Xシリーズ / 森博嗣
イナイ×イナイ
美術品鑑定のみならず、調査、探偵まで行っている椙田事務所に、行方不明の兄を探して欲しいという依頼があった。佐竹千鶴が言うには、兄の鎮夫は亡くなっていることになっているが、屋敷の地下に閉じ込められているというのだ。怪しい依頼だが、椙田が不在のため、ひとまず助手である小川令子と留守番をしていた真鍋瞬市が、佐竹家を訪れたが……
元社長秘書の小川令子と留年確定の大学生真鍋瞬市がコンビを組んで、佐竹家の地下で発生する殺人事件に挑むお話です。Xシリーズという新シリーズですね。Gシリーズはまだ終わっていないと思うんだけど、新たにシリーズを立ち上げたのは、並列させることにも何らかの意味を持たせるのかしら。なんて思うのは深読み?
プロローグの一場面からしてとても魅力的で、歩く音やノックの音が聞こえてくるかと思いました。依頼人とのやり取りもいいですけど、小川×真鍋のやり取りもいいですね。ちょっとズレてるような、でもそこに面白さがあるような。こういう雰囲気はさすがです。
亡くなったとされる兄が、地下に閉じ込められていて、家族がまた妙な関係である奇怪な状況には、戸惑わされたところがありましたが、事件そのものはストレートなミステリーでしたね。
真鍋やもう一人の探偵、鷹知などが、推理し合うところは、とても興味深かったです。頭脳派かと思っていた小川が、それほどでもない感じだったのには、物足りないところがありましたが、三人のやり取りはいい具合に収まってましたね。こういうやり取りは好きだなあ。
ただ、他のシリーズと比べると普通すぎて、インパクトはあまりないですね。と思っていたら、最後に来たか。彼女が出てくるってことは、時間軸でいったら、Gシリーズと同時期か、もうちょっと後ぐらいかな。
で、彼女をああするってことは、椙田はそうか、あの人か。美術品鑑定業ってところで気づけよ、と自分に言いたくなりました。きっと、真鍋や小川、鷹知あたりも、どこかのシリーズにリンクするところがあるんだろうけれど、人の名前を覚えない僕としては、さっぱりなので、いつか繋がりがが見えてきたときに驚くことにしましょう。
謎解きだけじゃなく、他のシリーズとの繋がりでも楽しんでいけそうですね。今後も期待です。
キラレ×キラレ
首都圏のJRや私鉄で、三十代の女性が満員の車内で、ナイフのようなもので襲われる事件が相次いだ。いずれも軽傷であるものの、犯人はまだ捕まっていないということだったが、三回目の事件のときに、疑われた人がいたという。犯人扱いされた男は憤慨して、この事件についての調査を鷹知に依頼した。さすがに一人では、対処できないと考えた鷹知は、以前の事件で知り合った小川と真鍋に協力を申し出て……
満員電車での切り裂き事件を調査するお話です。あまり意識したことありませんでしたが、電車って、周囲に他人しかいないのに、まるで無防備ですよね。くしくも小川がいうとおり、「騒音のはいる自分の部屋」と思ってたかもしれない。普段電車を使って通勤している身としては、普通にありえるお話だけに、怖さを感じます。
事件については、捻りとかあまり感じられず、ストレートなお話なので、物足りないものがないわけではないですが、「如何にして犯人は乗客を切りつけることができたのか」とかを考察するところとか面白かったです。切ると簡単に言うけれど、被害者全員、背中の肩の辺りを切られてるので、周囲の視線を潜り抜ける必要があるんですよね。
小川がしごく一般的な思いつきを持ったら、真鍋が変則的なようで合理的なアイデアを持ってきたりして、なるほどと思わされたりしました。
まあ、そのあたりよりも、小川の心の動きのほうが面白いですけど。鷹知に惹かれつつ、ボスたる椙田にもふらふらとして、年下の真鍋には興味ない感じだけど、でも一番頼ってるし。この気の多さは、なかなか新鮮なものがありました。それぞれの人と繰り広げる会話がまた魅力的なんですよ。バカバカしい面白さや、ちょっとズレてる楽しさ、思わずドキっとさせられるものなど、ウィットに富んでて、ほんと素敵。
