火の国、風の国物語 / 師走トオル
火の国、風の国物語 戦竜在野
力が望みか―アレスがまだ力足りぬ十二歳のころ、敵に襲われ、王女に危機が迫ったとき、それは現れた。精霊とも言うべき存在であるという少女パンドラが。代償を受け入れ、わずかばかりの力と、助言を手に入れたアレスは、それ以降も王女の騎士として活躍し、今では父の後を継いでファノヴァール伯と呼ばれるほどになった。
そして、今、国内で起こった反乱に対して、王が派遣する国軍の一将として、再び剣を手にして……
精霊より手に入れた力によって、剣の才が開花し、騎士として名を馳せるようになった若き英雄アレスが、内乱を治めるために、一度は退いた戦場へ再び向かうお話ってところかな。
定番といってもいいファンタジーな戦記ものなんですが、面白いのは、他人の目に見えない助言者という存在がいることですね。有益な助言であることはわかっていても、敵の血をできるだけ流させるという方面の助言ばかりのため、素直に聞くことができないところが、面白い。剣の腕があるため、切り抜けられることが多いですが、敵に囲まれながらおいそれと助言を聞けず、かといって下手すると自分の身が危なくなるというジレンマに陥ることが多いこと多いこと。
生き延びるには助言を聞くしかないと思いながらも、騎士としての誓いを守り続けるアレスのバカ正直さは魅力ですね。
そんなアレスに幼い頃から守られてる十三歳の王女クラウディアがまたいいんですよ。聡明で、国を思う姿には、王たる資質を思わせるんですが、実はアレスを思っていて、何かと構って欲しいんだけど、王女たるプライドが甘える事を許さない描写が楽しい限り。とても鈍いアレスの気を引くのは大変そうですが、頑張れと、見守りたくなる微笑ましさがあります。
とまあ、始めはアレスとその周辺の物語で話が進んでいたんですが、中盤以降からは、だんだんと群像劇っぽくなっていってました。ベールセール王国内での反乱が起きてという、国軍VS反乱軍が始まるところで、俄然面白くなってきました。戦という場で剣を取る事になって、復讐の念に駆られてしまうのではないかというところにドキドキです。
助言と称して選択肢を増やしてくれるパンドラがいますが、逆に迷いも増えるし、彼女の目的がどちらかといったらアレな方面っぽく思えるので、下手したら誘導されそうだしなあ。となると、副官に任命されたお調子者のローランが、意外にブレーキ役になったりするのかしら。ううむ、気になる。
一方の反乱軍も、単なる農民の集まりと思わせながら、上に立つ「風の戦乙女」なる少女が、かなりの腕を持ってるようなので、おいそれとは倒せなそうな予感がヒシヒシ。まだまだ国軍と反乱軍の戦いは、序盤もいいところなので、今後反乱軍がどういう手を打ってくるのか、他国からの牽制はあるのか、続きがとても気になります。
個人的には、反乱軍の中の様子も気になっていたんですが、こちらの話は、雑誌で連載されているとか。さすがに雑誌を追いかけるのは辛いので、早いところ文庫化してほしいなー、と願うばかりです。
- 火の国、風の国物語 戦竜在野
- 師走トオル
- 富士見ファンタジア文庫
- Amazon |
bk1
火の国、風の国物語 2 風焔相撃
反乱軍が近づいてきているという。訓練を受けた兵に比べれば劣るとはわかっていても、数の差に不安がよぎるが、ここはトゥールスレン城砦。鉄壁と二つ名を与えられるほどの城壁を陥落させたものはいない。ならば王国軍の援軍がくるまで耐えればいいのだと、責任者たるルヘルド男爵は思った。
だが、頼みの綱の城壁は、戦の開始直後に崩された。たったひとりの少女・<風の戦乙女>によって……
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第二弾。今回は不落として名高い城砦を手にした反乱軍が、王国軍と正面から激突するお話です。
すばらしい。この智謀と力と尽くした戦いの面白さに大興奮でしたよ。
数は反乱軍が上でも、質は王国軍の方が上。そんな状態で、ぶつかり合ったらどちらが不利になるのかは、指揮官が一番良くわかっていると思いますが、勝つために、弱さを切り捨てて立ち向かおうとする反乱軍の指揮官ジェレイドの智謀に、背筋がゾクリとすることが幾度あったか。
