刀語 / 西尾維新
刀語 第一話 絶刀・鉋(カンナ)
虚刀流の使い手である父と共に島に流されてから二十年。虚刀流の七代目当主となった七花だが、生来の面倒くさがりやということもあって、島から出ることなく、姉の七実と生活をしていた。
そんな七花の前に、白髪と美貌を持つ奇策士、とがめが現れ、伝説の刀鍛冶、四季崎記紀が鍛えた十二本の妖刀の蒐集に協力を求めてきたが……
無刀の剣士・七花と奇策士・とがめの妖刀蒐集物語といったところかな。江戸時代っぽい舞台背景で、ちょっと捻った歴史解釈が面白かったりしますが、中身はいつもどおりのキャラ爆発な西尾維新物語でした。言葉遊びはそれほどでもないですが、ノリツッコミが素敵です。
妖刀を蒐集のために、名誉でも金でも動かない(面倒だから)人間を、とがめがどうやって動かすのかと思いましたが、そんな手かい!なんて思いつつ、ある意味とても正解な気がしないでもないです。さすが奇策士。僕なら惚れるね、間違いなく。
今回の話では「絶刀・鉋」が登場しましたが、十二本の刀ということで、毎回一本ずつなのかな。まさかこんな基本的なところで捻ったりは……するかもしれないので油断しないでおこう。
それはともかく、妖刀に魅入られ、七花やとがめを狙うのは、真庭忍軍頭領蝙蝠。忍者というよりは手品師みたいな曲芸っぷりが、何気にグロテスクでしたが、個人的にこの卑怯さは大好きでした。もうちょっと見ていたかったなあ。
あのノリの良さを見せていたとがめに、あれほどまでの激情が隠れていたとは思いませんでした。そうか、白髪はそういう意味だったのか。
辛くても止まらずに立ち向かう姿は、内面を知ってしまうとか細く思えてしまいますが、それだけに、のほほんとしつつ、不器用ながら優しい七花とは、いいコンビになりそうですね。
そのあたりは、最後の言葉にも現れていると思います。四つの指示の四番目の言葉。この言葉が出てくるなら、彼女は大丈夫だし、彼も大丈夫でしょう。
指示という名の約束を投げかけるために、この巻があったと言ってもいいんじゃないかなあと、ニヤニヤ笑いがとまりません。
今回は舞台の説明が中心で、爆発力こそありませんでしたが、十二分の一章目と考えれば、全然OKですね。残り十一巻。どんな刀が出てくるのか、どんな相手が出てくるのか、どんな要素を絡めてくるのか。すんごい楽しみです。
刀語 第二話 斬刀・鈍(ナマクラ)
とがめと七花が不承島で出会ってから一ヶ月。それなりに打ち解けてきた二人は、因幡砂漠に向かっていた。次なる蒐集対象は絶刀すら斬れるという斬刀「鈍」。所有者は、かつて一万人の兵団を撃退したと言われる剣士、宇練金閣の跡継ぎ、宇練銀閣。はたして居合い抜きの使い手に、虚刀流は対応できるのだろうか……
雑劇寸劇茶番劇な12ヶ月連続刊行、刀語第二弾は、無刀 VS 居合の物語なんですが、導入からやってくれました。まさか個性をネタにして話題を広げてくれるとは思わなかったです。
二人の会話と、ちょっと仲良くなってるんじゃないか的なニュアンスが、たまらなく素敵で、やりとりは爆笑の連続でした。ちぇりおー!の可愛さと、天才の紙一重っぷりがたまりません。
今回は敵側の宇練銀閣が渋くていいですね。イラストの影響もあるのかもしれませんが、素浪人っぽいところが、とても素敵です。あの七花をして、びびって心を揺るがすレベルの剣戟だという戦いは、なかなかしびれるものがありました。そんな中にも笑いを忘れないところが憎いね。噛んじゃったネタで、ツボる僕も僕だけど。
それにしても、あれほど使うのを躊躇っていた口癖がここまで決まるとは思いませんでしたよ。それ以上に思わなかったのは、決着でしたけど。っていうか、あれは OKなのか?いいのか、とがめ?
