伊佐と雪 / 友谷蒼
伊佐と雪 ~やさしいよる~
修験者を志す高校生の袴田は、転校先のクラスメイトで人とは異なるものがいるのを見つけた。自身の力の限りお払いをしたものの、まるで効果が無いどころか「お上手ですね」などと言われてしまう始末。
しかも、祖父は人ではない彼ら二人を、師として仰ぐよう告げたのだ。
どうすべきか迷いながらも、後をついていくことにしたが……
幽霊もの(?)だけれど、悲しい物語ではなく、ほのぼのとした雰囲気。
悪霊退治する修行に来たというわりには、それらしい描写がまるで無いのがどうかと思うけれど、ちょっとした不思議系の物語としては面白いかも。
ただ、盛り上がるところがないんだよなあ。短編三つともパターンが同じだし。
途中で飽きるということは無いけれど、もう少し何かがほしいです。
ゾクりとした怖さを今の雰囲気に組み込むことができたら、「百鬼夜行抄」(マンガですが)のような雰囲気に持っていけるかもしれません。
伊佐と雪 ~いとけしゆうぐれ~
人外の者たちを呼び寄せる笛を吹いていた少女は、ヒメにたいして取引をした。妹を守ってもらいたい、と。
己の命すら賭けるという真摯な願いに、ヒメは代わりに袴田を差し向けた。なぜ俺がと思ったが、断れない。断れるわけがない。
しかたなしに、袴田は少女の家に向かったが、特別な妖しはいないようだ。ふと安心したときに、その家に入ってきたのは……
そんな「SAKI」を含む三編 + α からなる短編集。
前作は同じようなパターンになってしまう短編ばかりだったので、ちょっと飽きがきてしまったんですが、本作は「SAKI」で切なくなる話、「CHIKOU」でコミカルとちょっと不思議な話、「WAKANA」でシリアスな話と、すべて異なる展開と雰囲気。
いやあ、いいですよ。かなりオススメです。
妖しが関わる問題ではないことであっても、思わず情けをかけてしまうところを見ると、何だかんだいっても感情の生き物(といっていいのかわかりませんが)なんだなと、一編目の「SAKI」を読んで思いました。ヒメが素敵すぎ。
そんなヒメにもこき使われる袴田の苦労が微笑ましい。前作もそうでしたが、もはや伊佐と袴田というタイトルのほうがいいのではないかというぐらい頑張ってます。まあ、力なきものは雑用で頑張るしかないわけなんですが(そもそも逆らえるわけがない)、すべてを修行と思って実直に頑張る袴田の未来に幸あれ。
というわけで、一番良かった短編は「SAKI」でしたが、一番心を打たれたシーンがあったのは「WAKANA」でした。袴田が己のずるさを認識して、伊佐と話をするところ。わかっていても突っ走るのかと思いきや、変化球でかわされた感じ。でも、これがとても爽快で、みんなが袴田を気にかけるわけだと納得してしまいました。とっても満足な一品。
ホラーよりもよりファンタジー風味というか、ハートフルなところ前面に出してきてくれてますが、この物語の雰囲気にぴったり。次の巻も期待です。
伊佐と雪 ~おだけしあした~
掛け軸から逃げ出した赤い猫を探してほしいと、カナリヤの管理人が言ってきた。赤い猫は、人間には見えないとはいえ、妖怪連中であれば、見逃すはずがないと判断した雪は、目撃情報を集めるために、妖怪相手の飯屋を一日だけ開業する案を思いついた。もちろん、食事を作るのは、袴田ひとり。はたして、大丈夫なのだろうか……
という「AKANEKO」を含む四編からなる短編集です。
いやあ、いいですね。動きはあまりないんですが、まったりとした雰囲気がたまらなく魅力的です。
個人的に一番良かったのは、第一短編の「RENTATAROU」ですね。お祖父さんが夢に出てきて、不思議な玉を渡されたら、夢から覚めても手元に玉があったというお話。あまり知られていなかったお祖父さんのことが、伊佐たちから思い出話として出てきて、ちょっと切ないものがありましたが、袴田の心遣いというか、本気で思ってるんだろうなあという言葉に、ほんわかと温かいものを感じました。こういう話はうまいですよね。
