<本の姫>は謳う / 多崎礼
<本の姫>は謳う 1
はるか昔、天使達は『文字の精霊』の力を用いて空に島を浮かべ、そこに楽園を築いたのだという。『滅日』によって、スペルと呼ばれる力を持つ文字は世界中に散らばり、天使達の住居跡は地に落ちて「遺跡」と呼ばれるようになった。
『本』の修繕を手がけるアンガスはある時から、遺跡や世界中に散らばる文字を回収するという<本の姫>と旅を続けているが、ある日、いつものように遺跡で文字と本を探し求めていたら、盗賊たちに囚われてしまった。だが、盗賊に連れられていた少女セラに助けられて……
本に手を当て、スタンダップと唱えると、物語がヴィジョンとなって読める。そんなファンタジーな世界で、本に意識を閉じ込められた<本の姫>とアンガス少年が、世界中に散らばった四十六の文字(スペル)を探し求める冒険物語です。
いやあ、すばらしい。助けてくれた言葉の話せない少女セラを、アンガスの師匠に預けるために都会へ向かって、というところから、世界観が語られていくんですが、本や文字とか物語についての描かれ方が、とても素敵ですね。スタンプと呼ばれるヴィジョンを利用した新聞は、読んでみたくなるなあ。
また、登場人物たちが魅力的でしたね。職人気質でありながら、女性らしい優しさを感じるアンガスの師匠エイドリアンが、個人的に大好きですが、ヘタレながらも頑張ろうとする姿はちょっとかっこいいかもなジョニーなど、会話に触れる度に惹かれていきます。中でも、<本の姫>の魅力は格別。姫様らしい傲慢さを持ちながら、アンガスのことを心配する姿には、一介の女性らしいものがあったりして、思わず胸きゅんすることも幾度かありましたね。アンガスとのやり取りは、この物語の魅力のひとつだと思いました。
で、セラの話を聞いたアンガスたちが、文字を求めて再び旅に出るんですが、実は、文字を探し求める物語だけじゃなく、異質さから楽園内の牢獄で育てられた少年の物語も語られるんです。現在話と過去話が交互に物語られていくんですが、はじめはまったく見えてない世界が、少しずつ見えてくるにつれて、より面白さを増していくという展開は、素晴らしい限り。読み進めれば進めるほど、さらに読みたくなっていく、みたいな魅力があります。
そんな中、文字には魅力と同時に、人を狂わせる魔力もあるってことを見せ付けられたときには、ゾクリとさせられるものがありました。文字によって滅びた町の様子もさることながら、側にいた人が自然と変化していくのを目の当たりにしたときが、一番怖かったです。
ひとりでいることに慣れていたと思ったのに、いつの間にか仲間の存在を信じていて、自分との意識の違いから、裏切られた気分を覚えるところには、現在と過去のリンクを思わせたりしますが、実際のところ、過去とどうリンクしているのかはさっぱりですし、そもそもアンガスの秘密すら明かされてないので、何とも言えないしなあ。ううむ、気になる。文字を集めることで、失った記憶を取り戻すという姫様あたりが、何か知ってるといいんだけど。
まだまだ世界各地に文字は散っているとはいえ、とある町を襲った文字の問題については、ひとまず解決して良かった……と思いきや、仲間すら振り切らざるを得ないような引きを見せてくれて、うわあ、気になる!
幸いなことに、全四巻構成で、既にすべて書きあがっているとのことなので、それほど待たされることはないんじゃないかと思います。今から楽しみで楽しみで仕方ありません。大絶賛オススメ!
<本の姫>は謳う 2
さて……前置きはこの辺にして本題に入ろうか。
この先はすべてホリーの息子―つまりはアンガスが、私に聞かせてくれた話だ。
本に意識を閉じ込められた<本の姫>とアンガス少年が、世界中に散らばった四十六の文字(スペル)を探し求める冒険物語の第二弾。今回は、アンガスの過去にまつわるお話です。
いやあ、面白かった!
