されど罪人は竜と踊る / 浅井ラボ
されど罪人は竜と踊る Dances with the Dragons
「上のほうから頼まれた仕事で、ある人物の護衛を頼みたい」
「誰を護衛する?」
「ここでは名前を明かせないが、是非とも受けてほしい。ここエリダナの町において、俺が信頼できる攻性咒式士は他にいない」
「いや、だから誰からの依頼でどのような護衛かが分からないと、受けるもなにも……」
竜や巨人や禍つ式などの<異貌のものども>を相手取ることで糊口を凌いでいる攻性咒式士 ― 美貌の腹黒戦闘馬鹿のギギナと、不運を機転でかわしたら貧乏くじを引くガユス ― の元に、要人の護衛の任務を依頼されて……というお話。
以前はスニーカーで出してたらしいですけど、大幅加筆してガガガで、というところなのかな。以前のシリーズを知らないので、どう変わったのかはわかりませんが、ともあれ、これはすっごい面白かった!何といっても、ギギナとガユスの漫才が最高です。
相棒を組んでるのが不思議なぐらい、皮肉と嫌味と陰険にまみれたやり取りを見せてくれて、これがすっごい楽しい。もちろん、そんな陰険漫才の中に、時折相手への信頼が見えるからいいんですけど。……見えるよね?
クールに見えて家具フェチだったり(変態だ!)、請求書に慌てふためいて節約を心がけたり(主婦みたい!)してるけど、きっと、どこか信頼しあっている……といいなあ。
で、昔のツテから、要人の護衛を仰せつかまるんですが、ここに政治の影が見えてくるから大変。さらには、町で憂さ輪になっていた咒式士連続殺人事件にも遭遇しちゃうから、ピンチピンチの連続で、ギギナの攻撃力と、ガユスの援護で、満身創痍になりながら切り抜けていくところには、ほんと引き付けられますね。
限界を超えるような戦いで、今にも倒れそうになったときに、心を支えたのが、相棒の憎まれ口というところが、この二人の関係っぽくてすっごい良かったです。
いやあ、面白かった!
戦いの終わりに見えた竜の論理には、切なくなるものがあって、じわっときてしまいましたが、そんなどこか美しいものを見せてくれた話の直後に、真実が見えてきたところには、いやはや本気で恐ろしい。力と力の対決と思わせておきながら、実は一番怪物だったのは……、ゾクゾクしちゃうものがありました。
これほどまでに手のひらで転がされちゃうと、決着はついてるのに、まだ何かあるんじゃないかという不安が残りますね。こういう感覚は、たまりません。
またひとつ全力で追いかけたくなるシリーズが出てきました。続きがとても楽しみです。
されど罪人は竜と踊る(2) Ash to Wish
「だが、本当に奇妙な事態だ」
ギギナの視線を受け流すように、ラルゴンキンがぶやく。
「三日前にもオダル退役軍人間に禍つ式が出現しているし、今日も一体を片付けてきた。今月に入って禍つ式の出現が四件も続いている」
なにかに思いをめぐらすように、巨漢が続けた。
「これが、何かの前触れでなければいいがな」
竜や巨人や禍つ式などの<異貌のものども>を相手取ることで糊口を凌ぐ攻性咒式士、美貌の腹黒戦闘馬鹿のギギナと、不運と貧乏くじを引くガユスが、エリダナ町での事件を解決していくシリーズの第二弾。今回は<禍つ式>による連続殺人事件と、天才と名高いレメディウス博士の誘拐事件についてのお話です。
ああ、もう。なんて残酷なんだろう。
ギギナとガユスの陰険漫才とか、ギギナすら逆らえないジヴのお怒りな姿とか、貧乏くじを引きまくって、無理難題を押し付けられていくところとか、すっごい面白かったのに、読み終わったあとには、そんな楽しいシーンがまるで思い出せないほど、心が痛みました。特に、レメディウス誘拐事件の背景が見えたときは……
なまじ、誘拐犯側にいた少女ナリシアとのやり取りが、微笑ましく、温かいものであったが故に、絶望を与える独裁者の毒牙に、心を抉られる思いでした。悪意が更なる悪意を生んでいく巡回に、気分が悪くなりましたよ。
で、事件に巻き込まれていくガユスとギギナは、同業者であるラルゴンキンの咒式事務所の面々と共同戦線を敷いて、謎に挑んでいくんですが、爪弾きにされながら信頼もされているという、相変わらずな立場はさておき、時折ラルゴンキンたちを見ては、懐かしむガユスとギギナが印象的でした。