銀閣にしろ、七花にしろ、守るものがあっての戦いでしたが、過去にすがりつく者と、未来に進もうとする者の差が、勝敗を分けたのかなと思ったりしました。
中盤、若干間延びしたところがありましたが、総じて面白かったですね。
ひょっとしたら、七花の刀に対する認識が変わってくるのかなと思いましたが、それよりなにより、二人の関係が、旅路を経るにつれてどうなっていくのかが楽しみです。
刀語 第三話 千刀・鎩(ツルギ)
千本で一本。それが千刀だという。鎩の持ち主である三途神社の神主、敦賀迷彩の元には、千人の巫女がいて、つまりは、今回は千人が敵に回るということだ。
やれと言われればやるが、さすがに大変だと思った七花だが、最悪でも迷彩との一対一に持ち込むと、とがめは交渉に自信を持つが……
雑劇寸劇茶番劇な12ヶ月連続刊行、刀語第三弾は、無刀 VS 千刀の物語でした。序盤の敵地に着くまでのやり取りが、相変わらず面白いですね。まさか、お姫様抱っこなる特典を持ってきてくれるとは思いませんでした。いちゃついてるようにしか見えない掛け合いがたまらない。特に一発目のちぇりおは、破壊力満点でした。
そんな序盤を抜けたら、意外にもシリアスな話で進んでいきましたね。刀として生きていく七花をどう扱うべきか迷うとがめの姿が印象的でした。ときおり見せる感情の無さには、確かに怖いものを感じるからなあ。ただ、逆に感情を手に入れたら、ひょっとして強さが変わってしまうのかなと思ったりしますが、さてどうなんだろう。
敵地には、千人の巫女がいるということで、いったいどうなるのかとワクワクして思ったら、何気に現実的なお話だなあ。べ、別に期待してなかったけどね。
姑息な手から策略まで、いろいろと幅広く揺さぶりかけてくる迷彩には、なるほど、さすが元山賊だと唸るものがありました。これって、七花じゃなかったら、かなり有効な手だったんじゃ?
千刀の技には、それあり!?と思ったりしなくもないですが(っていうか、普通にやっても良かったんじゃないかしら)、己の過去を振り返り、命を捨ててもいいと覚悟する迷彩の思いには、しんみりするものがありました。
最後にとがめが戸惑ったのは、七花を刀として扱おうとしていないからこそなんだろうなあ。自分が責任を負うとはいえ、それに巻き込む形になっただけに、七花への思いは複雑なものがあると思いますが、覚悟を決めたものとして、今後どういう態度でいくのか気になるところですね。
刀語 第四話 薄刀・針
「軽さ」と「薄さ」を極めた薄刀『針』を持つ錆から、果たし状が届けられた。とがめとしては、最強と言われる錆と戦うのは、もう少し後のほうがよかったと思ったものの、この機会を逃すわけにはいかない。ふたりは船に乗り、果し合いの場である巌流島を目指した。
一方、真庭忍軍の虫組と呼ばれる派閥の頭領三人は、七花への人質として、七実のいる不承島を目指して……
毎回楽しみにしてるプロローグですが、今回もニヤニヤ全開です。野宿に近いところとはいえ、腕枕して寝たり、相手の刀を褒めたとがめに七花が嫉妬したりと、何か仲良くていいですよね。むろん、一番萌えたのは、鎖骨で、くてっとなるところですけど。やんやんやん。
とまあ、ここまではいつも通りでしたが、読み終わったら、思わず呟いてしまいました。やってくれるぜ。一度限りの禁じ手が、こうくるとは思わなかった。
刀語において、マンネリなんてものは、ありえないと思い知った一作です。
この作品は、先入観無しに読んだほうが間違いなく面白いので、未読の人はここから先スルー推奨。
