アダルシャンシリーズ / 雨川恵
アダルシャンの花嫁
北方の小国であるアダルシャン王国が、不敗を誇ったカストリア帝国を打ち破り、二つの国の間に講和が締結された。その条件の一つとして、カストリアの皇女が、アダルシャン王の異母兄弟であるアレクシードの元に嫁いでくるという。
政治には疎いアレクシードでも、この結婚の意味はわかるが、無理やり結婚させられることに納得がいかない。相手の立場を考えたらなお更だ。
納得がいかず不貞腐れていたアレクシードだが、嫁いできた皇女をみてさらに驚いた。なんと、カストリア帝国の皇女殿下であるユスティニアには、10歳の女の子だったのだ……
常勝アレクシードの元に10歳の女の子が嫁いできたら、その女の子がアレクシードを恨んでいて……というお話です。いやあ、この皇女はいいですね。素直で、聡明で、子供っぽい意地っ張りさもあるんだけれど、誇り高きところが、何とも愛らしい。「タイタニア」に登場するリディア姫が好きなら、文句なしでユスティニアも好きになれるでしょう。
はじめは無理やり結婚させられることに憤慨していたアレクシードが、ユスティニアの誇り高さに愛らしさを覚えていくところは、とてもいいですね。
ただ、アレクシードがユスティニアに対して好意を抱いても、相手から恨まれては面白くないわけで。いや、アダルシャンで英雄なら、敵国であるカストリアからは悪魔のように思われるのは当然で、相手が10歳の女の子であれば、そう思われてしまうのは、アレクシード自身もわかっていると思います。
だからといって、自分は恨まれているのに、部下であるフラッドがユスティニアを相手にいろいろ遊んでいる姿を見たら、羨ましく思わないわけがないですよね。アレクシードの釈然としない気持ちとか不器用さが、とてもかわいく思えてしまいます。ああ、楽しい。
そんなお城の中の微笑ましきお話が、晩餐会での毒料理が出てくるというところから、陰謀劇へと発展していくんですが、この騒動でアレクシードの心情や、冷たき人だと思っていたユーゼリクスの弟への思いが見えてきたのはよかったですね。まったく、お兄ちゃんは素直なじゃないんだから。
そして何より良かったのは、ユスティニアとアレクシードの関係でしょう。恨みつらみをもっていたユスティニアが許すというよりは、アレクシードがユスティニアによって、救われていくところがとても素敵でした。初夜の寝所での出来事もまた良かったですし、たまりません。
いやあ、良かったです。これは個人的ヒットだなあ。きっと、これからアレクシードはユスティニアに振り回されていくんだろうなあと思うと、ニヤニヤさせられちゃうものがありますね。どんなことが待ち受けているのか、続きがとても楽しみです。
ハルシフォンの英雄
極寒の冬を迎え、雪に包まれたアダルシャンを最も喜んだのは、ユスティニアだった。だが、この雪が無くなれば、隣国であるブラウクレントと相対する可能性が高い。ユティとのことも、戦争を見越してのことだったのだろうと、先見の明に改めて、感心していたアレクシードだが、そんなある日、国王が倒れたという知らせが届き……
ユーゼリクスが倒れたことで、アレクシードの周囲が一変してくるお話です。近衛軍の長であるサーマイルが亡くなったのは、アレクシードが原因であるという悪評に、身分卑しき出生という偏見も加わって、周囲の目があまり芳しくないところに、王位継承権争いが絡んでくるということで、アレクシードからしたら、ある意味、自分と関係ないところで苦労をしなきゃいけないお話でしたね。
個人的には、ユティとアレクシードの仲がどうなっていくのかとワクワクしてたんですが、そっち方面の話があまりなかったのは残念です。とはいえ、ところどころで、ふたりの微笑ましいやり取りが見れるので嬉しいですけど。