雪が熱を出して寝込んでしまう「YAMAWARO」は、ちょっと微妙だったかな。何をやりたいのかわかるようなわからないような感じでした。妖怪を袴田があしらうシーンは笑ってしまったけど。
まあ、この話は、雪の弱った姿に、ニヤニヤするお話といっていいかもしれません。心配しまくる袴田君はいい人だね。
あらすじにも書いた「AKANEKO」ですが、コレも良かったなあ。袴田の苦労を考えもせずに、ほいほい企画やら案を出していく周囲の人々ののん気さが楽しいです。特に、雪と玄太郎の賭けが面白かった。何気に雪も負けず嫌いだよなあ。
妖好みの料理が作れるというのは、いいことなのかどうなのかよくわかりませんが、お役に立てたのであれば、袴田もうれしいことでしょう。巻頭イラストの二枚目にある玄太郎のちょこまかっぷりが、とてもかわいいです。お手伝いする姿が、目に浮かびますね。
朝起きたら音が聞こえなくなった少女を描く「MANA」は、今回の短編集では、はじめて他の人の視点から描かれてました。音が聞こえないというのは、普通にありえそうなだけに、淡々と描かれると怖いものがありますね。誰にも言えず、今までと同じように装う少女の不安な態度が伝わってきました。これは気持ちがわかるなあ。
袴田や雪がさっそうと解決したにもかかわらず、関係者にはまるで姿を見せていない裏方っぷりが、このシリーズっぽくて良かったです。名前のこともあるし、いつか再登場してくれるとうれしいな。
今回の短編集は、袴田が出ずっぱりで、伊佐も雪もあまり出番がなかったですね。まあ、雪はいつものことですが。たまには他の人の過去話とかも読んでみたいなあと思ったりしますが、さて、次はどんな話になるんでしょう。楽しみですね。
伊佐と雪 ~たましいのゆくところ~
そのマンションの最上階である十一階はね、ここ数年、一世帯も住んでないんだ ― という朱門の言葉から、袴田がそのワケありのマンションの十一階に住居を移すことになってしまった。それも、ひとりで。何かあったらどうしようと不安を抱えながら、新しい生活がスタートしたが、ある日、笹緒に呼び出されたら、雪たちに内緒で、他人の家に忍び込んで欲しいといわれて……
長き時を経た妖怪の雪と伊佐の元に、修行僧を目指す高校生・袴田が弟子入りして……という、人と人あらざるもののハートフルファンタジーの第四弾。
今回は、カナリヤの中でも門外不出のモノがとある古い家に流れてしまい、その家の娘に異変が起きた「AIKO」、事業に失敗した男が、目の前のお金持ちそうな家から飛び出してきた男の子・玄太郎を誘拐してしまう「TATSUYA」、 日に日に人あらざるものたちが現れるようになったマンションで知り合った階下に住む少女・美希の姉の話が失踪したという「MIKI」、好きな人の名前をいまだ呼ぶことができない少女の思いと迷いが描かれる「MAAKO」という、四編からなるお話です。
「AIKO」では、久しぶりにヒメの言動が見れてうれしかったですが、ちょっとファンタジー過ぎるかしら。ああ、でも、お菓子の家は見てみたい。
意外や意外な思いをしたのは、二話目の「TATSUYA」ですね。子供を誘拐するときの王道手段(お菓子で釣る)に面白いようにひっかかる玄太郎ですが、誘拐されているとは気づかずに親愛の目で見られたら、やましいことをしている人にとっては、心痛むものがありますよね。子供らしいまっすぐさに、迷う誘拐犯の姿がおかしくも切ない。
伊佐や雪が、誘拐のことを気づきながら、むしろ便宜を図るようなことをしてるところには、何があるんだろうと不思議に思いましたが……、ああ、そういうことだったのか。ふと昔を思い出し、自分の大切なものが胸に仕舞われていることを気づかせる展開が良かったです。