ここに「力」として、巨大な黒魔法を操る<風の戦乙女>が加わるんだから、そりゃ快進撃を続けるわけだ。
一方の王国軍は、多少の驕りはあるものの、力を感じられるだけに、アレスをはじこうとする動きがあるのが、なんともやるせない。よりによって、あの大事なときに……ってのは、いくら将軍でも私欲が過ぎるというかなんと言うか。まあ、そのおかげで、王女とのやり取りが見れたのは嬉しかったですけど。あー、もう素敵なツンデレさん。
ただ、アレスの気持ちも、王女の気持ちもわかるだけに、彼女の立場が生み出した現実が切なくなりますね。このあたりは、今後アレスにとって大きな壁を生み出しそうな気がするんだけど、さてどうなるのかしら。
ともあれ、反乱軍改め解放軍と、王国軍がぶつかり合うわけですが……やられた。まさか、ここまで狡猾な策を練っていたとは!「相手が見たいものを見せる」のは、こういった謀略の要だと思うけど、こうも見事に踊らされるとは思いませんでしたよ。ジェレイドの智謀に舌を巻くばかり。
ですが、アレスも負けていなかった。どちらかというと、知の人ではないけれど、戦に関していえば、知と力の両方を備えていると言ってもいいんじゃないかしら。助言者たるパンドラの力があったとはいえ、敵を食い止めるために、ただひとりで立ち向かう<赤の悪魔憑き>の存在感の大きさには、痺れました。
いやあ、面白かった。文句なしでオススメ。
今回の戦いでは、ひとまず片方に軍配が上がったように思うけど、一方的ではないし、どちらの軍も強き者と同じぐらい爆弾も抱えてるので、何かあったら一気に近郊が崩れそうという緊迫感がたまらないです。解放軍と王国軍の知と力の均衡の絶妙さに拍手してくなりました。
今後の展開がまるで読めないだけに、続きがとても楽しみです。
- 火の国、風の国物語 2 風焔相撃
- 師走トオル
- 富士見ファンタジア文庫
- Amazon |
bk1
火の国、風の国物語 3 星火燎原
「ルッセル。話してやってくれ」
「はい。事の起こりは、一年前の初夏のここと聞いてます。ただ、噂によればすべては七年前に起こった北国の侵略が原因だと言われてますが……」
男はゆっくりと語りだした。
反乱軍が生まれた、その経緯を。
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第三弾。今回は、反乱軍が生まれた経緯が描かれるお話です。
いやあ、面白かった!
アレスという脅威がいるのならば、排除するか、味方にするしかないということで、まずは自分たちの事情を知ってもらうべく、伝手を辿ってアレスと対峙しようとするんですから、線の細さとは裏腹に大胆だなあ、ジェレイド。
おかげで、なぜ彼らが立ち上がったのかという経緯を知ることができました。圧政に苦しんだ人たちが、もはや戻れない道のりを選んでいく姿は、いつの時代も重苦しいものです。
そんな中、反乱の小さな始まりを生んだジェレイドたちでしたが、いやあ、すごい。今まで武器を持ったこともない農民たちが、騎士たちと戦うんですから、困難な道のりは想像できましたが、時に囮役を買って、敵のプライドまでをも計算に入れて、卑怯といわれようと、姑息といわれようと、勝利をもぎ取っていくところに、彼の、彼らの覚悟を感じました。
人を戦場に送り届けるものとして、刃を握ったジェレイドの覚悟が忘れられないです。
もちろん、順風満帆というわけではなくて、途中で絶体絶命のピンチがあったりしたんですが、敵の中にもいい味出してる人がいて。まあ、そういう人と出会える運というのも、ジェレイドたちの強さのひとつですよね。<風の戦乙女>との出会いは、ちょっと都合よすぎる面があると思ったけど。
ただ、出会った直後から、彼女の力を存分に振るわせるところは、さすが知将と思わされました。
前作までとはことなり、片方だけのお話だったのに、だれることなく読まされてしまいました。出会うタイミングさえあえば、手を取り合うことができただろうに……とか思ってしまいましたが、ともあれ、それぞれの事情を抱えて、再び戦場で出会うことになりそうですね。
