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スプライトシュピーゲル / 冲方丁

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スプライトシュピーゲル I Butterfly & Dragonfly & Honeybee

スプライトシュピーゲル 1 (1) - 冲方 丁

オーストリアの首都であるミリオポリスでは、凶悪犯罪やテロが多発しているをうけ、肉体に障害のある児童に機会の体を与え、治安の維持にあたらせた。通称特甲を手にした MSS邀撃小隊「炎の妖精」の小隊長を勤める鳳を筆頭に、乙と雛は、犯罪者を追うため、今日も空を翔けめぐり……

虫の羽をモデルにした特甲の燐晶羽により、空を翔けてテロリストたちと戦う妖精隊の物語です。前後編を含む 6編からなる短編集ですが、毎回同じパターンで始まるのに、毎回ニヤリとさせられてしまいますね。

優しく人を包む紫火の鳳(アゲハ)、猪突猛進な青火の乙(ツバメ)、怯える爆弾魔・黄火の雛(ヒビナ)の三人が、空を翔け巡る戦いは、スピード感がありますね。何とはなしにカルト・カールを連想させる口癖にニヤリとさせられつつ、一気読みです。毎回提示される扉のクイズが、物語に深い関係を持つところなんて、うまいですよね。

それぞれが機械の体を得る原因となった話は、暗いものがありますが、それほど深くは突っ込んでないので、鬱屈するものは感じても、壊れた印象はそれほど受けないので、比較的さらりと読めますね。
隊長である鳳の包み込むような、心に染みこんでくるような優しさは、とても素敵で、近くにいたら惚れてしまうよなあ。アドバイザーとして、彼女の近くにいる少年の気持ちが良くわかります。
隊としての話だけでなく、それをサポートする人たちとの「チーム」としての話は、いろいろ人間関係が見えて面白いですね。

どの物語も面白かったですが、個人的にはトリを飾る「シティ・オブ・フェアリーテール」物語が絶品でした。
テロを裏で支えている相手を追うお話で、出会った子供たちとのやり取りに心が温まりましたが、奪われることに気づいた後の行動と祈りの言葉には、心臓を捕まれたかと思うほど痛みを感じさせられ、その場にいた人たちの思いが込められた銃声に涙。

鳳が機械の体を手に入れた後については、まだ何かしら話があるみたいなので、そのあたりが楽しみですが、個人的には、クールビューティーなお姉さま、ニナの過去物語もお願いしたいところです。

この作品が気に入った人は、角川スニーカーから同時発売されている同じ世界観の物語「オイレンシュピーゲル」もぜひ。

スプライトシュピーゲル 1 (1) - 冲方 丁

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スプライトシュピーゲル Ⅱ Seven Angels Coming

スプライトシュピーゲル 2 - 冲方 丁

同じ特甲少女がテレビに出てて羨ましいと、乙や雛が暢気に話し、鳳に窘められる。そんな平和な空気は、空から落下してきた人工衛星の火花によって一変した。人口二千五百万人の超巨大国際都市ミリオポリスの元に、七つのテロ組織が参入し、人工衛星から取り出した原子炉を奪っていったのだ。核の脅威、そして軍の参入を防ぐために、MSSの邀撃小隊は、空を翔けめぐったが……

七つのテロ組織と核から町を守るMSSの活躍が描かれたお話です。同じ事件をMPBの視点から描いたのが「オイレンシュピーゲル 弐 FRAGILE!!/壊れもの注意!!」ですね。オイレンを先に読んでいるので、事件のあらましは知ってますし、どういう決着がつくかも知っているんですが、にもかかわらず、これほど引き込まれるんですから、さすがです。
あちらでは知らされていなかった事実や、意外な人たちが出会いなど、興味深いことこの上ないですね。

オイレンたるMPBの組織では、三人の少女がそれぞれ別行動によって事件を追っていましたが、スプライトのMSSでは、鳳、乙、雛という三人の少女に焦点を当てつつ、MSSという組織全体で、事件を追っていくところが、二つのシリーズの一番大きな違いでしょうか。

一点集中しているだけに、連携はうまくいくけれど、手に入らない情報が多く、後手に回ってしまうところは、なんともフラストレーションたまりますね。特甲少女三人の活躍は随所にみれても、追い詰めきれないところに、刻一刻と迫るタイムリミットと併せて、苛立ちを感じます。

そんな中、テロの情報を引き出すために、MSS長官ヘルガが取った行動が、意外な面白さを見せていましたね。甘美なる悪党カール・クライスとの取引において、圧倒されつつも、答えを導き出し、さらに情報を引き出す、ヘルガも素晴らしいですが、それ以上にクライスの魅力が伝わってきます。一言も話してないのに!ひょっとしたら今後も出てくるかもしれないので、覚えておこう。