というわけで、刀語の第四弾。なんとなんと、刀を語るどころか、姉を語るお話でしたね。
真庭忍がいいところに目の付けたと思ってましたが、まさかこんな展開になるとは、予想外にもほどがある。病弱とはいえ、虚刀流の基礎ぐらいは習ってて、あとは知と地の利でカバーするのかと思ったら、まさか最強だったとは。努力する事すら許されない強さに、惚れ惚れです。
おかげで、ただでさえ使い捨てとして大活躍中のまにわにが、さらに酷いことになってましたね。死ぬ伏線まで張ってくれるとは、いっそ天晴れと言うしかないでしょう。彼らがいてくれるからこその刀語だと思わせてくれるやられっぷりが、面白いことこの上ないですが、今回で一気に人数減っちゃったなあ。最後までいてくれるのか心配。
「姉語」は非常に面白かったんですが、その話にページがほとんど費やされていたので、「刀語」としてはどうなるのかとドキドキでした。ストーリィとは関係ないところをこんなに気にさせるとは恐るべし、ですね。
まさか、一行も出てこないとは思わなかったけど、説明口調での流れが、妙に面白くて笑いっぱなしでした。
ともあれ、これで四本目の蒐集完了。
母親のこと、最終奥義「七花八裂」の弱点、刀の使い方を知った天才の虚刀流の参戦など、いろいろ広がりを見せてくれそうなので、これからがものすごい楽しみになってきました。
ちなみに今回はイラストがすごい良かったです。幼い頃の七実と七花のイラストの可愛いことといったら!何度もニヤニヤ。
一番好きなイラストは、最後の最後、三人のまにわにがトランプ(?)してるやつですね。なんか、いいですよね。
刀語 第五話 賊刀・鎧
円状に組まれた柵の内側に砂が敷き詰められているだけの簡素なつくり。大盆と呼ばれているその場所は闘技場だった。腕自慢の者たちが戦い、賭けが行われる。大盆で一番の人気者は、大きな体を余すことなく鎧に包んだ男、鎧海賊船長の校倉必だった。
彼の持つ賊刀「鎧」を蒐集すべく町を訪れたとがめたちだが、意外なことに校倉から勝負を持ちかけてきた。それは賊刀「鎧」と「あるもの」を賭けた勝負で……
というわけで、刀語の第五弾。賊刀「鎧」のお話です。
が、
とがめの印象が強烈過ぎて、他の事なんかどうでもいいやと思ってしまいましたよ。「ちぇりお」間違いについては、以前から言われてましたが、まさか、あんな派手なアクションをしてくれるとは思いませんでしたよ。もう泣けるほど笑いました。なんていうか、このシーンを見るために、僕は刀語を読み続けていたのかもしれないと、そんな気分。
最後まで意地を張り通すとがめが、可愛くて可愛くてしょうがないです。ここだけでも、大満足。
で、本編ですが、絶対の防御力を誇る賊刀「鎧」って、どんなのかと思ったら、そのまんまでしたね。その形状からか、戦闘シーンそのものはあまり面白くなかったですが、むしろ他のところで変化がいろいろ見えてきたので、そちらが面白かったです。
個人的に印象に残っているのは、やっぱり七花の心の変化かな。今まで、とがめへの思いは、言葉だけみたいなところがありましたが、校倉のおかげで、いろいろ見えてきましたよね。七花だけじゃなくて、とがめもまた七花に対する思いを見せてくれたし。 「力ずくてわたしを守ってみせろ!」 この言葉は、ほんと奮い立たせるものがありましたね。もはや、告白だ。そうに違いない。それぞれの気持ちが、ちょっとずつ近づいてる感じを受けるところが、とても素敵でした。
