虎は躍り、龍は微笑む / 嬉野秋彦
虎は躍り、龍は微笑む 獅王争覇!
ライセー武術院にはたくさんの生徒がいる。出自や入学に至るまでの経緯、その動機もバラバラな思春期の少年少女たちが、ざっと600人。
その中でも悪戯ものとして名高いコハクは、ある日、町で先輩のユージンが袋叩きにあっているところを目撃した。院でも五本の指に入るユージンが、むざむざとやられたままでいるのはなぜだろうと疑問に思い、友人のリュードなどと共に調べたら、どうやら彼は道ならぬ恋をしているようで……
いろいろ悪さもするんだけど、根はまっすぐな少年コハクが、友人や仲間を巻き込んで、大人たちの汚い思惑を打破するために、武術大会に出場するというお話です。
これはいいですねー。武術院ものとはいえ、実際には、戦うシーンはそれほどなくて、学園ものの一種のような感じでした。中国活劇ものっぽい印象もあったので、個人的にはとても楽しめましたね。
何といっても、コハクとリュードのコンビがいいです。同じぐらいの年なのに、精神的には幼い子供と成熟した大人ぐらいの差のあるところが、いい味出してるんですよ。まあ、結局はコハクに引きずられてしまうんですけど。
さらに、コハクに好意を抱いてる少女のカーシャが、何かとふたりの間に入ってきて、気がつけば三人で、身分違いの道ならぬ恋にハマり迷う先輩を手助けするようになっていくところは、良かったなあ。
理想を追う無謀な行動に子供っぽさが感じられて、危うくも痛快な気分になれますね。
彼女と駆け落ちするために、武術大会の「獅王争覇」で戦うシーンでは、コハクやリュードよりも、才色兼備だけど、ちょっと冷たい印象だった生徒総監のツイフォンの活躍が良かったですね。いつの間に、ひっぱりだしたんだ、リュード。
さらに、カーシャも裏方で活躍してくれたおかげで、何とか勝利をして……の後はどうなるのかと思ったら、なるほど、こうなれば確かに問題解決だと納得させられるものでした。
いや、ご都合ではあるんだけど、悪いやつには報いを、いい人には幸せを、そんなハッピーエンドだったので、個人的には満足です。
ひとまずメデタシめでたしという終わりですが、この四人の組み合わせは、何気に楽しいことになりそうだなあ。女性には冷たいリュードが、ツイフォンは頼りにしてるところには、わず勘ぐってしまうものがありますし、カーシャの気持ちにコハクが気づくのは、当分先のことになるでしょうけれど、このあたりも気になるところ。
あとがきによると、続編の構想はあるらしいので、楽しみに待っていたいと思います。
虎は躍り、龍は微笑む 黄金の満月
ライセー武術院で、共に腕を磨いている同室のミンポーの実家に、泥棒が入ったという。素行の悪いコハクは、ミンポーのみならず、彼の親族には、いろいろと世話になっていることから、盗まれたという「夜光の珠」を探す手助けをすることになった。
折りしも、町では、盗賊団・禍蛇党による強盗事件が相次いでおり、いつの間にか、コハクとリュードは、盗賊団たちの争いに巻き込まれて……
盗まれた「夜光の珠」を探し始めたコハクとリュードが、盗賊団や黒ずくめな謎の人物との争いに巻き込まれていくお話です。前作同様、活劇ものっぽい展開で、すらすらと読めますね。
いくら素行が悪いといっても、裏の世界に詳しいわけではないので、盗まれたものを取り戻すなんてことは容易じゃないんですが、それでも友人に頼まれたら、何とかしようとするコハクの親分肌的なところがいいですね。
ま、物に釣られてしまったというところもあるけど、それもまた愛嬌があっていいです。コンビのリュードの冷静な指摘も健在でしたが、まだまだ子供だなと思わせるやり取りが、微笑ましい限り。
意外だったのは、黒ずくめの人の正体でした。どんな人でも、別の一面があるんだなと思いましたが、「家」を重んじる時代の話だったら、わからなくもないか。 このおかげで、リュードがひょっとして……なんて思いもあったりしますが、さてさて。
「夜光の珠」を取し、さらには禍蛇党の手から逃れようと策をめぐらせるときに感じたコハク高揚感は、なんかわかるなあ。仲間をと力をあわせたら、どこまでのことができるかってのは、試してみたいですよね。武術を習ってる者ならではの強引な策も、信頼があるからこそでしょう。