最も印象的だったのは、鳳が以前の事件を心のそこで引きずっており、助けることができなかった人たちのことを思って、今度こそはと手を伸ばすシーンですね。子供爆弾の時、冬真の時、そして最後の時と。ほんの一瞬の出来事の間に込められた思いが伝わってくるだけに、抱きしめることができたとき、グッとさせられるものがありました。
泣けるといえば、モリサンと乙のシーンも……。悲しいとは言わない、と言いながら流す乙の涙に、こちらが涙。

オレイン視点の物語を読んだときに陽炎が、幾度か鳳に助けられるシーンが描かれていましたが、スプライト視点でも、そのあたりは忘れられていませんでしたね。相手の力を素直に認め、カバーしあうところは、思わず震えがでるほど興奮しました。どこで遭遇するかわかっているからこその興奮といってもいいでしょう。ああ、もうゾクゾクが止まらない。
危険が目の前に迫っていたとしても、仲間となら成し遂げられるという信頼と高揚感が伝わってくるところが最高でした。

最後の最後まで楽しませてもらいましたが、そういえば、新たな特甲が出てきましたね。たしかオイレンでは出てきてないか、あるいはこんな目立った行動はしてなかったような……。彼女たちはどの勢力なのか、いまいちわかりませんでしたが、トラクルを追っていることは間違いないので、いずれまた出会うでしょう。このあたりの話も楽しみですね。

スプライトシュピーゲル 2 - 冲方 丁

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スプライトシュピーゲル Ⅲ いかづちの日と自由の朝

スプライトシュピーゲル 3 (3) - 冲方 丁

複数の高官暗殺、大型兵器の都市流入、広範囲にわたる襲撃、ウィルスによる電子テロ計画、その全てが二十四時間以内に決行される可能性がある ― 情報を入手したMSS長官ヘルガは、対処すべく動き出したが、政治家どもの縄張り争いから対処が遅れ始めたとき、ヘルガ自身が襲われ、さらに内務大臣が暗殺されて……

複数の犯罪が行われようとしている中、MSSも狙われて……というところから、「24」のように、1時間ごとに展開が進行していくお話です。

いやあ、面白い。

いきなりヘルガが狙われるところからして、後手に回っているんですが、致命的なダメージを避けて挽回しようと思ったら、先の先へ行かれているという展開には、引き込まれるばかり。
さらに、殺された大臣の残した「リスト」という言葉が謎を呼ぶ中、ウィルスによるタイムリミットまで発生するんですから、読む手が止まらないったらないです。

追いつけそうで追いつけないあたりには、もどかしいものを感じますが、内通者がいるのでは?と思い当たってからがまた面白くて。なんせ、疑いの目のひとつに、冬真が入ってしまうんですから。

おかげで、鳳たちと冬真の間の空気が、いつもと違う感じになったのは、興味深いところでした。信じている、でも、任務に背くわけにはいかないと、揺れる鳳の心情が印象的でした。いつの間にやら、雛まで冬真に懐いてるだけに、亀裂には心痛むものがありました。

鳳だけでなく、冬真にも、今までに無い心情が見えたのは、良かったなあ。ただ守られるだけの存在であり、命をかけて戦っている少女達に気後れを覚えていて、疑いの目を向けられる立場となったことで、鳳へ心痛を与えてしまったことに落ち込む姿には、弱さしか見えませんでしたが、鳳の気づかいと水月無の協力から、立ち向かうことを選んだところに成長を感じました。さりげない恋愛要素と、今までなかった友情が芽生え始めたところは、今後も楽しみなところですね。

命を懸けて戦うものたちを邪魔するのが、同じ国の人間であるというところには、こんなときでも政治的立場かと、イラ立ちを覚えますが、そんな中、常に冷静に前を向く鳳は格好良かったなあ。

「あたくしたちは、もはや疑ってもいないのですわ。この体を。決して失墜しない羽を。全てのスタッフを。戦線の仲間を。疑えば飛ぶことなどできません。それが、あたくしたちの弱さであり、強さなのです」

死を目の前にした少女に、仲間への信頼をこれほど見せられてしまったら、行動するしかないですよね。

絶体絶命から抜け出すきっかけが、彼であったところに、にやりとさせられますが、お調子者にしか思えなかった水無月の背負ったものと、ボスへの思いに切ない限り。

今回もまた最後に逃すのか……と思ったときに、見せてくれた特甲児童の機転には思わず、ガッツポーズ!例のアレはまだ動いてるだろうし、何よりミリオポリスの中にも、巣くっている闇があることがわかってきたので、まだまだ予断を許しませんが、それでもきっと彼女たちがいれば……、そう思わせてくれる物語でした。