それだけじゃなくて、やられ役として活躍(?)していた「まにわに」が目覚めそうだし、新たなる勢力もチラリと姿を見せてくれて、今まで順調だったとがめたちに、どんな暗雲が立ち込めてくるのか、わくわくさせてくれますよね。
あ、でも、お姉さまはどのあたりにいくんだろう。このあたりの動向も気になります。
刀語 第六話 双刀・鎚(カナヅチ)
奇策士たちと手を組んだしのびの衆、真庭忍軍。だが、情に厚い真庭狂犬は、仲間を殺した憎むべき敵と手を組むことを許せなかった。奇策士との衝突は避けるが吉と判断した鳳凰の言葉を無視して、狂犬は単身とがめたちを追い始める。
一方、とがめと七花は、所在を知る最後の刀、双刀「鎚」を求め、絶対凍土の蝦夷地に足を踏み入れたが……
「いいか、とがめはな、おれが惚れたこの女はな、どんな苦境にあったって、たとえ死ぬような目になってさえ、自分の決断を後悔することだけはねえんだよ」
イキナリ笑わされました。
双刀「鎚」を求めて、氷点下二十度、雪が降り止むことのない豪雪地帯へ足を踏み入れたってことで、「寝たら死ぬぞ」とか「私が死んだら」などのお約束が楽しい。初っ端のカッコよさはどこへいったと思いながら、ニヤニヤしながら序盤を読んでました。
名前以外まるで得体の知れない双刀「鎚」でしたが、七花ですら扱えないんじゃ、まさに凍空一族のために作られた刀って感じですね。正式な所有者がいないからといって、幼き女の子こなゆきちゃんを相手取った七花が、不覚を取るのもわかる気がします。こなゆきちゃんの無邪気な言葉に傷つく七花の姿に、思わず笑ってしまいましたね。
刀として生きていた七花が、戦いの場で人としての意思を見せ始めたところは、嬉しい反面、今までなかった弱さが生まれることになるので、とがめの不安もわかります。ただ、とがめという守るべき人がいるというのは、必ずしも弱さに直結するものじゃないと思うので、二人の絆に期待したいところ。
ちなみに、今回とがめがすごいかわいかったです。「ごめんね?」でさえ強烈だったのに、「直すから」までくるとは……。男心をグッとつかまれました。
せっかく同盟を組んだのに、ひとりの暴走であえなく敵となったまにわにですが、恐ろしきは狂犬の能力よりも、真庭忍軍の覚悟でしょうか。鳳凰の手立ては、残酷ですが、最短の道での謝罪ですよね。仲間の命すらあっさり捧げる冷静さに、背筋が寒くなります。
あれ、でも鳳凰の忍法を考えると、ひょっとして……と思ったけど、さすがに他人のは……どうなんだろ。ううむ。
こなゆきを残して、凍空一族が全滅してるって、いったいどんな展開かと思ったら、こんなところにいましたか、第三勢力にして最強の人が。あの極寒の地でなんで平気なんだとか思ったけど、まさか寒さへの耐性まで身につけられるの?ありえそうで怖い。
敵に回したら終わりだと思ってますが、いくらなんでも……と思いつつも、最後の一行を読んでしまったら、ああ、もう!まったく予想がつかないだけに、どうなるのかと期待で胸が膨らみます。
刀語 第七話 悪刀・鐚 (ビタ)
土佐の鞘走り清涼院護剣寺は、いわずと知れた剣士の聖地である。そこにひとりの女が客分として、迎え入れられていた。否、迎えざるを得なかった。逆らったものは、みな惨殺されたのだから。悪刀・鐚を手に入れた女は、そこで最愛の弟を待ち続け、そして道場で向かい合った。始まったのは、壮絶な姉弟の争いで……
以前から予告されていた姉弟対決話ですが、まさかこんな展開になるとは思いませんでした。七花が落ち込むのも無理ないですよね。初っ端の戦いで、七花の半年の成果を、姉ちゃんがあっさりと覆すんですから。どれほどの天才ですか、あんたは!
