カッティング / 翅田大介
カッティング Case of Mio
西周ミオ。才色兼備という言葉がぴったりな彼女は、しかし孤独な香りがしていた。彼女自身壁を作っていたこともあるし、何より左手に巻かれている血の滲んだ包帯が近づき難い雰囲気を作り上げていた。始めて見たときから、彼女に惹かれていた僕は、彼女に声を掛け、付き合うことになった。ただ隣り合って本を読むだけのような付き合い方だったけど、それでも悪くないと思っていた。彼女が通り魔に襲われるまでは……
自身の存在を確かめるためにリストカットする少女ミオと、自分の心と行動が一致しないと悩むカズヤが出会って、というお話。会話のセンテンスというか文章のリズムが個人的に好み。
付き合うといっても、ただ側にいるだけの関係だったふたりでしたが、ミオとの距離が近づいた瞬間のやり取りは、ホント良かったです。ぬいぐるみの例えは、キザでしたが、心のこもった言葉でしたね。かっこよすぎる。
初デートの緊張感とか、付き合っていくうちに、角が取れていくのが感じられるところは、素敵な恋愛ものでした。
ミオがリストカットを始めた理由については、なかなか触れられなかったんですが、根本から関係してくるとは思いませんでした。これは……重過ぎる。自分のことすら客観視できるカズヤが混乱する様が、よくわかります。本当の意味での自分の気持ちに気づいてしまったことが、より拍車を掛けたのかもしれません。
混乱のままに動いていたカズヤが、自暴自棄じゃないですが、ミオに対して動いたさまには、どちらの心情もわかるだけに胸が痛くなる思いがしましたが、カズヤの混乱を解きほぐし、どうしたいかと説いた沙姫部先輩が素敵でした。僕だったら、間違いなく先輩に惚れますね。
ミオと同胞の人の行動については、何か安っぽいものを感じてしまったりして、微妙な思いでしたが、葛藤や苦しみをとかを乗り越えて、支えあう人を確かめ合うラストは良かったです。前半があまりにも良かったので、後半ちょっと弱く感じましたが、素敵なボーイミーツガールものでしたね。好きだなあ、こういうの。
この二人の関係からすると、続きはないと思いますが、「Case of Mio」ってことは他のCaseもあるのかしら。個人的には先輩の話を読んでみたいので、あってくれたら嬉しいです。
第1回ノベルジャパン大賞佳作受賞作。
カッティング Case of Tomoe
夏休み明けの朝、クラスメイトが転校生が来るかもしれないと言い出して、ざわつく空気の中、彼女は教室へ入ってきた。涼やかな風貌を持ち、品のよいお嬢様といった雰囲気を持つ女の子だなと思っていたら、その名前を知ったとき、僕は驚いてしまった。紅条、それは僕と同じ苗字だったのだ。それが、僕を兄と呼ぶトモエとの初めての出会いだった。
それから、彼女は、僕がお世話になっている光瀬の家に、居候するようになって……
幼いころ、父親に棄てられた紅条ケイイチロウが、高校二年生になって、突如、トモエと名乗る少女が妹として、近づいてきて……という、妖しき魅力に富んだボーイミーツガールです。
これは面白かったなあ。
突如現れた妹と暮らすことになって、戸惑いながらも、それほど意識していないケイイチロウが、徐々に彼女へ関心を向けるところは、はじめは恋かと思ったけど、もっと複雑な思いだったんですね。ケイイチロウと異なり、人当たりがよく、控えめながらいつの間にかクラスの中心にいるトモエが、心の傷を陰湿に見せ付けてきたのに、むしろトモエが追い詰められていくんですから。
陰湿ドロドロになりそうでならず、歪みながらも不思議と繋がっていく展開は、なんとも言えないものがあるなあ。心の揺れ具合に、足元が定まらない感じがあって、引き込まれます。
ところどころ、わざとやってるんじゃないかなと思うぐらいイタイ描写があったりするんですが、それがだんだんと心に響いてくるところが良かったです。
従妹の灼の姿がまたいじらしいんだ。
兄さんとケイイチロウを慕い、トモエの行動に怒りをあらわにする姿には、家族以上の思いを感じられるんですが、ケイイチロウは、トモエを気にしてて……。決して報われないわけじゃないんだけれど、思いの丈を明かすところには、彼女の健気さを感じて、ちょっとグッとくる。
前作とは独立したお話といってもいいと思いますが、例の話は同じように入ってきて、また別の歪んだ心理には、なんとも言えない気持ち悪さを感じたなあ。ギリギリ理解できてしまうからかしら。
それでも「最も性質の悪い嘘」に、正面から向かい合う決意をしたのは、自分の思いに気づいたからだという、そこへ至るまでの道のりが、とてもすばらしいと思いました。