個人的に印象に残っているのは、ユティが貴族のお嬢様ファーナとケンカをしたときの話ですね。時期が時期だけに面倒ごとをと思って憂鬱になっていたアレクシードでしたが、その理由を知って心のトゲのようなものが無くなっていったところに、とても温かいものを感じました。きっと、味方が少ない今、自分を思ってくれる人がいるという支えがあることは、本当に頼もしかったんだと思います。また、そんな人が側にいてくれたことも感謝したくなったんだろうなあ。このシーンはホント良かったです。
それにしても、アレクシードって、モテるのかしら?ファーナの態度を見ていると、ユティに対しては、アレクシードの妻という意味での嫉妬みたいなものがあったのかなーと思いますね。今回の件で角が取れたかもしれないから、ひょっとしたら、ファーナとユティはいいお友達になれるかも、なんて甘いかしら。
ごめんなさいと言って、ギュってするところが、たまらなかったです。あー、いいわー。
相変わらずユーゼリクスは、アレクシードに冷たいですが、実は弟を思っての行動だとわかってくると、温かさを感じますよねぇ。まあ、言葉が足りないから、逆にアレクシードが突っ走っちゃうんですけど。
すれ違いながらも絆を感じさせてくれる不器用な兄弟が素敵です。
お話としては、ちょっと短いかなーと思わなくもなかったですが、面白かったですね……っていうか、最後に微笑ましく終わるのかと思ったら、最後の一文で強烈にインパクト与えてくれて、どうしてくれよう。
ここからどういう展開になっていくのか、とても楽しみになってきましたね。
グラーレンの逆臣
いよいよ時が来た、と思っていたが、南の隣国ブラウクレント選王国との戦争は、宣戦せず、相手が仕掛けてきてから、こちらが反撃するという形式を取ることにしたらしい。兄である国王ユーゼリクスが何を考えているかわからないが、アレクシードは言われたことをするまでだ。
だが、心残りなことはある。三日後には戦地に向かわねばならないのに、未だ妻であるユスティニア姫にそのことを告げておらず……
グラーレンに向かうことを告げたアレクシードとユティの間に亀裂が入って……というお話ですが、言いにくい気持ちはわかりますよね。相手はまだ子供ということもあるし、もしかすると帰ってこれないかもしれないのですから。
というわけで、アレクシードとユティが、初めて離れることになったわけですが、アレクシードがユティを思い出すときの空気が、とても温かくていいなあ。肌のぬくもりを思い出して、一緒にいるときは面倒だと思っていたことでも、離れているとそのことばかり思い出す気持ちが伝わってきます。
特に温かさを感じたのは、アレクシードがユティからの手紙を読むシーンですね。文面からユティの素振りを感じて微笑んだり、友達ができたらしいことを嬉しく思ったり、何より最後の結びの言葉で、自分を待っていてくれる人がいることを実感するところが素敵でした。
ああ、早く帰ってあげてほしいなあと思って読んでいたら、まさかまさかそんなことが起こるとは!いや、王太后の話を聞いたときにはピンときたんですが、それについて、ユーゼリクスが動くとは思わなかったんですよ。アレクシードの気持ちはわかっているだろうに、それでも動かざるをえないのか、それともまた別の思惑があるのかわかりませんが、辛いなあ。
アレクシードも、自身について大きな出来事がありましたが、これは……どうなるんだろう。いや、普通に考えれば、元の鞘に納まると思いますが、なまじ地位があるだけに、他の人が扇動したら、大きな動きになるかも……、なんて不安もあります。場所が場所だけに、他国の介入もありえるかもしれませんし。続きが非常に気になりますね。
エルヴァインの末裔
出生の秘密を告げるエリアスの言葉に、愕然としたアレクシードだが、信じられないという気持ちと裏腹に、思い当たる節が多すぎた。さらにエリアスは続ける。私の目的は、あなたにこの国の玉座を、と。
兄を裏切る事などできないとしながらも、エリアスの言葉に心揺らしたアレクシードは、苦悩の末、ついに決断した。敵対する国であるブラウクレントと手を結ぶことを……
前作「グラーレンの逆臣」の最後で、驚愕な事実がわかったわけですが、まさか、こんな展開になるとは思ってもいませんでした。兄の信頼とエリアスの言葉とユティへの思いに身動きが取れなくなったアレクシードが、敵国ブラウクレントと手を結び、王都へと兵を向けるお話です。
兄である国王ユーゼリクスへの思いについては、これ以上ないぐらいの憧れや愛情を感じていたので、アレクシードの決意については、驚きしか覚えませんでしたね。まさか血についてそんな重きを置くとは思えなかったし。まあ、このあたりについては、いろいろあったわけですが、苦悩に苦悩を重ねる姿には、重苦しいものを感じました。
そんな中、幽閉されているというユティへ手紙を書こうとするところが良かったですね。相手の姿を思い出し、慣れない文章を紡ごうとする姿に、温かいものを感じました。もし、ユティがいなかったら、本当の意味で危なかったりするんじゃないかと思うと、お似合いの二人だなと思ったり。
ユティにしても幽閉されながら、アレクへの信頼が伝わってくる態度でい続けるところに、誇りの高さを感じますね。アレクからの手紙を持ってきたファーナとのやり取りが、また良くて。喧嘩友達がいるって素敵です。
とはいえ、兵が向かってくれば、ユーゼリクスは容赦するはずもなく。兵を向け合いながらも、相手に対する気持ちが伝わってくる様子には、胸が苦しくなりました。
ああ、そういうことかと、思惑に気付いたときには、ある意味ほっとしたんですが、そこでまたアレクが不器用なことを……。一度、信を預けるに値する人だと思ったら、それを貫き通す姿はアレクらしいですが、優しすぎるよ。ちょっとは兄の立場とか考えてあげればとか思ってしまう。まあ、それができないからアレクなんだけど。
何かと重苦しい雰囲気が漂っていた終盤でしたが、最後はユティが吹き飛ばしてくれましたね。アレクシードが会いたかったと心から思う気持ちがわかります。いろいろ思い悩むアレクなだけに、恐らく離れる事になるでしょうけれど、ユティと一緒なら、大丈夫かな。
バルハールの姫君
アレクシードと、彼の幼い花嫁ユスティニアは、王都から離れ、港町バルハールの離宮で暮らすことになった。新たな町での生活にユティは毎日楽しんでいたが、アレクシードはどこか物足りないものを感じていた。そんな中、そろそろ夏至を迎えるということで、アレクはユティをつれて、夏至の祝祭へと出かけていったが、そこで二人ははぐれてしまい……
先日の事件の責任を取って、アレクシードが王都から離宮へと追いやられ、そこで他国の陰謀に巻き込まれて……というお話。
自分たちのことを知らない町へ行ったことで、ユティが元気いっぱい動き回ってる姿が微笑ましいですね。兄であるユーゼリクスとの別れが未だシコリとなっているアレクシードは、いろいろ考え込んだりしてる状態なので、ユティに振り回されて遊ぶのは、結構いいことなのかもしれない。いつもながらにいいコンビです。
祭りの最中に迷子になったユティを探して、いつの間にやらゴタゴタに巻き込まれることになってしまったアレクシードですが、いわば田舎町のちょっとした事件に巻き込まれるだけかと思ったら、裏で結構な動きがあるみたい。暴漢からユティを助けてくれた傭兵カジャは、敵なんだか味方なんだかよくわからない位置づけでしたが、個人的には結構お気に入り。出来れば敵対してほしくないけど……。
今回は新たな町でのスタートってことで、それほど大きな動きはありませんでしたが、いつものように、心の迷路で迷うアレクシードに道を示すユティが良かったなあ。しかも今までと違って、アレクがさりげなく嫉妬したりしてるんですから、おいおい、とニタニタしちゃいましたよ。家族愛レベルから、ひょっとしたら愛しい人へとシフトし始めてきたのかもなーんて想像してみたり。いやでも、寂しさで心が震えそうになったとき、大切な人が側にいてくれるって嬉しいですよね。
おそらく、今度はユティの実家方面からいろいろ手が回ってくるんでしょうけれど、個人的にはアレクシードとユーゼリクスの行方が気になるので、そっち側を読みたくなってきたなあ。さてさて?
カストレーデの皇子
アダルシャンとカストリアの国境付近であるバルハール近辺に、カストリアの皇太子が視察に来るという。おそらくはアダルシャンへの示威行為だろうということで、自分たちには無関係だと思っていたアレクシードの元に手紙が届いた。国王である兄ユーゼリクスからの手紙には、カストリア帝国皇太子ルシウスが、帝国西部巡覧の場で、実妹のユスティニアと夫であるアレクシードを招待したいと言ってきて……
自分の腕の中にいる少女が他の騎士を褒めていたら、気分が良くないのは分かりますが、大人気ないぞ、アレク。前作に引き続き、ユティの本人無自覚な言葉に何かと傷つき、思わず反論というか、口答えしてしまうアレクが、情けなくも思える。ま、そこが素直でいいとも言えるけど。
アレクの嫉妬に気づかず、不貞腐れたユティでしたが、ショックの受け方がいつもより変わってるところが、ちょっと印象的。今までのように、構ってくれる人だからという好意ではなく、相手のことを知りたいと思い始めていくところは良かったですね。おんぶで仲良しイベントが、素敵でした。
ここまでは、いつもどおりの微笑ましきお話でしたが、中盤からは動き出しましたねぇ。ユティの兄カストリア帝国皇太子ルシウスが接触してくるってことで、何があるのかと思ってましたが、まさかこんな手段を使ってくるとは思いませんでした。
ユティが初めてアダルシャンに来たときは、敵意しか見せてなかったけど、あれがカストリアのアダルシャンに対する普通の姿勢だとしたら、ルシウスの行動もわかりますね。平和に暮らしていたアレクとユティが、こんな形で引き裂かれてしまうとは思いませんでした。
嬉しい再会があったユティでしたが、アレクについて分かり合うことができない悔しさが伝わってきます。
再会といえば、アレクの方でも嬉しい再会がありましたね。てっきり敵となるのかと思ったけど、あの森の内情からすると……といろいろ考えるところがありますが、きっと力になってくれるでしょう。
もうひとりとの再会は、アレクの複雑な心境が伝わってきたなあ。憎みたくとも憎めない人ですが、ある意味、もうひとりの兄としての思いもあるんじゃないかという気がしてきた。
自分で自分を傷つけてしまうことが多いアレクですが、周囲にいい人がいるおかげで、大きな傷を負うことなく、前を向けるんですね。
さて、今回の件で、二国の間に緊張が走ると思いますが、ここからアレクはどう動くのか、ユーゼリクスにもそろそろ出番あっていいんじゃないの?とか、気になることばかり。続編が楽しみです。
シェーンベルムの騎士
自分を襲ったのはいったい誰か。今までは、アダルシャンの貴族かと思っていたが、よくよく考えてみれば、ここは隣国カストリアの付近でもある。ひょっとしたら……?そのことに思い当たったアレクシードは、カストリアの目的がわかってしまった。防ぐにはユティをこの手に取り戻すしかない。政治目的で、連れまわされる彼女のことを思うと辛くなるが、アレクシードは、カジャと共にカストリアの帝都へと向かい……
奪われたユティを取り戻すために、アレクシードが隠密で動くお話。隠密といいつつ、かなり目立ってましたけど。
ともあれ、アレクを狙い、ユティを連れ去ったのがカストリアの人なら、相手の狙いは誰でもわかるとおり、アダルジャンとの戦争しかない。だからといって、単身でカストリアに乗り込もうとするところが、素敵にアレクらしい。下手したら全面戦争になりかねないというのに。ま、そこがいいところでもあるけど。
カジャと一緒にいったおかげで、妙なことに巻き込まれてましたが、本人が意識しないうちに、いろいろ巻き込まれてしまうところもアレクらしくて楽しい。
一方のユティは、自分の現状に不満を抱き、じゃあどうすればいいかと考えて動くところは、やはり子供と侮れないところです。単純ではあるんですが、物事の本質をついてくるのがうまいのは、己の黒い感情に捕らわれない心の強さがあるからでしょうね。時に涙を流すことがあっても、まっすぐな感情と眼差しは、やっぱりいいですよ。