かつてふたりが所属していたらしいジオルグ咒式事務所でいったい何があったのか、すっごい気になる。
同時にガユスのかつての恋人であったというクエロの話しも気になりますが、このあたりは、外部よりも当事者であるジヴのほうが敏感で、今の今まで抱きしめあっていた二人に溝が生まれていくところには、やるせないものを感じましたけど、でも、この後悔があったからこそ、ガユスは強大な敵と戦えたんですよね。
弱いところを見せつつも、それを支えに立ち向かうガユスと、決して折れず前へと突き進むギギナが見せてくれるコンビネーションは、今回もよかったです。
それにしても、事件が解決した後に見えてくる真実は、きっついなあ。すべてが手のひらの上の出来事だというのは、前作でも感じたことでしたが、今回もか。しかも、上には更に上がいることを感じさせてくれるんだから、困りもの。
戦うための力という点では、ガユスたちもかなりのものだけど、大局を見渡しながらの頭脳戦となると、例の人たちには、まだまだ及ばないようなので、今後そのあたりをどう対処していくのか楽しみですね。
最後に声だけを聞かせてくれた彼女の存在も気になるばかりです。
されど罪人は竜と踊る(3) Silverdawn Goldendusk
「……一度ガユスと会いたかったから、ウォルロットを誘導したのは事実よ」
ジヴは静かに告げた。
「だけど、私は私の意志で彼と行動をともにしている。それを分かって欲しかったから会いたかった」
「ジヴ、そいつは最悪の虐殺者で、麻薬中毒者だ。単に君は利用しているつもりで利用されているだけだ!」
「それは違う!彼は勇者としての自分を取りもどしはじめている!」
竜や巨人や禍つ式などの<異貌のものども>を相手取ることで糊口を凌ぐ攻性咒式士、美貌の腹黒戦闘馬鹿のギギナと、不運と貧乏くじを引くガユスが、エリダナ町での事件を解決していくシリーズの第三弾。今回は、強大な力を持つ<古き巨人>が、 不況に悩む労働者たちの不満が爆発しはじめたエリダナの街で暴れだし、<古き巨人>との間でキーマンとなってしまったジヴが、ピエゾ連邦で勇者と呼ばれた男・ウォルロットに誘拐されて……というお話です。
これだけの分厚さ(598ページ!)でお話が終わってないってどういうこと!と思いましたが、いやはや、いろんな方面で話が動いてて、引き込まれるばかりです。中でも一番印象深いのは、やはりジヴ問題ですね。
彼女を駆けずり回るガユスですが、エリダナの街は広いし、ガユスは冷静じゃなかったし、ジヴの駆け引きはうまかったし。分の悪い鬼ごっこだったので、すべてが後手に回るまでは仕方ないと思いましたが、肝心のジヴがこうまで揺れるとは思わなかった。これはきついなあ。
個人的には、ストックホルム症候群や恋人であるガユスを守りたいと想うが故の気持ちだと想うんだけど、一度でも許したら、もう戻れないだろうし……。このあたり不安がよぎってどうしようもない。ぶっちゃけ、エリダナの街が蹂躙されることよりも、こっちのほうが気になって仕方が無い僕がいる。
肝心の<古き巨人>方面の話ですが、いやあ、強い。強すぎる。ガユス、ギギナだけでなく、勇者と呼ばれ、圧倒的力を誇るウォルロットと手を組んで、ようやく互角といったところなんだから。モルディーンの翼将も続々と絡んできてはいるものの、ぎりぎりのところでの辛勝といったシーンが多く、まったく持って油断がなりません。っていうか、どう考えても勝ち目なんて無いと思うんだけど……。
まあ、どうあがいてもバラバラじゃ勝てないと思うので、ガユスあたりがハッタリやら何やらを聞かせて、敵の敵は味方状態にしないと難しいよなあと思いますが、そもそもなぜ<古き巨人>が動いているのかが見えてないからなあ。投資家であるダリオネートか誰かが絡んでるような気がしないでもないけど、ダリオネートに限らず、政治家たちは、どいつもこいつも腹の中で何を考えているのか見えてこないので、いかんともしがたい。
ましてや今のガユスじゃ傷心状態になってるから……(しかも最低なことやってるし)、ほんとどうするんだろう?
ジヴとガユスの思いを考えると、続きを読むのがつらくなりますが、それ以上に続きが気になって仕方ないです。ああ、来月が待ち遠しい!
されど罪人は竜と踊る(4) Soul Bet's Gamblers
「このエリダナの街で最初に真相に気づいた人間は、ジヴーニャ、あなただ。実に賢いね」
ジヴーニャは恐怖した。
「しかし、賢さはいいが、世の法則を知らないのはいただけない。だから私が親切に教えてあげましょう」
リクルゴ・ゴはさらに顔を近づける。
「賢すぎると、人は死ぬのよ?」
竜や巨人や禍つ式などの<異貌のものども>を相手取ることで糊口を凌ぐ攻性咒式士、美貌の腹黒戦闘馬鹿のギギナと、不運と貧乏くじを引くガユスが、エリダナ町での事件を解決していくシリーズの第四弾。指輪をめぐる争いから、戦場と化したエリダナで、敵味方入り乱れて戦いが繰り広げられるお話です。
すごい。これはすごい!
三巻が上巻、この四巻が下巻的扱いなんですが、四巻だけでも600ページを超える分厚さなのに、スピード感がまるで衰えず、それどころか、二転三転、さらに裏返って、みたいな展開の連続に引き込まれっぱなしでした。ほんっとに面白かったです。
それにしても、今回の黒幕はすごかった。ガユスたちがいいように操られていき、真実にたどり着いたと思ったら、まだ奥に隠れている。そんな何重もの罠が複雑に絡み合っていて。
<古き巨人>の強さは販促過ぎですし、人を人と思わぬ行動に壮絶なまでの残酷さがあってやられるばかりでしたが、死と隣り合わせの戦いを幾度となく繰り広げたガユスたちと、そして、以前も、次に会ったときも、敵になるであろう者たちと、背中合わせになって戦うシーンに痺れました。敵であり、その強さを知っているからこその背中を預けられる信頼感。いいですねぇ。
個人的に注目していたジヴとガユスの関係は、三巻があまりにも痛かったので構えまくったおかげで、ある程度耐えられましたけど、やはり心痛むものがありました。あの箱をジヴがもっと早く開けていたら……なんて、「もし」を考えてしまう僕がいました。ジヴの気持ちもわからないじゃないだけに、苦しかったです。それでも逃げず、男たちの助けとなったジヴが素敵でした。
いやあ、面白かった!分厚さなんてまるで感じさせない物語でした。戦いシーンの連続で引き込まれ、見えそうで見えてこない謎に魅了されて、ようやく終わったと思った後の真実にゾクゾクさせられる。モルディーンのキレ味には空恐ろしいものがありますが、それすらお遊びに見える感じる人もいるし……。いやはや、大変だ。
政治的立場で言えば、一番弱いところにいるであろうガユスたちは、今後どんな巻き込まれ方をするのかわかりませんが、ギギナとだったら乗り越えていってくれるでしょう。そう信じてます。ただなあ、ジヴとはなあ……。なんか不安だ。
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