殺し合いにすらならないほどの力の差に、いったいふたりはどうやって立ち向かうのかと思いましたが、ここで活躍したのがとがめだってことが、今回一番印象的でした。落ち込んだ七花に活を入れ、最強の天才相手との駆け引き、そして奇策。そう、これはまさに奇策でしょう。考えついたことよりも、実行したことがすごいと思いました。二人そろえば最強にすら勝てる。いいコンビです。
今回は刀についてのお話というよりも、七実と七花についての生き方というか、そういったものについてのお話だったこともあったせいか、シリアス一辺倒でしたね。鑢家の真実については、なんとまあと驚くものがありましたが、七実の天才故の悩みを知ると、父の行動はひょっとして……と思ったりして、切ない思いでいっぱい。
とがめと共に旅してきたことで、七花が刀としてではなく、人として成長してきたことで、心の弱さが見えてきてしまいましたが、同時に覚悟も見えてきましたね。ある部分ではとがめに頼り切っていたところがありましたが、こういう成長が見えたことは嬉しいです。最後のとがめの素敵な言葉は、ご褒美であり、本音でしょうね。真面目におのろけするこの二人の関係大好き。
さてさて、これで残る刀はあと五本。次はついに否定姫との対面ですか。戦いとかはないでしょうけれど、ここにきて更なる新事実が出てくるみたいですし、まにわにの動向も気になるし、どんな展開が待ち受けているのか楽しみですね。
読み終わったあと、目次や最後のページに描かれている七花と七実のイラストでじわり。
刀語 第八話 微刀・釵 (カンザシ)
壱級災害指定地域のひとつ、不要湖。江戸にありながら、人が住むことすらできないその地に、四季崎記紀の工房があるという。敵対する否定姫からの情報とはいえ、信憑性が高いと判断したとがめは、七花と不要湖を目指した。そこで七花が見たのは、大量のガラクタと、近づく人間を自動的に惨殺する日和号で……
七本の刀を集めたものの、行き詰った矢先に否定姫からの連絡を受けて、尾張へ戻った二人が……というお話。相手については嫌悪というか、蹴落とす話しかしてなかったので、どんなやり取りが待ち受けているのかと思いきや、なんとなく、喧嘩仲間っぽくて楽しかったりする。心の奥底は見せてないですが、似たもの同士ですよね。
というわけで、何かしら思惑を抱えている否定姫から得た情報を元に、八本目の刀を手に入れるために、不要湖なるところへ行くんですが、ここで出会った意外なモノを通して、七花の意識が変わっていったことを感じられるところが印象的でしたね。
刀としてただ使われるだけの存在が、人として、とがめを信じて戦う姿には、ああ、いい方に向かってるなあと思いました。姉との対決とかも影響してるのかしら、なんて思って、ちょっとじんわり。
七花の信頼を受けるとがめがまたカッコよくて。人でないものに対して、奇策は通じないのでは、と心配する七花に向かって啖呵を切るところは、文句なしで今回一番のシーンでしたね。否定姫のことを気にする七花に嫉妬したり、膝の上だっこされてる人と同じとは思えないほどです。
だんだんと力だけでは勝てなくなってくるところで、とがめの奇策が光るという展開を見てると、いいユニットだなあと思わせてくれますね。すべてがとがめの予想通りに進む戦いに惚れ惚れさせられました。
これだけだったら、いたって普通のお話ですが、気になるのは例の否定姫側の動きですね。否定姫の配下であり元忍者の左右田右衛門左衛門が、まにわにの海亀と戦ったりするところも、いろいろ意味合いがありましたが、何より印象的なのは、日和号について否定姫が呟いた言葉でしょう。たった一言で、大げさじゃなく、世界が変わるようなこと言い出しましたね。ってことは、それを作った四季崎記紀も……。おお、なんか面白くなってきたぞ。
どちらかといえば、今後に続けるための伏線をばら撒くお話のようでしたが、きっちりテンションあげてくれるので、面白かったです。報われない右衛門左衛門と、否定姫の関係もなかなかグッドでしたし、今後が楽しみになってきましたね。
刀語 第九話 王刀・鋸 (ノコギリ)
「だから、汽口どの。このわたしとまずは将棋で勝負して欲しい。そしてその勝負でもしもわたしがそなたから勝利を収めることができれば、その王刀『鋸』をかけて、ここにいる虚刀流七代目当主、鑢七花と剣を交えて欲しいのだ」
結果は惨敗だった。
平和な世のおかげで、門下生がひとりもいない中、日々己を高めようと、真面目に努力する心王一鞘流の当主、汽口漸愧を相手に、王刀『鋸』をかけた勝負をするお話です。
