創世の契約 / 花田一三六
龍族 <ドラッケンハイト> 創世の契約 1
至高(かみさま)は初めに龍族を創り、次にその翼を鳥族へ、その牙を犬族へ、その爪を猫族へ与え、人族には何も与えなかったと教典には記されているとおり、人族は「世界のおでき」と言われ、大陸の片隅に追いやられいた。その人族と大陸の唯一の接点である国境の町に、龍族が一人訪れてきた。入国管理官のヒルファーは、なぜ龍族がこんな土地に来たのか不思議に思って、記録を調べてみたが……
それぞれ意思の疎通はできるが、文化の違いや差別もある龍族、鳥族、犬族、猫族、人族、またその混血などが集まったとある国境の町に、龍族が来たところから始まる六話からなる物語です。入国管理局の人、酒場の息子、銀行屋の女、記者など、一話ごとに主人公が代わっていくんですが、これがすばらしかったです。
どの話も良かったんですが、まず一話目で心をつかまれました。一生に一度でも会えたら幸運と言われる龍族に対して、不審なものを感じた入国管理官のヒルファーが、人族と猫族の混血の子供マルセルと出会うお話なんですが、迫害されやすい混血児の心が少しずつ開かれていくさまが、ほんと良くて。友人と呼ばれることがどれほど嬉しいかが伝わってきたところには、グッとさせられるものがありました。
マルセルが挫けそうになったときは優しく支え、逆にヒルファーが仕事上つらい事をしなければならないときは、子供らしい機転の利かせてくれる。人族と、人族と猫族の混血児の心の交流に思わず涙させられました。
二話目は傭兵になりたいという酒場の息子が、父親の反対を受けてというお話で、三話目は融資を受けたいという相手を調査することになった女とそのお手伝いさんのお話。どちらも、ピリリと辛いものがあるんですが、最後には笑顔を見せたくなるお話です。個人的に好きな三話目は、女性と犬族のお手伝いの男の距離感は、もどかしいような、安心できるような、その絶妙っぷりにやられました。ああ、すばらしい。ちなみに同じ町のお話なので、それぞれリンクする人たちもいて、ちょっぴり嬉しくなったり、ここでこの人が?と驚きがあったりして、楽しいですね。
四話目以降は、ベルネという人族の記者のお話です。犬族との混血デッカーとの子供ころからの付き合いを受けて、とある女性を探す話や、拾われた子であることを知り、不安定だった子供のころの話、そして龍族について調べているうちに、他の族の地へと飛ばされてしまうお話の三話です。どれもこれも良かったですが、選ぶならば子供のころの話ですね。拾われた子であることを意識していたベルネと、どこか他人であることを意識してしまう親のすれ違いには、どちらも相手を思っているからこそという気持ちが伝わってくるだけに、心苦しいものがあります。
子供心に自分を追い詰めてしまったベルネが、他人ではあるけれど望まれた子であったことがわかるシーンに、胸が詰まらされました。名前を決めたことを語るシーンが、たまらなかったです。
読み終わったときの興奮をどう伝えればいいのかわかりませんが、文句なしで今年読んだ作品の中でトップクラスだと思いました。どうやらこのシリーズは、全五巻の構想を持って作られているとのことで、まだ四冊もこの物語を読めるわけです。ああ、嬉しい。ほんと嬉しい。
鋼の風 <シュタールヴィント> 創世の契約 2
龍族の大山脈に辿りつくには、大陸を移動しなければならない。だが、人族は許可なく大陸を移動できない。龍族を追っていたベルネは、大陸を移動する一番確実な方法 ― 傭兵になる決意をした。剣も握ったことがないベルネだが、傭兵集団「鋼の風」の団長ライゲンベックは、龍族との繋がりを得られるかもしれないと、ベルネの入団を許したが……
龍族、鳥族、犬族、猫族、人族、またその混血などが住む世界で、最下層である人族のベルネが、龍族と出会う旅に出るために、傭兵集団「鋼の風」に入団するところから話が始まる物語。
前作「龍族」では、各章ごとに龍族に関わろうとする人たちの視点で、物語が描かれていましたが、本作では「鋼の風」の団長、装填手隊隊長、鍛冶隊の下っ端、輜重隊隊長、伝令隊隊長、副団長が、それぞれの視点で、任務を果たしながら、ベルネ(団の中ではレスティ=厄介者と呼ばれてる)の成長を見届けるお話でした。
剣すらろくに振れない素人のレスティだけに、初めは足手まといに思われるんですが、指導を受けるにつれて、だんだんと必要な存在になっていく過程がとてもいいですね。レスティだけでなく、それぞれ世話をする人たちの仕事に対する誇りや、団に対する思いなども良かったです。
熱いものを感じるというよりは、渋さやしたたかな強さを感じさせられて、それでいて心奮わせるものがありました。いやあ、面白い。
誰も彼も魅力を持った人たちばかりでしたが、やっぱり一番魅力的だったのは、団長でしたね。がさつで短気で金にうるさいのに、親分肌なところがとてもいいんです。本人の物語よりも、他の人の目を通して、しかも通すたびに、その良さが伝わってきます。
そのことが一番伝わってきたのは、四話目のお話かな。傭兵団の雑用兼酒保(色を売る)隊の隊長ピコが出てくるんですが、隊をまとめるきっぷのいい姐さんでありながら、実は団長に……というところがわかるシーンがあるんですが、団長のエピソードとか聞いてると、わかる気がしますね。あれは惚れますよ、うん。
この人の文章は、どこか乾いたものがあるので、色っぽさはそれほど感じないんですが、それでも最後のシーンは、素敵だったなあ。
最後の賞は、団長や隊長レベルだけが持っていた「国」の意識を、末端まで知らしめて、しかも自分たちで守っていこうと意識を変えていくような展開に、グッとこぶしを握らされる熱さを感じましたが、最後の最後の出来事に驚愕しました。まさか、こんなところで!
ひょっとしたらこのことがきっかけで、レスティの運命が大きく動いてくるんでしょうか。それとも……?ああ、まったくわかりません。この引きは強烈すぎです!続きを!早いところ続きを!!
傭兵王 <レギオネスト> 創世の契約 3
傭兵総領、あるいは傭兵王と言われたライゲンベックが撃たれたという報は、大陸全土を駆け巡った。内容は不正確なものが多かったが、重体で命の危険にさらされているなどという本当のことを、今、他国や投資してきた者たちの耳に入れるわけにはいかない。
そして、一刻も早く実行犯の裏にいる者を捕らえることが肝要だと考えたレスティは、十番隊隊長のルナンに調査を依頼したが、口をつぐんだ実行犯に捜査は難航して……
龍族、鳥族、犬族、猫族、人族、またその混血などが住む世界で、最下層である人族のベルネが、龍族と出会う旅に出るお話。といっても、まだ旅はしておらず、国境を渡る許可証を手に入れるために、傭兵集団「鋼の風」に入団して、いろいろ経験している途中です。
前作では、傭兵集団の各隊長の視点で、ベルネ(団の中ではレスティ=厄介者と呼ばれてる)の成長する姿が見えましたが、今回はベルネの話ではなく、団長の半生、団長を狙った輩を調査するルナン、異種族における恋愛、おめでたき結婚話などなど、「鋼の風」の中の人たちのお話でした。
幼い頃から面倒見が良かったライゲンベックと、そんな彼のフォローをしてきたベローが、如何にして犠牲を少なく、かつ儲けるかということを考えて、傭兵をやってきた過程は、なるほど、こういう人たちだからこそ、「鋼の風」は大きな信頼で結ばれる事になるんだなと納得です。ライゲンベックとベローの絆は、憧れるものがありますね。
信頼が大きいからこそ、ライゲンベックが狙われた時の衝撃は大きかったですが、団長不在、副団長多忙という中でも、各隊の隊長クラスがそれぞれ自分たちで考えながら、問題をひとつひとつ解決していく展開は、各人たちの成長と、混血の町が育まれていく姿が見えて、嬉しく思いました。特に人族エヴァと犬族のバートの異種族の恋愛話は良かったなあ。
町の発展を妨害しかねない騒動へと発展しながらも、収束させたワイルの手腕と、町の人たちの意識の変化は、王道展開ですけどグッとくるものがありました。
一番好きな話は、第十話の団長とピコの結婚話。
めでたいお話で盛り上げようという政治的判断ってことで、渋々頷きながらも、内心では嬉しくて嬉しくてたまらないピコの様子にニンマリしましたが、その後、彼女を襲った災難のほうがもっと楽しかった。
