世界平和は一家団欒のあとに / 橋本和也
世界平和は一家団欒のあとに
父、母、姉二人、俺、妹二人、弟一人。全員が全員ちょっとした能力を持っていて、さらには世界の危機に巻き込まれるという体質がある。家族八人で、今まで何度世界を救っただろうか。
英雄譚ならいくらでも上げられるが、今回はそんな大きな話じゃない。悪の組織と戦ったりしてないし、世界なんてちっとも救ってない。それでも俺にとって大切な物語だ。俺が俺を救ったという意味で……
家族全員正義の味方であるという始まりだったので、どんなおバカなお話になるのかと思ったら、どうしてどうして、まじめな話じゃないですか。
姉である破天荒な七美が、地球を崩壊するGキャノンのスイッチを失くしてしまい、軋人が探すのを手伝わされていたら、弟の刻人の様子がおかしいことに気づいて、さらに妹の美智乃まで……という展開で、正義の味方として世界の平和を守っている一家に訪れた、世界危機よりも重要な家族の危機の物語です。
亡き妹に対して軋人がやったことが、なかなかはっきりしなかったため、刻人や美智乃が何をしたいのかわからなかったんですが、なるほど、そんな状況だったのか。誰が悪いわけではないとはいえ、怒りをぶつける先が無いというのは、子供だろうが大人だろうが辛いですよね。
軽い感じの語り口だし、家族のやり取りはコミカルなものがあっただけに、割合さらりと読まされてしまいましたが、何気にシリアスな話が多かったです。
深刻に悩む妹弟を見て、自分だけが悩むのではなく、兄として出来ることはないかと模索する軋人が良かったです。弟を助け、かつ自分をも助けた会話には、温かいものを感じましたが、それ以上に感動したのは、妹のために打った大博打ですね。
同じ過ちを二度と繰り返さないという決意からの博打は、お約束のようなところがありましたが、家族の信頼を感じさせるやり取りが素敵でした。
「お困りかい?マイブラザー」
この場面でのこの言葉に、思わず感動させられました。
いろいろあったけれど、世界平和よりも家族のほうが大事、というよりは、家族を守れるからこそ、世界の平和が守れる的なお話が、とても面白かったです。
欲をいうなれば、妹と同級生の柚島が、もうちょっと活躍してくれればと思わなくも無いです。軋人の隣というポジションから、さりげなく後押ししてくれたりと、いい味出してたので、もっと絡んでくれたら嬉しかったかな。まあ、家族の話ってことだったので、しかたないところはあるんだろうけど。
続編が出るかどうかはわかりませんが、あるなら、ぜひ軋人と柚島のお話をお願いしたいところですね。
第13回電撃小説大賞金賞受賞作。
世界平和は一家団欒のあとに 2 拝啓、悪の大統領さま
正義の味方である星弓一家は、全員が特殊な力を持っていて、世界を危機から救う役割を持っていた。そんな星弓家の長男の軋人は、先日から子供に狙われていて、とっ捕まえて事情を聞いたら、何でも彼の家は「悪」の家系らしいのだが、父親が首領をやっていた組織が、潰れてしまったことで、家族関係がぎくしゃくしているという。よりによって、その組織を潰したのが自分だと知った軋人は、後ろめたいものを感じて……
落ちぶれた悪の組織のアフターケアをするということで、正義の味方らしからぬお話ですが、面白かったですね。世界征服をしようとした相手を手助けしようとするなんて……、と思わなくもないけれど、お父さんの話をする啓吾の様子に寂しいものを感じたりしたら、何とかしてあげたいと思う気持ちもわかります。何だかんだいいながら、柚島もサポートしてましたよね。
正義とか悪とか関係なく、家族の様子が描かれてて、これがまたよかったですよねぇ。たった一度の敗北で、リストラされたサラリーマンのように落ち込んでいる父親の姿は、子供からしたら寂しく、情けないものがあると思いますが、それでも他人からケチをつけられる言われはなくて。様子を見に行った軋人に対して、啓吾の弟の正志がアカンベーをするところは、何かこう、ニヤリとさせられるものがありました。
啓吾の姉の銀子もまた似たような思いを抱えていたわけですが、なまじ力があったために、反発の仕方も大きかったですね。子を心配する父の思いとのすれ違いには、居た堪れないものを感じましたが、そんな家族の様子を間近に見た軋人が、たとえ最強の姉に逆らうという命の危険を冒す決意をするところが良かったです。
なんと言っても素晴らしかったのは、最後の戦いでしょう。いや、圧倒的戦力差をどう挽回するかという銀子との戦いも良かったんですけど、ハートが違いました。
ああ、なんで俺はこんなに喜んでんだよ?敵が復活しちまったのに、なあっ!
