火の国、風の国物語 / 師走トオル
火の国、風の国物語 戦竜在野
力が望みか―アレスがまだ力足りぬ十二歳のころ、敵に襲われ、王女に危機が迫ったとき、それは現れた。精霊とも言うべき存在であるという少女パンドラが。代償を受け入れ、わずかばかりの力と、助言を手に入れたアレスは、それ以降も王女の騎士として活躍し、今では父の後を継いでファノヴァール伯と呼ばれるほどになった。
そして、今、国内で起こった反乱に対して、王が派遣する国軍の一将として、再び剣を手にして……
精霊より手に入れた力によって、剣の才が開花し、騎士として名を馳せるようになった若き英雄アレスが、内乱を治めるために、一度は退いた戦場へ再び向かうお話ってところかな。
定番といってもいいファンタジーな戦記ものなんですが、面白いのは、他人の目に見えない助言者という存在がいることですね。有益な助言であることはわかっていても、敵の血をできるだけ流させるという方面の助言ばかりのため、素直に聞くことができないところが、面白い。剣の腕があるため、切り抜けられることが多いですが、敵に囲まれながらおいそれと助言を聞けず、かといって下手すると自分の身が危なくなるというジレンマに陥ることが多いこと多いこと。
生き延びるには助言を聞くしかないと思いながらも、騎士としての誓いを守り続けるアレスのバカ正直さは魅力ですね。
そんなアレスに幼い頃から守られてる十三歳の王女クラウディアがまたいいんですよ。聡明で、国を思う姿には、王たる資質を思わせるんですが、実はアレスを思っていて、何かと構って欲しいんだけど、王女たるプライドが甘える事を許さない描写が楽しい限り。とても鈍いアレスの気を引くのは大変そうですが、頑張れと、見守りたくなる微笑ましさがあります。
とまあ、始めはアレスとその周辺の物語で話が進んでいたんですが、中盤以降からは、だんだんと群像劇っぽくなっていってました。ベールセール王国内での反乱が起きてという、国軍VS反乱軍が始まるところで、俄然面白くなってきました。戦という場で剣を取る事になって、復讐の念に駆られてしまうのではないかというところにドキドキです。
助言と称して選択肢を増やしてくれるパンドラがいますが、逆に迷いも増えるし、彼女の目的がどちらかといったらアレな方面っぽく思えるので、下手したら誘導されそうだしなあ。となると、副官に任命されたお調子者のローランが、意外にブレーキ役になったりするのかしら。ううむ、気になる。
一方の反乱軍も、単なる農民の集まりと思わせながら、上に立つ「風の戦乙女」なる少女が、かなりの腕を持ってるようなので、おいそれとは倒せなそうな予感がヒシヒシ。まだまだ国軍と反乱軍の戦いは、序盤もいいところなので、今後反乱軍がどういう手を打ってくるのか、他国からの牽制はあるのか、続きがとても気になります。
個人的には、反乱軍の中の様子も気になっていたんですが、こちらの話は、雑誌で連載されているとか。さすがに雑誌を追いかけるのは辛いので、早いところ文庫化してほしいなー、と願うばかりです。
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火の国、風の国物語 2 風焔相撃
反乱軍が近づいてきているという。訓練を受けた兵に比べれば劣るとはわかっていても、数の差に不安がよぎるが、ここはトゥールスレン城砦。鉄壁と二つ名を与えられるほどの城壁を陥落させたものはいない。ならば王国軍の援軍がくるまで耐えればいいのだと、責任者たるルヘルド男爵は思った。
だが、頼みの綱の城壁は、戦の開始直後に崩された。たったひとりの少女・<風の戦乙女>によって……
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第二弾。今回は不落として名高い城砦を手にした反乱軍が、王国軍と正面から激突するお話です。
すばらしい。この智謀と力と尽くした戦いの面白さに大興奮でしたよ。
数は反乱軍が上でも、質は王国軍の方が上。そんな状態で、ぶつかり合ったらどちらが不利になるのかは、指揮官が一番良くわかっていると思いますが、勝つために、弱さを切り捨てて立ち向かおうとする反乱軍の指揮官ジェレイドの智謀に、背筋がゾクリとすることが幾度あったか。
ここに「力」として、巨大な黒魔法を操る<風の戦乙女>が加わるんだから、そりゃ快進撃を続けるわけだ。
一方の王国軍は、多少の驕りはあるものの、力を感じられるだけに、アレスをはじこうとする動きがあるのが、なんともやるせない。よりによって、あの大事なときに……ってのは、いくら将軍でも私欲が過ぎるというかなんと言うか。まあ、そのおかげで、王女とのやり取りが見れたのは嬉しかったですけど。あー、もう素敵なツンデレさん。