ジェレイド自身の爆弾もさることながら、アレスにも凶悪な手が伸びてきそうなので、軍の激突だけでなく、他の部分も面白くなりそうですね。続きがとても楽しみです。
- 火の国、風の国物語 3 星火燎原
- 師走トオル
- 富士見ファンタジア文庫
- Amazon |
bk1
火の国、風の国物語 4 暗中飛躍
「まあそれを考えるのは私と陛下の仕事だ。おまえには別の任務がある」
「あら、そうでしたわ。次のわたしの任務とは一体なんなのでしょう?」「ファノヴァール伯アレスを暗殺してもらいたい」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第四弾。今回は、王国軍と反乱軍から、<赤の悪魔憑き>アレスに向けて刺客が差し向けられるお話です。
やってくれる!
これほどまでに命を狙われながら、生き延びるんだから、そりゃ<赤の悪魔憑き>と言われるわけだ。むろん、パンドラという存在があるからではあるんだけど、それでも、その助言を生かすだけの力を持っていることがすごい。千の敵をたった四人で相手することになったときのシーンは、すごかった。こんなの見ちゃったら、アレスについていこうと思う人が増えるよなあ。そりゃ、敵だけじゃなく、味方ですらアレスという存在を疎ましく思うわけだ。
反乱軍たるジェレイドとしては、如何にしてアレスを退けさせるかという話になるけど、こりゃ難しいなあ。となると、むしろ彼にとっては、敵たる王国軍をたき付けて、アレスを重要役職から外していくしかないか。今回はそれがうまくハマってたけど、今後はどうなることやら。このあたりのジェレイドの駆け引きは、すっごい見ものになりそう。
今回一番のドキドキは、アレスの刺客に、女がやってきたところでしょう。女の武器を使うとなったら、はたしてアレスはどうなるのか……と。なんせ、ねぇ?女性を知ってるとは思えないし、クラウディアのこともあるし、朴念仁だし。 いろいろな意味でドキドキしてたら、いやあ、らしいわ。これってひょっとしたら……と思ってしまう僕がいる。ああ、そうなってくれたら嬉しいんだけどなあ。
いやあ、面白かった。
王国軍側も反乱軍側も、お互い次の一手を模索している最中なので、大きな動きは無かったけど、引き込まれたなあ。アレスの強さを再認識させられました。次あたりどちらかが動いてきそうと思っていたら、まさか、彼女が出張ってくるとは思わなかった。
こうなると、争いを終わらせるための一手は、いったい誰が打つのか。大いに楽しみになってきますね。
- 火の国、風の国物語 4 暗中飛躍
- 師走トオル
- 富士見ファンタジア文庫
- Amazon |
bk1
火の国、風の国物語 5 王女勇躍
「……本気ですか、クラウディアさま」
「何をとぼけたことを。わたしが冗談を言いにわざわざ王都を抜け出してきたと思うのか?」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、それを治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第五弾。今回は、争いを終結させると決意したクラウディアが、<赤の悪魔憑き>であるアレスと共に、反乱軍の元へ向かうお話です。
いやあ、しびれる!クラウディアの思惑はなんとなくわかっていたんですが、それを実行すべく王女を守るアレスの強さとはったりが素晴らしい。敵に囲まれながら、恐れることなく、「一万でよろしいのか」と挑発したシーンは、鳥肌立ちましたよ。仕えるべく王女が傍にいるときのアレスは、ほんと恰好いいと思いました。クラウディアの策も、実は逆転していて、いやはや、この二人はほんとすごいです。これだけのことをできるのも、幼いころからの信頼関係があるからなんですよね。
今回、クラウディアの策を実現するために、反乱軍が篭城しているトゥールスレン城砦まで、アレスと行動を共にするんですがその間に、二人の出会いや、クラウディアの近侍兼護衛となった経緯、城を抜けてはアレスが怒られ、時に妬むものからの謀略を受けたりといった感じに、過去の出来事を回想するんですが、この話を読んでると、二人の信頼の厚さがよくわかります。
