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戦塵外史シリーズ / 花田一三六

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野を馳せる風のごとく 戦塵外史

戦塵外史 野を馳せる風のごとく (GA文庫) - 花田 一三六

二ヶ月前に滅んだカルアの皇女フィアナは、帝国に対して兵を挙げて欲しいと要請をしたが、いかな帝国とはいえ、今は兵を挙げるほどの余裕は無い。時期尚早として帝国の王ゼヴェロスは断った。
うなだれるフィアナに、今は亡きアバール大公国の跡継ぎであり、現在帝国の傘下にいるダリウスは言う。
「俺と部下のビルスとラザークで、騎兵二百の価値はある」と。
この男は部下を合わせた五人の、たった五人の力で一国を奪うつもりなのか……

いわゆる架空戦記ものですね。ダリウスという人物の英雄譚といったところでしょうか。
凄腕とはいえ一国を相手に五人で戦うなんて話は、大法螺にしか聞こえない話ですが、駆け引きや奇策を用いた奪取な方法は、いろいろ考えられていますね。時折出てくる歴史的見解のような視点に、リアリティを感じてしまいます。

手段等もさることながら、やはりダリウスという存在の大きさが大きかった。豪快さと存在感に魅了されてしまいます。無鉄砲なことでも「この人ならやりかねない」という雰囲気を作ってくれるんですよね。呆れながらも部下たちがついていくのが良くわかる。でも、側にいたら胃が痛くなるだろうなあ。

ダリウスの側室であるアスティアと、皇女フィアナの間柄もまた面白い。魅力的な人に惹かれるのはある意味当然ですが、修羅場になることなく、お互いが相手の心情を思い合いながら、一人の男を見つめていくところが良かったです。
立場上、深く踏み込めないフィアナの心情に気づいたダリウスの精一杯の行動に胸が温かくなりました。
個人的には、ダリウスの側室でありながら、暗殺者でもあるアスティアが好きだったので、もうちょっと過去の話を読んでみたかったかな。

国を奪い返す手段としては、奇策ではありますが、奇策の中の王道と言った感じかな。戦いに卑怯なんて言葉は存在しないということです。ましてや 5人 VS 数千人 ですから。城を奪うことよりも、その状態を維持し続けることの困難さが伝わってきました。

いやあ、なかなか面白いですね。こういった物語って好きです。
どうやら「大陸シリーズ」として、さらに二作出版される予定らしいので、大いに楽しみです。

戦塵外史 野を馳せる風のごとく (GA文庫) - 花田 一三六

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八の弓、死鳥の矢 戦塵外史 ニ

戦塵外史 二 八の弓、死鳥の矢 (GA文庫) - 花田 一三六

普通の弓は、二人がかりで弦を張るから「二」と呼ばれる。名も無き男の弓は「八」だった。すさまじい膂力だったが、戦争で村は焼かれてしまった。やがて男は暗殺者となり、百本目の矢の相手として、皇帝を狙うことになったが……

表題作「八の弓、死鳥の矢」を含む六編からなる短編集ですが、いやあ、すごい。どの短編も良かったですね。惚れ惚れします。

八の弓、死鳥の矢」は、暗殺者と皇帝のやり取りを描いたお話ですが、ほんのひと時のやり取りなのに、これほどまでの決意が見れるとは思わなかったです。たったひとりの言葉が、後の覇者を生むこともあるんですよね。
壮絶な死が、逆に強さと優しさを感じさせてくれました。締めの言葉が、妙に心に残ります。

長引く戦に、父親が率いる軍は負けると予測したダリウスの退却戦を描いた「ルクソール退却戦」。退却の話もさることながら、ダリウスが生涯の女性に出会った話でもありました。そういえば、前作でダリウスの側には、そんな前職を持つ女性がいたなと思い出して思わずニヤリ。あれで惚れるかどうかは別として、男っぷりは昔から変わらないんだなあ。
敵であるシャルフも非常に魅力的な人でした。こっちの話も読んでみたいですね。

九十六度も戦場を駆け巡った傭兵の最後の戦い「架橋」のハードボイルドったらないです。華やかさなどまるでない戦場の過酷さを誰よりも知ってるからこそ、離れられないというのは、矛盾しているようですが、わかる気がしますね。言い聞かせるような言葉は、飾らないだけに厳しいですね。
かつて暗殺者に殺されそうになった皇帝がここに出てくるとは思いませんでしたが、あのときの命は、まだ尽きなかったということか。この皇帝の話も読んでみたい。