領地を治める人を夫とするため、結婚式までに礼儀作法から何からを身に付けさせられるべく厳しい指導が入ったおかげで、ピコだけじゃなく、お付の人たちも「結婚やめませんか」と真顔で言い出す状況が楽しい。
戦場等ではたくましき人たちでさえ、泣き言ばかりだった結婚式準備でしたが、決めるときはビシッときめるあたり、やっぱり格好いいですね。特に主役たるピコが素晴らしい。結婚式という事を荒立てることができない状況で、自分達のプライドをきっちりと守ったシーンには、心奮わされるばかり。あの「静かな闘い」を見てしまったら、もうピコに惚れるしかないです。格好良すぎる。
指導を受けていた間は、決して仲が良いとはいえなかったピコとイヴリーナでしたが、式が終わった後、ふたりの間に生まれた感情については、心にくるものがありました。いつか再会を果たしてほしいですね。
この積み上げれたものが、とある出来事から、少しずつ怪しげな雰囲気になっていくんですが、決して折れず意地を見せ付けた「鋼の風」の姿と、信頼で結ばれた町の人との交流が見えるところに、思わず涙。
いやあ、面白かった。最後に傭兵許可証が出てきたことで、ああ、そうだったとベルネの目的を思い出しました。となると、「鋼の風」の話はここでおしまいなのかしら。それとも、もうちょっと一緒にいるのかしら。
どうなるかわかりませんが、龍族の影が少しずつチラついてきているので、あと2冊、どういう展開が待ち受けているか楽しみです。
巡歴者 <ゲイザーシャフト> 創世の契約 4
「釈明をする気はないのね?」
「それだけで済むと思うのか?」
問い返され、女司祭は小さく肩を竦めた。
「私はな」
ブロンデルも席を立った。話は終わりだ。
「ただ、猊下暗殺の真実を知りたいだけなのだ」
龍族、鳥族、犬族、猫族、人族、またその混血などが住む世界で、最下層である人族のベルネが、龍族と出会う旅に出るお話の第四弾。今回は、傭兵集団「鋼の風」を離れたレスティ(=ベルネ)が、前教皇の聖騎士団長ブロンデルと共に、龍族と出会う旅に出るて……というところから話が始まります。
うーん、いや、面白いんだけど、今までの傭兵集団「鋼の風」の物語が魅力的過ぎたおかげで、新たな場所で語られるお話に、ちょっと物足りないものがありました。人……というか人じゃないんだけど、そこで生きている人たちの魅力ってのが、都会にくると無くなるのは、何とも言えない皮肉ですね。
とはいえ、レスティについてきたブロンデルはいい味出してくれてましたけど。教皇暗殺を阻止できなかったとして、悔やむあまり、教皇庁からの呼び出しを無視して、暗殺の黒幕である龍族の元へ向かおうとするんですから、不器用な男です。ちょっと頭固いところもあるんだけど、旅を続けていくうちに、価値観が変わっていってる様子が見えるのはいいですね。
手がかりが無いまま、日が経っていったとき、龍族の研究をすると言い出した犬族の女学者の噂を聞きつけて、訪ねた先で出会った聖典を第一とする原理派との出来事は、暗い気持ちになるものがありました。正義を声高に叫ぶ者の汚らわしさが、印象的でした。
女学者のフローレンス、龍族に会ったことがあるという酔いどれ鳥族ロッシなど、旅を続けるうちに、仲間も増えていくんですが、個人的に一番嬉しかったのは、ベルネ時代に出会った人との再会かな。
あのときの子が立派になって、みたいなものもあったりしましたけど、それより何より嬉しかったのは、猫族混血の娘が、レスティを追ってきてくれたことですね。恩があるといいながら、照れてる時点で、思いの一端が見えますが、さて、彼女の思いはどうなるのかな……と思ってたら、フローレンスが異常に気づいてしまいましたか。うわー、どうなるんだろ。
このあたりの様子も気になりますが、外は外で気になりますよねぇ。なんせ、王国が軍を動かし始めたんですから。残り一冊でまとめ切れるのかという余計な心配をしてしまいますが、楽しみに待っていたいと思います。
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