まさか、こうもあっさり、七花が惨敗するとは……。
これまで語られてきたことを逆手にとって、そこに汽口の真面目さがプラスされると、意外な戦いが見えてくるところに、思わず膝をポンっとたたいてしまいました。この発想はすばらしい。いい意味で、意表を突かれましたね。
このままではどうあがいても勝てないんじゃないかと思いましたが、さすがとがめ。卑怯であり、かつ有効であり、たった一度しか使えない奇策を持ってきてくれましたよ。前々作、前作、そして本作と、だんだん、とがめの策があったからこそ、刀を手に入れることができるという展開になってきましたね。名実ともにいいコンビだと思いました。
ただ、おんぶやだっこのような、今まであったいちゃいちゃっぷりが、足りないなーなんて思ってたら、まさか、こんな破壊力満点な出来事が待ち受けてるとは!ええい、このバカップルめ!とがめの奇策の一番の必殺技は、間違いなく七花への一撃だと思います。このイラスト、額縁に入れて飾りたくなるぐらい素敵。
一方、否定姫関連でも動きがありましたが、こっちはこっちで反則なことしてますね。まにわにのひとり、真庭鴛鴦VS左右田右衛門左衛門で、前作での「あの一言」に続いて、ついに実物まで見せ始めましたか。いったい何者なのか、何が目的なのか気になるばかりですが、それよりも、鴛鴦の最後にしんみり。
いやあ、面白かったです。姉ちゃん編が抜群だっただけに、前作では少し落ち込んだ感があったんですが、ここにきて、また盛り上がってきてくれました。汽口漸愧は、またいつか出て欲しい、そう思わせてくれる人でしたね。とがめがいなかったら、My刀語ランキングのトップを走ったかもしれないぐらい魅力的でした。最後の駄洒落に惚れた。
さて、これで残るはあと三本にして三冊。次はとがめの故郷が舞台になるそうです。今まで明かされなかった話とか出てくるんでしょうか。楽しみですね。
刀語 第十話 誠刀・銓(ハカリ)
奥州・百刑場。ここに誠刀『銓』があると否定姫から告げられ、怪しく思いながらも、とがめたちは、奥州へと足を運んだ。とがめの父である飛騨鷹比等が住んだ飛騨城の跡地へと。
そこに現れた「仙人」だという誠刀『銓』の持ち主である少女・彼我木輪廻は、刀を素直に渡すかと思いきや、とがめと七花の心を乱す発言をして……
完結まであと少しと迫ってきた第十話は、のらりくらりとかわす仙人を相手にして、とがめと七花が、自分たちを見つめなおしていくお話という感じかしら。「戦い」という意味での盛り上がりはまるでありませんが(っていうか、戦ってないし!)、なかなか興味深いところが多かったですね。
前作の相手、汽口漸愧との回想シーンで、虚刀流の不自然さを改めて知ったわけですが、まさか、虚刀流がそういう意味を持っていたとは露知らず。こうなると、とがめと七花の関係にも、何か変化が生まれてくるのかもしれないと思ったり。なまじ旅の終わりが見えるだけに、終わったあとも幸せになってほしいんだけど……、なんか不安だ。
もうひとつの不安は、否定姫の動きですね。とがめの急所を探ろうとしているだけに、今後の駆け引きが危うくなりそう。
で、誠刀『銓』。とがめと七花の役割か、今までとは逆の形になったわけですが、うん、まあ、このあたりはアレとして、七花が彼我木を相手どって、意味のあるようなないような話を繰り返していくうちに、見えてくるものがあるってのは、面白かったです。特にとがめが隠していた気持ちについては、意外でもあり、納得できるものでもありました。たしかに、生き急いでいる感じはあるもんなあ。
ただ、誠刀『銓』を見つけたことで、自分へと向き合うことの大切さもわかっただろうから、きっとこれからも大丈夫だろうなと、そう思いたいですね。
否定姫がとがめに気付き始めたように、とがめも否定姫について気付き始めそうなところがあって、どうなるのかなーなんて油断してたら、なんですか、あのラストは!まさか、次のまにわにを背負うという人鳥がここで絡んでくるとは……。
例の左右田右衛門左衛門の動きもあるし、あと二冊でどういう展開が待ち受けているのか楽しみです。
刀語 第十一話 毒刀・鍍(メッキ)
鳳凰さまを助けてください― そう言って倒れた真庭人鳥を一先ず介抱したとがめと七花。罠である可能性も考えられるが、毒刀「鍍」がそこにあるならば、蒐集しないわけにはいかない。
そしてふたりは、毒刀「鍍」を追って、新・真庭の里へと向かったが……