ただ、アレスの気持ちも、王女の気持ちもわかるだけに、彼女の立場が生み出した現実が切なくなりますね。このあたりは、今後アレスにとって大きな壁を生み出しそうな気がするんだけど、さてどうなるのかしら。
ともあれ、反乱軍改め解放軍と、王国軍がぶつかり合うわけですが……やられた。まさか、ここまで狡猾な策を練っていたとは!「相手が見たいものを見せる」のは、こういった謀略の要だと思うけど、こうも見事に踊らされるとは思いませんでしたよ。ジェレイドの智謀に舌を巻くばかり。
ですが、アレスも負けていなかった。どちらかというと、知の人ではないけれど、戦に関していえば、知と力の両方を備えていると言ってもいいんじゃないかしら。助言者たるパンドラの力があったとはいえ、敵を食い止めるために、ただひとりで立ち向かう<赤の悪魔憑き>の存在感の大きさには、痺れました。
いやあ、面白かった。文句なしでオススメ。
今回の戦いでは、ひとまず片方に軍配が上がったように思うけど、一方的ではないし、どちらの軍も強き者と同じぐらい爆弾も抱えてるので、何かあったら一気に近郊が崩れそうという緊迫感がたまらないです。解放軍と王国軍の知と力の均衡の絶妙さに拍手してくなりました。
今後の展開がまるで読めないだけに、続きがとても楽しみです。
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火の国、風の国物語 3 星火燎原
「ルッセル。話してやってくれ」
「はい。事の起こりは、一年前の初夏のここと聞いてます。ただ、噂によればすべては七年前に起こった北国の侵略が原因だと言われてますが……」
男はゆっくりと語りだした。
反乱軍が生まれた、その経緯を。
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第三弾。今回は、反乱軍が生まれた経緯が描かれるお話です。
いやあ、面白かった!
アレスという脅威がいるのならば、排除するか、味方にするしかないということで、まずは自分たちの事情を知ってもらうべく、伝手を辿ってアレスと対峙しようとするんですから、線の細さとは裏腹に大胆だなあ、ジェレイド。
おかげで、なぜ彼らが立ち上がったのかという経緯を知ることができました。圧政に苦しんだ人たちが、もはや戻れない道のりを選んでいく姿は、いつの時代も重苦しいものです。
そんな中、反乱の小さな始まりを生んだジェレイドたちでしたが、いやあ、すごい。今まで武器を持ったこともない農民たちが、騎士たちと戦うんですから、困難な道のりは想像できましたが、時に囮役を買って、敵のプライドまでをも計算に入れて、卑怯といわれようと、姑息といわれようと、勝利をもぎ取っていくところに、彼の、彼らの覚悟を感じました。
人を戦場に送り届けるものとして、刃を握ったジェレイドの覚悟が忘れられないです。
もちろん、順風満帆というわけではなくて、途中で絶体絶命のピンチがあったりしたんですが、敵の中にもいい味出してる人がいて。まあ、そういう人と出会える運というのも、ジェレイドたちの強さのひとつですよね。<風の戦乙女>との出会いは、ちょっと都合よすぎる面があると思ったけど。
ただ、出会った直後から、彼女の力を存分に振るわせるところは、さすが知将と思わされました。
前作までとはことなり、片方だけのお話だったのに、だれることなく読まされてしまいました。出会うタイミングさえあえば、手を取り合うことができただろうに……とか思ってしまいましたが、ともあれ、それぞれの事情を抱えて、再び戦場で出会うことになりそうですね。
ジェレイド自身の爆弾もさることながら、アレスにも凶悪な手が伸びてきそうなので、軍の激突だけでなく、他の部分も面白くなりそうですね。続きがとても楽しみです。
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火の国、風の国物語 4 暗中飛躍
「まあそれを考えるのは私と陛下の仕事だ。おまえには別の任務がある」
「あら、そうでしたわ。次のわたしの任務とは一体なんなのでしょう?」「ファノヴァール伯アレスを暗殺してもらいたい」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第四弾。今回は、王国軍と反乱軍から、<赤の悪魔憑き>アレスに向けて刺客が差し向けられるお話です。
やってくれる!