ほほえましい策を講じたかと思えば、幼い自身の力のなさを悔やみ。それでも前を向くことを忘れない姿には、アレスならずとも、この人ならと思うものがありますよね。まじめ一辺倒だったアレスが、彼女の柔軟な思考と行動に触れるにつれて、少しずつ変わっていき、一方のクラウディアは、過去の出来事から敬遠していた「騎士」にようやくめぐり合うことができて。
ふたりが共にした時間で育まれた思いは、鈍くて奥手なアレスは別にして、クラウディアからしたら、とてもとても大切なものだと伝わってくる。大役を果たした後、クラウディアが眠りについたのは、信頼できる人が傍にいるからだという感じが伝わってきて、微笑んでしまいました。
クラウディアが王家のものじゃなかったら出会えなかったかもしれないけど、王家じゃなかったら、二人で添い遂げることができたろうに……と思うと、悔しくてなりませんね。
いやあ、面白かった!クラウディアとアレスの二人の活躍っぷりに大満足です。さすがのジェレイドも押され気味でしたが、このままやられっぱなしはないでしょう。いや、いまさら寝首をかくことはないと思うので、北から攻め込んできたディレニアとミレスデンをどういう形で、相手取るのかというあたりで力を見せてくれると……と思ったけど、まだ国内も安定してるわけじゃないから、何ともいえないか。張本人でもあるし……。っていうか、アレスにしたって、下手しなくても、糾弾は避けられないだろうし。
ここからどういう風に物語が展開されていくのか、とても楽しみです。
- 火の国、風の国物語 5 王女勇躍
- 師走トオル
- 富士見ファンタジア文庫
- Amazon |
bk1
火の国、風の国物語 6 哀鴻遍野
「いえ、僕は部隊を送り込むとは言っていませんよ、最強の兵を送ると言ったのです。僕たちは共に所有しているではないですか、たった一人でありながら、何十、何百という敵と対等に戦える兵を」
「……まさか」
「そうです。<風の戦乙女>と、<赤の悪魔憑き>ですよ」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、それを治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第六弾。今回は、停戦を話し合う王国軍と解放軍が、北から襲いかかってくる傭兵と戦うために、共闘するお話です。
いやあ、面白かった!
ジェレイドとカルレーンの停戦交渉の駆け引きは、自分たちを有利にしようとするものだったのに、間に入るクラウディアが主導権を握っていくから、恐れ入る。
決して見くびっていたわけじゃないんだろうけど、民のために動くクラウディアを甘く見てましたね!とても痛快。
ただ、カルレーンが一歩だけ勝ったのは、ベアトリスを連れてきたことですな。彼女の一言が、クラウディアやエレナに与えた衝撃は大きいだけに、アレスとの間に何が生じるか気になるところ。
それにしても、北からの侵略に対して、この共闘がみられるとはなあ。予想はしていたけれど、こんなに早く実現するとは思わなかった。
無力さを味わいながら、愛する家族のために、生きるために、必死になって戦ってきた農民たちの前に、<赤の悪魔憑き>が立ち上がったときには、涙がでそうになる。
<赤の悪魔憑き>の本領ともいうべき、無双っぷりには大興奮させれましたが、どうやら敵にはもうひとつ隠し玉があるようですね。となると、今度は<風の戦乙女>が活躍するのかしら。楽しみですね。
火の国、風の国物語 7 緑姫憂愁
「そんな身勝手な理屈が通ってたまるか!」
「わたしも同感です。あなたの怒りはもっともです。ですがこの戦いは恐らく、どちらかが甚大な犠牲を支払わない限り、決して終わるものではないのです。あなたはあなたの正義を信じ、わたしたちはわたしたちの正義を信じてやるべきことをするだけです」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、それを治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第七弾。今回は、攻め込んでくるミレスデン軍と戦うために、王国軍と解放軍がベールセル軍として立ち向かうお話です。
いやあ、やってくれる!