新・真庭の里で待ち受けていたのは、毒刀「鍍」を手にした鳳凰ではなく……というお話。
次のまにわにを背負うと言われてる人鳥が、刀傷を負って倒れていたという前作の終わりを見て、いったい何があったのかと思っていたんですが、まさかまさかな展開が!いや、左右田右衛門左衛門と鳳凰が戦ったというところまでは、誰でも思い当たると思いますが、ここで毒刀が生きてくるとは予想だにしてませんでしたよ。
因縁を大いに感じさせてくれただけに、どう決着をつけるかワクワクしてた身としては、ある意味、拍子抜けな感もあるんですけど、同時に、いったい何がどうして?と引き込まれるものもありました。
そんな毒刀を追って、とがめたちが動くんですが、ここにきて、旅の終わりなるものを思わせるやり取りがあったのは、印象的でしたね。とがめがどう思っているのか気にしながらも聞けなかった七花の小心っぷりには、微笑ましいものを感じましたが、ソレより何より、とがめが告白めいたことを口にしたことが、すごい嬉しかったです。
「腹心になってほしい」って言葉なのに、なまじな愛の言葉よりも、心にきたのは、ふたりの関係の複雑さを感じていたからかな。七花自身も「仇」について意識してたけど、そういうものを飛ばして、側にいてほしいと思えるほど、ふたりの旅路はいいものだったんだろうなあ。
七花の無知を利用して、さりげなく手をつなぐとがめに、クーとなるばかり。
ふたりの雰囲気がとても良かっただけに、終わりを予感させる言葉には、不安だらけでしたが、ここにきて最後にあんな場面を見せられるとは思いもしませんでしたよ!まさか、と一瞬凍りついてしまいました。ここで終わるとは反則過ぎ!
あまりのショックに、人鳥 VS 左右田右衛門左衛門とか、鳳凰 VS 七花とか、どうでも良くなるぐらい。いや、実際、人鳥 VS 左右田右衛門左衛門には、おいおい!とツッコミたくなるような戦いっぷりだったのでアレでしたし、鳳凰 VS 七花では、戦いそのものよりも、四季崎記紀や変体刀の真実が見えたことのほうが、印象的でしたし。こっち方面から来るとは思ってもなかったけど。
蒐集もあと一本となったところで、ついに否定姫も動き出したってことでしょうね。
次の最終巻でどんな幕を閉じるのかわかりませんが、願わくば、七花たちに幸せな未来が待ち受けてますように……。
刀語 第十二話 炎刀・銃(エントウ・ジュウ)
「わたしは自分勝手で自己中心的で、復讐のこと以外は何も考えることができず、死ななければ治らないような馬鹿で、そなたを散々道具扱いした、酷い、何の救いようもないような、死んで当然の女だけれど――それでも」
今思っていることを。そのまま、飾らずに言う。
「わたしはそなたに、惚れてもいいか?」
開始50ページでやられました。
今までとがめが、どんな思いで生きてきたか、旅をしてきたかが見えてくるところには、重いものを感じましたが、それでも、戻れるものなら、戻りたかったんだろうなあ。この旅が終わったら、というとがめの言葉は、嘘ではないと思いますが、それ以上に、道半ばという言葉は本音だったと思います。
七花があれほどの感情を見せるまでに人であってくれたことに、この章のとがめの最後のセリフに、涙。
ここで終わっても文句なかったですが、否定姫もまた戦ってたんだなということが見えてくる展開が、また興味深い。刀と修正の絡みは、ちょっとわかりにくいところがありましたが、すべては四季崎の思惑どおりなところが、ゾクゾク。
そして七花の成長が見える再びの刀狩が、またすごい。すべての刀に対抗できる術を持って挑む七花の力強さが、すばらしく印象的でした。特に虚刀流「菊」の力強さには驚愕。
「あんたにゃちっとも、ときめかねえ」にニヤリとし、まにわにのバカさにぽかんとさせられて、十番目の人には涙が出そうなほど笑って同情して、二百七十二回の殺戮にはどれほど強いんだと思いましたが、なんといっても素晴らしきは、最後の敵への奥義でした。まさか、ちぇりおに泣かされる日が来るとは、夢にも思わなかった。
いやあ、こういう盛り上がり方を見せてくれるとは、さすが最終巻って感じですね。感動と、もやもやしたものが残る読後感は、なんとも言えないものがありましたが、七花の道が見えるラストはよかったかな。
十二ヶ月連続刊行、お疲れ様でした。
また次なる物語で会えるのを楽しみにしてます。
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