神様が用意してくれた場所 / 矢崎存美
神様が用意してくれた場所
そのとき、運が悪いことに探偵事務所にはあたしひとりしかいなかった。
探偵には興味が無く助手でもなく、たんなる雑用バイトのあたしだけど、人探しを望む女性の表情を見ていたら、話だけでも聞いてあげたほうがいいのではないかと思った。
いやな予感は当たった。存在しないはずの十字路を歩いているのを見た、と女性の旦那さんを最後に目撃した人は言うのだが……
探偵事務所に持ち込まれる依頼を追うお話ですが、ミステリーではなく、いわゆる「向こう側」がちょっとだけ絡むこともあるファンタジーといったところ。「向こう側」についてはほとんど明かされないので若干物足りない感じではありますが(もうちょっと理があると良かったと思う)、心地よい雰囲気に浸ることが出来ました。
個人的に一番好きなのは「すれちがいの季節」。2年前にたった一度すれ違っただけで、気配しかわからない人を探してほしいというお話。
惹かれあう男女の運命の物語っぽい展開でしたが、ラストであの決断ができるところが良いですね。信じるのであれば、強く願えば……、それは間違いなく運命となるでしょう。ある意味、香絵と小向は最高の仕事をしたことになりますね。切ないようで気持ちいい物語。
表題作である「神様が用意してくれた場所」は、まさにその名の通りの場所。それまでの話とはまるで違うため、一話の物語というよりはエピローグ的な印象でしたが、素敵な雰囲気だけでなく各物語の伏線の回収もあって、とても良かった。
これはいいですね。続編が読みたくなります。
神様が用意してくれた場所2 明日をほんの少し
帰宅途中に拾った携帯電話に、電話がかかってきた。「自宅」とディスプレイに表示されていたから、出てみたら、携帯電話の持ち主である三岡さん本人だった。これから受け取りに来るというので、拾った場所で待っていたが、いつまで経っても彼は来ない。やがて、電話で説明を受けたままの男の人が走ってきたが、どうも様子がおかしい。声を掛けたら立ち止まってくれたが、彼が掛けてきた言葉は意味不明なものだった。
「明日、ニセグミに会うよ……」
不思議なものを見たり、遭遇してしまう体質の少女・香絵が、拾った携帯電話を届けたら、そこには記憶が七歳へと退行後退した三岡学がいて……というお話。
ああ、いい雰囲気ですね。記憶を失くして子供のようになった三岡を放って置けなくなり、面倒を見てしまうところに、香絵の人の良さを感じますが、そんな彼女の優しさが、そのまま物語の雰囲気にも反映されているみたいです。ふわふわした感覚のおかげで、不思議な出来事も、違和感なく受け入れてしまいますね。>
三岡の面倒を見ながらも、探偵事務所での仕事は続けているんですが、ストーカーされてると思ったら、相手は既に亡くなっている人だった事件や、彼女の過去を知りたいと思った男の事件など、いわゆる「そっち」方面が絡んでくる話もあるんですが、何かと三岡がキーとなってくる展開が良かったです。
三岡の記憶の混乱が「家族」を思う気持ちから生まれたところは、何とも切ないものがありました。「明日が見える」ことが、苦悩の元であったのに、逆に望むものとなるなんて皮肉ではありますが、彼が記憶をなくしてくれたからこそ、香絵は命を救われたってことを考えると、この出会いは必然だったんじゃないかと思ってしまいました。
記憶を取り戻すために、その間の記憶と交換することを決意した三岡でしたが、きっと、また会えると、そんな予感があったんじゃないかな。切なくも、ひとつだけ手がかりが残されていたという終わりが素敵でした。
ただ、話が良くわからないところが、結構ありました。もうひとりの記憶の混乱者が出てきたときも、これはどういうこと?みたいな感じで、何度も何度も読み返してしまいました。説明が足りないとでもいうのかなあ。先のほうまで読んでいくと、だんだんわかってくるんだけど……。
雰囲気に浸ってるときに、わかりにくいところがあると、現実に引き戻されちゃうので、なんか、もったいない気持ちになる。
そういえば、香絵が忘れていることって何だろう。このあたりは、いつか明かされてくるのかな。
神様が用意してくれた場所3 いつかの少年
「あの子は、いないけど『いる』のよ」
「そうですね」
傍から聞いたら、多分受け流しているような言葉だろうが、実は実感をこめて言った。
だっているから。彼女の息子さんの涼祐くんは、いないけど、いる。
今も彼女の隣に座って、あたしをじっと見つめている。
不思議なものを見たり、遭遇してしまう体質の少女・香絵が、バイト先の探偵事務所で遭遇するちょっと不思議な出来事を追う物語の第三弾。今回は、四年前、小学二年生のときに亡くなった中嶋佳澄の息子、涼祐の「今」の学校での様子を調査をしてほしいという不可解な依頼が舞いこんできて、というお話。
普通だったら、お母さんの妄想だと思ってしまうんだけど、「見えて」しまったら、香絵としても放っておけないですよねぇ。依頼してきたお母さんも何かを隠していて、「見える」涼祐も何かを知っていて。
さらに、涼祐に引っ張られて、彼の友人だった海斗と出会ってみたら、彼もまた何かを隠してる様子が伺えたので、一体なんだろうと読み進めてましたが、海斗のお父さんが、探偵事務所の先輩・南治さんだから、話が微妙に複雑になってくる。
いや、複雑と言うか、南治家の家庭の事情が複雑で、父は子に、子は父に、どういう態度で接すればいいのかわからないってところがね。普段、格好いいのに、子に対するときだけ、おろおろする南治さんが可愛く思えたのは余談。
なぜ涼祐の学校での様子を知りたがっているのかってことが、海斗の「力」と関連してきて、だんだんと見え始めてくると、涼祐の死から見える物語が、逆になってくるところに、ポンっと膝をたたきました。そうか、受け入れてなかったのはむしろ……か。
南治家と中嶋家の確執については、真面目で不器用な人たちの思いが見えて切なくなりましたが、グミという存在によって、それぞれの思いが橋渡しされたところには、温かい涙がじんわり。
この人の見せてくれる雰囲気って、ほんといいなあ。
続きも期待です。
そうそう。登場機会が少ないけど、いい働きを見せてくれる社長が大好きなんで、社長による番外編が読みたいなあと思ったりする今日この頃。
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