ただ、ここからの展開は驚きました。いや、「瞳」というキーワードから、関連はあると思いましたが、ここまでとは……。
リュードや彼の母親とのことがあるとはいえ、今までひとりだったコハクからしたら、迷うのは当然だよなあ。家族という存在は、決して小さいものじゃないですよね。
それでも、「今」いる場所が、自分のいる場所だと、心から言えるのであれば、それはとても素敵なことだと思います。さらりと流されているけれど、最後のシーンがとてもよかったです。もっと盛り上げても良かったんじゃないかしらと思わなくもない。
そういえば、今回は武術院の外でのお話だっただけに、前作で出てきた人たちがほとんど出てこなかったなあ。出てきても、一瞬ぐらいという扱いで、学園ものっぽい雰囲気も好きだった身としては、ちょっと不満。
とはいえ、カーシャの思いを知ってるリュードが、そっとコハクを近づける話があったりしたのは、すごい良かったですけど。こういったことをナチュラルにできるリュードの経験値は、やはりあなどれない。惜しむらくは、このあたりの気持ちを察せるコハクじゃないってのが……。
いろいろ期待しちゃっただけに、カーシャとしても不満はあるかもしれませんが、でもきっとコハクが選んでくれた簪は、大事に使うんだろうなあ、なんて思ってニヤニヤ。
次は、カーシャも冒険につき合わせてくたら、嬉しいんだけどなあ。
虎は躍り、龍は微笑む 落日の賦 暁星の詩
飛天夜叉と呼ばれた女賊は、コハクの瞳とまったく同じ瞳を持っていた。彼女の口から聞かされた言葉を胸に秘め、延々と悩んでいたコハクだが、一向にいい考えが思い浮かばなかった。
ある日、女賊たちを捕らえたという獄舎で、火の手が上がったという噂を聞きつけたリュードとツイフォンは、いまだ思い悩むコハクを置いて、現場へと向かったが、その隙に女賊ルルチェは、コハクの前に現れて……
悪戯好きな少年コハクと、才色兼備な親友でリュードが、ライセー武術院に通う友人や仲間たちを通じて、友情を深めていくお話の最終巻。前作までは、二人の周辺での騒動を描いたお話でしたが、最終巻はなんと国をも巻き込む騒動になっていました。これがまた素晴らしくて。
何がいいかっていったら、やっぱり熱い友情を感じられるところですね。突っ走るコハクとそれをフォローするリュードという今までの形も見せてくれましたけど、逆にリュードがコハクに寄りかかるところも見えて、ああ、こういう繋がりがあるからこその親友なんだなというところがとても印象的でした。
秘密を知ったリュードが頑なになったとき、心を開かせたコハクの拳が熱かった。
コハクの秘密だけでも大きかったのに、そこへリュードの秘密が関わってきたことで、一気に大事になってきましたが、さらに外から騎馬民族が攻めてきてと、どんどんと大きくなり、かつ人や物事の流れが見えてくるところが、面白いこと面白いこと。副宰相の話がちょっとあっさり気味だったのは、物足りなかったですけど、自業自得な展開はすっきり。
恋愛モノとしても素晴らしくて、コハクと彼を思うカーシャの関係は、どっちもツンツンなおかげで、進みそうで進まないのがもどかしかったですが(指摘されて照れるカーシャがかわいいことかわいいこと)、一方のリュードとツイフォン先輩が、少しずつ少しずつ距離を縮めてるのが見えて、思わずにやり。特別二人の仲がいいようには書いてないのに、言葉の端々や態度に、相手への信頼というか思いを感じるんだよなあ。こういうところが、ほんと素敵でした。
リュードの母ルージュと父の結ばれなかった恋については、切ないものがありましたけど、次の世代を担うものたちに、夢と希望を託すことができたというラストが、心の情景に浮かび上がりました。
いやあ、ほんと良かった。最後まで楽しませていただきました。このシリーズ大好き。
欲を言えば、彼らが大人になったときのエピソードとか読みたかったなあと、思ったりもしますね。
派手さはないんだけど、ほんと面白かったです。次なるシリーズで、どんな物語を見せてくれるのかほんと楽しみだなあ。
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