日本上空いらっしゃいませ / 佐々原史緒
日本上空いらっしゃいませ
数年に一度、次元すべりなるものを起こしているという島国が、日本の上空へとやって来た。魔法を使う者たちだが、侵略の意思はなく、日本と友好な関係を築こうとしているため、連日連夜、「上つ國」の話題が、日本を飛び交っていた。
所詮、関わりあうのは、お偉いさんだけだろうと、他人事に思っていた峰岸光は、いつものように予備校へと向かったが、そこに「上つ國」の王女ミネギシ・ヒカルが乗り込んできて……
異次元よりやって来た王女ヒカルと、高校を中退して目標を失った男の子・光が繰り広げるボーイミーツガール。これはいいですね。物語全体を包むほんわかした雰囲気が素敵です。
「上つ國」の人たちは、友好のために、日本名に改名してるんですが、スポーツ新聞を資料としたおかげで、おとぼけな感じになってるのが楽しい。
美しき女王が「涼木イチロウ」だったり、モデルのような美女の外交責任者が「ナカタ・ヒデトシ」だったりと、性別に無頓着なところに、この国ののん気さを感じますね。一番受けたのは、髭だるまじーさんの名前が「マツウラ・アヤ」だってことですが。この顔であややかよ!(あややのイラストは169ページにあるので、興味があったらぜひ)。
そんな感じで、コミカルな雰囲気満載ですが、光の前に現れた王女がまた、可愛くて可愛くて。かつて陸上で名を馳せた光の姿に惚れたということですが、好意をあらわにして付きまとう姿は、小動物のよう。思わず撫でたくなる可愛さがありますね。光の母親が気に入るのもわかります。
王女が側にいると、事故で走れなくなった過去を思い出してしまうために、始めはまるで距離が縮まらないんですが、王女の過去を知り、自分の過去と向き合うことで、だんだんと王女の存在が大きくなっていくところは、とても素敵。かつて、王女に走る楽しさを教えた光が、今度は王女から走る楽しさを思い出させられる展開が、とても良かったです。
ほのぼのとした雰囲気な中にも、シリアスなところは結構あって、特に、もうひとりの王女(ヤワラ)の境遇については、なかなかやりきれないものがありましたね。哀れみをかけるつもりはなくとも、光の何気ない一言で、傷ついた彼女の姿を見て、心痛むばかり。
個人的に一番感動したのは、やっぱり最後の話かな。とある件から、ヒカル王女がヤワラ王女とトライアスロン(上つ國バージョン)で勝負をすることになるんですが、レース内容には笑いを誘われるものの、ふたりの真剣な様子に、他の勢力による妨害に傷つきながらも、光の待ち受けているゴールへ走りぬけたときの笑顔に、グッとさせられました。
いやあ、面白かった。優しさと温かさにあふれるコミカルな物語でしたね。
数年ごとに、次元すべりが発生することを考えると、いろいろ思うところがありますが、この二人ならきっと、幸せを掴んでくれるんじゃないかな。ハッピーエンドを期待して、続編を待ちたいと思います。
オススメ。
日本上空いらっしゃいませ 2
大事な女と一緒にいたい。
家族を危険から守りたい。
ただ、それだけのことが叶わない、この現実と……俺はどうやって向き合っていったらいいんだろう?
異次元よりやって来た王女ヒカルと、高校を中退して目標を失った男の子・光が繰り広げるボーイミーツガールの第二弾。今回は、ゆっくりと進展しつつあった二人の前に、上つ國の真実と現実が突きつけられるお話です。
やっぱり、いいなあ、この雰囲気。もうね、読んでてニヤついちゃうことこの上ないです。二人でいるときのヒカルのまっすぐな好意と、光の大切にしたいって思い。どう見たって両思いなのに、一歩踏み込んでないおかげで、ああ、もどかしい。早く言っちゃえよ、光!と何度思ったことか。
出会い始めが始めなだけに、ヒカルに対してなかなか言い出せない光の姿に、うふふと思ってしまいますね。タイミングが、なんて言い訳する姿見てると、なんだかんだいって、ロマンチストだなあと思ってしまいました。
で、そんな和やかな雰囲気が壊れ始めたのは、例のテロリスト・シュバイツメッカーが、上つ國の謎を突きつけてきたからですが……、まあ、次元すべりなるものでやってきた以上、いつかは、と分かっていても、それが現実味を帯びてくると、愕然となるでしょうねぇ。
かつて失意に倒れたシュバイツメッカーの心境を理解してしまったがために、一概に彼を責められない光の迷いはよくわかります。
だからといって、人を傷つけて良いわけはなく。それでも、何とかならないかと足掻くところは、切ないものがありました。光だけでなく、ヒカルもまた同じ思いを抱えて、ついに次元すべりの兆候を知ったときのあの涙は、忘れられないものがあります。
好きな人の涙を見て、自分の思いを確認して、それでも上つ國の真実を知ってしまうと、迷わざるを得なくて。
それでも迷いを心に持っていた光でしたが、そんな彼に、ヤワラやゴン子が、光よりもはるかに多くの出会いと別れを経験している者たちが告げた言葉が、とても心に残りました。
そうだよね。別れが来るからといっても、出会わなければ良かったなんてことはないですよね。
いやあ、面白かった。
中盤、ちょっとこう、微妙なところがあったんですけど(テンションの上げ下げが激しいんだもん)、好きな人への思いに迷いながら、それでも自分を見失わず、前を向いた少年の心と、好きな人への好意を胸いっぱいに抱えて突き進む少女の姿が、とてもよかったです。
最後まで優しさとあたたかい気持ちにさせてくれる素敵なお話に、ありがとうと言いたくなりました。
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