レヴィアタンの恋人 / 犬村小六
レヴィアタンの恋人
2077年。世界は崩壊し、地上は遺伝子異常を引き起こした生物群が大勢を占めていた。生き延びた人々は、どこかに異常を抱えていたが、中には特進種と呼ばれる進化学的変化を遂げた幸運な人もいた。コロニー調布新町を守護する久坂ユーキもまた特進種であり、町に潜む盗賊の少年を捕えたが……
氣を練ることに長けた少女ユーキが、力はあれど暴れん坊な少年タマを従わせて、バケモノがはびこる汚染された世界と、他のコロニーとの衝突の中を生きていく、みたいなお話……というとちょっと違う気もするけれど、何となくそんな感じです。
血やら肉やらが飛び散るほどの戦いを繰り広げた二人なのに、名もなき少年が、ちょっとした油断からユーキに囚われて、従わざるを得ない状況になる様は、思わず笑ってしまいましたね。頭の固いユーキと、直線的なタマ(と命名された少年)のいがみ合う姿は、憎しみなどの殺伐としたものもあるんだけど、傍から見ると、喧嘩するほど仲が良いみたいな感じで、微笑ましく思えることもありますね。
ユーキにしろ、タマにしろ、何らかの過去があることは序盤から匂ってるんですが、そんな彼らの過去が追いかけてくる戦いは面白かったですね。力だけなら、二人とも卓越したものがあるのに、狡猾さによって追い詰められていくんですからね。特に、かつて、ユーキ自身が所属していた姫路コロニーの鳥辺野の嗜虐的なところは、おぞましさたっぷりだったのでドキドキです。
展開としては、わりとオーソドックスだと思いますが、恋なんて知らない女の子が自分の気持ちをもてあます姿や、どこか心の中で閉じていた気持ちが、溢れんばかりの涙と共に出てくるタマの様子など、いがみ合っていた二人が、少しずつ心を近づけていくところとか良かったですね。
ただ、伏線というにはあからさまなところがあったり、過去の話も唐突だったりと、微妙なところもありました。特に過去話は、あまりにも唐突に出てきたので、何か区切りがほしかったですね。読めばわかるんですが、脳を切り替えるタイミングが欲しかったと思ったのは、僕だけかしら。
それはさておき、最後は良かったなあ。恋愛要素はまるでなかったんですが、最後にきてこうなってくれるとは嬉しい限り。ああ、もうニタニタしちゃう!せっかく「痒み」から抜け出せたのに、新たなものに囚われることになりそうですね。今後もタマはいろいろ苦労しそう。
今後はどうなるんだろう。個人的には、もうちょっと群像的になってくれると嬉しいんですが、特進種に焦点を当てた物語になるのかしら。何はともあれ、続編が出てくれることを願いつつ、楽しみに待ちたいと思います。
レヴィアタンの恋人 2
先日の事件も落ち着き、調布新町では「星夕祭」が行われることになった。活気に満ち溢れる町の中、タマやユーキたちも、祭りを見て回ることができた。浴衣姿のユーキに、タマがいつもと違った感情を呼び起こされていたとき、二人の前に現れたのは、鬼道衆たちだった。幻戯を用いてユーキを捕縛することを目的とした彼らは、調布新町を狙う白河コロニーの面々で……
世界汚染後を生き延びた人たちが作り上げたコロニーのひとつ調布新町で、特進種と呼ばれる進化学的変化を遂げたユーキとタマ、その仲間たちが、他のコロニーとの衝突を切り抜けていくお話の第二弾です。今回は、ユーキの過去のお話と、白河コロニーとの衝突寸前までのお話が交互に描かれています。戦線が開かれようとする雰囲気が少しずつ高まってきてるところで終わるので、ああ、気になるという感じ。
それにしても、タマとユーキの関係って、あんなバカっぽかったっけ?気になる人の気を引くための行動が、小学生か!とツッコミたくなるぐらい稚拙な悪口のやり取りで、正直、どうかと思ったけど、だんだん笑えるようになってくるから不思議。タマの前だと意地を張るけれど、ひとりになったとき、あるいは他の人に指摘されたときのユーキの照れっぷりが可愛いからかも。普段は、口げんかばっかりし合っている二人が、敵から逃れるために、一時的に狭い空間に隠れたときのあの空気がたまらん。
無表情ながら、生温かくふたりを見守る忍びな静さんが素敵でした。
まあ、本編もさることながら、ユーキの過去の話が、印象深かったですね。両親を殺した憎き敵の元で、天子候補生として強制的に腕を磨かされる幼い頃の日々は、読んでいるだけで辛いものがあります。それでも、心が挫かれなかったのは、同じ境遇の仲間がいたからというところに、温かくなるものを感じます。とはいえ、あの別れ方を見ると……。
今、彼らはどういう境遇にあるのか。どういう立場で、彼女の前に出てくるのか、大いに気になるところです。
どうやら次作では、160ページを超える戦闘シーンがあるとのことなので、おそらくは調布新町と白河の戦いに、何らかの決着がついていることでしょう。楽しみですね。
レヴィアタンの恋人 3
