ブルー・ブラッド / 須賀しのぶ
ブルーブラッド
火星都市の支配階級、ブルー・ブラッド。いったい誰が、青い血などと呼び出したのだろう。称賛か皮肉か。判断のつきかねるところである。
とにかくヴィクトールは、まずその血筋によって注目される存在であった。しかし数多いブルー・ブラッドの子弟の中にあって特にこの少年だけが常に視線を浴び続けているのは他にも理由があった。
ヴィクトールのように特殊な遺伝子操作の結果生まれた者を、火星都市ではユーベルメンシュと呼んでいる。
23世紀の火星都市を舞台に、ブルー・ブラッドと呼ばれる名門の家に生まれ、ユーベルメンシュと呼ばれる遺伝子操作を受けたヴィクトールが、15歳のとき、軍の士官学校で、辺境のコロニー出身のユージィンと出会って……というお話。
優秀なのは、ユーベルメンシュだからと、己の努力を認めてもらえぬヴィクトールが、自分を色眼鏡で見ないユージィンと打ち解けていくところとか見てると、ああ、この二人にも友情が生まれてたんだなあと感慨深いものが……あったのをあっさりと打ち壊してくれるから、油断できない。
いや、二人の行く末を知ってますから、わかってはいたんだけど、それでも、一抹の希望を持っていたのに……。クールに見えて勝気で、若さゆえの虚栄心に満ちているヴィクトールの姿と、アンゲリカという美しい女性を前にして、照れながらも惚れていく姿が、微笑ましかったのに、その未来と恋心すら奪うとは、どこまで悪どいんだ、ユージィンは。
自身の大切な人たちに、にこやかな笑顔でそっと近づき、邪眼に魅了されていくことに気づかぬヴィクトールの姿が、痛々しく思えました。
もはや、すべてを奪われたも同然だったろうに、それでも決して倒れることなく立ち続けることが出来たのは、失ったはずの半身に支えてくれたことを知ったからでしょうね。後悔と共に流した涙があったからこそ、あの鉄のような、ユージィンに対抗できる心の強さを手に入れることが出来たのだと思います。
さて、これでヴィクトールとユージィンの確執がはっきりしました。次の「ブルー・ブラッド 復讐編」では、どんな物語が描かれるんでしょうか。とても楽しみです。
ブルーブラッド 復讐編
「それは一種の幻想だよ、エーリヒ」
必ず、少し困ったように彼は言うのだ。
「私は以前、君をこの世にとどめるために、私のもてる力のすべてを使って君を縛りつけた。そのせいで、君はそのように思うんだよ」
ちがう、そんなことじゃない。しかしエーリヒの叫びは、届かない。
「私は君を利用すると言った。だから、君も私を利用するぐらいの心構えをもつといい」
23世紀の火星都市。ブルー・ブラッドでないにもかかわらず、大臣にまで上り詰めたことで、多くの敵を作ったユージィン。幼いころ、命を助けられた美しきユーベルメンシュのエーリヒは、ユージィンへ忠誠を誓い、副官となって彼を守ろうとするが、ひとつの失敗からユージィンを失脚させようとするものたちが動き始めて……というお話。
前作「ブルーブラッド」では、ユージィンがアルフォルター家に入り込む様子を、ヴィクトールの視点から描いていましたが、今回は元首になるまでの道のりを、エーリヒの視点から描くお話でした……って、あくまでメインはユーリヒなんだけど、共に行動してることもあり、何よりその圧倒的な存在感から、ユージィンの物語でもあるんだなあと思った次第。
それはともかく、ユージィンに忠誠を誓ったエーリヒ。地位を手に入れ、美しい妻を手にいれ、他人から見たら、間違いなく幸せだと思えることも、自分は幸せであると言い聞かせなければ、心の穴を生めることができないところに、彼のつらさがあったんだと思います。半身という存在は、やはりユーベルメンシュにとって大きなものなんだなあ。
マックスを前にして、またマックスもエーリヒを前にして冷静でいられない辺りが、お互いを意識させてることを伺わせるのに、頑ななまでに視線を合わせないところに、何ともいえない確執を感じる。
それにしても、「あの力」を持ってすれば、ユージィンなら順調に階段を上っていくかと思っていたら、どうしてどうして、なかなかうまくいかないもんだ。なまじ強力な後ろ盾があったから、それが崩壊したら、一気に畳み掛けられていくところは、ユージィンのことなんて好きでもないのに、思わず、こう、支えてあげたくなるものがあります。
これがユージィンの魅力というか魔力というか、引きつけるものなんだろうなあ。
ヘルという存在と、ブルー・ブラッドたちに追い詰められていく展開と。
たぶん、それだけなら、いくらエーリヒがユージィンに心酔しているからといって、あそこまで思い切ったことはしなかったと思いますが、彼自身も多くの苦悩を抱え自暴自棄になっていたから……。エーリヒを頼りにしながら、それでいて利用するユージィンの冷酷さは怖くもあり、一貫した姿と覚悟に、芯の強さを覚えます。
エーリヒにとって、半身であるマックスという存在と、愛する妻アミータという存在が、こんなにも重く圧し掛かるとは思いませんでしたが、それでも最後には、愛するものを抱きしめることができて、愛するものに感謝することができて。
ほんと良かったと思いました。
