Home > Series > 哀しみキメラ

哀しみキメラ / 来楽零

To the Navi

哀しみキメラ

塾のおんぼろエレベータは四人を乗せて途中で止まった。外部に連絡を取ろうとしても繋がらない。見知らぬ者同士に不満を言っていたとき、それは聞こえた。ドンドンという音。
いる。エレベータの天井に何かが。
やがて穴が開き、現われた白いもの。
本来なら、数秒間同じ空間を共有するだけの、名もない通りすがりで終わるはずの四人の物語が始まった……

いきなり引きつけられるサスペンスな出だしが素晴らしい。このサスペンステイストをもっと続けてほしかったなあというのは贅沢でしょうか。話の内容からするとちょっと難しいかもしれないけれど。

そんな序盤を超えたら描かれるのは人間ドラマ。己の立場を自覚している者としていない者の葛藤がいい感じに対立している。もっとドロドロした関係になればさらに面白くなったのではないかと思いました。次作以降どう成長してくれるのか楽しみですね。
第12回電撃小説大賞金賞受賞作。

哀しみキメラ - 来楽 零

To the Navi / Page Top

哀しみキメラⅡ

七倉のもとから逃げ出して二ヶ月。「食事」のために純たちは「除霊相談所」なるサイトを立ち上げ、寄せられる問い合わせから、モノに関わるものを選別してきた。
そんなある日、奇妙な問い合わせがきた。姪に呪われそうだから助けてくれという。呪いは専門外と断ったものの、詳細な説明を読んでみれば、どうやら自分たちが京都でやったことが、姪である少女に悪影響を及ぼしたようだ。
しかたなしに、家を訪ねてみたら、依頼人は死んでおり、その脇には少女が座っていて……

自分たちがまいた種により、モノに憑かれてしまった少女を巡るトラブル話。

いい意味で普通の話になっており、引きつける力は前作よりも上だと思います。深刻な話なのに、不思議とさらっと読ませてくれますよね。クールな展開は相変わらずいいです。

どこか達観しつつも、人間であることを諦めきれずに動き続ける姿はいまだ健在。わずかながらでも、可能性があるのであればというところなんでしょうか。少なくとも、それを許したら戻ることはできないでしょうからね。
あまり深く描かれてはいませんでしたが、逃げてからはじめて十文字のことに触れたときの二人の会話が印象的でした。

ちょっと都合のいい展開ではありましたが、とても切なく、それでいて希望を持たせてくれるラストがよかったです。
今後どう話を広げていくのかが気になりますね。

哀しみキメラ (2) - 来楽 零

To the Navi / Page Top

哀しみキメラⅢ

哀しみキメラ〈3〉 - 来楽 零

水藤が先日の事件で具合を悪くしてから、一年半の時が経った。今ではだいぶ具合の良くなってきた水藤とは対照的に、純は、時折、視界がブレるなどの問題が出てきた。あれからろくにモノを食べていないからだろうか。
そんな折に、水藤のバイト先である小学生を相手にした塾で、ちょっとした噂が流れていた。その階段を上ったものの願いが叶えられるという「お告げ」の噂が……。

霊的なモノになってしまったことを隠しながら生きている男女三人の物語ですが、いやあ、すごい。この展開は予想していなかった。これまでのシリーズがあったからこそ、哀しみの大きさ、重さが伝わってきます。
今回は「お告げ」を実行した子供が消えていくお話です。

どちらかといえば、今回は純たちよりも子供たちのほうが主だったかな。勇者になりたいと無鉄砲な行動を続けていた勇輝が、実は過去のつらい経験からなっている話には、胸が苦しくなります。あの体験をして、それでも怯えることなく立ち向かい、自分が勇者じゃないと言えた彼は、もう立派な勇者ですよね。
優等生であった穂高の無謀な行動も、理解できてしまうために、心の底からの願いが胸に痛いです。
子供っぽさに隠されていた複雑な思いの心理描写がとてもうまいと思いました。

このシリーズの特徴でもある人ではなくなっていくことに対する恐怖というか混乱は、相変わらず鋭いです。助けてくれとつぶやく言葉にこめられた思いや、なかったことにできたらという願いを思う場面は、切なさにあふれていました。
ただ、今回は切ないだけでなく、人外だからこそ成し得ることが出来たという展開だったので、いい話でしたね。

ここで終わってたら。

まさか、このあとにもうひとつ波乱があるとは思いませんでした。ただ一枚の紙でここまで連想させられるとは思いませんでした。
いや、すごい。すばらしい。
すべてが繋がってくる展開にゾクゾクさせられました。

次で最終巻とのことですが、どのような決着をつけるんでしょうか。何かしら幸せや希望が感じられる展開になってほしいなと思いますが……。
待ち遠しいですが、怖い気もします。

哀しみキメラ〈3〉 - 来楽 零

To the Navi / Page Top

哀しみキメラⅣ

哀しみキメラ 4 (4) - 来楽 零

純は人とキメラの間をさまよい、綾佳もまた体に異変を感じていたとき、京都で飛行機事故が発生した。修学旅行生が亡くなったことで話題になったが、そのせいか「モノ」が溢れているという。七倉の本家があるが、食事には事欠かなくなる。だが、京都では「モノ」だけでなく、かつての仲間と、さらに純たちを狙う仙谷の気配が見え隠れして……

霊的なモノに取り憑かれたことで、人とモノとの間の存在キメラとなってしまった男女の物語の最終話です。取り込んだモノの影響や体の変化からか、今までとは違って、三人が三人とも退廃的というか、どこか諦めな空気を感じました。この雰囲気には、なんともやるせない気持ちでいっぱい。

そんな三人が「モノ」に引き寄せられるかのごとく、京都に集まってきたわけですが、かつての知り合いや、敵対したはずのモノ祓い師たちとのやり取り、京都の結界を引き裂こうとする者の思惑などを経るうちに、少しずつ意識が変わっていくところが印象的でしたね。
明るい未来なんて想像できないだけに、真里と純のやり取りとか涙モノです。

もっとも変化があったのは、決別した水藤でしょう。人であることを止め、何かにつけて無関心出会ったはずなのに、七倉の幼き子の眼差しにイラついてしまったのは、自分の中の良心が疼いてることに、内心では気づいてたんでしょうね。指摘した戸塚の言葉に迷いを見せたとき、ああ、やっぱりこの人は優しすぎたんだなと、優しいからこそ、逆方面に行ってしまったんだなと思いました。固まった心を溶かすような涙に、どれほどの思いが込められていたことか。
愛する人と共にいることを夢想したのに、それでも、それだからこそ、愛する人と分かれる決意をした水藤の心に切ないものを感じました。

水藤だけでなく、純にしろ、綾佳にしろ、自分についてはどうでもいいけど、仲間は何とかしてあげたいと思う気持ちが伝わってきて、己を犠牲にしてでもという水藤と、水藤の気持ちに気づいてしまった純の声にならないやり取りは、もう辛くて辛くて。
キメラたちの哀しみは、残酷なようで、どこか透き通っていて……でもやっぱり哀しみに満ち溢れていました。周囲の人たちの哀しみこそ、僕の思いと一緒なんだと思います。

全員が全員ハッピーになることはありえないお話でしたが、それでも前を向いてくれることを見せてくれた最後に、良かったなあと思いました。静かではあるんですが、心揺らしてくれる感動に酔いしれましたね。素敵な最終巻でした。

哀しみキメラ 4 (4) - 来楽 零

Home > Series > 哀しみキメラ

Page Top

Search
booklines.net Recent Entries
Profile

Page Top