緒に!
そしてアズベルグ公爵の家へとたどり着いた一行だが、アズベルグ家の家令はそっけなく追い払おうとし、またカシュヴァーンも、いつもにも増して険しい表情をしていた。そんな空気に気づかないアシリアは、ふらりと屋敷の周りを散歩して、アズベルグ家の主と出会ったが……
没落貴族にして「死神姫」と呼ばれる怪奇小説大好きなアリシアと、暴君と名高いカシュヴァーン・ライセンが結婚したら、以外にもマイペースな奥様に乗せられて、というちょっとコミカルなお話の第二弾。今回はアズベルグの元領主の家系であるディネロ・アズベルグの家に、二人が結婚報告へいくというお話です。
ああ、アリシアがすっげー可愛い。悪気はないのに、白昼堂々と夫やら使用人たちを毒殺する計画を企てるんですから、そりゃ愛人候補のノーラもさすがに引くわ。いや、性格には、正確には毒から身を守るべく鍛えてあげようという親切心なんだけど、みんなが可哀想だからやめて上げてね。
そんなこんなで、ちょっとズレてる奥様の行動に、いろいろニヤつかせていただきました。
カシュバーンも、かなりアリシアを気に入りましたよねー。守り石なるものをわざわざ拾って贈るんですから。しかも、そのあと、酔っていたとはいえ、あまりにも自然に、あまりにも優雅に、そっと妻に口づけするシーンは、意表をつかれすぎて、クーとなりました。ああ、こやつはこういう格好つけシーンがハマりすぎる!
しかも普段は余裕を見せているのに、アリシアに危険が迫ったり、男の手が伸びてくると、いつになく焦る姿を見せるところに、オヤオヤ~と意地の悪い笑みを浮かべたのは僕だけじゃないはず。
ともあれ、アズベルグ家を訪れるわけですが、現領主と前領主ってことで、なかなか根深いものがあるようで、本人たちはともかく、使用人たちの行動に複雑なものを感じます。それだけじゃなく、なぜここを訪れたのかということが、なかなか見えないため(カシュバーンとトレイスが何かを隠してるのは見え見えなだけに)、ヤキモキさせられる。
時計公爵ってのは、まあ、予想通りのものでしたけど、ディネロの人柄を現しているようで、
ま、その間にもアリシアイベントが炸裂するんですけどね。他人の家で、はじめて同じベットを共にしたときの彼女の反応がたまりません。いや、お子様だとは思ってたけど「お腹痛い」という反応でくるとは思わなかった!愛らしいなあ。笑いながら、妻を撫でる姿に、夫の優しさが伝わってくる。
こういうシーンがあるだけに、無邪気に、自分は買われたと言ってしまうアリシアの言葉が、グサグサきますね。悪気はないとわかっているだけに、カシュバーンも辛いなあ。
アズベルグ家を訪れた理由が明かされてくるにつれて、結構なサスペンスが繰り広げられましたが、そのおかげで、確執のあったディネロとの間に、友情らしきものが見えてきたのは嬉しかったなあ。暴君と名高く、誤解されることの多いカシュバーンだけに、こういった人がひとりでも増えてくれればと思います。
ああ、面白かった。前作よりもパワーアップしてますね。これはオススメです。
そういえば、ノーラがひょっとして……という感じが生まれてきたような気がしないでもないけど、まだまだかな。個人的には、ああいうちょっと弱弱しい男のところに行ったほうが、彼女も映えると思うんだけど、さて、どうなるのかしら。
アリシアとカシュバーンの仲がどうなっていくのかということ共々、気になりますね。
死神姫の再婚 腹ぺこ道化と玩具の兵隊
「お前が死神姫づきの死神と呼ばれ、実質ライセン強公爵の召使になっているとは驚きだ。だが……分かっているなルアーク。お前が本来誰の犬なのか」
そう言うとサイードは、二人の少女のかたわらに立つルアークを感情のない目で見つめて命じた。
「帰って来い、ルアーク。お前は俺に逆らえないはずだ」
没落貴族にして「死神姫」と呼ばれる怪奇小説大好きなアリシアと、暴君と名高いカシュヴァーン・ライセンが結婚したら、意外にもマイペースな奥様に乗せられて、というちょっとコミカルな夫婦生活を描いたシリーズの第三弾。今回は、カシュヴァーンに支援を求めてきたエリクスに差し向けられた暗殺者が、ルアークの兄で……?というお話。
ああ、楽しい。非常にニヤニヤしちゃうお話でしたね。傭兵団からやってきたバルロイに恋するレネが、カシュヴァーンとアリシアの夫婦生活を参考にしたいと言い出して、「いちゃいちゃしてください」とはやし立てるから楽しいんだ。
いちゃいちゃって何をすればいいのかしらとボケるアリシアですが、カシュバーンに見つめられたら「おなかが痛くなる」んですから、思わずニヤリ。今の感情を自覚するのがいつになるかわかりませんが、こっちはわかってるけど、本人はわかってないという状況がたまりません。
一方のカシュヴァーンも、アリシアを大事にしてる様子が伝わってきますよね。その気になれば、力づくで手に入れることができるだろうに、いまだそっち方面には疎い彼女のために、優しく包み込むように接する姿がとても良いです。
今回、アリシアに暗い衝動を覚えてしまったのは、すれ違い……というのとは違うような気もするけれど、思いが伝わってないことの苛立ちみたいなのがあったからでしょうね。もっと素直になっちゃえばいいのに。
と思ったけど、あの屋敷の中じゃ、なかなかふたりっきりで落ち着くこともできないから、難しいか。
とまあ、楽しい雰囲気の中、ルアークが、どうにも煮え切らない動きを見せてくれて、イライラするものがあったなあ。今まで、残酷なことだろうが、やさしいことだろうが、サクっと割り切ってたところがあったので、どうにももどかしいものを感じました。というか、いくら、たったひとりの兄だっていっても、そこまでいくのかなというあたりが、微妙にわかりにくかったのもあるんだろうけど。