結果として二人がどうなったのかということは、キルゾーンで既に知ってはいましたが、それだけに、どう動いていくのか気になってページをめくる手が止まらなかったです。満足満足。
ブルー・ブラッド 虚無編 上
「仕方ない?」
半ば幻惑された状態で、ヴィクトールは機械的に問い返す。
ユージィンは顔を寄せ、低く囁いた。あまりにも耳に心地よい声であったので、ヴィクトールは後に思い出した際、それが現実に聴いた言葉なのかどうか、わからなくなってしまった。
「仕方ないよ。だって、君のためにも、彼は邪魔だからね」
23世紀の火星都市。ブルー・ブラッドでないただの平民であるユージィンが、アフォルター家の娘・アンゲリカと婚約したことで、輝かしい将来と反面、士官学校の上級生から執拗な嫌がらせを受け初めて……、というお話。
アンゲリカに見初められて、その父・ハインツにも認められたのなら、てっきり、順風満帆かと思っていたら、なるほど、そう簡単に継がせることはないのか。士官学校内で、リンチを受ける姿は痛々しいですが、それでも笑っていられるんだから、どれだけの過去を過ごしてきたのか、想像するに恐ろしくなります。この暗い過去が、今のユージィンの強さになってるんだなあ。
それにしても、あれだけの目に合いながら、ユージィンの側にいるヴィクトールもすごいよなあ。このプライドの高さを、ユージィンは弱さと捉えていましたが、もちろん、その要素もあったと思うけど、それ以上に彼の強さになってるんじゃないかと思いました。ユージィンにやり込められながら、それでも立ち上がり強くなっていく姿は、個人的に好きです。
いずれ自分の好敵手になることは予想できていただろうに、ヴィクトールをつぶせなかったのは、ユージィン自身も、彼のことを好きだったからなんでしょうね。まあ、好意を抱いてたとしても、上級生の嫌がらせを策略で回避し、それどころか、矛先をさりげなくヴィクトールに向けるあたり、一枚も二枚も上手が。
このお話で一番印象に残るのは、野心を持つものの孤独でしょうか。ユージィンにしろ、ルナ・マーセナリーズ予備軍のひとり、ガラにしても、上を目指すがゆえに、圧倒的な孤独を味わうんですからやるせない。でもそれを背負う「覚悟」がある、ってところが、ヴィクトールとの差なんでしょうね。
まあ、ユージィンはどうでもいいとして、ガラにとってはこれからが辛くなりそうだ。
さてさて、上巻ではユージィンのいやらしさと、それでいて引き込まれる魅力をたっぷり味あわせてもらいましたが、ユージィン嫌い派としては、最後に思いっきりヘコむユージィンも見れたので、満足だったりします(ひどいな)。ユージィンとヴィクトールの進む道はわかっていますが、そこにいたるまでの道のりがどういう展開を見せてくれるのかは興味津々なので、下巻がとても楽しみ。
ブルー・ブラッド 虚無編 下
では、これからどうすべきか。
答えはひとつしかない。この体ひとつで、しばらくは化け物と闘い続けねばならない。
次期総帥の陰から権力を握るのではなく、この世に生まれ出たときからつきあい続けてきたこの手で、掴みとればいい。
ただ、それだけのことだ。
23世紀の火星都市。ブルー・ブラッドでないただの平民であるユージィンが、アフォルター家の娘・アンゲリカと結婚したが、息子を事故で亡くしてた。その四年後、いまだショックを引きずるアンゲリカとは裏腹に、総帥位への野望を着々と進めるユージィンが……というお話。
ああ、アンゲリカ。あなたはなんて辛い思いをしてるんだろう。夫の愛なんてものは、それほど期待していなかったかもしれないけれど、それでも一抹の思いは持っていただろうに。献身に支える姿が痛々しくて仕方ない。あのとき、ヴィクトールを選んでいたら……という、if を思ってしまう。
しっかし、ユージィンってやつは強いなあ。完全なるアウェー状態でも、あらゆる手段を用いて力を蓄えていくんですから。敵対するヴィクトールすら取り込むところは、やはり一枚上手というしかない。なんだかんだいっても手伝うヴィクトールの姿を見てると、腐れ縁というかなんというか。
決して馴れ合うことは無いけれど、自分以外のものに蹴落とされるのは許しがたいという、この二人がお互いに抱く思いってのは、複雑なものを感じるなあ。これこそ好敵手ってやつなんだろうなあと思いました。
今回意外に思ったのは、あのユージィンですら、揺れる思いがあったってことですね。アンゲリカに心を見透かされるなんて、どれだけ隙ができていたんだろう。あるいは、すべての人を駒として見ていたことによる油断なのか。自分は他の人とは違うと頑なに思いながら、決意を新たに進もうとするあたりに、はじめて彼の孤独を見た気がしました。
ここにきて、ユージィンの好感度がちょっとだけあが……りそうだったけど、よく考えたら、ユージィンとヴィクトールに巻き込まれたアンゲリカが可哀想過ぎて、男二人とも謝れ!といいたくなりました。
まったくもって、男ってやつは、冷酷なくせにロマンチストなんだからといいつつ、面白かったので文句言えませんけどね!
このあと、キル・ゾーンの第二部を見たら、また違ったものがあるんだろうなあ。いつか読み返すぞ。