寒さのせいか、何かに見られているような幻覚があった。その様子を見たシリエンに問い詰められて、アストラはしぶしぶ自分の幻覚について話した。目が自分を見ていた、と。その話にシリエンは、足を速め始めた。
おまえは、<百の塔>の追っ手に見つかったと言って……
大地を凍らせる呪いをかけた氷姫に会うために、雪と氷の世界を旅するアストラとシリエンのお話ですが、今回は、追うものの姿に動揺したアストラを不審に思ったシリエンが、アストラの過去に触れて……というお話です。
かつて、風の塔で随一と言われていたうたびととしてのアストラが、物思いに浸っているところのシーンのなんと美しいことか。文による風景の描写とイラストがあまりにも素敵で、繰り返し読んで、見つめてしまいました。
自分を狙うものがいるのに、頑なに相手を殺すことを拒絶するアストラが、何とも不思議だったんですが、過去の話を読んだらわかる気がしましたね。大祭で闇の御子役を勤めたことで、禁忌となっている神謡に触れて、その力に惹かれてしまうところは、何とも危うく甘美なものが伝わってきます。「うたいたい」という気持ちが、これほど強烈に響いてくるとは思いませんでした。
個人的に印象的なシーンは、アストロの中にある力が暴走しそうなとき、幻の女が音楽を奏でるところですね。荒々しい気持ちが収まったあと、自分に言い聞かせながら、それでも消えることのない思いと、アストロの涙が忘れられません。
なるほど、これで北の音楽を目指すことになったのかと頷いてしまいましたが、アレを忘れてくるなんで、うかつにもほどがあるぞ、アストロ……。そりゃ狙われるわけだ。ナパールのことを思うと、抉り取られるような痛みを感じますが、このあたりどうなるんだろうなあ。
ともあれ、これで、ようやく、原点ともいうべきところに、たどり着くことができました。今までどちらかと言えば、足を引っ張っていたアストラですが、例のうたを考えると、活躍できそうですね。いや、そんなやさしいものじゃないかもしれないけど。
氷姫との対峙がどうなるのか、楽しみです。
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