伝令という役割の重要さと危険を描いた「いちばん長い夜」は、裏切りと紙一重の話でもありました。情報という点において伝令は重要ですが、逆に一兵に重要な情報が掴まれていることは、味方のほうが危険に感じるのでしょう。信頼なるものは、戦場では無いという辛辣さが痛いですが、そのことを理解して、それでも戻ったイスワーンの強さが素敵。
駒として使うというのは、王として必要なことなのかもしれませんが、それでも最後の言葉には、イスワーンへの信頼を感じました。かっこよすぎる。

冷厳で、でも国王の補佐役として有能な「ジェラルスタンの策士」フーシェの物語は、この短編集のマイベストです。他人にも自分にも厳しく、国王にすら苦言を避けない。実際こういう人がいたら、疎まれるでしょうね。それでも私利私欲がなく、国王のために働く姿を見たら、文句は言えないだろうなあ。
彼の策士っぷりもいいですが、そんな彼にもどうにも攻略できない策があるってのはいいですね。男女の仲は、そう簡単にいかないってところが微笑ましいったらありゃしない。
最後が意外に甘くて、もう大好き。

そんな冷厳たくましきフーシェが弟子を取る「策士の弟子」は、弟子となったセフィードの話でありながら、フーシェの印象が強かったですね。ますます凄みを感じました。常に一歩先をいくところがさすがです。ひとつひとつ試験をクリアしていくことで、フーシェの信頼を得ていくセフィードも良かっただけに、もっと読みたかったなあ。葱という似た者同士の話には笑いました。
下世話な想像については、ある意味正しいとは思うけれど、二人でいるところを見たからこそ、惹かれたんだと思うので、敗戦というのは可哀想かなと思ったり思わなかったり。

いやあ、面白かったですね。独特の文章と雰囲気がとても心地いいです。次はどんな物語になるのかと思ったら、この二冊で登場したオールスターキャストが活躍する話だとか。
これは期待に胸が高鳴りますね。

戦塵外史 二 八の弓、死鳥の矢 (GA文庫) - 花田 一三六

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大陸の嵐 戦塵外史 三

戦塵外史 三 大陸の嵐 (GA文庫) - 花田 一三六

戦の多い時代だった。当初、十四あった国々は、わずか六国まで目減りしていた。最大勢力となったカルディア帝国の圧力には、一国の力で対抗することができぬと、ルマイラ国王の大叔父ルバートは考え、自身の最後の仕事として、北方の三国で同盟を築き上げるべく動き始めた。だが、それは容易ならざる一大事業で……

カルディア帝国に対抗すべく、ゼニツア、ルマイラ、ジェラルスタンの三国が同盟を締結するというお話ですが、面白かったですね。若き老いつつも第一線で外交を続けるルバートが素晴らしいです。ルマイラ国王の懐刀ともいうべき盲目のフーシェとのやり取りには、若き才能に押されることもあるんですが、年季の違いを武器に、三国に不平等にならないよう調整していく姿に心打たれます。

むろん、帝国とて黙ってみているわけがなく、策を講じて揺さぶりをかけてくる。ここをどう乗り切るかというところに、ワクワクさせられましたね。唆された者の反乱や、宗旨変えすら辞さぬなど、あらゆる手段を用いる各国の動きが、歴史を紐解くように描写されていくところが、たまらなかったです。

前作で出てきたフーシェも、なかなかに悪辣なことをしてましたね。敵に回すと、やはり恐ろしい。ただ、どこか甘いところを感じさせてくれるので、思わずにやりとさせられます。
ダリウスも

三国同盟の駆け引きとは別に、「大陸一の女」と呼ばれる遊女セシリアと、セニツアの密偵ディークという話も描かれているんですが、何とも言えないほど切ないです。繋がりが見えたときの衝撃ったらなかったなあ。乱世によって引き裂かれた者の、これが運命なんでしょうか。せめて幸せにと思いながらも、迎えたラストにはやりきれない思い。

個人的に最も印象に残っているのは、あと一歩で三国同盟が締結しそうなのに、その一歩が遠いとき、老臣かが説いた「人の心」と、その「人の心」をルマイラの王だけでなく、ゼニツアの王妃が見せたところです。戦時中、ゼニツア王妃が出てきたのはこの場面だけでしたが、このシーンには、目頭が熱くなりました。