ベールセル軍がもたもたしている間に、被害が拡大していく中、さっそうと登場して、殲滅させていくアレスの無双っぷりがたまらない。<風の戦乙女>たるミーアの助力あってこそだけど、ミレスデン軍がたった一騎に翻弄させられてく様が痛快でした。まさに一騎当千ですよね。
ただ、アレスにそんな活躍をされると困るのが、将軍フィリップで。味方であるはずなのに、民のことよりも自身の出世を企む彼の動きは、ほんと不安になるなあ。人間が小さいからたいしたことはできなそうなんだけど、なまじ権力を持っているから怖くなる。
そういえば、クラウディアの兄であるハインツ王太子が動いてたけど、何を考えてるかイマイチつかめないところが気になりますね。
さて、ミレスデン軍からしたら、たった一騎に翻弄されて、大きな損害を出してましたが、こんな秘密兵器を持っていたとは……。ここまでくると、卑怯すぎると笑うしかない。
いや、笑うという意味では、あの圧倒的存在を前にして、人の身で戦いを挑むアレスの戦いっぷりのほうか。なんだ、あれは!
ミーアという存在があったとはいえ、あんな戦いっぷりを見せられたら、そりゃ英雄視されるわけだ。
ただ、この戦いを持って、アレスの中の正義に揺らぎが生まれたのは事実でしょう。戦いが続く限りは、意識しないかもしれませんが、何かの拍子に表に出てくると、ベールセールがどうなってしまうのか……気になるばかり。
気になると言えば、朴念仁・アレスのモテモテっぷりも気になる。刺客たちはさておくとして、「彼女」が好意を示してきたら、さて、どんな反応をするのかしら?
火の国、風の国物語 8 孤影落日
「おまえは別にジェレイドの元に駆けつけたときから<風の戦乙女>を名乗っていたわけではないのだろう?」
「そうよ。その後にちょっと色々あって、こんな格好をするようにまでなったの」
言って、ミーアは服をつまんでみせた。思わずアレスは目を背けた。
「き、聞いてみたいものだな。実際に何があったのかを」
「いいわ。じゃあ話してあげる。長い話になるけど、今のあたしたちにはそれぐらいの時間はありそうだしね」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、それを治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第八弾。今回は、ディレニア軍との戦いを前にして、ジェレイドやミーアが過去の反乱軍の戦いの模様を語るお話です。
ミーアが「戦乙女」となった話や、ジェレイドの優秀な秘書オリビアとの出会いなど、反乱軍側の主要人物達の過去話はとても興味深い物がありました。中でもジェレイドの成長がすごい。
初めはどうしても甘さがあり、冷徹たろうとしながらも弱さを見せていたんですが、戦をくぐり抜けて、軍の規模が大きくなって行くにつれて、「今」のジェレイドとなっていったんだなと思う次第です。まだ弱さはあるけれど、それを胸のうちに収めて冷徹になれるところが彼のすごさですよね。
そんな彼が躍進できたのは、共に歩んできたミーアがいてこそですが。
風の戦乙女と言われて、実際その風の力を持って敵を退けていましたが、どちらかというと彼女の力のすごさは、ジェレイドの声を、前線にいる長たちに届けることができたということが一番じゃないかなあと思いました。情報戦を制したら、そりゃ強いわけだ。
そんなふたり(だけじゃないけど)の強さを見せられたあとだからこそ、最後に本編に戻ってきた後、パンドラの一言で揺れたアレスが、ものすごく弱く感じました。いや、たしかにあれは衝撃的でしたけどね!
