断章のグリム / 甲田学人
断章のグリム(1) 灰かぶり
休んだクラスメイトにプリントを届けるだけのはずだった。地図を見ながらマンションにたどり着いた蒼衣は、階段で三階へ向かい、そこで目玉を刳り抜かれた女性に出会った。あまりの驚きに腰を抜かしそうになったとき、別のところから声がかかった。
「それ、あなたがやったの?」
そこには黒いゴスロリな服を着た少女が立っていた。
かくして僕は人間と神の悪夢 ――― そして童話との戦いを知る。
「灰かぶり」= 「シンデレラ」ということで、童話をモチーフにして繰り広げられる物語。
「シンデレラ」の元となったグリムの「灰かぶり」がどんな内容かは知らなかったんですが、そのあたりも無理なく説明されるので、とても興味深く読むことが出来ました。
さりげなく提供される情報から相手を導き出すというミステリィテイストもあるし、悪夢とそこに入ってしまった者の心の壊れ方、そして嫌悪感を抱かせる描写がとてもうまい。きれいにまとまってるところもポイント高いですね。
またひとつ、続きが楽しみなシリーズが増えました。
断章のグリム(2) ヘンゼルとグレーテル
『― いるわ』
骨まで凍みこむような冷たい気配が背後に立った。現れたのだ泡禍が。
だが、目の間に現れたのは、クラスメイトである委員長。
そして、その背後に駐車している車のフロントガラスには、赤ん坊のものと思われる手形がびっしりと浮かび上がっていて……。
ヒタヒタと迫り来る不気味さの秀逸さは相変わらず。
今回はヒロインである雪乃の心の中に入り込んでいく(踏みにじる?)展開でしたが、心の悲鳴を押し殺すような戦いが強烈でした。バトルとなる描写を抑えたことで、深みが増した気がします。
グロテスクな描写が取り上げられる事が多いようですが、本当に怖いのは心の歪みだなと思いました。どこか歪んでいる雪乃と蒼衣の関係は、悪い方へ考えてしまうとほんと怖いです。はたして、現実へ引き戻すための仲間なのか、それとも……
ハッピーエンドが予想できないだけに、今後の展開が気になってしかたありません。
ちなみに今回のグリム話はヘンゼルとグレーテル。
元となる話は知っていましたが、何となく読んでいた童話に対する解釈に思わず膝を打ちました。グリム童話の話をベースにしながらも、ひと捻りあるところがいいですね。
断章のグリム(3) 人魚姫・上
他のロッジから泡禍が発生した疑いがあるので、騎士を派遣してほしいという要請があり、神狩屋、雪乃、蒼衣が向かうことになった。出かける矢先に幼い少女の < 断章 > が予言した童話。それは『人魚姫』
この短い期間の間に三度目の予言。不吉な予感を抱えながら向かったかつて神狩屋が住んでいたという町で、神狩屋はかつて婚約していた女性の妹に出会い……
神の見た悪夢が怪奇現象となって、童話の形で現実となるシリーズ。今回はグリム童話ではなく、アンデルセンの童話『人魚姫』がモチーフになっています。
怖くて怖くてたまらないというホラーではなく、見ちゃいけないものだとわかっているのに、見ないほうが不安になってくるといった感覚のホラーですね。
いや、初っ端から描写がすごかった。視覚と触覚と聴覚に訴えかけてきますね。ずるりという感触に、うわあとなります。人魚姫でも出てくる泡に対して、こんな気持ちになるとは思わなかった。
前作まではそれほどグロさを感じなかったんですが(鈍いのかしら)、今回は一皮むけた感じです。うわ、比喩になってない。
それにしても、神狩屋にあんな過去があったとは思いませんでした。かつて愛していた人がいたという話には、涙が出そうになりました。
時折見せる表情に、未だ忘れられぬものを感じさせますが、同時に危うさも見えますね。いや、これが危うさなのか、それとも別のものなのかわかりませんが、冷静には見えない感じです。「それはあり得ない」と断言する根拠が何なのか、気になりますね。
泡禍により一気に事件が大きくなってきたところで上巻終了。
まだ全容は見えてきていないだけに、下巻が楽しみです。
断章のグリム(4) 人魚姫・下
蒼衣は、惨劇の場へ<葬儀屋>を案内していた。もはや、海部野家のその部屋に生きているものはいない。この泡禍の中心となる潜有者の可能性が高い千恵は、惨劇に巻き込まれて、両足を大やけどした。まるで、人魚姫が人となるための代償として、足を痛めたように。
やはり人魚姫の物語が絡んでくるのかと、神狩屋と蒼衣が謎を解こうとする間にも、悪夢は続き……
上巻の続きですが、いやあ、壮絶ですね。1、2巻はまだ手加減していたんだなと思いました。泡が襲ってくる恐怖が、これでもかと描かれています。
まあ、泡については、恐怖というより嫌悪感ですけど。ぷちっ、ぷちっというシーンでは、鳥肌が立ちました。食事しながら読んでたので、やばかったです(気をつけよう)。
誰が「潜有者」かと、状況から推測していくところは、毎回楽しみにしているところですが、今回もよかったですね。しゃぼん玉と髑髏の関係や、童話の新たな解釈など、なるほどなるほどと思わせてくれるお話には、とても惹かれるものがあります。こういうの調べていったら面白いんだろうなあ。
潜有者探しと同時に語られていく、神狩屋の過去話がまた重苦しいものでした。妻の志弦の思いはわかるだけに、残された遺書の言葉に、残された食事を見て思う神狩屋の気持ちに、涙がこみ上げてきました。
ですが
次に続く言葉で一瞬にして血の気が引きました。
共にいたいと願ったことが、歪みを生んでいくところは、恐ろしく思えます。
歪んでいるといえば、この状態でも、妻を愛している神狩屋も歪んでますよね。普段が決してそう見えないだけに、時折見せる冷たさが、恐ろしい。
怖さや嫌悪感ばかりが目に付く感じではありますが、それらを抜群に利用したミスリードにやられ、二転三転する展開には、ページをめくる手が止まりません。モチーフとなった人魚姫のストーリィに、カチっとはまっていく結末は、とてもよかったです。
最後に泡と消えた人の思いよりも、残された人の思いのほうが辛い気がしましたが、これからこの人はいったいどうなるんだろうと、思わず考えてしまいますね。
いやあ、面白かった。いろいろ感情を引きずり出されるところがありますが、それ以上に話へ引き込まれるシリーズですよね。
次はどんなグリム童話をモチーフにして、どんな物語を作り上げてくれるのか、とても楽しみです。
断章のグリム(5) 赤ずきん・上
小さなロッジを世話しているという四野田笑美に頼まれて、蒼衣と雪乃は、彼女と田上颯姫の妹が住む町で起きた泡禍による失踪事件を調べはじめた。だが、騎士を目指し、雪乃の名声に嫉妬する勇路は、事件の関係者を知っているにもかかわらず、雪乃たちに協力しようとはしなかった。自分たちの手で事件を解決すべく、颯姫の妹をつれて、動き出したが……
他のロッジから協力を依頼されて行ってみたら、情報を持っている勇路がまったく協力をせず、自分たちで解決するために邪魔をする始末ということで、ロッジも一枚岩じゃないんだなあと思った次第。
まあ、勇路の行動は、友人が絡んでいるということで、わからなくもないところもありますが、結局は、中学生にありがちな根拠なし自信が前面に出ているので、どうにも痛々しい思いです。特に、対応が遅れたことによって、更なる悲劇が生み出されていくところは、きついですね。もし協力していたら、あの子は……かどうかはわからないけど、想像するにやるせない。
今回のテーマは赤ずきん。寡聞にして知らなかったんですが、赤ずきんって二部構成の物語だったんですね。ってことは、そのあたりも考えての形になるのかな。
誰が「赤ずきん」や「狼」の役割を果たしているかはさっぱりわかりませんが、泡禍に巻き込まれた少女たちの関係も、なかなか歪んでいるところがあったので、この中の誰かであることは間違いないだろうなあ。さすがに情報が少なくてわかりませんけど(多くてもわかるとは限らないけど)。
毎回ちょっとした描写から不安を掻き立てるのが、うまいと思うんですが、今回もいろいろありましたね。初めて訪れた町の描写や、逆に感じなかった違和感とかにはゾクリとさせられること請け合い。「赤い髪留めの飾り」の一行なんて、ただそれだけの言葉なのに、不安から恐怖へと気持ちが変化させられましたよ。やめて、それ以上行かないでと思いながら、刃が光るところには、もう……
いつも以上に雪乃の容赦がないように思えますが、このあたりはまだよく見えませんね。上巻ってことで、まだまだ周辺話で終わってるからなあ。これから収束に向かうというよりは、まだ広がりきってない感じがあるので、これからどんな悲劇が待ち受けているのか、怖く思いながらも楽しみです。もちろん、いつものように童話の解釈も楽しみ。
断章のグリム(6) 赤ずきん・下
泡禍による失踪事件の調査の最中、雪乃は同じ<騎士>である勇路の攻撃を受けて、重体に陥った。雪乃と他人との緩衝材になれればと思っていた蒼衣は自分を責め、近いうちに目覚めるであろう雪乃のために、「赤ずきん」の謎を調べ始めたが、手がかりを得ることができないまま、次の悲劇を迎えて……
蒼衣と雪乃が、泡禍による失踪事件の調査に協力しようとしたら、地元の<騎士>が協力を拒んで……という、赤ずきんを題材にした物語の下巻。
いやあ、すごかった。なかなか全体像が見えない展開が続いていましたが、それでもイラつきとかはなく、引き込まれるばかりでしたね。自身の存在をアピールしたい勇路側で、少しずつ赤ずきんを思わせる符号が見えてくると、俄然面白くなってくるんですが、そこいら中に恐怖があって、ドキドキが止まりません。
特に、かの人が鋏を持ち出したときには、混乱もあいまって、怖さ倍増でした。
個人的に毎回楽しみな童話の解釈も面白かった。「お腹に詰め込む石」や「狼」から、ああいう発想を持ってくるところは、とても興味深い。泡禍なので、厳密な解釈じゃないところもあるんですが、それは幻想ってことで……と思ってたのに、まさかここまでピタッとハマる物語を持ってきてくれるとは思いませんでしたよ。配役が繋がったときには、思わず、ゾクっときてしまいました。
残酷極まりない描写が多々あるので、グロテスクなホラーというイメージがありますが、童話との繋がりを見ると、ミステリー要素も強いですよね。
その例によって例のごとくな描写で、一番きたのは、シルエットの残酷さを見てしまった女の子がいたところ……からの繋がりでした。石を詰め込む描写よりも、詰め込む精神状態に陥ったところがやばすぎる。あっさりとミスリーディングに引っかかってたこともあって、衝撃的でした。
これだけでも、心が痛むのに、最後はさらに輪をかけて後味が悪い。仕方のないこととはいえ、当事者たちが胸に抱えたものを思うと、心が重くなります。こんなことを続けていたら、間違いなく壊れるよなあ。
雪乃の新たな一面が見えただけに、彼女の強気な心が折れることがないか心配でなりません。
それにしても、今回は物語として終わりを見せつつ、先に不穏なものをいろいろ見せてくれたなあ。雪乃たちのこともそうですが、「最後の赤ずきん」が、今後何かの配役を割り当てられることになるのかが気になるところです。
断章のグリム(7) 金の卵をうむめんどり
「どうしよう……もしお母さんの指輪が見つからなかったら……」
訴える。想像するだけで奈落を覗き込むような絶望を。
「もし見つからなかったら……壊されたり捨てられたりしてたら……わたし、許さない。あの女を殺して……わたしも死んでやる……」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象を<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第七弾。今回は、イソップ童話の「よくばりな犬」「アリとキリギリス」「金の卵をうむめんどり」をモチーフにした<普通>の泡禍についての短編集です。
……いや、あとがきに<普通>って書いてあったけど、こんな日常が<普通>なのかと、げっそりするものがあるような。
まあ、事件に大きなからくりはなく、罪悪感などから生まれた<泡禍>に襲われて、それを雪乃が退治する、みたいなお話なので、普通と言われれば普通なんだけど、剃刀で顔を切られて歯茎を抉られたり、猫が猫の形じゃなくなったりと、エグくて痛い描写は、いつもと変わりません。むしろ、お話が短いおかげで、そこへ至るまでの道のりが、より直接的というかなんというか……。読んでて大変だった。
今回のお話で一番面白かったのは、表題作「金の卵をうむめんどり」ですね。雪乃がまだ普通の中学生で、姉の風乃が高校生として生きていた頃、再婚した継母との確執に、涙する雪乃の同級生・翔花が限界を迎えていくというお話です。
雪乃と風乃の……というか、ほとんど風乃の過去でしたが、こんなにも危うい人だったんですね。本人が危険というわけではないんですが、「こっち」と「あっち」の狭間にいるような存在感は、近寄ってきた人に影響を与えていくものがあって、母を恨む翔花の心が、少しずつ壊れていくところに、ゾクっとさせられました。なんせ、手が血に染まる行為をせざるを得ない状況に追い込まれて、それが自然なんですから。
何をしたわけでもないのに、追い詰められた人の心を、さらに先へ進めてしまう風乃の不安定な雰囲気が、切なかったです。
グリム童話との関連を見出す長編もいいけれど、人の心が崩壊へと導かれていく様が見えてくる短編もいいですねぇ。
断章のグリム(8) なでしこ・上
『優しい雪乃。心配事は何?』
「……姉さんの知ったことじゃないわ」
『もっと喜ぶかと思ったのに。久しぶりでしょう?それなのに浮かない顔してる。うふふ、当ててあげましょうか?』
風乃は嫣然と微笑んで、雪乃を覗き込む。
『あなたがそんな顔してる時は、最近はだいたい< アリス >のことだわ』
「……黙ってて」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第八弾。今回は、人魚姫の事件があった町へ再び訪れた蒼衣たちの前に、自殺した女の子・琴理の影が襲い掛かってくるお話です。
今までは、元となったグリム童話を知ってたけど(深くは知らずとも、あらすじぐらいは)、今回のモチーフとなった「なでしこ」は知らなかったなあ。悪い奴がやっつけられて、みたいなお話なんだけど、オチというかラストが残酷なのは、グリムらしいというべきか。
ともあれ、上巻ってことで、未だ謎は謎のまま解釈も進まないので、そのあたりは置いておいて、いつもと違うなと思ったのは、雪乃の様子でしょうか。神狩屋と蒼衣と離れて過ごしたとき見せた蒼衣への思いは、依存のようでもあるんだけど、嫉妬のようでもあり、なんか素直になれないものを感じました。というか、下手すると、蒼衣を……と思って、ぶるっと震えてしまうものがある。
それと、もうひとつ、今までと違ったのは、< 泡禍 >と思わしき事象が続きながらも、はっきりと断定できるものがないってところですね。事故なのか、それとも……というあたり、いまいち繋がりがみえなくてもどかしい。
とか思ってたら、突然、ビクッとさせる描写を持ってきてくれるから油断ならないです。
犬、枯れない花、見えない足あと、といった具合に、不吉なキーワードがそろい始めて、ついに< 泡禍 >全開かと思い始めたあたりで下巻へ続くんだから、まったくもってずるいです。いや、わかってるんですけどね。だから下巻出てから読もうと思ってたのに、読まずにいられない魅力に勝てませんでした。
ああ、早いところ下巻でないかなー。
断章のグリム(9) なでしこ・下
「どれだけ持つか誰にもわからん。時間を無駄にするな」
「ま、待てよ……」
「時間は誰も待ちはせん」
切って捨てる群草。
「さあ、始めろ。誰が殺すか、誰を助けて、誰を殺すかを決めろ。別れを済ませて、納得せい。それができんのなら――最後の最後まで足掻いて、せいぜい悔いがなくなるまで、足掻くといい」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第九弾。今回は、人魚姫の事件があった町へ再び訪れた蒼衣たちの前に、自殺した女の子・琴理の影が襲い掛かってくるお話です。
初っ端から容赦なく刃が襲い掛かるから、恐ろしいで。みしっ、ずずっ、という擬音と共に突きつけられる断罪が、ほんと心に痛いです。ひとりが倒れ、さらに危険が迫っているにもかかわらず、まるで<泡禍>の概要が見えず、さらには普通であることを頑なに守っている蒼衣に、学校が始まるというタイムリミットがせまって、雪乃と分断されてしまうんだから、不安が増加するばかりです。
直接的な強さという点では雪乃の方が上かもしれませんが、<泡禍>に対する姿勢でいったら蒼衣の方が冷静なので、大丈夫だろうかとドキドキものでした。微笑に狂喜を感じるし、さらに、一般人にも関わらず、事件の中心から離れようとしない臣がいてくれるから、こんな足手まといを連れながら……とドキドキ倍増でした。
もちろん、離れていても童話解釈話はできるので、蒼井と神狩屋がいろいろ話し合ってくれるんですが、やっぱり面白いなあ。塔や舌が意味するもの、もうひとつのなでしこなど、興味深いものがたくさんあります。見えているようで、でも、なんかしっくりこないもどかしさは、相変わらずクセになる面白さだなあ。
それにしても、不安に囚われて自分からがんじがらめになっていく様は恐ろしい。人は信じたいものを信じて、ドつぼにハマッていくんですね。
最後は珍しくちょっと救いがある……ように思ったけど、よく考えたらあの騎士がこれから味わうことは、覚悟の一言で終わるようなものじゃないよなあ。想像すると壮絶なものがあって、ゾクりとする。
壮絶で残酷な物語の上に、平穏が成り立っていると思うと……ね。
断章のグリム(10) いばら姫・上
「<異端>……!?何で?殺したはずでしょう?」
『さあ?』
雪乃の疑問を、風乃はくすくすと嘲笑った。
『でも、これだけは言えるわ。本当の狩人なら他人が言う「殺した」なんか鵜呑みにしないで、自分の手で殺した死だけを、信用すべきじゃないかしら?』
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第十弾。今回は、解決したと思われた泡禍事件の後始末に向かった雪乃と颯姫が<異端>に閉じこめられて……というお話。いばら姫がモチーフになっています。
これはゾクゾクした。読んでて鳥肌たちまくりです!
生理的嫌悪感を見事に刺激してくれました。
扉にかかった指ぐらいなら、ゾクぐらいで済んだのに、芽が生えてきたら、もう!
脳内映像が一気にきて、ぷちぷちしてるところなんて音付きで再生されてやばかったです。
とまあ、そのあたりはさておき、<異端>により、入ることはできても、出ることはできない閉ざされた空間で繰り広げられる惨劇は、いつになくピンチの連続でドキドキです。
これまではどちらかといえば、泡禍を起こしているのは誰?という謎が主だったのに、今回はその部分は既に終わっていて、倒せない敵と対峙しなければならない恐怖がありありと伝わってきます。
あと、これまでにない雪乃の迷いというか、焦りが感じられると、なんともいえない気持ちになってきますね。
もう少し蒼衣を頼っても……と思うんですが、彼女のプライドがそれを許さないようなので、うーん。変にこじれないといいんだけどなあ。
なまじ蒼衣が雪乃の騎士然としてるので、よけいそう思うのかもしれませんが、いま起きている現象から逃れるには、蒼衣の力が必要になることは間違いないでしょう。
いばら姫の物語をどうやって解釈していくのか楽しみです。
断章のグリム(11) いばら姫・下
『どう?あの<異端>と何度も対面したけれども、少しは彼女を理解できた?この悪夢の城の主、死なない<異端>のことを』
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第十一弾。今回は、解決したと思われた泡禍事件の後始末に向かった雪乃と颯姫が<異端>に閉じこめられて……といういばら姫がモチーフになっているお話の下巻です。
ああ、ゾクゾクする。
何をやっても倒せない異端に、何とも言えない焦りがじりじりと浮かび上がってきて、さらには可南子と葬儀屋にまで手が伸びてくると……。閉ざされた空間にいる強敵といだけでも重苦しいのに、「芽」が浸食してくるさ嫌悪感が相まって、読んでる僕まで閉じこめられた思いでした。思わず自分の腕を見てしまった僕がいる。
どうやって<泡禍>を終わらせるかという混乱に拍車をかけたのは、リカの手によって派遣された勇路とその連れの存在ですよね。いったい何のために、何があって?疑問が尽きないし、微妙に非協力的だし、ああ、もう、おまえら生きるために動こうよと何度言いたくなったことか。
絶体絶命の連続ではあるんだけど、恐怖という点ではむしろ、正気でありながら狂気をも上回る暴走のほうが恐ろしいと思いました。普通とは違う論理で動かれると、わかり合うための距離が遠くなるから……この切羽詰まった状況では、ただただ恐怖を感じますね。
しかも、いばら姫の謎がなかなか見えないので悶々とさせられるし。
事件解決はまさにぎりぎりだったと思いますが(個人的にはもうちょっと解決編にスペースを分けてほしかった)、事件に関わった人たちの心には、大きな棘が刺さったような気がしちゃいますね。当事者はもちろんのこと、葬儀屋の力や風乃の思惑は……今後、蒼衣に何かよからぬことが巡ってきそうで、不安すぎる。
断章のグリム(12) しあわせな王子・上
「白野君……今、昔のトラウマに関わる夢を見たりとか、しなかったかい?」
「……!!」
「それはね、<断章>が、表層意識に浮かび上がってるんだ」
そう、神狩屋。
「しばらくは、できるだけ気を落ち着けるように気をつけた方がいい。君の心が不安定になると、<断章>が暴発する可能性があるから」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第十二弾。今回は、葬儀屋の死体焼き場から死者が逃げ出し、雪乃と蒼衣が呼び出されたが、そこで新たな<泡禍>が始まって……オスカー・ワイルドの幸せな王子がモチーフになっているお話の上巻です。
これはやばい。まだ何が始まっているわけでもないのに、悪い予感しかしないです。
死んだ人を生き返らせるというのは、途方もない力のように思えるけれど、その過程を知ると、どれほど歪んでしまうものかがわかるだけに、逃げ出した死体と、それを連れている少年の行く末が……。なまじ二人の間に「何か」を感じてしまうからこそ、きつく感じる。正気でありながら歪んでいく。これが目の当たりにした人たちの精神なんだと思うばかり。
これだけなら、ある意味いつものグリムなんですが、今までにない展開が待ち受けているから、不安が増加していきます。蒼衣を襲った出来事と、彼のトラウマが、何らかの暴走を引き起こしそうで……。彼に対して複雑な思いを抱く雪乃も、きっかけがあれば大きく揺らいでしまいそうだからドキドキしますね。
下巻でどんな展開が待ち受けているのか、モチーフの謎解きと併せて楽しみです。
断章のグリム(13) しあわせな王子・下
「<異端>はいつでもここにいるんだ」
神狩屋は、顔を伏せたまま。
「ここにいる僕らの誰がなっても、おかしくないんだ」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第十三弾。葬儀屋の死体焼き場から逃げ出した死者を追いかけるお話しの下巻です。
ああ、まさかこんな……いつになく冷静でない蒼衣に危うさを感じていたけれど、警戒心があがった雪乃がもしかしたら抑えてくれるかと思っていたんですが、こんなにも皮肉な展開が待ち受けているとは思わなかった。追うが故に、か。
動く死体である浅井安奈を連れた多代亮介は、元々は逃げることを目的としていたはずなのに、好きな子のためにという思いに変わっていく、まではわかるけれど、泣きながら彼女を傷つけていく思いは……初めはわからなかったけれど、後にこの断章の答えが見えたとき、ようやく理解しました。ああ、だから「しあわせな王子」なのか。
それにしても、今回のお話しで衝撃だったのは、騎士たちすら危ういという真実が見えてきたことでしょう。抱えている傷を考えると、予想して然るべきでしたが、これまで協力関係にあった人たちでさえ、完全に信用できないというのは、恐ろしさと、それ以上の悲しさがあります。身近にいる信頼できる人でさえ……か。もしかしたら、今後蒼衣は揺れるようになってしまうんじゃないかと思ったりしますが、さて、どうなるかしら。
ところで今回の惨劇はひどいですね……規模の大きさもそうだけど、頬に歯が生えてくるとかグロッ!
断章のグリム(14) ラプンツェル・上
「それで気が済むなら、恨まれてあげるのも<騎士>の役目だわ。そんなもの、私は気にならないから問題無い。恨んで、それを支えに生きていけるなら、そうすればいい。私が<泡禍>を憎んでそれを支えに生きているみたいに、同じようにすればいい」
「……」
「邪魔さえしなければね。無意味で見当違いな恨みを好きなだけ抱えて、不本意に生きて、何もできずに死ねばいいわ」
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第十四弾。今回は、「葬儀屋」の件で責任を取ると言い出した蒼井が、雪乃と共に、髪を引っ張る―引き摺り下ろす、ラプンツェルの泡禍に巻き込まれていくお話です。
何がきついって蒼井の精神状態がきつい。責任感というのは、時にこういう弊害を起こすこともあるんだなあ。悪夢に参っていることもあるけれど、誰からも責められない、あるいは神狩屋に守られているという事実が、真綿で締められるように、じわじわと彼を蝕んでいくというのが何とも皮肉に思います。そんな蒼井を、責める口調でありながら、しっかりさせようと支える雪乃さんの存在が嬉しかった。
事態は、嫌がらせで蒼井を呼んだロッジに、ラプンツェルの悲劇が起ころうとしているんだけど、一見すると物語に当てはまるような人物配置があるような気がしつつ、それ以外の何かがありそうな感じで、じわじわと怖い。不安を押し殺してしまうことで、かえって被害が大きくなることはこれまでもありましたが、支えとなっていた存在を失ったことによる暴走がどうなるのか……葬儀屋の件が別の形で入り込んでくるから、収拾がつかなくなる気がしてドキドキが止まらない。
ラプンツェルは、名前は聞いたことあるけれど、話は寡聞にして知らなかったんですが(そもそも野菜だってことをはじめて知った!)、そのきっかけ……になったかどうかわからないけれど、可能性がある事件の当事者たちが、寄り添っているという状況は、いったい何を意味するんだろう。部屋の様子そのものよりも、その部屋について違和感を覚えていなさそうな家族がなんだか怖いな。
いまのところあまりグロいことはなく、といっても、髪の毛を引っ張ったら、ぽろんとか、がんっ!という音が鳴り響く状況は……と思いつつ、このままだと全滅しそうな気がして、さてどうなるのかしら。続きが気になってしょうがないです。
断章のグリム(15) ラプンツェル・下
『うふふ、責めてないわ。大切なものって、そういうものよ』
『誰もが持ってる大切なものは、そのために自覚的無自覚的に他のものを犠牲にして、その屍の重さでどんどん重くなっていくのよ』
『それで気づいた時には……もう重くて、両手から下ろせなくなってるの』
<神の悪夢>が童話の形をなぞって現実となる異常現象<泡禍>を、<断章騎士団>の時槻雪乃と平凡な高校生だった白野蒼衣が追うシリーズの第十五弾。「葬儀屋」の件で責任を取ると言い出した蒼井が、雪乃と共に、髪を引っ張る―引き摺り下ろす、ラプンツェルの泡禍に巻き込まれていくお話の下巻です。
まさか、こんなに救いのないお話になるとは思わなかった……ああ、それこそがラプンツェルの本質だったのかと知ったあと見せられる「手」の導きに、ぞくっとなった。むしろ、気づかぬまま、幻想に導かれていったほうが幸せだったのかもしれないと思うほどに。
またそこに至るまでの過程も……何が怖いって、そちらに踏み込んではいけないということがわかっているのに、踏み込まざるを得ない状況が作られてしまうことですよ。怪異のなんと悪辣なことか。携帯電話の着信音に呼ばれているとわかっていながら、血の海を歩いていく様が、童話をたどっていく様が、きつかった。
でも、それ以上に背筋が寒くなったのは、葉耶の言葉が現実となっていくところでしょう。
蒼井を恨むものが容赦なく襲い掛かってきて、かろうじて生き延びながら、ラプンツェルの泡禍を辿っていったはずなのに、見えたのが「狂気」だったから、本当にもう……ここまで追い込まれるとは思わなかった。精神的にはいつ折れてもおかしくない。それでいて、相手の気持ちがわかってしまうから、複雑な気分になるんだよなあ。断章に関わった人たちは、いつ、ああなってもおかしくない狂気が隠れているから、ぞくぞくする。
一方、雪乃の心境の変化が見えたお話でもありました。これまで人を寄せ付けず、ただただ目の前の敵を倒してきた彼女が、丸さを自覚していくところは、ね。怪我をして動けない蒼井を置いていくことで、昔の自分を取り戻そうとしていたのに、姉の言葉で揺れてしまうんだから、いかに蒼井の存在が大きくなっているかがわかります。まあ、そう簡単には認めないと思いますが……彼の傍にいる見えない女の子に気づいてしまったことは、このあとどう影響してくるのか気になるところ。
今回の童話解釈も面白かった。ラプンツェルの王子がたどり着いたところは……という意味には、ポンと手をたたいた。ただそこが本質でなかったと気づけなかったあたりは、神狩屋の願望が混じっていたからだと思います。「魚」を生み出すことを躊躇しなかった彼の精神状態は危うく思ったけれど、蒼井を襲った勇路と対峙したときには、むしろ冷静に思えたから……ここからひどいことになっていきそう。
はたしてこれは新たな始まりなのか、それとも終わりの始まりなのか。続きに手を伸ばすのがドキドキ。
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