神曲奏界ポリフォニカ 黒 / 大迫純一
神曲奏界ポリフォニカ インスペクター・ブラック
これで終わった。
屍体となり果てた老人を見下ろして、コヅカはため息をついた。すべては計画通り。
彼の残した証拠を追い続けた警官が身柄を拘束したのは、オゾネ・クデンダルと精霊契約をしたニウレキナだった。
これが後に「オゾネ・クデンダル事件」として精霊犯罪市場に記録されることになる殺人事件の幕開けだった……。
神曲奏界ポリフォニカの別キャラが主役となる物語。ほんの少しですがポリ赤からも登場する人物がいますね。これがシェアワールドかと、にんまり。
精霊警官が遭遇した殺人事件の犯人を追うというストーリィですが、とても惹きつけられる作品です。倒叙ものミステリィとしてもかなりのものじゃないですか。
怪しいと思いながらも証拠がないゆえに揺さぶる警官と、自分の犯行に自信を持っている男のやりとりの緊張感がたまりません。これは面白い。
もちろん、ミステリィだけではなく、精霊と人間の関係にもひとつの展開が待ち受けています。
オゾネとニウレキナ。
一緒にいるシーンは一度も書かれていないのに、こんなに二人の繋がりを感じさせてくれるとは思わなかった。大事な人であるならば、種族なんて関係ないんだなとじんわりさせてくれました。
派手さはないけれど、個人的にはポリ赤よりも好みです。
この作品はポリ黒と呼ばれるようですが、今後出版されるであろうポリ白も楽しみになってきました。
神曲奏界ポリフォニカ サイレント・ブラック
現場に残された死体は、人としての原型をもっていないほどバラバラだった。
人間には不可能だけれど、精霊にしては不自然すぎる所業に悩みながら調査するマティアとマナガの前に、一人の容疑者が浮かんだ。殺された男の妻だ。
だが、彼女は精霊ではない。そして神曲楽士である可能性もないのだ。いったい何のために、そしてどうやって……
ポリフォニカシリーズの中でも、最もお気に入りのポリ黒。前作と同じく倒叙ものミステリィ。
マティアとマナガが犯人であることに気づくシーンでは、犯人がどこでボロを出したのか気づけず悔しい思いをして、その後、犯人たることができないのではという情報が入り、じゃあどうやって殺したんだと、悩まされました。
個人的には今回の犯人にはかなり同情してしまいます。復讐に走る感情もさることながら、最後に気づいた感情が悲しい。人生に if はないけれど、もし、と考えたくなる場面でした。
犯人だけでなく、マティアとマナガの葛藤もまた辛い。復讐に走る気持ちが理解できてしまうけれど、法は人の命を奪うことを認めていない。たとえ守られるべき人間が法を犯していたとしても。このあたりの揺れるふたりの気持ちがわかりますね。自分だったらどうするかと思わず考えてしまいました。
マナガだけに心を開く姿や、ユフィンリーに褒められて照れるマティアが可愛いし、ミステリー部分の切れ味は秀逸だし、何より物語のテンポがいい。かなり僕の好みに合うシリーズですね。
マティアの過去の話も気になりますが、他の色のポリフォニカとの連携も気になります。
神曲奏界ポリフォニカ プレイヤー・ブラック
突然、目の前に転がってきた長期休暇に笑みを浮かべつつ、戸惑うマナガとマティアは、友人の写真に引かれて、まったくやったことのないスキーをやりに行こうとしたが、予約もなしに出かけたため、宿が取れなかった。
日帰りかと落胆する二人だったが、たまたまお店に居合わせた大学生たちの好意で、彼らの山荘に泊めてもらうことになり……。
大学生五人が詰める別荘の一部屋で精霊爆発が発生したが、吹雪に閉じ込められ、電話もつながらない状況で、マナガの調子も悪く……という展開です。爆発をきっかけにギクシャクした仲間関係が露呈してから、疑心暗鬼になっていくところがうまいなあ。
本格ミステリものではなかったのがちょっと残念ですが、サスペンスな展開に引き込まれます。圧倒的存在感と力を見せ付けていたマナガを頼れない展開が、うまく物語を盛り上げてくれてました。
追い詰められてからは、マナガ・マティア意外は、どちらかといえば足手まといにしかならないと思っていたんですが、侮ってはいけなかったですね。見た目がどうだろうが、言葉が悪かろうが、己を貫く姿がカッコよかった。憎々しく思いながらも、相手を認める言葉とかいいです。
最後はまさか神曲で決めるとは思いませんでしたが、なるほど、何事にも「時」というものがあるということなんだなあ。彼らに投げかけるマナガの言葉が渋くてたまりません。
今回一番印象的だったのは、マティアの様子ですね。主役クラスなのに、今までそれほど目立っていなかったんですが、今回はかなり前に出てきていました。休暇の嬉しさが伝わってくる様子が可愛くて、こんなに表情豊かな子だったっけ?と戸惑いましたが、マナガと一緒にいるとき限定のようです。うらやましい。
マナガ以外の人を相手にすると、とたんに表情を失うマティアが、他の人と触れ合うことで少しずつ変わっていく、変わっていこうとするところがいいですね。ふとした弾みで、気を許したような描写が出てくると嬉しくなってしまいます。笑いをこらえてるところがサイコーでした。
何かつらい過去がマティアにはあったようですが、断片的にしか見えないので、ちょっともどかしいですね。いつかはっきりわかることを期待したいです。
神曲奏界ポリフォニカ トライアングル・ブラック
狭い寝室で、老婦人は死んでいた。遺体を発見した娘が言うには、その場には精霊がいたという。調査を進めていくうちに、神曲楽士であった老婦人と契約を結んでいたという上級精霊レオンが容疑者として浮かび上がってきた。
警察署の遺体安置所、被害者の葬儀など、姿を現しては隙を突いて逃げだしていくレオンをふたりは追いかけるが……
重要参考人として追いかけた精霊は、神曲楽士と契約をしては、短期間で別れていくという謎の行動を繰り返していた……ということで、どちらかといえば、事件の犯人との対決というより、神曲楽士と精霊による契約に焦点があたったお話だったような気がします。
マナガとマティアが契約したいきさつは、以前から気にはなっていましたが、なかなか明かしてくれないので、もどかしいったらないですね。マティアの過去が深くかかわってくるみたいなのは、以前から感じていたんですが、いったい何があったんだろう。
マナガじゃないとダメってことが伝わってくるだけに、気になりますね。
今回の話では、取り乱すマナガを随所に見かけたのが印象的でした。容疑者であるレオンが、マティアに一目ぼれして、契約を申し込んだところでの焦りっぷりには、笑いが止まりませんでした。まさか、あのマナガが噛むなんて!驚きつつも冷静にかわすマティアとの対照的な態度が心に残ります。
そしてもうひとつ。マナガの本気の怒りが見えるシーンも、強烈でしたね。警察の力を借りず、自分の手で引導を渡すというところに、契約した相手との絆の強さ、重さを感じました。
まあ、多くの人と契約をしたというレオンとて、決して軽々しい思いでやったわけではなく、不器用な思いから、来てるものなんですよね。いつか終わるときがくるというのは、精霊と人間という差がある以上、頭では分かっていても、納得できるとは限らない気持ちが良くわかります。
このあたりは、マナガも同じで、マティアの「もし、あたしが先に死んだら……」という言葉に対する返答は、涙を誘われるものがありました。
同じ思いを持つもの同士が、拳で語り合うところは、ごちゃまぜになった思いをすっきりさせるために、必要な手順だったんだろうなと思いました。何とも熱いやり取りですね。
失うことがあるとしても、共にいることを望んだマナガが勝ったのは当然のことだと思いました。いや、もともと強すぎるんだけどさ。
それにしても、このレオンのキャラはいいですね。妙な免許も取ったことですし、ひょっとして、今後もちょくちょく出てくるんじゃないでしょうか。この奇妙な三角関係は(あ、だからトライアングルなのか?)、マナガとマティアの絆をより強くしてくれそうなので、今後が楽しみですね。
神曲奏界ポリフォニカ レゾリューション・ブラック
久しぶりの休暇を迎えて、マティアが楽しみにしていた「単身楽団の歴史展」へ行くために、博物館へ向かった二人を待っていたのは、博物館の警備員の死体だった。しかも犯人は監視カメラに一切写っていない。となれば、これは精霊の仕業かもしれないと睨んだマナガたちだったが、事態が進まぬうちに、マティアが倒れて……
5秒ごとに切り替わる36台のカメラをすり抜けた殺人事件を追うお話だったんですが、いやあ、すごかったですね。事件そのものは、実はそれほど複雑なものではなかったんですが、マティアとマナガが別々の場所で、絶体絶命の危機を迎えたときは、もうどうなるのかと手に汗握りながら、ドキドキしっぱなしでした。
まあ、今回は事件そのものよりも、前作で語られていた「いつかくるその時」が、目の前に突きつけられるところが焦点ですよね。苦しむマティアの姿を目にしたときのマナガの様子ときたら……。わかっていても覚悟なんて決められるものじゃないのに、それでも考えなければならないのは辛いです。
でも、マティアはマナガと智にいることを負担に思ってないんですよね。弱った体を酷使するのは、マナガのためだし、マナガに危険が訪れたなら、無理をしてでも神曲を届ける。小さな体にどれほどの決意を秘めているのかと驚きました。むしろ狂気に近いものを感じて、ゾクゾクです。マナガよりもマティアのほうが、相手に対して依存しているところが多いのかな。いったい、二人はどんな出会い方をしたのか、知りたいですね。
中盤からは、ひょっとしてこれでシリーズが終わっちゃうんじゃないかと思うほど、緊迫した展開の連続で、読んでて怖かったですよ。まさか、まさかと思いながらずっと読んでましたが……まだちゃんと話は続くみたい。よかった。お約束だろうがなんだろうが、良かった。
別れについては、切ないものがありますが、それでも幸せな別れ方はあるでしょう。おそらく今回出会った精霊と楽士が、幸せな別れでしたよね。他にも何らかしらの方法があるかと思いますが、マナガやマティアは、二人の思いもあるし、バックアップしてくれる人たちもいるので、きっと幸せな解答を作り上げてくれると思います。
神曲奏界ポリフォニカ ペイシェント・ブラック
環状高速道路での玉突き事故が発生したすぐ側で、殺人事件が起きていた。バイクに乗っていた人間の首が切られていたのだ。それも刃物では到底あり得ない鋭さで。精霊が関与している可能性が高いと睨んだマティアとマナガは捜査に乗り出したが、被害者の家族へ事情聴取を始めようとしたとき、思わぬ出来事が起きた。被害者と懇意にしていた精霊セライザが、被害者の家族のショックを重く見て、家族の前に立ちふさがったのだ……
走行中のバイクに乗っている男が一瞬にして首を切られたという殺人事件を、マティアとマナガが追うお話です。
ああ、いいなあ。前作のことがあったせいか、マティアがやけに可愛く見えます。今までも、マナガには心を開いてましたが、ちょっと甘えのようなものも見えてきたような。レタスをぱくんと食べる姿を見せる無防備さや、だっこしてと目をキラキラさせながら手を伸ばすちょっとコミカル風味なイラストが、やばいぐらいに可愛かったです。戸惑うマナガの様子に、思わずにやり。
そんな二人が事件の捜査を始めたんですが、まさか、いきなり躓くとは思いませんでした。家族を失った人たちの心情を酌んでくれという気持ちはわかりますが、あそこまで感情的に反発するとは。セライザと被害者の家族の繋がりには、絆の強さも感じたけれど、危うさもみえただけに、どうなっていくのか引き込まれるばかり。
犯人については比較的容易に想像がつきますが、動機が見えないだけに、何とも言えないもどかしさを覚えましたが、そんな中、印象的だったのは、マナガとマティアが、犯人に対する怒りを露にしたことですね。おそらく犯人の検討は早々についていたんでしょう。だからこそ、二度目の玉突き事故を知ったときに、犯人であるという確信と、犯人に対する憤りを覚えたんだろうなあ。
事情が見えてくるにつれて、精霊と人を繋ぐモノについて、改めて考えさせられることがありましたね。同じような思いをマナガが抱くことはあるかもしれないと思うと、不安を覚えたりもするんですが、今回の事件での「怒り」を覚えている限り、大丈夫だろうなと思います。そう思いたいです。
お互いへの信頼を感じさせるやり取りで幕を閉じ……と思ったら、ラストにとんでもない出来事が起きたりして驚愕です。いや、危険とは別物だと思うんですが、いったいマティアの身に何があったんだろう。
マティアが「怒りを覚えても憎むことはしないで」と言ったのが、やけに心に残ってるんですが……大丈夫かしら。妙な暗示じゃなきゃいいんだけど。
神曲奏界ポリフォニカ メモワーズ・ブラック
二年前。マティアの昇進祝いの帰り道で、ふたりはシェリカと名乗るひとりの少女と出会った。人見知りするマティアが、浮浪児である少女を家に連れて帰り、あまつさえ笑顔まで見せるとは、と驚いたマナガだが、二人の様子を微笑ましく思っていた。だが、そろそろ彼女のことも聞かねばならない。シェリカもまた、自分の思いを伝えたいと思ったらしく、口火を切った。
あたしの親は、いま、刑務所にいる……だが、無罪なのだ、と……
マティアが警部に昇進した日に、父親の無実を信じて孤独に生き延びてきた少女シェリカと出会って、というお話。
現行犯での出会いとは、とても印象的ですが、そこまでシャリカに惹かれた理由が、いまいち伝わってこなかったけど、同年代齢の女の子ってのは、嬉しい存在だったのかもしれませんね。人見知りするマティアのことを考えると、友人ができるってことは、喜ばしい事ですが、自分にだけ向けられてた笑顔が、他の人にも向けられることを寂しく思うマナガに、哀愁を感じました。
実は、シェリカには、とある事件と関わりがあって、ということで、マティアたちが動き始めるんですが、うーん、このあたりはちょっとなあ。いや、手をつけるところまでは、私情があっても別にいいんだけど、ビデオに映っていたという、あのわずかな心証だけで、あそこまで疑いを持つってのは、ちょっとしっくりこなかった。
とはいえ、事件として見つめ直していき、ひとつひとつ検証した上で、相手を追い詰めていく展開は、面白かったです。一枚の写真、そして一枚の絵。家族の愛情が事件を解決に導いたといっても、過言じゃないですよね。
言い逃れしようとする相手の逃げ道が、塞がっていく過程ににやり。
前半はちょっと物足りないところがあったけど、後半で一気にもってきてくれて、面白かったですね。
特に、今までマナガ以外に感情を表に出さなかったマティアの心を揺さぶってくれる存在が出てきてくれたのは嬉しいですね。嬉しさで涙するマティアと、わけ判らないといいながら抱きしめるシェリカの関係が素敵でした。
今後はこの三人でいろいろ動くのかな。元気のいいシェリカなので、ふたりをどういう具合に振り回してくれるか、楽しみです。
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