これ以上ないロマン溢れる舞台に喜ぶ正義と悪の戦いに、熱いものを感じました。やはり悪がいるからこそ、正義が映えるんですよね!いやあ、素晴らしかった。軽快なテンポで語られる正義と悪のお話は、すべてが素敵にハッピーエンドでした。さりげなく、エピローグで魅せてくれた「悪」の姿も忘れられないです。
前作でわりと出番が多かった人たちが、今回は活躍してなかったのがちょっと残念ですが、まあ、兄弟姉妹誰がメインになっても面白くなっていきそうなので、続きが楽しみですよね。もうちょっと、柚島とのラブ度が上がってくれると、個人的には嬉しいですが、さてさて、どうなるかしら。
世界平和は一家団欒のあとに 3 父、帰る
元「勇者」でありながら、今では経営コンサルタントとして、普通の仕事をしている父さんが、帰ってくるらしい。浮かれる母さんのおかげで、買い物に行かされた俺と妹の美智乃が、大荷物を持つことになった帰り道。清楚なお嬢様といった女性に声をかけられた。俺たちに声をかけるとは、まさかと思っていたら、彼女は母や父の名を出して、さらに錫杖を取り出して襲い掛かってきて……
家族全員正義の味方である星弓家のお話第三弾。今回は、長男・軋人の淡い初恋と、前作と違った形での父と家族の関係を描いた、切なさとそれ以上に温かさ溢れるお話でした。
元勇者であった父が帰ってきたタイミングで、異世界のお姫様だった母の友人エリカが、魔方陣の暴走でこちらの世界へやってきたんですが、初っ端のコミカルなやり取りが楽しいですね。
さらに、初登場の父が、ええ格好しいが似合う女たらしってことで、笑いに油を注いでくれるんですが、騒がしい中、感じられる団欒が、とてもよかったです。
そんな和やかな空気の中、チラチラと怪しい空気を見せるエリカでしたが、それでも、疑う気持ちをもてなかったのは、遊園地でのやり取りがあったからかな。後から考えると、冗談の中に本気が紛れ込んでいたことがわかりますが、この時点でも「何か」を感じさせるものがありました。この微妙な雰囲気の伝え方に惚れ惚れです。
まあ、惚れ惚れという点では、軋人と共にお化け屋敷に入った柚島さんの脅えっぷりのほうが素敵でしたけど。気遣う様子を見せた軋人の言葉に、脅えながらも、ドキドキする柚島さんが良かった。
腹の黒さとは裏腹に、エリカのあけすけな態度に、心惹かれていく姿は、柚島さん好きな僕としては、うーんと思ってしまいますが、鈍い軋人からすると、このくらい直接的な人のほうがアピール力があるんだろうなあ。
エリカがなぜこの地に来たかという本当の理由を知ったときに、助けたいと思ったのは、大切さを感じた人が困っていたからという気持ちが伝わってきました。
つらい事実を前に、力を尽くしたいと思った軋人の気持ちもわかりますが、それ以上に心打たれたのは、父の気持ちですね。
家族というかけがえのない宝物。
それを守るためなら、幸せを守るためなら、時に心を鬼にすることも辞さない覚悟に痺れました。情けなく思えることもあったけれど、やはり父は偉大です。
子供たちのような特殊能力はなくとも、ひたすらに強い父を相手にして、倒されても倒されても立ち上がる軋人の姿には、涙を誘われるものがありましたが、それ以上にキタのは、指輪に込められた思いですね。
流せない涙ほど辛いものは無いと思いました。
父の思い、軋人の思い、エリカの思い。それぞれが優しさを見せてくれたわけですが、それでも、今回一番の優しさを見せてくれたのは、柚島さんだと思いました。きっと、軋人の気持ちは、薄々感じていただろうに、それでも、好きになった男のために、慰めではなく、ただ見守ってあげた姿に、堪えきれないものがありました。
エリカのことも忘れないであげてほしいけど、側にいてくれた柚島さんをもっと大切にしてあげてくださいね。
いやあ、すばらしい。これほどまでに熱く、それでいて温かさを感じさせる家族物語を読ませてもらえるとは思ってもいませんでした。まっすぐな思いに痺れまくりです。読む度に、幸せな読後感を与えてくれるシリーズですね。ああ、良かった。ほんと読んでよかったと心から思いました。
文句なしで大絶賛、文句なしでオススメのシリーズです。
世界平和は一家団欒のあとに 4 ディア・マイ・リトルリトル・シスター
「……何か言いたいことあるなら言いなさいよ」
その場に立ち尽くして固まる俺に、女の子がむっつり顔のまま挑むように言ってきた。それは、紛れもなく俺がついさっきまでドア越に話をしていた声。
ということはやっぱり……
「……彩姉ぇ?」
家族全員が正義の味方である星弓家のお話の第四弾。今回は、長女・彩美が、何者かの魔法によって、十歳ぐらいの女の子になっちゃって……というお話なんですが、もう、最高傑作級!と叫びたくなるぐらい、すっごい良かったです。
クールビューティというよりは、酔っ払いな印象が強かった彩姉ですが、十歳の姿は反則すぎです。お母さんや次女の七美が、ムッハーと可愛がる気持ちが良くわかる。お姉ちゃんらしい威厳を保とうとする姿が、かえって可愛さを増すんだから、ああ、もう、どうしてくれよう。このあたり、ほんと楽しかった。
そんな可愛さあふれる彩姉だけど、実際には不器用な人なんだなってことがわかる過去のエピソードが、とても素敵でした。幼い弟の軋人のために、大の男に立ち向かう姿は、ほんとヒーローそのものだよ。彩美を早く元の姿に戻さなくてはと、姉のために軋人がいろいろ動くのも、わかる気がしますね。
十歳どころかさらに若返って、それに伴い、精神的にも幼くなっていって、記憶にまで混乱が見えてきたところで、いよいよまずいと、家族全員が動き出すわけですが、ここで彩美の幼いころの物語が絡んでくるとは思わなかった。ああ、そうか、不器用だったというエピソードが、こう繋がってくるのかと思ったら、もう止まらなかった。
そんな中、一番やられたエピソードは、軋人と彩美が敵に捕まったときのシーンです。
「だって、あたしおねえちゃんだもん」
涙がじんわり止まらなかった。
いやあ、面白かった!このシリーズは、毎回家族愛の素晴らしさを見せてくれるけど、今回の姉弟の関係は、間違いなくシリーズ最高傑作だと思います。超オススメ!