いやあ、面白かったです。勝つのではなく、負けぬために戦うものたちの歴史群像物語を存分に味あわせていただきました。

もともと角川スニーカー文庫で出版されていた三部作の復刻版ってことで、本来であれば戦塵外史シリーズはこれで終わりなんですが、あとがきによると、雑誌未収録集+新作で、新たに三冊出版されるそうです。これは嬉しい!
今から待ち遠しくて仕方ないです。

戦塵外史 三 大陸の嵐 (GA文庫) - 花田 一三六

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豪兵伝 戦塵外史 四

戦塵外史四 豪兵伝 戦塵外史 (GA文庫 は 2-4) - 花田一三六

雑誌「ザ・スニーカー」やアンソロジーもの等に収録されていた文庫未収録の「大陸もの」を「戦塵外史」シリーズとしてまとめた短編集です。「人斬り」「豪兵伝」「女人像奇談」「工房小話」「最後の仕事」「導く女」「轍の記」「農夫の剣」の八編が収録されています。

いやあ、面白い。やっぱり、この人の作品って好きだなあ。登場人物たちの死に様や生き方に、漢とかいて男と読ませるような芯を感じますね。個人的にこのシリーズは大好きなので、一編ずつ感想を書いてみる。

人斬り
太刀筋から同一人物の反抗とわかりながら、まるで手がかりを残さない人斬りフィードと、彼を追う警吏ダルトお話。正義を担うものとして、人斬りを追い続けていくうちに、人斬りの生き様を、我がことのように知っていくところが興味深い。証拠を見つけたときに「あいつがこんなヘマをするだろうか」と思うんですから、ある種の信頼がそこに見えます。
そんなふたりが、ようやく出会ったときの戦いが、またすごい。ホンの数ページなのに、壮絶なものがありました。敵ながら、という思いはお互いにあったかも知れません。
どちらの男も見事な姿を見せただけに、姑息さがこのふたりの戦いを引き起こしたということが、なんとも皮肉に思えます。

豪兵伝
表題作。長躯な樵が、臨月の妻の元を残して、戦に徴収されたお話。人を殺すことに迷いを持ちながら、妻の元へ、生まれてくる子供の元へ戻りたいがために、向かってくる敵に鉞を振るう姿が、心に痛いです。いつしか迷いをもつ余裕すらなくなる。これが一兵のおかれる立場かと思った次第。大局を語る戦ものは多いですが、ひたすら一兵の心情を描いたところがすごいですね。
城主の息子とのやり取りが、一片の清涼剤でした。彼は、今後どういう道を歩むのか気になったのは余談。

女人像奇談
石工であった男が、ある日突然、女人像を彫り始めるお話。シリーズにおいても、この短編集においても、ちょっと気色が異なるお話ですね。将来を約束した女を相手にしながら、だんだんと女人像へと心惹かれていく様が、なんともホラーテイストです。また、色気という点でも今までで一番強いかも。女と女人像の艶に思わず反応するものがある。

工房小話
拾ってくれた恩から刀鍛冶の親方の手伝いをして、刀を作りながらも、両親を殺した刀を憎む少年のお話。腕を磨きながらも、磨いた刀は憎むという矛盾を背負う少年の苦悩が伝わってきますが、そんな少年を諌めた親方の姿がしぶいなんてもんじゃない。「職人」という言葉の重さを知ることができます。
自分の気持ちを恥じた少年が、一心不乱に刀を打ち続ける姿が、熱い。
これは良かったなあって、ここから後の話は全部良かったんだけど。

最後の仕事
どれも良かったけど、中でも一番好きなお話はこれかも。痩せた土地の領主となった男が、領民のために、新たな作物「芋」を作ろうとするお話。不作の連続で、税を徴収することすら間々ならないときに、知恵を絞り、試行錯誤しながら、新たな道を探すおじいちゃんが格好いい。上からの問い詰めに、決して言い訳せず、それでいて民を守り続ける姿が良かったです。
とはいえ、こういう姿に反応しちゃうのは男だからかもしれない。