次はどんな展開を見せてくれるのか、とても楽しみ。

スプライトシュピーゲル 3 (3) - 冲方 丁

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スプライトシュピーゲル Ⅳ テンペスト

スプライトシュピーゲルIV  テンペスト - 冲方 丁

「なぜ答えて下さらないのです?あなたは、どなた―」
『……少し驚いただけだ』遮られる ― 余計なことは喋るなと言わんばかりの声音 ― やおら、こちらの意を汲んだように言った。『いいぜ。あたしが誰か教えてやる』
思わずぎゅっと携帯電話を耳に押し付けたところへ、驚くべき答えが到来した。
『ミリオポリス憲兵大隊、遊撃小隊ケルベロス小隊長、涼月・ディートリッヒ・シュルツ。お前と同じ特甲児童だ。羽は生えてねえけどな』

凶悪犯罪やテロが多発しているオーストリアの首都であるミリオポリスで、特甲を手に治安の維持にあたるMSS邀撃小隊の活躍を描く物語の第四弾。今回は、MSSの小隊長を務める鳳と、時々MSSをお手伝いしてた冬真が、デートまがいをする「フロム・ディスタンス 彼/彼女までの距離」と、エルファシル紛争における戦犯法廷で証言する七人の証人とそれを保護するMSSに敵の刃が襲い掛かる「テンペスト」からなるお話です。

最高傑作!!!
と叫びたくなりました。

あまりにも面白くて、がっつり引き込まれて、530ページを超える物語なのに、あっという間に読み終わってしまいました。読み終わったあとのこの興奮をどう冷ませばいいのかわかりません。ああ、すごいものを読んでしまったという感覚にゾクゾクするものがあります。

いつものごとく、怒涛の戦いがあったりするんですが、それよりもまず引き込まれたのは、変則的なTRPGです。集まった証人たちが、暇つぶしにゲームをしようと言い出して、証人+MSSメンバー+ニナで勝負するんですが、開始数分で、しっかりものの鳳までが引き込まれるのもわかるぐらい、魅力的なゲームなんですよ。

現実ではないとわかっているのに、それでも、賽の目によって導かれた自分のコマの運命の恐ろしさと、楽しさを感じます。キーワードとなった「水」ひとつで、涙が流れるほどの感動を覚えたのは僕だけじゃないはず。
このお話が延々と続いても、たぶん、文句なかったと思うぐらい面白かった。

もちろん、これは証人たちとのゲームであって、本来の仕事はまた別で。

護衛。その仕事の過酷さと辛さが、これでもかと前面に出てくるから、圧倒されてしまう。
ついさっきまでゲームで楽しんでいた人が、あふれる優しさで包んでくれた人が、圧倒的存在感で魅了してくれた人が、倒れていく悲しみは、耐え難いものがあります。絶望に打ちひしがれながら、それでも己の職務のために、立ち向かうMSSの姿が、重くて苦しくて。

ただの敵ならまだしも見えない、しかも圧倒的火力を誇る敵に、さすがの鳳も心が折れそうになったんですが、ここで彼女を立ち直らせたのが、もうひとつの特甲児童MPBだってところが、すごかった。はじめは、無礼な相手に怒りを覚え、言葉を重ねていくにつれて、わかりあっていくところに、しびれるばかり。
あちらもあちらで大変なことがあるようなので、そのあたりは、オイレンシュピーゲルで明かされることを楽しみにしてます。

で、禁断のレベル3やもうひとりのトラクルなど、いろいろなことが見えてきて……と思ったら、二転三転どころか、七転八転してるんじゃないかってぐらい、次から次へと展開が転がっていくところは、まさにジェットコースターノベルですよ!
最終章なんて、怒涛の展開でありながら、ページをめくる度にドラマが待ち受けていて、涙ぐみながら大興奮してました。あの共闘の素晴らしさは、二つのシリーズを読んできたからこそだよなあ。

いやあ、面白かった!
今まではどちらかと言ったら、オイレンシュピーゲルのほうがいいなあと思ってたんだけど、今回ので一気に逆転しました。いやまあ、このシリーズは、オイレン/シュピーゲルあわせてのお話だとは思うけど、その二つあわせても、今のところこの作品が最高傑作じゃないでしょうか。

また最後がよかった。MPBとの距離もさることながら、鳳とふたりの隊員との距離が、もっと近づいてきたんじゃないかしらと思えるものがありました。
このシリーズは、あと二冊で終わるとのことですが、「仲間」たる距離感は、ずっと魅せてほしいなと、そう思いました。

スプライトシュピーゲルIV  テンペスト - 冲方 丁

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