オペラシリーズ / 栗原ちひろ
オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う
万病に効くという命の花を求めて、薬師カナギは北部辺境の街へと向かったが、手に入れるには、不死者と会うしかないという。何としても命の花を手に入れたいカナギは、戻ってくる者が皆無という遺跡へ、流れの詩人・ソラと向かったが、カナギを狙うものが後をつけていて……
「世界の王」と「鳥の神」によって再建されたという世界で、万病に効く「命の花」を求めて、辺境の街へとやって来た薬師カナギが、街で出会った詩人ソラと共に、不死者がいるという遺跡を目指して……というお話です。
わりと有り触れた感じの設定で、展開としてもオーソドックスだなあと思うところが結構あったんですが、キャラクタや雰囲気が魅力的で、面白かったですね。
何と言っても愉快なのは、薬師のカナギでしょう。悪党どもに囲まれても、ふてぶてしい態度を取り、その態度にふさわしいぐらいやたらと剣の腕前を持ってるのに、一発殴られたら血を吐くほどの虚弱体質って!病弱と言われて、本気にキレる主人公って初めてみました。
何かと短気なカナギと、のほほんとした詩人ソラのやり取りは、命の危険が迫っていも緊張感のないやり取りを繰り広げてくれて、楽しかったり。
このソラがまた曲者な雰囲気をかもし出してて、戦闘にはまるで役に立たないけど、役に立つ知識を持ち、冷静な視点を持ってるかと思いきや、気づけば妙な位置にいて、油断できない存在に。さらに、カナギの命を狙う暗殺者少女ミリアンが加わってくるんですが、遺跡の影響を受けたおかげで、精神的に不安定だったミリアンをソラが導いていく様子には、何者だ?と疑問符ばかり。
遺跡には実は……というところから、物語がどんどん動いていくんですが、印象的だったのは、己のしでかした過去に後悔しながらも、死と隣り合わせにいながらも、必死に生き抜くカナギの姿ですね。この強さがあるからこそ、絶望に包まれても、人を思いやる心が消えないのでしょう。命を狙うものとの間に生まれた信頼関係が、とても素敵でした。
のほほんとしながら、怪しい動きもしているソラの動向には、ある意味狂気なものを感じて、別の意味でニヤリとさせられましたが、詩人として歌を響かせるシーンには、スッと沁みこんでくるものがありました。こういう雰囲気は好きだなあ。
ニヤリと言えば、カナギとミリアンの間にある微妙な距離感にもニヤリとさせられましたね。ああ、もどかしい!だが、それがいい!個人的には、もうちょっと恋愛要素が多くなってくれると嬉しいけど、続編はどうなるんだろう。おそらく、カナギとソラの関係は、あまり変わらないと思いますが、いろいろ気になるので楽しみです。
第3回角川ビーンズ小説大賞優秀賞受賞作。
オペラ・カンタンテ 静寂の歌い手
古き闇魔導師カエキリアが、500年のときを経ても未だ存命しているという『カエキリア』を次なる巡礼地と決めたカナギは、詐欺師と暗殺者と共に、旅へ出ることにした。
だが、カエキリアへと向かうソリに乗り込んだとき、自分の不幸を呪わざるを得なかった。そこには、先日、何者かに追われてカナギに助けを求めていた女性が乗り込んでいたのだ……
腕はあっても病弱なカナギと、正体不明な詩人ソラ、類稀な魔法の腕に目覚めたばかりのミリアンの三人旅シリーズの第二弾。今回は、不死を得たと言われる魔導師・カエキリアの領地へと向かうお話です。
いやあ、ソラが詐欺師過ぎるったらないですね。さいころで五十二連勝って、どんな運の強さですか。当然のごとく火の粉が降りかかってくるんですが、受けるのはなぜかカナギだというところに、三人の関係が見えてとれますね。さわやかに巻き込む詩人と、素直に回避するミリアンと、被害を受けるカナギのやり取りに笑いまくりでした。
そんな三人がカエキリアを目指すんですが、旅の途中や目的地で、得体の知れないソラの寂しさみたいなものが見えたのは、印象深かったですね。本人が語っているわけでもないのに、共に旅するミリアンやカナギが、ふと、ソラに対してそう感じるときがあるんですよね。放っておけないのとは違う気がするんだけど、頼りになるのに何か欠けてるものがあるように思えるから、気づけば構っちゃうんだろうなあ。
そんな詩人が、魔導師の領地で、カエキリアを引っ張り出すために、はったりをかます姿は、もはや詐欺でしかないと思いましたが、ここでは、ミリアンが、今までにない方面に心を伸ばしたところが印象的でした。温かさを伝えることができる自分に気づいたのは、力に怯えていた彼女にとって、とても大きなものだったんじゃないかと思います。
こういった気持ちの変化があったからこそ、不死者について知りえたことを、カナギに言えなくなったんだろうなあ。人に対する思いやりを持つと、どうしても遠慮みたいなものも出てきてしまいますよね。
カナギを心配する様子を見ていたら、詩人に対して見せていた好意のようなものは、どちらかといったら懐いているといったほうがいいのかなと、思うようになりました。さてさて、まだ安定しない彼女の思いは如何に?
一方のカナギにも変化がありましたね。取り返しがつかないということを恐れるようになるとは、ちょっと意外でもあり、でも彼は薬師だったなと思うと、ある意味当然だとも思えました。
そんなカナギがひっぱりあげてきた「真実」は、大きな衝撃をもたらしましたが、この不死者のお話よりも、さらに大きな衝撃がラストに待ち受けてるとは思いませんでした。いや、得体の知れなさから、何か隠してるとは思ってましたが、そっち方面に来たか。ってことは、カナギの目的についてもある程度、どういう結果をもたらすかとか、想像できてるのかなあ。うーん。
ミリアンが不死者と対峙したときに感じたことが、どこまで本当のことなのかわからないだけに、今後どうなっていくのか気になりますね。
オペラ・フィオーレ 花よ荒野に咲け
あの場所にいけば、如何な帝国の後ろ盾があるとしても、パシュラールも手を出せない。ミリアンにも保護が、カナギも情報を得ることができるだろう。期限付きの旅だとわかっているカナギは、セロフの案内で、一行は闇魔法協会本部を目指した。
だが、そこで、カナギたち一行は囚われ、ミリアンは眠りの中に、カナギは、闇魔道師の教主を中心とする議場へと連れて行かれ、取調べを受けることになり……
魔物の力の影響を受けて病弱となったカナギと、正体不明な詩人ソラ、魔導師として覚醒したばかりのミリアンの三人が、不死者を探すシリーズの第三弾。今回は、闇魔法教会本部へと向かうお話です。
毒草にやられて倒れてるシーンで登場する主人公ってどうよ、と思いながら、笑いが止まらない。そんなカナギと、のらりくらりと話をかわすソラとのやり取りは、相変わらずの楽しさでした。側にいるミリアンが、この空間を心地よく思う気持ちがよくわかる。
そのミリアンが、今回いろいろと心の動きを見せてくれてましたね。目的とは違う道を示されて戸惑いを覚えたところで、自分の気持ちに気づいたんだろうなあ。穏やかな優しさに包まれるよりも、二人と共にいることを選ぶ感情を見せてくれたことが、とても嬉しかったです。
そういえば、さりげなく、恋心っぽいものも見せてくれてましたよねー。洋服チェックで、彼の視線を気にする姿にやられました。
一方、どこか行く度にトラブルに巻き込まれるカナギは、魔物を取り入れながら生きてる(病弱だけど!)って状態が、魔道師たちの好奇心を刺激しちゃって、いろいろ面倒なことになってましたけど、「生きる」ということに貪欲な姿が、熱く、心打たれるものを感じました。
心を持たないといい続けるソラや感情をあまり見せないミリアンが、彼の姿を追ってしまうのがわかるなあ。
そういえば、カナギ側もミリアンについて、チラッと思うところを見せてくれましたね。最後のだっこイラストとか、にやにやニヤニヤしっぱなしでした。あー、たまらん。
お話としても、帝国と「黒いゆりかご」が動き始めたところで終わってるので、これからが楽しみな感じですね。それにしても、ミリアンの隠された素性が気になる……
オペラ・エリーゾ 暗き楽園の設計者
闇魔法協会の総教主が亡くなったという。次代教主を選ぶまでの期間、町の出入り口はすべて封鎖されてしまった。町を出ることができず、さらに儀式にはミリアンも呼ばれているという。彼女の身に何かあってはと、カナギとソラは、何とか儀式に潜りこんでみたが、籤によって選ばれた次代当主は、その瞬間に倒れて亡くなり……
呪いを解くために、宿敵から逃れるために、師を見つけるために、薬師カナギと詩人ソラ、魔導師ミリアン一行が旅する異世界ロードノベルファンタジーの第四弾。今回は、前作から続く、闇魔法協会内でのお話に決着がつくお話です。
初っ端からミリアンの秘密が見えたりして、光と闇の関係に興味を惹かれましたが、それより何より、今回一番印象に残ったのは、ミリアンとカナギの関係に変化が見えたことですね。
ミリアンを膝枕してるソラや、ミリアンにちょっかい出すキラキラ宝石つけてる魔導師リュリュに、苛つくカナギの姿にニヤリにやりですよ。ミリアンも、ソラといるときは安らぎを感じるのに、カナギのこととなると、普段とは違った心情を見せてくれて、あー、いいですねぇ。
そんな中、「みなを守る」ことができなくなかったら、自分という存在は必要ないんじゃないかと思い込んでしまうミリアンには、切なくなったなあ。そう思ってしまうのは、役に立ちたいという気持ちが生まれたからなんでしょうね。そんな心配はいらないのにと言ってあげたくなる。というより、ソラやカナギに、言ってあげてと、言いたくなりました。
もっとはやく彼女の思いに気づいてあげれば……というのは、贅沢だとは思うけど、お互いの気持ちがうっすら見えるだけに、もどかしい限り。
そのお相手となるカナギを留めていたのは、過去の出来事だったわけですが、それは彼の強さの源でもあったけど、それだけじゃなかったということに気づかされました。あのラストシーンで。
悲しくないわけがない。でも、それを感じる心を閉ざさなければ、戦ってこれなかった。生きてこれなかった。
かつて、守りたいと思ったものを守れなかった自分が、再び守りたいと思う存在と出会えたという思いに触れたとき、ほんと涙が止まらなかったです。
「本当に ― ひとはときたま、喩えようもなく美しい」
詩人の言葉に号泣。
いやあ、面白かった。こんな素敵なラブストーリィ(といって良いよね?)が見れるとは予想だにしてませんでした。
恋愛方面だけじゃなく、世界の秘密みたいなものが見えたりして、これがまた興味を掻き立ててくれるんだ、これが。崩壊した闇とて、そのままでいるわけじゃないだろうし、光魔法方面や、さらには巡査庁の動きなど、様々なものが入り組んできてるから、たまりません。
あのラストを考えたら、次は帝国内で大きな騒動が生まれてくるんでしょうね。カナギがあのまま放置するわけないだろうから、さて、彼らの未来がどうなっていくのか、大いに気になるところ。
個人的には、バシュラールとシュナルの関係もきゅんきゅんしてるんですが、こちらもどうなるのか楽しみ。
オペラ・ラビリント 光と滅びの迷宮
連れ去られたソラを取り戻すために、帝都へと入り込んだカナギたちだが、ミリアンであっても、ソラの気配はつかみにくいという。ならば、ソラの居場所を知っているであろうパシュラールを探そうと意気込むカナギたち。
一方、パシュラールは、部下を辞めるというシェナンとの最後の夜を過ごそうとしていたが、待ち合わせ場所にいたのは、血にまみれた女性で……
呪いを解くために、宿敵から逃れるために、師を見つけるために、薬師カナギと詩人ソラ、魔導師ミリアン一行が旅する異世界ロードノベルファンタジーの第五弾。今回は、帝国へと連れ去られたソラを助けるために、カナギたちが奮闘するお話です。
いきなりカナギの腰に抱きつくミリアンのイラストが見れちゃって、きゃーと声を上げたくなりました。前作のやり取りがあったおかげで、ミリアンの素直な好意が見れるのは、嬉しいですね。戸惑うカナギの心境は、照れくさいんだろうなあと、いろいろ想像してにやり。
で、帝国内のお話ですが、いきなり、シュナルが行方不明になり、バシュラールがハメられたりと、不穏な空気が漂ってて、ううむ。詩人が捕らわれっぱなしであっても、バシュラールが尋問するなら、恨みがあるとはいえ、信頼できるところがあったんだけど、例の人たちは何を考えているのかさっぱりだったでの、不安でいっぱいでした。
バシュラールがカナギと手を組むことを選んだのは、その不穏さが心にあったからなんだろうけれど、一番の理由は、シェナルの件があったからでしょうね。表面の軽さ以上に切れる頭脳が弾き出した答えを振り切って、残ることを選んだところに、彼の思いを感じました。
思いといえば、ソラをとりもどすために、潜り込んだ先でのカナギとソラのやり取りが、胸に来たなあ。いつもの掛け合いの楽しさに、そして、ソラの心を引きとめようとするカナギの思いに。この心が見えるからこそ、カナギの行動は、鮮烈なまでに美しさを感じるんですよね。
カナギが倒れたとき、ミリアンの繋いだ手の温かさが、いつまでも伝わってほしいと、そう願いたくなりました。
いやあ、良かったホント良かった。今までだったら一人で突っ走ったであろうカナギが、ミリアンと共に行動するところに、彼の心境の変化が見えました。
まあ、こっちは良かったけど、問題は帝国内。なんだ、あの皇帝の不気味さは。あまりにも傲慢な願いだと思いますが、力を持っていることもあるし、裏切りが蔓延ってるところも不安を誘われます。
ソラの状況もやばすぎで、カナギの言葉があったから、そう簡単には流されないと思うけど、心がないというだけあって、不安定なものを感じるしなあ。どうなっていくのか気になるばかり。
オペラ・グローリア 讃えよ神なき栄光を
東方にはソラの求めるものがある。そこへたどり着くために、自身が神になるという妄想に取り付かれた皇帝にソラは追従した。
一方、皇帝の気まぐれから、権力を狭められた光魔法教会は、たとえ犠牲があっても、彼らの動向に問題は無いとして、教主デクストラを献上しようという動きまで出てきた。このままではデクストラに危険が迫ると考えたミリアンは、カナギに内緒で一計を案じたが……
薬師カナギと詩人ソラ、魔導師ミリアン一行が旅する異世界ロードノベルファンタジー……じゃなくなってる気もするけど、三人が主となる物語であることは間違いないですね。というわけで、クライマックス直前の第六作目は、乱心した皇帝が東方へと向かい、カナギとミリアンがそれぞれの立場から動き始めるお話です。
皇帝に対して追従する姿を見たときには、ソラが何を考えているのかさっぱりでしたが、カナギを夢想するところに、心を感じました。ここまで揺れる姿を見れたのは嬉しいですが、もうちょっと周囲の影響を考えてあげてねと言いたくなる。
カナギとミリアンは、ほんと素敵な関係になってたなあ。相手が苦しむかもしれないなら、という思いには、幼いというか拙い思いを感じるけれど、でも、心からの言葉であることがわかるだけに、過激さとは裏腹に、じんわり温かくなりました。ふたりして同じ思いを抱えてるところもほんといいですね。
それにしても、自分がミリアンを失ったらどう思うかなんてわかるだろうに、ミリアンが同じような思いを抱えると考えないあたり、まったく男ってヤツは……と思いました。
その他の人たちの恋愛方面では、リュリュとデクストラがいい感じだったなあ。それだけの努力をしたからこそと思うと、彼の思いが伝わってきます。だからって、イストツクエはないと思うけど!
それより何より、心痛むのは、バシュラールとシュナルの関係でしょう。愛していることを自覚しながら、それでも手を取れない、取ることができないシュナルの思いが、苦しくてたまりません。
相手に届かないところで、初めて口に出したであろう告白に、涙が出そうになりました。
ああ、この二人には幸せを掴んでほしいのに……。どうなるんだろう。
そして最後が凄かった。皇帝どころかソラまで乱心したのかと思いましたが、なるほど、心を持つとはこうも痛いことなのかと思いました。ただひとり、思いを揺らしてくれる存在へ向けた態度には、逆に寂しさが見えて……カナギの台詞が心を打ちます。やっぱり、強いよ、カナギ。この世界の事実には衝撃を受けましたが、それ以上の衝撃がラストに待ち構えているとは思いませんでした。魔物による死は回避出来るかもしれない。だけど、なんて残酷な現実が……
読んでる身からしたら、このヒキで終わることも残酷だと思いましたが、ともあれ、次なる最終巻でどうなっていくのか、楽しみにです。
あ、その前に短編集があったか。こちらも楽しみ。
オペラ・メモーリア 祝祭の思い出
「俺は今日から、一般人になろうと思う―って、おい!流すな、俺は大まじめだ!」
一般人になれば、目立たなければ、この逃避行も少しは楽になるだろうと考えたカナギは、自分も目立つ存在の一人であることを自覚せずに、何かと目立つ詩人とミリアンに一般人として心がけるよう注意した。
そして、とある集落へと「一般人」として足を踏み入れたが、平凡を強調しようとするあまり、余計に目立っているようで……
薬師カナギと詩人ソラ、魔導師ミリアン一行が旅するロードノベルファンタジーシリーズの短編集です。
- 遭難しかけた三人が避難した城での幽霊騒動を描いた「オペラ・スピラーレ 亡国の螺旋」」
- 領主のお抱え画家を目指すマルセルが、ソラをモデルにしたいと言い出す「オペラ・リトゥラット 懐かしい肖像」
- リュリュが始めてデクストラと出会ったころの思い出を描く「オペラ・プロメッサ ずっとあなたを待っている」
- 幼きバシュラールが詩人と出会い、家族を失い、そして詩人を追いかける決意をする三編「オペラ・メモーリア 砂金の思い出 / 錬鉄の思い出 / 祝祭の思い出」
- 一般人を目指そうとするカナギの無駄な努力が描かれる「オペラ・スィーミレ 最高の隣人」
という七編が収録されています。
やられた。ほんとやられた。こんなに笑い溢れるお話ばかりだとは思いもしませんでしたよ!何度吹き出してしまったことか。ああ、また外で変な目で見られるはめに……まあいいか。この人のセンスが大好きです。
以下、各話の感想なんぞを。
「オペラ・スピラーレ 亡国の螺旋」」
まさかカナギが怖がりだとは思いませんでした。ミリアンまでもがからかうほどなんだから、いいリアクションに笑いが止まらない。幽霊なんかいないとムキになって城内を探索するカナギが可愛く思えましたよ。
ま、実際のところはアレでしたけど、よく考えたら、そういった気配をまるで感じられないのに、怖いと思うから不思議。想像力ありすぎるのかな。
「オペラ・リトゥラット 懐かしい肖像」
ソラをモデルにといいつつ、メインはミリアン。お抱え画家を目指すマルセルのライバルの息子エリックが、ミリアンに惚れちゃって、でもプライドからそんなことを素直に言えないので、いろいろ嫌がらせをしていく過程に、転がりまわりそうになりました。トカゲって、小学生か!バカだ。ほんとバカだ。
またミリアンが嫌がらせを卒なく回避してくれちゃうから、ますます立場がなくなるエリックが可愛そうになります。こういう、ある意味、普通の恋のお話もいいなあ。
「オペラ・プロメッサ ずっとあなたを待っている」
光魔法教会学部に入門したばかりということで、ちょっと幼いリュリュが……って、あんま変わらないような。いや、今よりももうちょっと暴走気味か。
さりげなく親孝行なところも見せてましたけど、優秀だけど暴走する生徒ってのは、教える側からしたら、扱いに困るだろうなあ。ね、ヤウザさん。
デクストラに一目ぼれしての一直線ぷりはおかしいけれど、この思いが本編に繋がっていったんだなあと思って、ちょっと温かくもなりました。幸せを感じられるラストが素敵です。
「オペラ・メモーリア 砂金の思い出 / 錬鉄の思い出 / 祝祭の思い出」
期待されない四男ってことで、寂しさからやんちゃな事ばかりしてるバシュラールがかわいいなあ。イエーリとはこの頃からだったのか。始めは、単なるお目付け役扱いだったのに、だんだんと絆が出来ていくところが良かったです。そして、母親の温かさを知るところも。
知っていますか?お前は私が抱きしめたいときには、いつもとっても汚れているのよ
じわりと浮かび上がるものがありました。
それにしても、バシュラールがこんな昔から詩人と出会っていたとは思いませんでしたが、あれじゃ怨み辛みを持つわけだ。詩人がいなくとも同じ運命をたどったのかもしれませんが、家族からしたら……元凶にしか思えませんよねぇ。
ただ、この出会いが彼をより成長させていき、後に良きライバル(?)と出会えたと考えると、さて、詩人との出会いは、彼にとってどういうものだったのか。全てが終わった後に、いろいろ聞いてみたい気がする。
「オペラ・スィーミレ 最高の隣人」
ページ数は一番短いですが、笑いの破壊力は一番大きかったです。この三人の旅で、目指せ一般人という目標は、どう考えても無理です。無駄な努力です。悟ったように話し掛ける詩人を振り切って、頑張ろうとするカナギの必死さが涙を誘います(笑いすぎて)。
普通さをアピールすればアピールするほど、普通でなくなるご一行に爆笑。
っていうか、ミリアンのナイフ投げを芸というのはわかりますが、カナギの喀血を芸というのはどうかと思います。いや、ミリアンの「呪文」には、鼻血出そうになったけど。マジメにやってるのに、受けを狙っているようにしか見えない毒キノコの件で、うつむいて笑っていた電車の中。地獄でした。
ああ、面白かった。本編がシリアスなだけに、三人の平和で楽しい日常が見れたのは嬉しかったですね。
さて、あとは最終巻を残すのみ。
前作の衝撃のラストから、どういう結末を迎えていくのか、今から楽しみです。
オペラ・アウローラ 君が見る暁の火
東方遠征から一年。世界の情勢はめまぐるしく変わった。遠征の失敗により現皇帝の評判はがた落ちになり、変わってバシュラールの評判が上り調子なのだ。不安定な世界情勢の中、ようやくカナギと会えたミリアンは、自然と寄り添い、嬉しさを噛み締めていたが、ソラのことを尋ねたときのカナギの返答に、悲鳴をあげそうになった。
「ソラ……、あれはお前の空想の人物だろう?」
記憶を失うとは、どれほどの出来事があったのか。悩むミリアンだが、世界はさらに混沌へと導かれていき……
薬師カナギと詩人ソラ、魔導師ミリアンの一行が繰り広げるロードノベルファンタジーの最終巻です。
強烈な引きから、どんな展開が待ち受けているのかと思ったら、記憶を失うとは……。この場合、カナギよりも、事情を知ったミリアンのほうが辛いですよね。それでもカナギを思い、安らぎを与えようとするミリアンの気持ちが、温かかったですね。
今までよりもしっかりとした態度を取るようになりながらも、カナギといると、昔に戻るところとか、とても可愛く、カナギも、記憶のおかげで、ヘタレてるように見えるところがあるんだけど、ミリアンを思う優しさが素敵でした。このふたりの触れ合いから伝わってくる温かさに、じんわり。
一方、帝都の激変っぷりは凄かった。皇帝がああなるとは……。自らを神と思うほど自尊心の高い人だったからこそかもしれませんが、バシュラールぐらいののん気さがあれば、追い詰められる事も無かったろうにと、ちょっと哀しい気持ちにならなくも無い。
そのバシュラールが格好良くなってたなあ。いつもならの軽口を叩いているんだけど、責務を追おうとする覚悟が素敵でした。いつの間にか側にいたラングレーとのコンビにニヤリ。このふたりなら、きっと立派に国を治めてくれると、そう思えるものがありました。
この二人のみならず、シュナルや今まで登場してた脇役達が、傷つきながら、それでも愛する人のために、世界のために、自分の出来ることで立ち向かおうとする姿に、幾度となく心を打たれました。リュリュとデクストラの関係が、特に良かったです。
そして、混沌の海が世界を覆おうとする中、カナギやミリアンが「七賢人」へと入り込むんですが……、まさかここに来て、ソラとの楽しいやり取りが見れるとは思わなかった。世界が危機に瀕しているというのに、何をやってるんだこの二人は。
プッと吹き出した後、今までと変わらぬ二人を見れたことが嬉しくて、思わず涙。
いやあ、素晴らしかった。カナギとミリアンも、最後には自然な行為を見せてくれて、うふふな気持ちになりましたが、ふたりだけじゃなく、最後までがんばった人たち皆の幸せを祈りたくなりましたね。
世界とは、これほどまでに美しいものなのかと感じさせてくれる最終巻に大満足。
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