雪の手品の小憎らしさに、じんわり。
一番良かったのは「MIKI」かな。得体の知れないものがうろついているという、ホラーテイストな雰囲気がありながら、どこかユーモアも見せてくれるのは、袴田のもたらす雰囲気のせいかしら。マンションの階下に住んでる女の子に、変質者と怪しまれるところとか、思わず笑ってしまいました。
ただ、一般の人たちに少しずつ、〝何か〟が忍び寄るところは、ドキドキだったなあ。早く雪たちを呼ぼうよとせっつきたくなったのは、僕だけじゃないはず。
最後にちらりと見えた伊佐の心情については、切ないものを感じますが、きっと、今は、まだ今は、彼にその思いはないと信じたいですね。
最後の「MAAKO」は、「MIKIでの出来事が影響となったもので、お話としては良くあるものでしたが、ちょっと切なく、たっぷり温かいものを見せてくれるのは、このシリーズらしいですよね。特別何があるわけじゃないけれど、そこにあると読みたくなるものがあるので、今後も楽しみ。
伊佐と雪 ~なつかしいあさ~
「助かる道があるというのに、それを捨てるのですか?もし、そのあなたが大切にしている妖が、あなたをだましているのだとしたら、あなたにとってよくない道を示してくるかもしれません」
袴田は首を振った。
「俺ももちろん、助かるのであれば、その道を選びたいです。でも、それは運命を避けてずっとここに隠れていることとは、違う気がするのです」
長き時を経た妖怪の雪と伊佐の元に、修行僧を目指す高校生・袴田が弟子入りして……という、人と人あらざるもののハートフルファンタジーの第五弾。今回は、鏡に映ったモノと入れ替わってしまった少女を描く「YUKA」と袴田がカナリヤで店番する「KANARIYA」、伊佐と雪の過去が見える「ISA&SETSU」からなる最終巻です。
人間の女の子をいきなり連れてきちゃったから、ヒメがご乱心したのかと思いきや、なるほど入れ替わりなのね。自分の腰元にと言いながら、ここに連れてくれば、袴田や伊佐が何かしら手を貸してくれると思ったから、わざとつれてきたんじゃないかなーと思うのは、ヒメを買いかぶりすぎかしら。
自分の存在がだんだんと他に奪われていく様は、ゾクっとするものがありましたけど、たった一人でもわかってくれる人がいるっていう嬉しさは、ほんといいものでした。ま、ごちそうさまと言っておきましょうか。
個人的にはカナリヤのお話が好きでした。店番してたら、妖しいモノたちがやってきては、何かと袴田に話しかけてくるシーンににやりとしてしまう。こういうモノたちに好かれるとは、いいもの持ってますよね、袴田くんは。まあ、好かれすぎて、ちょっと……いや、かなりか。危ない輩までやってきて危機一髪状態でしたけど、ぎりぎりのところでかわすあたり、守られてるって感じがありますね。
わかりにくい雪の優しさにクスリ。
最後のお話は、とある寺に囚われの身になってしまった袴田の元へ伊佐と雪がやってくるお話なんですが、二人は人あらざるものなんだなと思わされるのは、悠久を感じさせる言葉を聞くときでしょうか。あまりに長くいるが故に、執着するものがなく、むしろ……と考えてしまうところは、苦しさをわかるものがあるだけにやるせない。
でも、伊佐や雪自身ですら、忘れかけていた思いを、まっすぐな言葉で思い出させた袴田が素敵でした。あの言葉に、伊佐がどれだけ感動したかは、何となく想像できますよね。
いやあ、面白かった。これで最終巻とは寂しい限りですが、きっとこのあとも、今までどおり一緒にいながら、騒動に立ち向かって行くんだろうなあ。いつか、袴田の孫ができたときも、同じような時を過ごしてくれたらと、願いたくなります。
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