これほどまでに命を狙われながら、生き延びるんだから、そりゃ<赤の悪魔憑き>と言われるわけだ。むろん、パンドラという存在があるからではあるんだけど、それでも、その助言を生かすだけの力を持っていることがすごい。千の敵をたった四人で相手することになったときのシーンは、すごかった。こんなの見ちゃったら、アレスについていこうと思う人が増えるよなあ。そりゃ、敵だけじゃなく、味方ですらアレスという存在を疎ましく思うわけだ。
反乱軍たるジェレイドとしては、如何にしてアレスを退けさせるかという話になるけど、こりゃ難しいなあ。となると、むしろ彼にとっては、敵たる王国軍をたき付けて、アレスを重要役職から外していくしかないか。今回はそれがうまくハマってたけど、今後はどうなることやら。このあたりのジェレイドの駆け引きは、すっごい見ものになりそう。
今回一番のドキドキは、アレスの刺客に、女がやってきたところでしょう。女の武器を使うとなったら、はたしてアレスはどうなるのか……と。なんせ、ねぇ?女性を知ってるとは思えないし、クラウディアのこともあるし、朴念仁だし。 いろいろな意味でドキドキしてたら、いやあ、らしいわ。これってひょっとしたら……と思ってしまう僕がいる。ああ、そうなってくれたら嬉しいんだけどなあ。
いやあ、面白かった。
王国軍側も反乱軍側も、お互い次の一手を模索している最中なので、大きな動きは無かったけど、引き込まれたなあ。アレスの強さを再認識させられました。次あたりどちらかが動いてきそうと思っていたら、まさか、彼女が出張ってくるとは思わなかった。
こうなると、争いを終わらせるための一手は、いったい誰が打つのか。大いに楽しみになってきますね。
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火の国、風の国物語 5 王女勇躍
「……本気ですか、クラウディアさま」
「何をとぼけたことを。わたしが冗談を言いにわざわざ王都を抜け出してきたと思うのか?」
貴族の暴虐を正すとして、若き指揮官ジェレイドと<風の戦乙女>が率いる反乱軍と、それを治めようとする王国軍の戦いを描いたお話の第五弾。今回は、争いを終結させると決意したクラウディアが、<赤の悪魔憑き>であるアレスと共に、反乱軍の元へ向かうお話です。
いやあ、しびれる!クラウディアの思惑はなんとなくわかっていたんですが、それを実行すべく王女を守るアレスの強さとはったりが素晴らしい。敵に囲まれながら、恐れることなく、「一万でよろしいのか」と挑発したシーンは、鳥肌立ちましたよ。仕えるべく王女が傍にいるときのアレスは、ほんと恰好いいと思いました。クラウディアの策も、実は逆転していて、いやはや、この二人はほんとすごいです。これだけのことをできるのも、幼いころからの信頼関係があるからなんですよね。
今回、クラウディアの策を実現するために、反乱軍が篭城しているトゥールスレン城砦まで、アレスと行動を共にするんですがその間に、二人の出会いや、クラウディアの近侍兼護衛となった経緯、城を抜けてはアレスが怒られ、時に妬むものからの謀略を受けたりといった感じに、過去の出来事を回想するんですが、この話を読んでると、二人の信頼の厚さがよくわかります。
ほほえましい策を講じたかと思えば、幼い自身の力のなさを悔やみ。それでも前を向くことを忘れない姿には、アレスならずとも、この人ならと思うものがありますよね。まじめ一辺倒だったアレスが、彼女の柔軟な思考と行動に触れるにつれて、少しずつ変わっていき、一方のクラウディアは、過去の出来事から敬遠していた「騎士」にようやくめぐり合うことができて。
ふたりが共にした時間で育まれた思いは、鈍くて奥手なアレスは別にして、クラウディアからしたら、とてもとても大切なものだと伝わってくる。大役を果たした後、クラウディアが眠りについたのは、信頼できる人が傍にいるからだという感じが伝わってきて、微笑んでしまいました。
クラウディアが王家のものじゃなかったら出会えなかったかもしれないけど、王家じゃなかったら、二人で添い遂げることができたろうに……と思うと、悔しくてなりませんね。
いやあ、面白かった!クラウディアとアレスの二人の活躍っぷりに大満足です。さすがのジェレイドも押され気味でしたが、このままやられっぱなしはないでしょう。いや、いまさら寝首をかくことはないと思うので、北から攻め込んできたディレニアとミレスデンをどういう形で、相手取るのかというあたりで力を見せてくれると……と思ったけど、まだ国内も安定してるわけじゃないから、何ともいえないか。張本人でもあるし……。っていうか、アレスにしたって、下手しなくても、糾弾は避けられないだろうし。
ここからどういう風に物語が展開されていくのか、とても楽しみです。
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