アンガスの過去とは、セラでなくても気になるところですが、まさかこんなに孤独というか、辛い日々を過ごしていたとは思いませんでした。白き髪と青い目という「天使還り」の容貌は、アンガスにどれほどの傷を負わせたか……。「希望」で兄を失い、破れた夢を母に突きつけてしまったという重みを抱えていたら、そりゃ故郷から足が遠のくわけだ。
そんな重い足を運んで、ようやく故郷たどり着いたら、そこで待ち受けていたのは「忘れ病」を患った母と、伝統に縛られた村人だっていうんだから、やるせないったらないです。
それでも前を向くことができたのは、姫やジョニーといった仲間がいるからだろうけれど、幼いころに、同じ年頃の友達と語り合った日々も、大きな支えになっていたんでしょうね。そのあたりが見えてくるところが、とても良かった。
一方、アンガスのお話と交互に「俺」ことアザゼルのお話が語られていくんですが、今回はこちらの話にとても魅了されました。アザゼルという名を手にして、大地で新たな生活を迎えた彼が、少しずつ溶け込んでいく様がとてもよくて、さらにであった歌姫との恋が……。
叶わないとわかっていながらも、このままいってくれたらと願わずにいられませんでした。
それにしても、二つの話がリンクしながらも、どこかバラバラ気味だった1巻に比べて、今回は大分つながりが見えてきた感じがありますね。天使やスペルのつながりには、思わず大興奮させられました。
いやあ、ほんと面白かったなあ。さりげないワンシーンであっても、心を打たれることが多いので、どこをどう読んでも引きこまれるばかりなんですが、ここで、ここで終わるか!あー、もー!
アンガス側、アザゼル側、どちらも、愛する人との間に、切ない思いを繰り広げるという、ものすごくいい場面だっただけに、続きが気になって気になって仕方ありません。
<本の姫>は謳う 3
「お前も考えたことがあるんじゃないか?」
姫の声が、夜の静寂に問いかける。
「文字の意志とは私の意志なのではないか、と」
本に意識を閉じ込められた<本の姫>とアンガス少年が、世界中に散らばった四十六の文字(スペル)を探し求める冒険物語の第三弾。今回は、なくした記憶を思い出すにつれて、不安を募らせる姫と、目の当たりにする幻に囚われ始めるアンガスのお話です。
相変わらずの面白さですね。文字に操られて、不満を抱えた村人たちの衝突を仲裁していくアンガスの様は、セラでなくとも、不安に思うけど、傷つきながらも、言葉を尽くして立ち向かう姿は、見ていて気持ちがいいんですよね。共に旅する人たちもそれぞれ活躍してくれて、仲間っていいなと思います。
中でもセラは魅力たっぷりで。口調はちょっとアレですが、それもまたよしと思ってしまう僕がいるのはともかくとして、アンガスのことが気になってしょうがないところが、とても可愛いですね。この二人のやり取りは、ほんと温かいものがあって、あと一歩で、というお約束は、ニヤリとしつつ可哀想にも思えちゃうんだから、僕自身、このふたりをどれほど気に入ってるのかわかるなあ。
まだ見ぬ未来を語るとき、見詰め合った二人のやりとりが、たまらなく愛しかったです。ああ、二人には幸せになってほしいと切に願いたいですが、どうなるんだろう。
一方のアルゼル物語。「大地の鍵」や本の成り立ちなど、いろいろ見えてきたあとに、天使たちとの戦いが始まって、切り抜けていけば切り抜けていくほど、不安が募っていくばかりで。
守りたい。
その思いが、なぜこれほどまでに不安を呼び起こすんだろう。
手を出してはいけない方向にまで進むリグレットと、彼女の思いを知りながら止められないアゼザルの様子が、とても辛かった。
どちらのお話もクライマックス直前ってところで終わってて、ああもう!と思わず、声に出してしまいそうになりましたが、ここから先は、不安ばかりが見えてしまって、ほんとドキドキです。
次なる最終巻がどういう展開を見せてくれるのか、楽しみに待っていたいと思います。
- Search
- Recent Entries
- Profile
-
- id: deltazulu (deltazulu@booklines.net)
- PageView: