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シゴフミ Stories of Last Letter / 雨宮諒
シゴフミ―Stories of Last Letter
目の前に原形を止めていない電車があった。自分はあの電車に乗っていたのだ。となれば、考えるまでもない。わたしは死んだのだ。今の自分は幽霊みたいなものかと現状を把握したとき、彼女は現れた。昔の映画に出てくるような郵便配達夫を連想させる格好をした女の子。
文伽と名乗ったその人物は、現世に想いを―手紙を届けてあげると言ってきて……。
亡くなった人が、想いを伝えたい人に対して書く最後の手紙。それが死後文。そんな死後文を届ける郵便配達人の文伽とその相棒マヤマが出会った人たちの物語です。
これはいいなあ。三編からなる短編集ですが、どれも素敵な雰囲気です。
一話目の「飛べない蝶」は、事故で亡くなってしまった葵と、親友の梨花の物語。自分が周囲と馴染めないのは、ここが自分の世界じゃないからだという二人の気持ちは、何ていうか、思春期特有のものがあります。
葵の視点、梨花の視点から語られるエピソードのひとつひとつは、とてもオーソドックスなものですが、親友を思うがゆえの嘘と、嘘に気づきながらも騙されてあげる姿に深いつながりを感じました。騙されているだけじゃなく、ひょっとしたらという希望があるのがまたいいですね。
わかっていても泣かされる。そんな話でした。
二話目の「ひとひらの想い」は三編の中でちょっとだけ雰囲気が違いました。これはマヤマの視点が多いからかな。マジックアイテムとして文伽をサポートする杖が、複雑な人間の想いに触れていくという感じです。愛する人に最後の言葉を伝えないという選択をする人もいるから、他人の心を推察するというのは難しいですよね。
私は幸せでした―その言葉に続けられる言葉にハッとしますね。勝手に決め付けて勝手に動くような真似はしたくないものです。
個人的に好きだったのは三話目「父さんの眼差し」ですね。父を思って始めたフェンシングが重荷になったとき、その父が亡くなってしまったという亜里沙の話。やり場のない怒りや不安がよくわかります。結局自分に向かうことになる気持ちって、もてあましますよね。
さりげなく「ひとひらの想い」の登場人物が出てくるんですが、あの時、語られなかった想いに思わずグッときます。終わり方がとてもきれいなお話でした。
どの作品も非常にオーソドックスな展開ではあるんですが、それぞれの想いが深く伝わってくるため、気持ちが高ぶります。きっかけに過ぎないかもしれませんが、大事なことを伝えてくれる。そんなシゴフミの配達人の位置がとてもいい感じだと思いました。
どうやら続刊も決定しているようなので、今後も期待したいです。
シゴフミ2 ―Stories of Last Letter
毎日がかったるく、自分は消防士に向いてないんだろうなと思っていた桜井進は、昔の郵便配達夫を連想させる制服を着た少女と出会った。シゴフミを届けるという少女から受け取った手紙には、たった今火事で亡くなった少年からで、煙に巻かれている妹を助けて欲しいという。いくらなんでもありえないと思っていたら、そのとき署内を警報が鳴り響き、手紙の差出人がいる住所に火災が確認されて……
シゴフミを受け取った消防士の「英雄になる瞬間」、死んだ猫がシゴフミの差出人となる「青い空、白い猫。」、友人たちの間柄を取り持っていた少女の「キューピッド」という三編からなる物語です。
「英雄になる瞬間」
人がいるならば何を措いても駆けつける。そんな消防士を目指していたのに、いつの間にか輝きが薄れていた人が、シゴフミを受け取った事で、普段ならやらない無茶をして、人を助けるところは、何とも熱いものがありました。
ああ、いい話だなあと思いましたが、それだけで終わらず、一躍有名になり、シゴフミがあれば、さらに活躍できると、少しずつ仲間たちとの間に溝ができてくるところは、なんともイタイ。
シゴフミを利用するつもりはなかったのに、結果的にはそうなっていたというのは、考えが足りなかったからなんですよね。シゴフミに込められた思いについて、指摘する文伽の言葉の鋭さには、息を飲みました。
受け入れるには厳しいものがあっただけに、自分を認めさせようと躍起になる進の気持ちが伝わってきますが、後悔に後悔をのせて、それでも託した人の思いを受け止めたところは良かったです。
最後に文伽が投げた言葉は、悲しくも、素敵な贈り物だと思いました。
まさか猫が差出人になるとは思っていませんでしたが、「青い空、白い猫。」は、前作でもあったように、マヤマが主となるお話です。あの無表情キャラである文伽が、強がりながら仕事をマヤマに押し付けるあたりが楽しい。
まだまだ半人前のマヤマが、調子に乗ってしまうところには、あららとさせられますが、飼い主である少女とのやり取りは、辛いものがありました。なるほど、だから規則があったのか。こんなつもりじゃなかったのにと、後悔する猫とマヤマの気持ちはよくわかります。
決して適わない願いのために、ひたすら努力する少女の姿には、グッとくるものがありました。純粋にただ一つの事を願う姿は、見ているのがつらいです。
それでも、それだからこそ、また会えるよね、と思わせてくれる最後が良かったです。
またひとつマヤマが成長したこの話が一番好きだなあ。
トリを飾る「キューピッド」は、他人の間柄を取り持っているうちに、キューピッドと呼ばれるようになった愛が、新たな依頼を引き受けたけど、彼は自分も気になる人でというお話です。ある意味、非常にオーソドックスだと思うんですが、シゴフミが絡んでくると、こうも切なくなるとは思いませんでした。
手紙を貰って初めて自分の気持ちに気づくところって、何かわかりますよね。失って、とまではいかないまでも、誰の手にも渡っていないからこそ、まだ自分は勇気を出さなくて済むという言い訳が成り立つわけですから。
ふたりの気持ちの間で揺れるながらも、気づいたからにはと罪悪感を持ちながらも積極的に動く姿は、何とも好感の持てるものでしたが、それが相手を追い詰めることになっていたとは思いませんでした。
憎らしく思う気持ちを抱えながら、シゴフミの願いを叶えるキューピットの姿は、あまりにも切ないものがあっただけに、最後の涙がたまりません。
前作よりも哀しみ系の話が多かったのはちょっと残念ですが、登場した人たちは、きっと今回の経験で強くなっていくんじゃないかなと思えるところがよかったです。 ただ、個人的には、切なくとも温かい気持ちになれるようなお話のほうが好きなので、次はそんな話になってくれたら嬉しいな。
シゴフミ3 ―Stories of Last Letter
近所の風変わりなおじいちゃんである照三郎が亡くなったとき、自分は泣けなかった。老人と高校生という年の差こそあれど、友人として接してくれた人の最後に、涙を流せない自分は、ひょっとしたら人間としてとても重要な何かが欠けているんじゃないか―そう思っていた望の前に、喋る杖を持つ文伽と名乗る少女が、照三郎さんの「シゴフミ」を持ってきた。だが、あまりの達筆さに読めないため、幼馴染の唯華に手紙を読んで貰ったら、家に残している大切な『輝けるもの』を持ち出してほしいと書かれているとのことで……
亡くなった人が、想いを伝えたい人に対して書く最後の手紙―死後文。そんなシゴフミを届ける郵便配達人の文伽とその相棒マヤマが出会った人たちの物語。今回は「輝けるもの」が「前編」「後編」おまけのような「中編」の物語として書かれていて、そのほかに不登校児との交流を描く「嘘とオーロラ」、戦場の悲劇を綴ったライターの「Rainy day」からなる物語集です。
「嘘とオーロラ」は、騙されやすい男の子と不登校の女の子の交流を描いたお話で、シゴフミの王道といってもいい物語でしたね。話の性質上、「死」が出てくるため、切ないものになりやすいんですが、嘘を嘘とわかりながら、騙されてあげる心の内には、わかっていてもグッとくるものがありました。