じわじわと不安を煽ってくれて、サスペンスな展開に急変するところは、ドキドキでしたが、うまいところを持っていったのが、彼女だというところに、にやりです。萌絵にはもっと出てきてほしいけど、それで小川の出番が少なくなっちゃったら、困るしなあ。難しいですね。
そういえば、動機とかが普通だったのは、森博嗣作品の中では珍しいですよね。
読みはじめたときは、茅田砂子作品で言う「クラッシュブレイズ」みたいな位置づけ(S&MやGシリーズなど、他シリーズの主要キャラ総出演物語)なのかと思ってたけど、一般の人というか、より広い範囲の人たちに向けたシリーズなのかもしれない。
いや、ひょっとしたら、裏でいろいろあるのかもしれないけど……といろいろ考えさせられてる時点で、作者の罠にかかってるかもしれない。
タカイ×タカイ
地上約十五メートルの高さのあるポールの上で、死体が発見された。場所が著名なマジシャンの自宅であり、被害者がマジシャンのマネージャーだと言うことで、マスコミがこぞって取り上げる中、たまたま死体の引き上げ作業を見ていた真鍋の話を聞いた小川は、好奇心に惹かれて現場へと足を向けた。そこで、偶然にも西之園と出会い、事件の話をしたら、どうやら彼女もちょっとした関わりを持っているのだとか。
さらに、事件に関係する人物達の調査を依頼された鷹知から、協力を求められた二人は、事件を追い始めたが……
美術鑑定のみならず探偵活動までこなす椙田事務所の社員・小川とバイトの真鍋が、探偵業を営む鷹知と共に、殺人事件の調査を行なうお話……っていうか、鷹知が依頼されたのは、事件そのものの調査ではないんですが、似たようなものといっていいですよね。Xシリーズにしては、事件に対して一歩踏み込んでる様子が伺えます。おお、ミステリしてる。
小川と真鍋は、仕事というよりは、興味本位で事件に関わりあいを持つんですが、「なぜ犯人は、死体をポールの上まで運んだのか」という疑問をいろいろ考えていくあたりが面白い。
真鍋の発想は、突飛に感じることもあるんだけど、これはむしろ、ちょっとだけ先が見えちゃってるから、ついていけない人からすると、ん?と感じるんじゃないかと思いました。ま、そんな真鍋と小川が繰り広げる、ほんのちょっとだけ踏み外していく会話が、ユーモアがたっぷりでとても魅力的。
個人的に笑えたのは、萌絵の話になると、椙田事務所の全員が普通でいられなくなるところですね。異性を意識する真鍋がドギマギ緊張するのはわかりますが、同性の小川も緊張してるし、何より所長の椙田の慌てっぷりは、楽しくて楽しくて仕方ない。
椙田と一緒にいた女性が誰なのか気になりますが、それよりもいつまで椙田のことを隠しておけるのかが楽しみかな。反省会でどんな話が繰り広げられたのか、想像してニヤリとさせられます。
事件そのものはシンプルなものでしたが、調査を通じて、ちょっとした裏や登場人物たちの考え方などが見えるお話は面白かったですね。だんだんとヒロイン(?)たる小川の魅力も見えてきて嬉しく思う。自分に足りないところがあったら埋めるための努力をし、引きずられそうになったら、一度立ち止まって、自分を見つめることができる小川の想いは、今後どの辺りに向かっていくのか気になるところ。
それにしても、萌絵の出番ってそんなにないんだけど印象に残ることをしてくれますね。鷹知、小川、真鍋が集結して、ようやく解いていった謎について、アドバイスを送ってましたけど、おそらくその時点でほぼ見えてたんじゃないかしら。さすがに経験値が違うなあ。まあ、萌絵は別格な存在だからしかたないか。
その萌絵が一番魅力を見せてくれるのは、犀川とのやり取りのときだと思うので、その辺りが見たかったなあ。最後の電話のシーンは、萌絵の思いが伝わってきて、とても切なく思う。
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