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Story Seller(3)

「土江田さんこそ、事件に巻き込まれていないでしょうね」
すばやい返答に対するせめてもの礼儀として、オレは血のついた指を見せた。
「解りました」小さくうなずいた。
「土江田さん、月並みな台詞ですが、犯人はあなたです」
「そういうストーリーになりそうだから、お前に声をかけたんだ。手を貸して欲しい」

沢木耕太郎、近藤史恵、湊かなえ、有川浩、米澤穂信、佐藤友哉、さだまさしの七人の作家さんが、物足を紡ぐ「読み応えは長篇並、読みやすさは短篇並」のアンソロジー第三弾です。

今回で最後とのこと。好きな作家さんの読み応えあるアンソロ集だったので、残念でなりません。

初体験は、さだまさしさん。ひき逃げされた男が、自分の電話番号をメモっていたことで警察から連絡があったものの、そんな男は知らない……というキャリア・ウーマンを描く「片恋」。

なぜ?という理由は、わりとすぐ気づきますが、それはともかく、主人公・南の心の移り変わりが、どうにも違和感あっていまいちでした。キャリアを積んできたジャーナリストが、あんなことで心を冷やすものなんだろうか。それとも、ああいった事態は初めてだったのかしら。丁寧に書かれているものの、肝心なところが見えなくて、なんとももどかしかった。

そうそう。初体験といえば、沢木耕太郎さんの「男派と女派」が、それに関するお話でした。といっても、うふんではなく、沢木さんが旅先で初めて盗難に出会ったとか、そういったこと。

この人の旅は大変なんだろうけれど、それを感じさせずに旅先での出会いや雰囲気を魅力たっぷりに描いてくれるから、読んでいると自分も行きたくなります。またいい出会いがあるのは、他の人にいい反応をさせる人柄が、沢木さんにあるんだろうなと思いました。魚のプロの言葉や「職」に関する思いから、そう感じました。

ちなみにタイトルの「男派と女派」は、人生において、男と女とどちらから教わることが多いかと言う意味です。さて、自分を振り返ると……?

Story Seller初登場は、湊かなえさんで「楽園」。突如姿を消してトンガに向かう女と彼女を追いかける男の物語。思いつめたようにトンガへ渡り、現地の人との触れ合いに嬉しさを覚え、現地で出会った日本人に重苦しいものを感じて。彼女の抱えているものが何かは最後の方で明かされますが、これはいい再生のお話でした。この人は、こういうお話も書けるんだなあ。意外に思えてとても印象に残りました。

一番好きなお話は、米澤穂信さんの「満願」。貧乏学生時代に下宿させてくれた家の奥さんが殺人事件で逮捕され、恩返しに弁護を引き受けた男のお話。
お金を払える余裕がないにも関わらず、弁護を引き受けたのは、恩だけではない感情があったようにも思います。切々と語られる学生時代の描写を見ていると、憧れと、それ以上の思いもあったんじゃないかな。

人を殺したことは間違いなく、だが事情があったことも間違いないので、正当防衛を訴え、少しでも刑を軽くと動く彼と、控訴はせずに刑を受ける奥さん。自分を押し殺す姿に、何とも言えない思いに……なったあと、たどり着いた動機にクラクラきた。これいいな。

近藤史恵さんの「ゴールよりももっと遠く」は、「サクリファイス」の石尾と赤城の過去話。SS1、SS2と積み上げてきた石尾の実績が、周囲の目を変えていましたが、一番印象に残ったのは、レースをただ広告のために動かそうとするオーナーの言葉でした。一理はあるけれど、そこに感動はないと思います。ううむ、気分悪いぜ。

僕の好きな作家さんである有川浩さんの「作家的一週間」は、物語というよりはエッセイみたいな感じでした。ショートショートをと依頼されて、書き上がるまでの一週間の出来事を語るお話。

図書館戦争の時に培った(かどうか定かではないですが)、出版社が禁止する言葉について、面白く真剣に書いてます。病気体験の話で「陰部」と書いたら、訂正して欲しいとか言われるんだから、おいおいと思う。

個人的には、「いんしん」と「いんけい」の話がゾッとした。パソコンで文章を書く人は多いと思うけれど、肝心の変換ソフトが自主規制で候補を出さないんですから。試してみたら確かに、MS-IMEだと変換候補にあるけれど、ATOKだとありません。「いんしん」はフィルタするのに、「いんけい」は大丈夫って、どういう感覚してるのか……

たぶんに実体験が含まれてるお話なのかなと思いますが、このご夫婦の会話は、他愛もないことでもいちいち面白いですね。仲睦まじくてよろしいことで!

SSシリーズでの出会いで、一番好きになった作家さんは、佐藤友哉さんでした。探偵助手が東京駅で殺人容疑者となって、探偵に依頼する「555のコッペン」。

今までで一番解決されてない事件でしたが、彼女の思いが見えて良かった。恋のライバルになるかどうか分からないけれど、華野さんもいい味出してて、胸の内がくすぐられる思いですよ。切羽詰っていてもユーモアを忘れないやり取りは、最高でした。 女子高生探偵赤井と後ろ暗い過去のある探偵助手が活躍するお話も、これで最後だとすると寂しいったらないです……

Story Seller ( ストーリー セラー ) Vol3 2010年 05月号 [雑誌] (雑誌)

Story Seller ( ストーリー セラー ) Vol3 2010年 05月号 [雑誌]

新潮社
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