そんな切ないお話の後に待ち受けていた「輝けるもの」が素晴らしい。何かと無気力な男の子・望が、近所の風変わりなおじいちゃんのシゴフミを受け取って、願いをかなえるべく、幼馴染の唯華とともに行動するお話なんですが、「輝けるもの」という言葉の意味から、老人と高校生の友情を描く展開が、しんみりきて良かったです。さらに「前編」のあとに、もうひとつ手紙が届いてという「後編」が素晴らしい。
それまでの描写でも十分意識させられますが、唯華が老人と約束したというところから、望を意識しはじめて、というラブコメ展開ににんまり。亡くなってからも、お茶目な姿を見せ続けてくれる展開には、温かさを覚えましたね。友情とか人のつながりに歳の差なんてないと思わせてくれました。
いやあ、よかった。前作が切ないだけのお話ばかりだったので、手を出すのやめようかなと思ってましたが(辛いんだもん)、今回はアタリでした。その分、文伽やマヤマの話は、まるで無いに等しいですが、別の死後文配達人の切ない思いなどは、描かれていましたね。あれは難しい問題だよなあと思いますが、手紙を届けることで起こる問題についても、いずれ描かれていくんでしょうか。心が痛くなることはわかっていますが、読んでみたいですね
シゴフミ―Stories of Last Letter
「あなたたち、シゴフミの配達員ね」 ― 今回のシゴフミ差出人として選定された少女・北条文伽が聞いてきた。何でも彼女は、以前にシゴフミを受け取ったことがあるらしい。たいていの場合、自分たちの存在を納得させることが一番大変なので、こりゃ今回は楽だと思った流礼だったが、そうは簡単に話が進まなかった。なんと、文伽のシゴフミの相手は、シゴフミ配達人であり、それも大罪人とされている沙音だったのだ……
亡くなった人が、想いを伝えたい人に対して書く最後の手紙 ― 死後文。そんなシゴフミを届ける郵便配達人の文伽とその相棒マヤマが出会った人たちの物語。今回は以下の四篇からなる完結編です。
- 本当の名を探す殺人鬼の思いが見える「僕の名前を呼んでおくれよ」
- 文伽がシゴフミ配達員を目指すきっかけとなった出来事の「終わりの始まり」
- 離れ離れになってた兄の最後の願いを叶える「Brother and Sister」
- 思い人に自身のシゴフミを届ける文伽を描いた「始まりの終わり」
あー、もうホントいいですね。
「僕の名前を呼んでおくれよ」では、殺人鬼という、今までにない人を相手にした物語でしたが、驚きのトリックや、殺人者の笑顔の裏にある寂しさが見えたりして、何とも切ない。
後悔も過ちも認めているだろうに、それでも希望の光を見たとき、彼女が取った行動に、覚悟を感じました。許されることではないけれど、それでも、彼女の抱えた寂しさが、心に痛いです。
生前にシゴフミを手にした事がある文伽が、恋人を失った友人のためにシゴフミを偽装しよう、と思いついて……という「終わりの始まり」は、今回のマイベストかな。友人を思う気持ちが届かないところは、ほんと切なくなるんですけど、落ち込んだ彼女に前を向かせたシゴフミ配達人・沙音が素敵でした。まさにシゴフミ配達人の鑑。
そんな沙音が……という話を聞いたら、そりゃ、文伽も立ち上がりますよね。
過去があるからこそ、未来へ目指すものが生まれてくる。そんな展開が素晴らしかったです。
この話だけでもよかったですが、それに続く「始まりの終わり」がラストを飾るから、泣けてくる。自身が目指した配達人としての思いを、手紙とともに届けることが出来た文伽に、大いなる成長と、配達人としてのプライドを感じて、これからも迷う事はあるだろうけれど、この思いがあるなら、文伽は大丈夫だと、そう思いました。
切なく、でも前を向く温かさに包まれたラストに感動です。
いやあ、良かった。しっとりと感動させる物語ばかりでした。これで完結とは、寂しいものがありますが、これ以上書いたら蛇足って気もするので仕方ないか。
次なる作品でまた、ステキな物語と出会えることを期待したいと思います。
オススメ。
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