次は、どんな関係を見せてくれるんだろうと、すっごい楽しみ。
まあ、個人的には、軋人と柚島香奈子の関係も、もうちょっと……と思うところもあるんですが、すこぅしぐらい進展してるのかなあ。彩姉に「ママ!」と呼ばれた柚島が、思わず軋人のことを「パパ」と言ってしまったときの気まずい雰囲気とか、すっごいニヤニヤしちゃったのは、僕だけじゃないはず。
次作ではぜひ、このふたりの進展もお願いしたいところですね。
ところで、軋人、正義の味方なわりには、だんだん弱くなってない……?
世界平和は一家団欒のあとに 5 追いかけてマイダーリン
「じゃあ、さっき一緒に歩いていた女性は誰なんですか!?」
「いや、あれはな……」
珍しいことに、親父の言い訳のキレが悪い。
「わあっかりました!」
「いや志乃、少し落ち着いて話を聞いて……」
「聞きま、せんっ!そして今度という今度は許しま、せんっ!」
取り付く島もないとはこのことだ。
「実家に帰らせていただきます」
家族全員が正義の味方である星弓家のお話の第五弾。今回は、度重なる夫の浮気にキレた母・志乃が、「実家に帰らせていただきます」と言い出して……というお話。
異世界からきたお母さんが実家にってどこよ!?と思ったけど、夫の父親のところなのね。気づかずにあちこち探しまくる夫と家族たちはどうかと思ったけど、それはともかくとして、家出をしておきながら、迎えに来てほしくて、ついつい自分の居場所を言っちゃうところが、また可愛らしいことだ。
みんな心配しつつも、どこか最後のところで心配しきってないのは、こういうお母さんの性格がわかってるからなんだろうなあ。
ただ、いつもより怒ってるってことで、居場所を知らせても表には出てきてくれなくて、代わりにおじいちゃんが立ちはだかるんですが、このじいちゃんがいいノリしてたなあ。かつて、世界を手にできそうだった悪党……というわりには、なんていうかテキ屋の親分っぽい感じなんだけど、「お母さんを帰してほしくば、わしを倒してみろ」みたいなノリで、お母さんもヒロインモードに入ってて(考えてみればお姫様だった)、ついついおじいちゃんの悪ノリに乗っちゃうから楽しいんだ。さらには、おそらく地球最強な次女・七美までもがお母さん側に寝返っちゃうから、もう大変。
毎度毎度返り討ちにあう、夫・耕作や長男・軋人たちの様子に笑いまくってました。
ここまでだったら、普通にコミカルなお話だったんだけど、じいさんがふとまじめな顔して、「もし、あちらに戻れるとしたら」なる話しをしてからが、非常にこのシリーズらしい家族のつながりを感じられるお話になってましたよね。
決して帰りたくないわけじゃない。向こうには両親もいるし、姫としての立場もある。それでも、帰るかと聞かれて、即答した志乃の言葉にじわりときました。ああ、素敵だ。ほんと素敵だ。
またお母さんとお父さんの馴れ初めも素敵なんだ。異世界に勇者として呼ばれたお父さんだけど、都合の良い道具として扱われることに嫌気が差していて、そんな中、唯一彼を人としてみてくれた女性がお姫様で。このときのお父さんは、とても気障だと思ったけど、それがぴったりハマるぐらい格好よかったです。
お母さんを帰すためのおじいちゃんのツテが、思いも寄らぬ方向から暴走し始めてしまったけれど、子供たちが抱く母への愛情と、愛する人を守ろうとする夫の戦いに、じんわりです。ああ、やっぱりこのシリーズはいいわ。
いつもより、ちょっとハデさがないけど、温かさはたっぷりでした。
いくつになっても、熱々ロマンチックな夫婦に乾杯!
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