「まったく。男ってのは妙なことに熱くなるんだから」

いや、全くもってそのとおり。こういう言葉を投げつつ、信頼を見せてくれる奥さんの言葉が印象的でした。

導く女
まだ「不敗の王」と呼ばれる前のバルディールが、負け戦で落ち延びたときに、助けてくれた女性がいて、というお話。女を知っていながら、遍歴が少ないがために、いろいろ噂されたバルディールですが、実は不器用なだけなんだなと思うばかり。助けてくれた女とのどこかズレた会話は、真面目なやり取りなはずなのに、面白おかしい。僕だったら、文句なしで惚れちゃいますが、おそらくバルディールも惚れてたんだろうなあ。それでも、彼女の立場を考えて行動した姿に、国を治める人の正しき姿を見ました。
最後の夫人との言葉に、ごちそうさま。

轍の記
食料などを運ぶ荷駄隊が、襲われたときのお話。いや、戦ものの場合、補給がいかに大切かということを説く物語は多いですが、補給隊そのものの話ってのは珍しいかも。四百人の部隊に付く荷駄隊は、十五人。そのほとんどが人夫であり、戦えるのは五人ほどしかいないという状況で、本体から隔離されたら、どうなるかは想像に難くない。

にもかかわらず、敵の伏兵をやり過ごし、敵国の村人の策略にも負けぬ将軍の才と、人夫をも鼓舞する人望把握技術がすばらしい。この話を第三者ではなく、人夫から聞くというスタイルが、いい感じに、戦の恐ろしさと将軍への信頼とを伝えてくれましたね。
生きているということは、ただそれだけで素晴らしいものなんだと、胸に響きます。

農夫の剣
傭兵として名を馳せた「先生」が、農夫になり、同じく傭兵であるシェンナに農夫を勧めて……というお話。傭兵という生き様は、「戦塵外史 二」でも出てきましたが、そのあたりの虚しさが描かれています。命を育む農夫との対比もまた興味深い。
「先生」の妹とシェンナの初々しい恋物語も素敵でしたが、若きシェンナが、「先生」の教えや母の思いを理解していく様が、とてもよかったです。
はたして、「農夫になるか」と言われた彼が選んだ道は……読んでからのお楽しみってことで。

いやあ、面白かった。特に、後半は、どれもこれも魅力的で、引き込まれっぱなしでした。っていうか、気色の違う「女人像奇談」以外は、全部面白かったんですけどね。

戦塵外史シリーズは、シリーズといいつつ、世界観が同じだけなので、どれから読んでも問題ないので、興味があったら、手にとって見てください。オススメです。たまに、他の巻とのちょっとした繋がりがあったりしますが、そのときはニヤリとできて楽しいですよ?

角川スニーカーや雑誌など、今まで出版されていた「戦塵外史」は、これで終わりらしいですが、新たに書き下ろしで二作が出るとのことで、すっごい楽しみ。ちょっと時間がかかるかもとのことですが、いつまでも待ってますよ!でも、なるべく早くお願いします。

戦塵外史四 豪兵伝 戦塵外史 (GA文庫 は 2-4) - 花田一三六

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戦士の法 戦塵外史 五

戦塵外史 五 戦士の法 (GA文庫 は 2-5) - 花田 一三六

「ここは傭兵を紹介するところだよ。子どもの働き口を探すなら別の店だ」
「わたしはここに用があるから来たのだ」
あえて部門の硬い言葉遣い。呆気にとられた男たちを尻目に口入屋の奥へ。
「わたしの足手まといにならない者を、用心棒として雇いたい」

命を狙われた十歳の少女が、護衛として無骨な傭兵を雇い、小国ラサを目指すお話しです。

シリーズと良いながら、独立して読める戦塵外史シリーズですが、今回は「伝記」という形で語られます。各章の冒頭に教訓めいた文章があり、例えば、第一章では「逃げることについて」書かれていて、それもまた立派な戦術だと締めくくられており、その教訓を活かすような物語が待ち受けているので、ニヤリとする。

剣術指導官の父を持ち、多少腕に覚えはあっても、経験やら何やら足りないものが多いわけですが、旅や傭兵の戦いを通じて、未熟さを自覚する真っ直ぐさと、でも傭兵には素直になれない子どもっぽさがいいです。一方の傭兵もまた、無口で無愛想で、でも少女を気遣ってあげる優しさもあって。まったく不器用な奴だとニヤニヤ。

素性を隠すため、お互い「大男」「小娘」と呼び合っていたのに、だんだんとその言葉の響きが変わってくる感じがありました。

途中ひょうきんな商人が同行して、危険な旅路でありながら離れがたい思いになり。このあたりの思いが切ないながらも、自覚の始まりなんですよね。旅の終わりが近づき、別れを迎えたときに少女が決意したことと、それに応えた傭兵の言動に、たまらなくなりました。