ただ、葛藤を抱えたルアークが、アリシアの天然で、でも、純粋な思いに、自分を取り戻していくところはとてもよかったです。
いやあ、面白かった。
もともとは他人同士の集まりだったのに、いつの間にか「家族」してて、とても温かいものを感じてきました。カシュバーンがアリシアに口づけを求めるところとか、それにアリシア一生懸命応えようとするところとか、ほんと素敵。
できればアリシアがもうちょっと成長して、新たな家族ができたら、これ以上の喜びはないかも。
死神姫の再婚 私の可愛い王子様
「アリシア。お前が大事にしている屋敷だから、俺は売りたくないと思っているんだ」
優しさと、なぜか哀れむような感情が入り混じったその眼を見た途端、アリシアを「おなかが痛い」感覚が襲った。
「お前は時々、物分りがよすぎるからな。嫌なら嫌だと、いつだって言っていいんだぞ。どうなんだ?」
穏やかな声で返事をうながされ、アリシアは赤くなった頬を隠すようにうつむいて答えた。
「それは……できれば……売らないで、いただきたい、ですわ」
没落貴族にして「死神姫」と呼ばれる怪奇小説大好きなアリシアと、暴君と名高いカシュヴァーン・ライセンが結婚したら、というちょっとコミカルな夫婦生活を描いたシリーズの第三弾。今回は、フェイトリン五家のひとつ、ロベル家がアリシアの屋敷を売ってほしいと言い出したため、胡散臭いものを感じたご一行が、かの人物の招待を受けたら、そこに待ち構えていたのは、これまで幾度と無くカシュヴァーンたちを引っ掻き回してきたオーデル公爵で、というお話。
アリシアのことを考えているのはわかるんだけど、でも、どこか一定の距離を置こうとしているようなカシュヴァーンの様子に、いったい何を考えているのかと不安になりましたが、個人的には、「おなかが痛い」シーンが少なくて、物足りなかったりする。
アリシアを手放したくないのに、素直になれないあたりが、まだまだですな、カシュヴァーン。
一方のアリシアは相変わらずマイペースで、他の人が聞いたら誤解を招くような発言を(愛人とか首輪とか)してくれちゃうので、同情を集めつつ、カシュヴァーンの評判が下がっていくところに、笑ってしまうものがあります。
ただ、カシュヴァーンが政治のことで悩んでる間、構ってもらえないのはともかくとして、心配しても大丈夫としか言われなくて、さらには、地位的に上の立場である美しき貴公子オーデル公爵が、さりげなくアリシアに手を出してくるので、いつに無くアリシアとカシュヴァーンの間に距離を感じるお話でもありました。
まったく。カシュヴァーンが素直になれば、もっと早く解決できただろうに。
おかげで、なんとももどかしいすれ違いを喰らって、悶々としてたんですが、最後にアリシアがやってくれました。
自身の非道さを自覚していて、自分に囲われるような形で側にいるアリシアを、好きだからこそ、それ以上進めなくなってしまったカシュヴァーンに対して、モゾモゾしながらも「小悪魔な振る舞い」で、相手に思いを自覚させるアリシアが最高でした。
こうなったら、次は、ぜひラブラブな展開をお願いします!
死神姫の再婚 微笑みと赦しの聖者
「お前が、嫉妬してくれているとは思わなかった……」
己の罪深さを恥じる気持ちと、それを上回る歓喜が声を震わせている。
「我ながら、最低だと思うが……嬉しくて、たまらない」
没落貴族にして「死神姫」と呼ばれる怪奇小説大好きなアリシアと、暴君と名高いカシュヴァーン・ライセンが結婚したら、というちょっとコミカルな夫婦生活を描いたシリーズの第四弾。今回は、豊作祈願祭の最中に、ティルナードが<翼の祈り>教団に拉致されて、というお話。
ああ、もうこのバカップルめ!お互い好きあっているのに、一方は自分の気持ちにはっきりと気づいておらず、一方は手に入れることを躊躇して。普段、何かと空気を読まなかったり、強引に突き進むのに、恋愛方面は、どちらも不器用だからじれったいったらありゃしない。特にカシュバーン。文通相手から言われるがままに、無邪気に挑発するアリシアを見て、膠着してないで動こうよ!
と思いながらニヤつく僕がいる。
これまではアリシアは、どちらかといえば受身で、それというのも買われた身だからという思いがあったからなんですが、教団の手によって、カシュバーンと引き離され、さらにはディネロと強制的に結婚させられそうになったあたりで、ようやく思いに気づき始め……たのかどうかはよくわかりませんが、少なくとも「特別」の意味はわかってきたんじゃないかなと思います。反射的に突き放してしまったあたり、ディネロは可哀想でもありますが、そこですっぱりあきらめる姿は男でした。まあ、彼に抱き上げられたところで、アリシアは「おなかが痛く」ならないですもんね。
領地のお話や、舞い戻ってきたユーランの暴走のおかげで、いつもよりもちょっとシリアスな展開でしたが、ラストにラブラブな様子を見せられたときには、通勤電車内だというのに、だーーーー!とゴロゴロしそうになりました。「おなかが痛い」の最上級にニヤニヤです。
すぐ傍に幸せが見えているというのに、手に入れることを怯えるのは、これまでの不幸があったからでしょうけれど、もっと素直になってほしいなと思いますね。
この二人だけじゃなくて、今回の一番の被害者であるティルとノーラも……ね。
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