大久保町シリーズ / 田中哲弥
大久保町の決闘
ばあちゃんから、みんなで遊びに来いという手紙がきた。田舎なら静かだし、受験勉強にちょうどいいかもと思って、光則は行くことにした。あそこはガンマンの町だから、気をつけろという両親のふざけた言葉を無視して。
ところが、大久保町について、変なタクシーの運転手の話を聞いていたら、突然銃声が聞こえた。何と、通りの真ん中で数人の男が拳銃を撃ちまくっており、だんだんとこっちに向かってきて……
何一つしていないのに、運と偶然とちょっとした危険察知の能力がうまく働き、いつの間にかガンマンの町で、新星のごとき注目をされることになってしまった光則くんと、愉快な仲間たちのお話です。
いやあ、もう、面白いったらないです。突拍子もない話で、そんなバカなと思うようなくだらないことばかりなのに、クスっとか、プッとか、笑いが止まりません。5ページあったら、7回は笑ってる、そんなお話です。
ころころ視点が変わるわりに、それほど読みにくいこともなく、中盤以降は、むしろ、この地の文だからこそ、面白いんだと思えるようになってくるから不思議。ばあちゃんの家に習い事しにきてる紅葉なる女の子が、また可愛くて可愛くて。光則くんが惚れてしまうのもわかります。
気恥ずかしくなるような妄想をしつつも、汚しちゃいけないような気持ちになる複雑な気持ちが、とても思春期っぽくていいですね。
望みなさそうだなあと思ってたけど、意外にも紅葉も興味を持ってくれたりして、浮かれてたら、あれやこれやで囚われの身になった紅葉を助けに行くというお約束がまた素敵。
頼りなさそうで、まぬけなことして、逃げてるつもりが危険な方向にいってしまって、でも、何とか切り抜けていくところは、面白くて面白くてたまりません。
かっこつけようと思ってもかっこよくなく、むしろ情けないところ全開だったりしますが、不思議と愛嬌があるので、何かしてくれるんじゃないかという魅力がありますね。勢いあまって銃撃戦の中を走り抜けるようなことをやってのけても、目の前の紅葉に手を出せない意気地の無さが、何とも光則らしい。
さすがの紅葉も、いじらしさを感じるよりも、目くじらを立てる気持ちがわかりますね。ニヤニヤしながら、読んでただけに、紅葉が思わずやってしまう最後のシーンは、クーと唸ってしまいました。
ああ、これはなんて素敵なボーイミーツガールなんだろう。個人的に大絶賛です。
この物語が、かつて電撃文庫で出ていたとは驚きですが、逆にその後埋もれていたことが、非常にもったいないと思いました。装いも新たに、出版してくれたハヤカワ文庫に感謝。
どうやらこの大久保町シリーズは三部作になるようです。あと二作も読めるなんて、楽しみですね。
「ミッションスクール」や「やみなべの陰謀」が肌にあった人ならもちろん、あれはちょっとなあと思う人も、このお話なら楽しめると思うので、ぜひぜひ。
大久保町は燃えているか
大学の合格を決めた幸平は、取ったばかりの免許と5万円で買った車で、新しいバイト先へ向かおうとしたら道に迷って、気がついたら地雷原の爆発に紛れ、大久保町に着いてしまった。しかも大久保町はなぜかナチスの占領下にあったのだ!不審者として監禁された幸平だが、レジスタンスたちは幸平を味方の工作員と勘違いして救出してくれて……
てっきり「大久保町の決闘」の続編かと思ったら、舞台は同じですけど別の話でした。大久保町がナチスかぶれの連中の占領下にあって、町に入ることはできても、出ることが出来ないという状態になってるところに、のんきな高校生の幸平が間違って入ってしまって、というドタバタなお話です。
もうね、くだらなすぎと言いたくなるぐらい、変な会話や展開ばかりなんですが、だんだんとそのくだらなさにニヤニヤするようになってしまう田中哲弥マジック。「ニヤニヤして気持ち悪い」と家族に言われたのは内緒。
一番面白かったのは、手榴弾型水筒の話ですね。バカなもの作ってるなあと思ったら、それが意外なところで活躍……というのと違うけど、意外な効果をみせるところには、笑いが止まりませんでした。絶対ありえないような設定が、秀逸なまでに効いてくる展開は、ほんと素晴らしいです。河合さん大好き。
レジスタンスが幸平を助けたのは、勘違いだったわけですが、放っておかれたら死ぬしかないってことで、レジスタンス入りするんですが、どうにも頼りなくて。気がつけばピンチに陥って、というか敵をおびき寄せてるようにしか思えない邪魔な存在なのに、不思議と憎めないところがあるんですよね。
まあ、周囲にいるのがそれ以上に迷惑ものだってのもあるんですが、何ていうか、仲間になったからには守るというところに、温かさを感じました。
鮎というちょっと言葉の強い綺麗な女の子との恋愛模様も、また良くて、人工呼吸ネタやら、男女逆転の「ずっと離さないでね」とか、くすぐったくなるような、ちょっと変な、でも真っ直ぐな感じが素敵。
個人的に印象的だったのは、ひとり、町から出ることが可能だった幸平が、自らの意思で、戦場へと戻るシーンですね。今まで、のほほんとしてて、誰かに助けてもらってばかりで、頼りなかった幸平が、つい先日会ったばかりの人たちのために、危険を冒そうとする変化に、熱いものを感じました。
軍側の人たちは、敵ではあるんですが、理不尽な人ばかりじゃなくて、むしろ、己の心に真っ直ぐな人たちもいるところが、良かったなあ。いや、大将っていうか少佐が、あんなんじゃ、下っ端はついていかないのもわかるんですけどね。男気あふれる人って、敵であっても好ましいですよね。
いやあ、面白かった。笑いあり、熱き思いあり、意外にもちょっとグッとくるものがあり、さりげなく恋愛要素もあるんですから、面白くないわけがないですよね。最後も素敵にラブ寄せしてくれて、今まで、のほほんとしていた幸平が、平穏な道ではなく困難な道を選択するところに、男を感じました。
さて、このシリーズもあと一作ですか。次も主人公が変わるのかどうかわかりませんが、どんなお話が待ち受けているのか、楽しみですね。
さらば愛しき大久保町
親善のため、世界各国を外遊していたカナコ王女は、日本の迎賓館での晩餐会を終えた翌日、大久保町を訪れて、旅館に到着する前に、誘拐された。
知り合いの家に向かうために、バスを待っていた芳裕は、偶然にも王女を誘拐した車と事故に合い、何とはなしに彼女の手を取って誘拐犯から逃げ出したが、あろうことか町中の人に、芳裕が王女を誘拐したと勘違いされて……
誘拐犯と勘違いされながら、王女と逃避行していくうちに、どんどんと王女に惹かれていって……という芳裕の身分違いの恋を描いたお話です。
いやあ、楽しかった。相変わらず、変な人しかいないなあ、大久保町は。オート三輪や町内放送の話など、ありえそうな話ではあるんですが、くだらなすぎて笑えます。実際にこういう目に合ったらたまらないかもしれませんが、のん気で親しみ溢れる人たちばかりなので、ま、いっかと思うこともあるなあ。いやしかし、話と関係ないところでもたっぷり楽しめますね。にやけ顔が止まらない。
誘拐されたはずの王女を送り届ける、ただそれだけのお話が、いつの間にやら王女暗殺問題が関わってきて、という展開なのに、まるで緊迫感あふれないのは、のほほんとした雰囲気が物語を占めているからですが、それでいてスピード感はあるから不思議です。次から次へと関係あるようで関係がない問題が起こって、ああ、なんてくだらない会話なんだろうと、呆れながらニヤついてたら、実は伏線だったと知らされたりするから、油断できないったらありゃしない。
そんな中、芳裕ののん気さがまた楽しくて。
誘拐犯に間違われるだけならともかく、銃で撃たれるは、ロケット弾を打たれるわで、大変な目に合いながらも、王女のカナコちゃんと一緒にいられることの嬉しさで胸いっぱいになってるところは、おいおいと思いながらも、読んでるこちらまで、嬉しくなっちゃうものがありました。
カナコちゃんもだいぶ変わってる人でしたけど、まんざらでもない様子を見せてくれて、それがまたとても可愛くて、青春だな、ちくしょー的雰囲気がたまりません。
のほほん和やかサスペンスが、急激に変化を見せたのは、芳裕が怒りを見せてからですね。今まで、何があっても、他人に対しては引いていた芳裕が見せた怒りには、驚きとまさかという不安を呼び起こさせられただけに、彼を包んでくれた神田さんがいてくれたことを嬉しく思いました。
ほっと一息もつかの間、まさかまさかで変転が起きて、いや、きっとここで、国籍問題が生きてくるに違いないと思ったのは、伏線とかそんなのを意識したのではなく、ただただ僕が必死に願ったことでした。
あの涙は、ほんと辛かっただけに、看護婦GJ!と声を大にして言いたい。
いやあ、面白かった。あの宝物をあげるラストを見ただけでも、満足させられたんですが、さらにさらに超ウルトラCの逆転劇を持ってきてくれたから、たまりません。ありえねーと思うよりも、満面の笑みを浮かべてしまった自分がいました。ひたすらにオススメな一品です。
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