彼の無双っぷりは、力に守られてたところが大きかったことは間違いないけど、それでも決して力がないわけじゃないだろうに……そこに気づけるかどうかが今後の鍵となるんでしょうか。
パンドラの一言と、フィリップに降りてきた声は、次なる展開を予想させてくれないですが、アレスに大いなる困難が待ち受けていることは、間違いないと思います。いったいどうなるのか、続きが楽しみでなりません。
火の国、風の国物語 9 黒王降臨
「アレス……。おまえは一体どこで何をしているのだ……?わたしが、困っているのだぞ。わたしが、泣いているのだぞ……。早く助けに来ぬか、この馬鹿者め……」
貴族と反乱軍の内乱が続くベールセール王国の動乱を描いたシリーズの第九弾。今回は、アレスに嫉妬し、黒い欲望にまみれたフィリップが、精霊の力を借りて舞い戻ってくるお話です。
うわあああああああ!なんてことなんてことなんてこと!
かの人が力を手に入れたらやばいことになるとは思っていたけれど、ベールセール軍にフリな流れを一気に変えて行く戦いっぷりには、アレスの再臨を思わせて、双璧な戦いになるのかと思ったら、まさか……。ここまでやるとは思わなかった。
たったひとりで、全てを変えて行く彼の行動力に戦慄を覚えるばかり。
一方の反乱軍は、ジェレイドが卑怯極まりなくも、素晴らしい働きっぷりを見せて、さすがだと思いましたが、そんな彼でも、黒き悪魔の動きにはやられるしかない、か。うまくいっていても、何が起こるか分からない。そんな戦場の現実をまざまざと見せられた気がします。
肝心のアレスについては……心が弱ったところへ、さらなる追い打ちが仕掛けられて、泥沼に陥って、もうダメなんじゃないかと思ったのは僕だけじゃないんじゃないかしら。でも、パンドラのある言葉と、アレスに向けられた疑惑にクラウディアが気づいてくれたことは、一抹の希望だと信じたいです。
そのクラウディアに、足元を固めてきたフィリップが忍び寄ってきましたが……次なる巻の副題が「英雄再起」ということなので、きっと……と信じてる。
ああ、早く続きが読みたい!
火の国、風の国物語 10 英雄再起
「言っておくがな、アレス。毎日のようにお主と訓練していたわしには分かる。お主の剣の太刀筋、戦場での立ち居振る舞い、それはすべてお主の訓練と経験の賜だ。お主から何が失われたかは知らぬ。だが、お主が歩んできた道を否定することは出来ぬぞ。それはお主とわしとで作り上げてきた結果だからだ。お主が否定しようとわしが肯定する。それだけは覚えておけ」
貴族と反乱軍の内乱が続くベールセール王国の動乱を描いたシリーズの第十弾。今回は、力を失い、王族殺しの嫌疑を受け、行方不明になったアレスを見つけ出した従者たちが、アレスを立ち直らせようとするお話しです。
ようやく、ようやく戻ってきたか。
うじうじなアレスに苛つきを覚えますが、考えてみたらまだ十八、しかも幼い頃から傍にいてくれた存在がいないというのは……。誰もがアレスに戻ってきて欲しいと願い、いろいろな形でアプローチするも、手応えがないのは周囲の人たちからしてもきついと思いましが、あえてどっしり構える年配者を見ると、なるほど人生経験とはこういうものかと思う次第です。
説得と言うよりは、自らの過去を語る形でアレスの心を動かそうとするアプローチで、アレスの父の話、ミーアの話、シオーネの話、そして従者としてずっと傍にいたドワーフ・ガルムスの話がありましたが、たぶん一番心を動かしたのは、ガルムスがパンドラの気配に気づいていたことだったと思います。たしかに彼女の力があったから切り抜けることができたことは多々ある。でも彼が培ってきた力は、決してそれだけじゃない。
理解しながらそれでも一歩踏み出すことに躊躇していたアレスでしたが、やはり人の言葉で動くんですね。クラウディアの代わりとなった少女がハッした言葉が押した背中は、きっとこれから多くの人が見ることになると思います。
初めての挫折から立ち直り、失った力はあるけれど、それ以上に得たものがあり。背中を預けられる存在がいるということは、彼にとって大きな支えになると思います。
「英雄再起」というタイトルから想像したような興奮度はありませんでしたが、着実に堅実にアレスの支えを書いてくれたので、次はきっと……と思わせてくれます。王都の話とジェレイドの事もあるので、これから楽しみですね。
火の国、風の国物語 11 王都動乱
「必ず、迎えに来ます!必ず!」
貴族と反乱軍の内乱が続くベールセール王国の動乱を描いたシリーズの第十一弾。今回は、ベールセール王国の王を目指すフィリップと、王が変わる気配から再び立ち上がるジェレイド、そしてクラウディアを救うために動くアレスの模様が描かれる最終賞の開幕です。
面白かった!