自体の大きさを知って、自分が何とかせねばと思いつつも、たぶん、ユティでもひとりでは、ここまで覚悟を決められなかったんじゃないかなあと思いました。やはり側にセオがいたというのは大きいでしょうね。っていうか、セオおまいは何てことしてくれるんだ……。まさか、ユティもセオを……とか思って、すんごいドキドキさせられました。
ちなみに、年上の兄ルドヴィクスとユティのやりあう姿は、アレクとのやり取りを思い出してしまい、思わずにやり。
無事カストリアの皇宮に乗り込んだアレクが、ユティと出会えるかどうかについては、ハラハラでしたが、ユティの姉さんたちの行動がまたピタッとハマってくれて楽しい限り。
それにしてもまさか、こんなラストを迎えるとは思わなかった。「卒業」でくるとは!ふたりの息の合ったやり取りを見ていると、ほんと嬉しくなってしまいますが、何気にセオも一緒になるのか。ううむ、これは男の嫉妬大会が見れそうな予感。
それよりなにより、あの人がアダルシャンの皇帝と出会ってしまったか……こっちも気になりますが、次で最終巻ですか。いや、まさにそんな盛り上がり方ですね。どのような結末を迎えるのかわかりませんが、できれば全員がハッピーになってくれる道を選んでほしいですね。
さ、その前に短編集だ。
ユスティニアの花束
ユスティニアがアダルシャンに嫁ぐ前、彼女の騎士ナナとの約束を描いた「花の約束」やフレッドとアレクの出会いを描いた「ひだまりの誓約」、おにいちゃんと呼ぶアレクとユーゼリクスの「孤影の光」など、シリアスでも心は温かに系のお話と、アレクやフラッドたちがユスティニアに振り回される「未来の花嫁」「真夜中の秘密」などのほのぼのしてコミカルな日常系の7編からなる短編集です。
いやあ、いいですね。こういう心温まるお話大好き。今まで名前は良く出てきてたナナのお話が読めたのは、結構嬉しかったなあ。ユティへの接し方が、何となく始めのほうのアレクっぽいのは、見守るという姿勢が共通だからかしら。騎士としての役目のために、側を離れるときの気持ちは、後悔も見えるところがありましたが、ユティ本当に彼のことを思っていたことが伝わってくる贈り物のシーンでじわりときました。苦手だと散々言っていたのに……。戦がなければ、アレクとユティが出会うことはなかったですが、思わず、たら、ればを想像してしまう「花の約束」でした。
この短編集では、ユティかわいいよユティ、というが一番言いたいことですが、実はアレクも子供の頃は、すんごいかわいいんですよね。ユーゼリクスが、始めはアレクのことを羨むというか憎むような姿勢だったのは意外でしたが、「おにいちゃん」という呼びかけから心許し始める「孤影の光」や、あどけないアレクの感謝気持ちから、フラッドが心救われる「ひだまりの誓約」を読んでそう思いました。いや、でも、子供アレクを見ていたら、守ってあげたいと思うのもわかります。フラッドやユーゼリクスがアレクに向ける感情って、アレクがユティに向ける感情に似てるんじゃないかなあとか思い始めてきた。
おにいちゃんたるユーゼリクスの愛情が、アレクに伝わらない「てのひらの記憶」には、思わず吹いたのは内緒。でも、そんなユーゼリクスの不器用な優しさが大好き。
でもやっぱり面白いのは、ユティが出てくるお話で。
貴婦人を目指すユティが、かいがいしくアレクの世話をしようと頑張る「未来の花嫁」は、振り回される大人たちの様子が楽しくて楽しくて。無茶なことをやりすぎたので、お怒りになったアレクでしたが、彼女のどんな想いで行動したかを知ってしまったら、何もいえませんよね。アレクの甘さに、にんまりです。
個人的に一番好きなお話は、「真夜中の秘密」かな。眠れぬユティが、暗いところにひとりでいるのが怖くて、フラッドを寝室に連れ込むお話ですが、アレクの代わりに夫婦の務めをしろとユティ言われて、ドキッとするフラッドが笑えます。
恥ずかしげもなく、いろいろなことを口にするユティのおかげで、主が妻とどんな夜を過ごしているのか、いろいろ知ってしまったフラッドですが、むしろ当てられたんじゃないかなあ。最後、アレクの腕の中で眠るユティの姿に、大いなる親愛を感じました。
最後の話「ホーム・スイート・ホーム」がまた素晴らしく温かくなれて。誰がどう見たってアレクのために何かを頑張ってるのに、ユティが避けてると勘違いするアレクにヤレヤレと思いましたが、不安があっただけに、ユティの行動には、嬉しさもひとしおだったろうなあ。
何で急にそんなことを思い立ったんだろうとは思ったけど、なるほど、アゼリアの裏方的存在感は健在ですね。アゼリアの好意を喜びつつ、ちょっとした感情を持ったユティの姿に驚きです。子供だ子供だと思ってましたが、嫉妬を覚えるようになってきたら、これは素敵に恋じゃないですか。
お互いの思いが育まれていく様子が見えてくると、ほんと嬉しくなっちゃいますね。
ああ、良かった。ユティとアレクの微笑ましき愛情をたっぷり堪能させていただきました。こうなってくると、最終巻でどういう結末を迎えるのか、楽しみになってきますね。素敵なハッピーエンドを迎えてくれるといいな。
イシュターナの祝鐘
ユスティニアと再会することができたアレクシードだが、皇太子の動きは早かった。軍によって、アダルシャンへの道を封鎖したのだ。カストリアを離れて、アダルシャンへ戻るために、二人がそばにいるのは危険と判断したアレクは、カジャとユティ、アレクシードとセオの二手に分かれて落ち合うことにしたが……
シリーズ最終巻。再会したふたりが、追っ手から逃れるために、再び分かれて……というお話。せっかく会えたのに……と思わなくもないですが、離れて別々のペアと行動することで、自分の感情との折り合いを付けていくところは、良かったですね。もしカジャの話がなかったら、アレクとの間にギクシャクしたものが残ったかもしれないことを考えると、アレクの代わりに感謝したくなる気持ちでいっぱい。
アレクが迎えた絶体絶命のピンチを乗り切ることができたのは、ユティの頑張りがあったからというのは、嬉しいところですが、もうちょっと、盛り上がりみたいなものがほしかったかなあ。できればそう言うシーンが見たかったです。っていうか、なんだ、あの皇帝は。以前、ユティが父上の話をしてたけど、そのままの人だとは思わなかった。お茶目すぎ。
シリアスなところが、微妙にふにゃふにゃした感じを受けましたが、それでも命を賭けることに変わりはなく、戦を止めるためにアレクが相手と対峙に向かうとき、必ず、帰ってきてほしいという、ユティの必死な思いが伝わってくるリボンのシーンは、素敵だったなあ。
それ以上に良かったのが、ユーゼリクスの言葉です。例の件から離れてしまった弟に対して、ひたすら冷たく思える態度でしたが、反逆者に対して向ける強い言葉が、実はアレクに向かって告げているところに、不器用な優しさを感じます。最後まで弟に対してデレることはなかったですが、そんなお兄ちゃんが素晴らしかった。鈍かったアレクも気づけたみたいだし、兄弟揃って良かったねといいたくなります。
いやあ、よかったです。盛り上がりという点ではちょっと欠けるところがありましたが、それを補って余りある優しさと温かさがありました。特に最後の最後。ユティとアレクの関係に、こんなシーンが待ち受けてるとは思いもしませんでしたよ。
どきどきする行為は、好きな人相手だと、もっとドキドキする。そのことに気づいたユティと、初めての行為にドキドキするアレクの、最後の最後で本当の意味で恋に落ちる呪いに悶えました。あー、もっと、このふたりを見ていたいと、どれほど思ったことか。ふたりとも、末永くお幸せに。
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