武蔵野共同戦線が、白河コロニーと遭遇したのは、新宿だった。背水の陣とも思える布陣に訝しいものを感じたものの、いきなり四名の特進種が前に出てきたのであれば、こちらでも相応の対応をせねばならない。武蔵野の第一列の特進種として、ユーキと牛丸が前へ出たとき、戦いの火蓋は切って落とされた。特進種の中でも抜きん出た力を持つユーキの奮闘で、第一列は次第に敵を押していったが、そのとき既に相手の策にはまっていたのだ……
世界汚染後を生き延びた人たちが作り上げたコロニーのひとつ調布新町で、特進種と呼ばれる進化学的変化を遂げたユーキとタマ、その仲間たちが、他のコロニーとの衝突を切り抜けていくお話の第三弾です。今回は、前作で衝突寸前までいった白河コロニーとの戦いが描かれています。
特進種という存在は、たしかに圧倒的なんだけど、戦争はそれだけじゃ押し切れないってのがよくわかりますね。ユーキほどの強さをもってしても、策ひとつで追い詰められてしまうんですから。いや、この場合は、あそこまで追い詰められながら、生き延び続けていったユーキと牛丸のいる第一列を褒めるべきかな。
味方と分断され、気は底を突き、敵は倒しても倒しても際限なく現れて。もはや何も考えられなくなるほど斬り続けて、暑さと疲れから、伝わってくる喉の渇きに、こちらまで喉がカラカラになりました。
そこいら中で激戦が繰り広げられる中、一番印象深かったのは、派遣くのいちの静でしょうか。いやあ、いい曲者っぷりです。絡め手を使わせたら、かなり強いですよね。いったいどんな素性なのか気になるばかり。それより気になったのは、ジャージですが……いえ、なんでもありません。
強いといえば、姫様な百武沙也加の執事として仕える雨宮の強さが、すごかった。姫様に危機が迫ったとき限定とはいえ、あまりの誠実さというかオバカさに笑いが止まらない。しかも、ツンツンな沙也加がタマに……ってのは、面白くなりそうで、にやり。
一進一退の戦いを続けていく中、たった一つバランスが崩れることによって、一気に崩れていくシーンは、まるで目に見えるかのようでしたが、このきっかけを作り上げた岩佐木もさることながら、彼を引っ張りだした武蔵野共同戦線の指揮を取る啓十の好々爺っぷりに、油断できないものを感じました。力でではなく、人として上に立った人ほど強いのかもしれない。
いやあ、面白かった。はげしい戦闘があっただけに、生き延びた者たちのバカ騒ぎが、必要以上に愛らしく思えました。ああやって、生きてることを実感してるんだろうなあ。
ただ、今回の戦いで、タマのことがあちらに知られたのは、不安要素ですね。あちらには、カヲルを思うものがいるだけに、うまくいけば三角なり四角なりのラブコメな方面になるんだけど……ありえないか。むしろ、すれ違えば修羅場というか、悲哀な感じになりそうなだけに、ドキドキしながら続きを待ちたいと思います。
レヴィアタンの恋人 4
「後ろだ、霧のなかから来るっ!!」
それがどこの勢力のものであるか。問うまでもない。
― 万里眼。
白谷三座に附せられたその異名が雨俊の頭蓋を爆ぜた。
― はじめからこれが狙いであったか!
世界汚染後を生き延びた人たちが作り上げたコロニーのひとつ調布新町で、特進種と呼ばれる進化学的変化を遂げたユーキとタマとその仲間たちが、他のコロニーとの衝突を切り抜けていくお話の第四弾です。今回は、調布新町に束の間の平和が訪れる中、永遠の少女・美歌子率いる姫路コロニーと、一年を経ずして九州を落とした新興・日向軍が衝突するお話です。
いやあ、楽しかった。いまだ傷跡は残っているんだけど、争いが終わったことで調布新町側では殺伐とした空気が薄れて、束の間の平和をタマとユーキが満喫してる姿が印象的でした。ユーキが何かしらヘマをすると、ここぞとばかりにからかいまくるタマですが、傍から見たらじゃれあってるようにしか見えないですよねぇ。バカップルっぷりをたっぷり満喫。
ちなみに一番笑ったのは人生ゲームの場面です。
まあ、ユーキだけでなく、八王子コロニーの百武沙也加のバレバレなツンデレっぷりも大変楽しませていただきましたが、それはともかくとして、姫路コロニーと日向軍の争いも面白かったです。どちらにも軍師を立てており、自軍を有利に動かすべく、切り捨てるものは切り捨てて、利用できるものは利用する策士っぷりが、見ごたえありました。
何より見所なのが、美歌子のカリスマですね。天子候補生でありながら、美歌子を憎んでいたタケルとシュンが、彼女の戦いを始めて間近に見て、気づけば心を囚われていくところに、美歌子の魅力を感じます。これほど引き付けられるものがあったら、なるほど、姫路コロニーは強いわけだ。
ユーキと繋がりがあったタケルとシュンに心境の変化が生まれて、さてどうなっていくのかと思っていたんですが、タマにまで動きが出てくるとは思わなかった。守りたいと思った人がいるからこそなんだろうけれど、突然のことだから切ないなあ。なまじ自分の隊を手にしてしまったユーキは動けなくなるだろうし……。
あ、そういえば、一度ユーキが変な状態になったのがあったなあ。アレは何なんだろう。妹のリオにも謎がありますが、このあたりも動いてくるのかしら。続きが大いに楽しみですね。
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