英雄と言ってもいい人たち三人に、それぞれ見せ場があり、ジェレイドの策士っぷりと、フィリップの無双っぷりに興奮させられますが、それ以上に心を持っていったのは、アレスの登場です。二人に比べたらたいしたことをしたわけでも無いのに、なんだろう、この圧倒的な期待は。姿を見せただけで、無視できない存在感がすごかった。クラウディアならずとも、胸が熱くなりますよ。また思いあう二人の、つかの間の再会と約束がね……(ほろり)
それにしても、フィリップの強さは圧倒的だったなあ。力のみならず、権力の使い方がとてもうまい。パンドラの助言を最大限に活用しながら、自身に反対する勢力をくじき、王への道のりを着実に歩んでいく様は、ある種の魅力を発していて、この人が治める地というのもちょっと見てみたかったりした。いやまあ、恐怖で人を押さえつけるというのはどうかと思うんだけど。
そんなフィリップを、というか王国の動乱を知ったジェレイドからしたら、約束が反故される可能性から立ち上がるしかなかったんだろうけれど、決して多くない兵力を持って、重要拠点を手にするさまには、素晴らしいと拍手したくなりましたね。この人こそ、英雄にふさわしいですよ。智によって、相手から迷いを引き出し、思考を狭めていく様に惚れ惚れしました。フィリップにパンドラがいなかったら、はたしてどうなったのかしら。
フィリップが勢力を強め、反乱軍たるジェレイドが一歩後退したそのときに登場したアレスは、このあと行く先は……だよなあ。クラウディアの剣として戦い続けてきた彼が、自らの意思を持って戦いに挑むとき、周囲の人たちがどう動くことになるのか興味津々です。ファノヴァール家の秘密云々は、ある意味、強力なものになりえそうですが、そんなものがあろうがなかろうが、アレスは「約束」を守るために引くことは無いでしょう。
同じような力を持つフィリップとアレスがぶつかり合ったらどうなるのか。興奮が止まらない……けど、そこで危ない動きをしそうなのが、聖女か。どうするんだろう。どうなるんだろう。続きが楽しみでならない!
火の国、風の国物語 12 傑士相求
「アレスさまが目の前の人々を救い、ジェレイドさまが十年後の人々を救えばいいんじゃないでしょうか」
貴族と反乱軍の内乱が続くベールセール王国の動乱を描いたシリーズの第十二弾。ついに、アレスとジェレイドが手を組むお話です。
待ってました、武と智が手を組むこの時を!それぞれの目的を叶えるためにはそれしかないとわかっていたけれど、それでも熱くなるものがある。しかも、アレスの成長っぷりといったら……
英雄ではあるけれど、それは一人の兵としてであって、目の前の敵を倒すために、目の前の人を助けるために戦ってきたアレスが農民たちの地位向上を目指して、10年先を考えて行動しているジェレイドを見て、大きな衝撃を受けたときには、どうなるかと思ったけれど、単純だけど、まっすぐな人たちの思いを目の当たりにしたら、彼は逃げませんよね。
ある意味、流されているようにも見えるけれど、一度決意したら、どこまでも愚直に突き進む姿は、見ていて痛快でした。話し合いでさんざんやり込められたジェレイドを逆にやりこめたところとかもう!ああそういえば、そんなことを王は言ってたなーと今さらながらに思い出しましたが、アレス、というより、ファノヴァール家が長年培ってきた信頼が、ここに繋がってくるとか、ニヤニヤしてしまう。
フィリップを倒すために、自らの正当性を唱えて立ち上がるという、クラウディアのために素敵な誕生日プレゼントを贈る憎い演出をしながら、戦うことなくして味方を増やしていくアレスさん格好いいわ。ジェレイドが呆れるわけだ。
