銀槌のアレキサンドラ / 上野遊
銀槌のアレキサンドラ
バイトを終え、高坂光輔が友人と待ち合わせ場所へと急ぎ、夜道の暗い公園を突っ切っていったとき、それは現れた。獰猛なうなり声を上げる黒い狐に襲われ、一年半前の事故の後遺症の残る右足を食いちぎられたが……目が覚めたとき、右足は体についていた。光輔を助けてくれたのは、異世界から魔獣を退治するためにやってきたという巨大なハンマーを持った美少女サンドラだった。
光輔の治療を優先したために、魔獣を逃してしまったということで、こちらの世界(というより光輔の家)に居ついてしまったサンドラだが、ある日、光輔の治療に使っている魔石に異常を感じて……
異世界にある魔獣を退治して世界を守る「リング・キーパー」という組織からやってきた魔法使いのサンドラが、怪我でテニスを諦めた少年・光輔と出会って……というところから始まるボーイ・ミーツ・ガール。
ストーリィ展開だけだったら、よくあるお話だと思うんですが、一気に読まされたなあ。次から次へと問題が襲い掛かってくる展開には引き込まれます。かといって、スピード感だけじゃなく、繊細な心情の描写も素敵でした。
一番初めに、この二人の距離感が素敵だなと思ったのは、光輔が怪我のことをサンドラに打ち明けたときのシーンですね。わかっていても抱えてしまう、他人に対しての鬱屈した気持ちを聞いたとき、突き放すことなく、かといって慰めるわけでもない答えを返したサンドラがすばらしい。一見、高飛車に見えるけれど、相手への心遣いを感じさせるものがありました。
魔獣との戦いはサスペンスあふれ、かといって、そのまま突っ走るのではなく、日常の方面では、相手への思いやりを感じさせてくれて、いい雰囲気だったなあ。それが突然崩れたのは、魔法使いが生涯ひとつだけ生成できるという魔石の話が出てきてからですね。
魔法使いになるために、どれほどの努力をしてきたか、どんな思いを貫いてきたのかが明かされていく過程には、じわりと浮かぶものがあっただけに、やりきれない思いを感じました。それでも、決して相手を責めないところに、彼女の彼女たる姿が見えるんですが、さりとて、見ているのがつらかった。
光輔もまた、魔法に関わったおかげで、自分にとって大切なものと、より大きなものとを天秤にかけねばならなくなるところで、同じようにやりきれない思いを味わうことになるんですが、それだけに、再びラケットを取れると知ったあのときの決断には、すごいと思いました。逃げずに、立ち向かう勇気の輝かしさが素晴らしい。
いやあ、面白かった。はじめに、光輔が問うたことがサンドラにも降りかかり、ひとりでは解決できなかったことを、ふたりで協力して道を切り開いていこうとする展開がよかったです。これは続編が楽しみだなあ。ってあるよね?
光輔に憧れてるという初美が入ってきて、ちょっとしたジェラジェラがあってくれたら、すっごい嬉しいかも。
銀槌のアレキサンドラ 2
光輔とサンドラが魔獣と戦う決意をしたとき、助けてくれたのはアルマディンと名乗る赤毛の少女だった。あちらの養成学校でトップを争う間柄だったという二人は、どうも仲が悪いらしい。魔法が使えないサンドラが、アルマへの反発心から、魔獣退治に参戦することを恐れた光輔は、サンドラに内緒で、アルマの手伝いをすることにしたが……
世界を守る「リング・キーパー」からやってきた魔法使いのサンドラと、彼女の魔石を取り込んでしまった少年・光輔のボーイ・ミーツ・ガールの第二弾。今回はサンドラのライバル、アルマがやってきて、魔獣退治に光輔を手伝わせようとして……というお話。
相手を思うが故の行動が裏目に出るというのは、良くあるお話ではありますが、サンドラの気持ちも、光輔の気持ちもわかるだけに、難しいものがありますね。
一方、サンドラの不機嫌の元であるアルマは、はじめは高飛車というか嫌味っぷりに、あまりいい感情を持たなかったんですが、サンドラがいないところでは素直なやり取りを見せてくれて、さらには光輔が困らないよう、さりげない気遣いを見せてくれたりして、ああ、彼女の本当の姿はこうだったのか、と魅力を見せてくれましたね。彼女の良さが少しずつ見えてくるところがホントうまいです。
魔獣を放っておけないことから、いつしかアルマといる時間が増えて、逆にサンドラとのすれ違いが生まれて。アルマがサンドラに対して突っかかる原因を知ってしまったことなども、彼の不安に拍車をかけてしまったんだろうなあ。
ちょっとした出来事がきっかけて、つい口に出すつもりもなかったことまで告げてしまった時のシーンは、言ってしまった直後の激しい後悔が見えるだけに、つらいものがありました。
でも、相手を思うからこその怒りであったのが伝わってきていたので、ここから二人が仲直りに向かっていくところが、とても良かったです。
いやあ、面白かった。
今までいがみ合うようなライバル関係だったアルマとサンドラが、お互いを高めあうためのライバル関係へと変わっていく展開が素敵でしたね。口先では嫌味を言い合うこともあるだろうけれど、相手を認め合ったふたりのやり取りは、今後も見ていきたいと思いました。
あとは、もうちょっと、サンドラと光輔の間のラブ寄せがあってくれれば……。いや、今の恋人未満な距離感もいいんだけど、できれば、もっとニヤニヤしたいのです。
このあたりが次作でどう動いてくるか、楽しみですね。
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