その後二人は再び会うことが出来たのか。それは物語の最後の「解説」で匂わせてくれます。最後まで読み、そして冒頭へ戻って……良いものを読んだと、そう思いました。

戦塵外史 五 戦士の法 (GA文庫 は 2-5) - 花田 一三六

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双帝興亡記 戦塵外史 六

「これから慌ただしくなろう。戦もつづくに違いない。あるいは志半ばで―」
「陛下」
無礼を承知で一歩詰め寄り、言葉を遮った。
叱責は、なかった。
「だから、そのまま忘れないでくれ。せめて、お前だけは」

ガゼルーン帝国には、ふたりの皇帝がいた。妹のアイーシアを北に追放し、あとを継いだヴァルキールは、そのまま天下を取るかと思われたが、狩る者は狩られる者でもあった。最高権力者でありながら、道化と共に孤独を歩むことになったヴァルキールと、北の地から舞い戻ったアイーシアを描く戦乱と恋の物語。

面白かった!この人のお話には、本当に魅了される。

前半はヴァルキールを、後半はアイーシアを中心にした物語が描かれるんですが、どちらも目指した道は同じであったはずなのに……と思うとやるせない。特にヴァルキールは、大きな理想を持って動いていたはずなのに、気がつけば操り人形として動かされていたから、胸がいたい。例え、皇帝であったとしても、宮廷を牛耳るものに敵わないというのは、何と虚しいことか。

愚直なまでに真っ直ぐな忠臣グラジール将軍や、皇帝の別荘建設の総責任者パールク、貧しい農夫の子であり後宮に売られてきた女の子リーシェなど、いろいろな人の目から皇帝が描かれるんですが、無気力で怠惰な人であり、いつか一矢を報いようと牙を研ぐ姿もあり……。彼を守ろうとする人たちがいるにもかかわらず、その思いが届かぬことがわかる状況が、なんと寂しいことか。

町で笑いを振りまく「道化」と同じように、その孤独さが伝わってきて……せめて安らかであればと願わずにいられない。

一方のアイーシアの物語は、側近となったハルの視点から描かれています。幼いころから、才にあふれ、威厳を持ち、それでいてまだ少女であるなら、厳しい境遇であるにもかかわらず、支えようとする人たちが多く集まるのもよくわかる。

年齢の近いハルは、父の手伝いをするうちに彼女の傍で働くようになり、時に無茶を振られて、必死になって応えていくうちに、いつしか信頼を預かるようになるから、人の繋がりとはわからないものです。

またこの二人の距離感が素敵なんだ。

いつか皇帝になる人と畏れながら、その実、その体の線の細さに驚き、彼女のために力を尽くすハルは、忠臣という言葉だけでは表せないほどでありつつ、でも本人はそれ以上のことは踏み込まず、アイーシアは彼にだけ愚痴を聞かせたりするものの……いったい、どうなるんだこのふたりは!

ヴァルキールを傀儡とした宰相の手が伸びてくる前に、何としても力を蓄えねばならないとして、それまでは何も考えないように押し殺してるんだろうなと思える様子に、もだもだしてたまらなかった。

どこまでも主従であり、それを男と女にするにはどうすべきか、と動く同僚もいれば、身分さを考えろと止める人たちもあり。本人たちのあずかり知らぬ場所で、姑息な策が飛び交っているあたりは、ニヤニヤさせられましたが、結局のところ、相手のためにと思った行動が、一番心を動かすわけですよ。

決して派手ではなく、むしろ気づかぬことのほうが多かったであろう、ハルが積み上げてきた尽力には、涙が出そうになりましたよ。また、彼女の答えとも言うべき、アレは……可憐な乙女の笑顔が咲いた、そのことに嬉しくなりました。

最後ちょっとコミカルにしつつ、でも愛する二人の思いがしっかり伝わってきて、皇帝であっても孤独とは限らない、そのことが、とてもとても良かったです。

いやー、本当によかったなー。シリーズといいながら、続きものというわけではなく、それぞれ一冊で読めるので、いきなりこの巻を読んでも問題は無いです。興味があったら是非手にしてください。

これで終わりとは本当に残念でなりませんが、ネタはあるとのことなので、またいつか読んでみたいな。

戦塵外史 六 双帝興亡記 (GA文庫) - 花田 一三六

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