恋物語だけでいうなら、前作の方が好みなんですが、それでも読まされてしまいましたね。
次作も同じように登場人物が入れ替わるのかしら。それとも、繋がりから物語を見せてくれるのかしら。いずれにせよ、大いに楽しみですね。
カッティング Case of Mio Entanglement
「うん。けど、ちょっとうれしいよ」
「?」
「新しい〝ミオ〟が見れて」
「……ばか」
自身の存在を確かめるためにリストカットしていた少女ミオと、自分の心と行動が一致しないと悩むカズヤが出会って、というお話の第二弾。っていうか、カッティングシリーズとしては、第三弾なんだけど、一作目のミオとカズヤの物語の続編となるので、まあ、第二弾っぽいって感じで。
個人的には、このふたりのお話大好きだったので、今回も楽しみにしてたんですが、とても良かったです。付き合うことになった二人の初々しくも、しっかりと向き合ってる様子が、素敵なんです。ベタベタするシーンなんてないのに、好き合ってる様子が伝わってくるんですよねぇ。
カズヤの妹と三人でデートするシーンとか、ふたりで本を読んでるシーンとか、それだけで、満足しちゃいそうなぐらいでした。
それだけに、この幸せな光景が崩れ始めるところは、心痛むものがあったなあ。
ミオと同じ秘密を持つ転校生が、さりげなくカズヤを誘惑して、もちろん、そんな誘惑に乗るカズヤじゃないけど、「秘密」がカズヤの心に沈んでいた疑問を浮かび上がらせてしまったから、やるせない。
お互い、相手のことが気になって気になって仕方ないのに、どうしても生まれてしまう距離感が、辛かったです。
まあ、相手を思う気持ちが強いからこそ、言ってはいけない言葉が出てきてしまうというのは、「秘密」がなくても、恋愛してたらありえることですよね。その逆に、言葉が足りないからこそ生まれてしまう誤解も。
なぜあのことを言わないのだろうと、思う事が何度もありましたが、やっぱりカズヤは気障なんでしょうね。そのことが格好悪いと思ってしまったから、ミオに言えなくて。溝なんてあってないものだったはずなのに……。
クラスメイトの支えや先輩の励ましから、自分を見つめなおして、ようやくお互いに思いをぶつけ合うことができたと思ったら……それが悲劇を呼ぶとは思わなかった。
不器用な二人の恋愛事情が、これからどうなっていくのか、続きがとても気になります。
カッティング Case of Mio Reincarnation
「彼岸花の花言葉って、知ってるか?」
「……『悲しい思い出』……」
「それもあるな。けど、こういうのもある。『ただあなたを想う』ってな。どっちを選ぶかはお前次第さ。それもまた視点の違いってだけだ。何なら、お前がもっと素敵で、みんながハッピーエンドになるような物語を作ればいい。そうして物語を信じればいいさ」
自身の存在を確かめるためにリストカットしていた少女ミオと、自分の心と行動が一致しないと悩むカズヤが出会い、愛が芽生えて……というお話の第四弾。前作で「秘密」を抱えたことからギクシャクした二人が、ようやく向き合おうとしたとき、新たな事実が突きつけられて、というシリーズの一区切りになるお話です。
うわあ……これはきついなあ。
「事故」のせいで三ヶ月ぐらいの記憶を失っていたカズヤの様子に、ミオが過剰なぐらい反応していたのは、三巻のラストがラストだったからだろうなあと思っていたら……、これか!まさか、こんな出来事が待ち受けているとは思ってもいなかった。そりゃ、ミオがやつれるわけだ。
ミオだけでなく、突如として突きつけられた現実に、心と体がうまく反応しきれず、壊れていくカズヤの痛みが凄かったです。ただ、そこまで苦しむのは、イマイチわかりにくかったかな。どちらかというと、自分のことではクールでいたカズヤだから、その過敏な反応に、異常なまでの弱さを感じてしまったからかもしれません。
聖と昴によって告げられた真実から、目をそらし続けていたカズヤとミオだけど、それを引っ張りあげた沙姫部先輩は、ほんと格好良かった。傷つき、ぶつける言葉しか放てないカズヤに向けた、たった一言の言葉と温もりは、間違いなく彼の心の強張りを溶かすもので……。僕だったら間違いなく先輩に惚れる。
最後もまた素敵だったなあ。いや、ちょっと性急かなと思いもするんですけど、傷つけあいながら繋がりを深めていった彼と彼女がハッピーエンドを迎えてくれたので満足です。
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