そういえば、重荷から解放されたせいか、ジェレイドがやけに楽しそうだでした。いい策を提案しても使おうとしないから、参謀としては大変だろうけれど、自分の想像を超えたアレスの言動を目の当たりにしたら、未来を思ってしまうよなー。
これまでジェレイドに従ってきた人たちからすると、突如現れたアレスに(しかもかつての敵!)従うというのは、戸惑いのほうが大きかったと思うけれど、彼のために戦うというより、彼と共に戦うなら、こんな心強い存在はないと思います。まだ兵力は少ないけれど、勢いに乗っていくアレス軍が頼もしい。
一方のフィリップは、アレスへのコンプレックスを隠せないまま、パンドラやルノアの言葉に反発しつつ、受け入れたりしてますが(ツンデレだ)、悪魔のささやきのようなパンドラの導きは、フィリップのみならず他国をも巻き込む騒動になりそうで、なんだか不安です。いや、パンドラの目的には合致するのか。
最終決戦は近いのはわかりますが、あと一冊で完結するとか、とても信じられない……というか、信じたくない気持ちのほうが強いわけですが、ともあれ、次なる最終巻で、きっと大団円を見せてくれると思うので、楽しみに待っていたいと思います。
火の国、風の国物語 13 英傑雄途
「アレス、命令だ」
クラウディアのそれは、独り言ではなく、命令だった。
「この国の戦乱を終わらせよ。そして、一人でも多くの命を救うのだ」
貴族と反乱軍の内乱が続くベールセール王国の動乱を描いたシリーズの第十三弾。アレスとフィリップが、王位をかけて衝突するシリーズ最終巻です。
いやあ面白かった。アレスの活躍のみならず、配下についた者たちそれぞれの戦いが、戦力差を埋めていく展開が熱いったらない。一進一退を繰り返しながら、パンドラという存在が、フィリップ軍を有利にしていたかのように思えたけれど、情報が多すぎるが故に動けなくなったところから、逆転の芽が出てくるとか、こう、いいですね!
どうしたってアレスは王らしくなかったけれど、それでも、一つ一つ戦いを経ていくうちに、上に立つものとしての心構えを学び、そんなアレスを支えていく人が数多く集まったからこそ、不利な戦況を逆転できたところが良かったです。特にフィリップの切り札を打ち破るところは……決してアレスに知らされなかった策を実行したその覚悟に、ぐっとなる。
逆に言うなれば、信頼できる部下がいなかったからこそ、フィリップは追い詰められていったわけですが、力を得ても、そのことに気づけなかったのは、あるいは気づいていても無視したのは、アレスという存在があったからだろうなあ。ムキにならなければ、数に頼めば、勝利の道はあっただろうに。
それにしても、最後の対決は格好よかった。クラウディアがピンチの時には駆けつける、そんな騎士アレスの登場シーンは、王道ど真ん中だけれど、完璧だった。
ま、戦いが終わってしまうと、ヘタれてしまうんですけどね。
ある意味フィリップのお膳立てによって、王女と……という幸せを掴むところでも、聖女に発破をかけられたり、宣誓でかんじゃったり、はては新婚さんなのに!ということもあったりして、たいそうニヤニヤさせられました。
王位については、散々示唆されていたので、驚きは無かったですが、これから先、王女と(余計なのもいるけれど)共に巡る各地での出来事がどうなるのか、想像するのが楽しいです。
できれば一冊でもいいから、水戸黄門よろしくなアレスの冒険を見てみたいな。
- Search
- Recent Entries
- Profile
-
- id: deltazulu (deltazulu@booklines.net)
- PageView: