遠征王シリーズ / 高殿円
ジャック・ザ・ルビー 遠征王と双刀の騎士
農奴から騎士の身分を目指していたジャックは、相棒の代わりに居酒屋で暴れていた女たらしのオリエとペアを組んで、名のある傭兵が出場するトーナメントへの参加した。順調に勝ち抜いていったが、なんと、主催者の女城主の「愛人」にふたりして選ばれてしまい……
同じパルメニアを舞台にしたマグダミリアシリーズよりも250年前のお話。マグダミリアシリーズでも名前は出てきた遠征王ってことで、楽しみにしてましたが、まさかこんな突拍子もない王様だとは思いませんでした。遠征王なんてかっこいい名がついてますが、実はただの温泉好きで、城を抜け出していろいろ旅している王様だったなんて……。僕の憧れの気持ちを返してください。といいつつ、笑いまくり。
というわけで、第七身分(農奴)から騎士を目指すジャックと、オリエこと男装の女王アイオリアが出会いから始まるお話ですが、このふたりの旅の面白いったらないですね。一緒に温泉にまで入っているのに、相手の性別に気づかないジャックの鈍さにおいおいと思いますが、お人よしっぷりが、何かと楽しい。女城主の「愛人」に選ばれたときの「始めて」話のときとか、笑わせてもらいました。
全体的に軽いギャグが連発されるお話ではあるんですが、時として見せるシリアスな描写が素敵です。個人的に一番印象に残っているのは、貧しい生活をしてきたジャックが、安易に子を産もうとする女城主の娘エティエンヌを責めた後に、彼女が決意を固めたときのシーンですね。エティエンヌ自身の資質もあるんでしょうけれど、母なるものになろうとする人の心の強さに感動させられました。
表紙を見たときには、てっきり王と騎士の恋仲物語になるのかと思ってましたが、いやはややってくれるぜ、アイオリア。鈍いジャックが言葉を尽くせるように、舞台を整える手腕にニヤリです。こういう気遣いがさらりとできるあたり、王様っぽくないけどいいですね。口下手な二人のやり取りは、ほんと良かったなあ。
ジャック中心の物語だったので、アイオリアの印象といったら、軽い感じしか残らないんですが、それでも「覚悟」を見せるところとか、良かったですね。この人の下でなら、と思えるのも判る気がします。
一介の濃奴を取り上げたアイオリアの目の確かさがわかる「ジャック・ザ・ルビー」の名を知らしめるシーンは、脳内で映像化されるほどでした。いやあ、かっこいい。
最後まで締まらないところが、非常にアイオリアっぽいですが、他国との争いは、まだ始まったばかりの感じなので、今後いろいろありそうですね。軽い感じのところは、正直もったいないなと思いましたが(といいつつ、コック集団は楽しみなんだけど)、シリアス方面にいけば、心揺さぶられることは間違いないでしょう。次作以降がどういう展開になっていくのか、とても楽しみ。
エルゼリオ 遠征王と薔薇の騎士
パルメニアの政策をよく思わない星山庁の調停員が、釘を刺しにやってくるというのに、アイオリアは新たな愛妾探しの旅に出てしまった。愛妾探しに付き合わねばならぬことを嘆いていたジャックだが、旅の途中で、ジャックの相棒のガイと出会い、なんと彼に娘がいることを知った。興味を持ったアイオリアは、美人だというガイの娘に会いに、異民族との争いが絶えないルルドへ向かったが……
愛妾探しと見せかけて、他国のきな臭い動きを確認するために、アイオリアがジャックの相棒ガイの故郷へと旅するお話ですが、うーん、いや、つまらないわけじゃないです。むしろ十分面白いです。ただ、何ていうか、チグハグさみたいなのがあって、そのあたりが物足りなかったかなと思った次第。
ルルドの領主と放浪な民エルゴーネの間に確執のあたりが、原因かも知れませんが、そういうところを抜かすと、とても心に来るものがありましたね。カレンとガイの悲しい過去には、グッとさせられるものがありました。
「約束」として引き取った娘のアデラが、二つの民族に挟まれてしまうことになってしまったのは、何とも皮肉なところですが、それでも故郷を思い、いつしか家族ではなく一人の男としてガイを思うようになったところは、良かったですね。特にあの薔薇を渡すシーンは、もうほんと嬉しくなっちゃいましたね。心温まるなんてもんじゃなかったです。
いや、一番良かったのは、王に仕えることをよしとしないガイを手に入れるために、画策するアイオリアですけど。相手の弱みを突いていく嫌らしさは、相変わらず素敵。
ただ、最も印象に残ったのは、ルルド地方での出来事やガイについての話ではなく、アイオリアとミルザの関係でした。ミルザに対するアイオリアの思いには、かなり複雑っぽいですよね。引け目だけじゃなく、それ以外の感情もあるみたいですし、そこにはナリスも関係しているみたい。一体、過去に何があったんだろう。時折見える過去のシーンでの優しさ溢れるやり取りだったのに。
おかげで、だんだんと人間関係が複雑になってきた感じがあります。これはいい具合に宮廷ものっぽくなってきた感がヒシヒシと伝わってきて、ワクワクが止まりません。最後に頼ったゲルトルードは、どのあたりに位置するのかわかりませんが、今後この人が表に出てきたりするのかしら。彼女の笑みには寒気がするばかり。
次あたり、もうちょっと、それぞれの関係が見えてくれると嬉しいですね。
ドラゴンの角 遠征王と片翼の女王
国王の誕生日に開かれた夜会で、ゲルトルードが衝撃的な発言をした。なんと、退廃を好むロゼッティ家のアーシュレイ伯爵と結婚をすると言い出したのだ!大反対したアイオリアは、ゲルトルードをかけてアーシュレイと決闘をすることになった。暢気な空気が漂うパルメニア国だが、裏ではアイオリアを偽王と叫ぶ反国王派が暗躍し始め、ゲルトルードやアイオリアの愛妾たちを投獄し始めて……
ゲイトルードの結婚話かと思いきや、偽王を討たんとする反国王派が立ち上がって、というお話でしたが、影の存在であったゲイトルードが、前面に出てきましたね。自身の結婚話をはじめとして、あらゆる出来事が彼女の手のひらの上で踊っているかのような、冷酷さと鋭利な思考回路に惚れ惚れ。
今回の騒動のおかげで、ようやくパルメニアにおけるアイオリアの位置付けが見えてきましたね。なるほど、かつてシレジアに向かわされたのは、貴族たちにそういう思惑があったからなのか。幼い子に対するあまりにも残酷な選民思想が心に痛いです。特に、その後、こちらへ戻ってきた道のりのことを考えると……。ナリスも苦労したろうなあ。
なりたくもない国王になって、それでも頼ってくる人のためにと頑張っていたアイオリアの心が切れてしまうところは、気持ちがわかるだけに切ないです。
計算尽くしなゲイトルードの唯一の計算違いが、アイオリアの心情だったわけですが、初めて仮面が崩れたときのゲイトルードが、とても印象的でした。アイオリアが依存しているのかと思っていたんですが、実はゲイトルードのほうが、というところが意外でした。
この二人の関係は、見えてるようで、まだ見えない気もするけど、さて、どうだろう。
反国王派の面々のやり方は、正しいところもありましたが、結局のところ、自分たちが権力を握るためのものでしかなかったので、そこを突かれると弱かったですね。人は血に従うのではなく、人に従う。はったりであっても、自分の言葉を信じさせたアイオリアがかっこよかったです。
最後のシーンを読んだとき、ゲイトルードの思惑を知って、そこまで計算していたのかと驚きましたが、同時に彼女自身、選ばれた血であるところから逃れられないのが、何とも言えない皮肉を感じました。っていうか「史実において―」という一段落に書かれてることが、はたして幸せから生まれたことなのか、それともなのかものすごい気になります。
最後にどうやらミルザがまた新たな手を打ってきたみたいなので、今後彼がパルメニアに対して、どんな手を伸ばしてくるか、楽しみですね。
尾のない蠍 遠征王と流浪の公子
ボッカサリアは貧しい国だった。頼みの綱の銀鉱も底をつき始め、借金を返すあてもない。このままでは国庫が破綻してしまうと考えた王太子ルキウスは、裕福な国と姻戚関係を結んで援助を受けるしかないとして、出戻りとされるパルメニアのアイオリアに求婚すべく戴冠式を開いた。一方、星山庁からのとある通達を受けて、荒んでいたアイオリアは、ナリスとの間に壁を作ったまま、ボッカサリアに向かい……
国の借金をどうにかしようと、ポッカサリアの王太子ルキウスが戴冠式にかこつけて、アイオリアというかパルメニアと姻戚関係を結ぼうとするお話ですが、まだまだ少年なルキウスが頑張る姿がいいですね。はじめは義務感からアイオリアと対面していたのに、話し合うにつれて、アイオリアの見識の深さと優しさに惹かれていく姿が、なんとも言えないぐらいいいです。憧れのお姉さんに恋をする感じが伝わってきますね。
アイオリアも、自身の辛い経験があるからか、必要以上にルキウスに対して、優しかった気がします。ひょっとしたら、弟のように思えたのかもしれませんね。この二人のやり取りは、恋愛要素とか抜きにしてよかったです。
そんなアイオリアが未だ心に留めているミルザとのやり取りは、切なくなりましたね。舞踏会での踊りひとつで、アイオリアの揺れる気持ちが、とても伝わってきました。国の思惑で出会ったふたりが、国の思惑で引き裂かれてしまった経緯に胸が痛いです。
彼女の強さと弱さが見えたお話でしたが、胸に痛いといえば、ナリスのほうがきついかも。パルメニアの策略によって滅んだシレジアから無事抜け出すためとはいえ、これほどの覚悟をしていたとは……。絆を超えるものを貫くほど、相手を思っているのに、イオリアの幸せを自分の手で作り上げることができない状況の残酷さが響きます。
ちなみに、いつものように、ジャックとガイだけはアイオリアについてきたけど、告解シーンで爆笑を振りまいただけで、特に何をするでもなかったのが残念。
さて、次が最終巻だそうです。普段は傲慢に見えても、何かと繊細なアイオリアなので、体と心を傷つけられることとなったあと、いったいどうなっていくんでしょう。不安だなあ。ミルザも過去に囚われている感じがあるし。このふたりが……ってのは無いと思うんだけど、どういう結末を迎えるのか、気になりますね。
運命よ、その血杯を仰げ 遠征王と隻腕の銀騎士
囚われたまま肌を合わせる日々が続く。いつしか彼に対して、淡い気持ちが生まれてきたが、そんな時、ホークランドの皇女が訪れてきた。ミルザと結婚し、お腹に子を宿しているフランシアが。彼女の決意に心打たれたアイオリアだが、そんなおりにホークランドの皇太子殿下が亡くなり、アイオリアとミルザはホークランドを離れて……
ついに迎えた最終巻。ミルザの悲劇とパルメニアの女王の決断が描かれるお話です。
ああ、やっぱりと思ったのは、アイオリアがミルザへ感情移入してしまうところですね。優しすぎる彼女が、あの過去を共にした人を見捨てることができないのは明々白々だったから、堕ちていくような感じのところは、辛かったなあ。ミルザ自身もわかっていたからこそ、ああいう決断をしたんでしょうね。最後の最後まで、彼はアイオリアのことを思っていたことがわかるシーンに、じわりとくるものがありました。
おかげで、アイオリアとしては、呪縛から解かれることができたわけですが、個人的にはもう一人呪縛されていたナリスがどうなっていくのか気になっていました。大切なものと、そのままであったならば苦しみの種になったかもしれないものから逃れる事ができたのは、後から考えると、むしろ、ナリスとアイオリアを思っての行動に見えまたが、ナリスからしたらやっぱり辛いよなあ。ううむ。
ともあれ、これでタイトルどおりのことになったわけか。
中盤からは、何ていうか、最終巻の最終章みたいな流れがずっと続いてましたね。誰かさんに子供ができたり、誰かさんが求婚したり、壁のあった姉弟が手を取り合ったりなどなど、平和な笑いなどが見えて(コック軍団のカモ話は爆笑でした)、楽しいんだけど、どこかに不安みたいなのが流れてて、落ち着かない状態だったのは、アイオリアが後始末っぽいことをしていたからかな。
たぶん、これから自分はどうしていくべきか、いろいろ迷ったんだと思いますが、キップリンの卵について、見知らぬ少女と言葉を交わしたときに、本当の意味で決意したんでしょうね。最後の遠征は、意表を突きつつ、それでいてアイオリアらしいものでした。
もうね、最後がほんと涙が出てくらい、幸せな空気と、切ないものを感じましたよ。彼女のために生き、彼女のものを守って、ついに永遠の眠りについた女性は、きっと幸せだったと思います。彼女の最後の言葉と孫の一言に、涙が……。
いやあ、ほんと良かったです。シリーズ当初はどんな軽い話になるのかと思いましたが、話が進むにつれてシリアス度がまして、胸の中に切なくも温かいものを残してくれました。パルメニアに遠征王あり、ですね。
まだ遠征王シリーズでは、番外編が残っているので、楽しみにしたいと思います。
遠征王と秘密の花園
いとこどのの結婚にショックを受けていたアイオリアだが、さらに衝撃的なことがおきた。第一寵妃であるオクタヴィアンが「花」である栄誉を返上したいと言い出したのだ。何としても引きとめたいアイオリアは、交換条件を申し出た。アイオリアが勝ったら引退をさせない、負けたらオクタヴィアンの願いどおり、アイオリアの花園に「男」を入れると。そして、王宮すべてを巻き込んだかくれんぼうが始まって……
三日間、アイオリアがオニに見つからなかったら、後宮に「男」を入れるという勝負を描いた遠征王シリーズ番外編。いくらなんでも、かくれんぼうな番外編だとは思わなかったけど、それはそれ。オクタヴィアンとしては、女王が男を苦手としていることは、やっぱり不安だったんでしょうね。甘えるのがうまいようで、実は不器用なアイオリアのために、という心遣いはよくわかりますが、何ですか、その「アイオリア様に乙女になっていただこう計画」って。
これだけでも笑いましたが、男の愛人話が王宮中に知れ渡ってしまって、さらに「始めに女王を見つけた人が、花園入り」なんて話になってしまってからは、もう楽しくて楽しくて。「私もアイオリア様の花園に入り隊」とか、「柱の陰」会とか、暴走しすぎです、高殿さん。
寵愛を受けているクラウディアとかも、お嬢様な姿をかなぐり捨てて楽しい限り。一番面白かったのは、男を迎えるかもしれないという噂に、悶絶するナリスでしたけど。さっさとおまえが動けばいいのに……。いくじなし。
騒ぎの中心だったアイオリアは、ひとりシリアスなことしてましたが、この時期に自分を見つめなおす時間があったのは良かったんでしょうね。弱さを見つめ、そこから逃げないことを決意したアイオリアが素敵でした。
いや、一番素敵なのは、衣装を繕う人のことまで、忘れなかったことですけど。きっと、小さな頃にお世話になったことや、竜を刺繍してもらったこととか、全部覚えていたんでしょうね。小粋な演出にグッとさせられるものがありました。やっぱ、カッコいいよ、アイオリア。
最後の最後は、最終巻と同じ流れでしたけど、わかっていてもやられました。ゲルトルードは、きっといつまでも、いとこどのと呼ばれたかったんだろうなあ。いろいろな思いを感じた最後でした。この魅力的な人たちとも、これで最後だと思うと名残惜しいですが、素敵な物語をありがとうといいたいですね。
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