夏休み明けの朝、クラスメイトが転校生が来るかもしれないと言い出して、ざわつく空気の中、彼女は教室へ入ってきた。涼やかな風貌を持ち、品のよいお嬢様といった雰囲気を持つ女の子だなと思っていたら、その名前を知ったとき、僕は驚いてしまった。紅条、それは僕と同じ苗字だったのだ。それが、僕を兄と呼ぶトモエとの初めての出会いだった。
それから、彼女は、僕がお世話になっている光瀬の家に、居候するようになって……
幼いころ、父親に棄てられた紅条ケイイチロウが、高校二年生になって、突如、トモエと名乗る少女が妹として、近づいてきて……という、妖しき魅力に富んだボーイミーツガールです。
これは面白かったなあ。
突如現れた妹と暮らすことになって、戸惑いながらも、それほど意識していないケイイチロウが、徐々に彼女へ関心を向けるところは、はじめは恋かと思ったけど、もっと複雑な思いだったんですね。ケイイチロウと異なり、人当たりがよく、控えめながらいつの間にかクラスの中心にいるトモエが、心の傷を陰湿に見せ付けてきたのに、むしろトモエが追い詰められていくんですから。
陰湿ドロドロになりそうでならず、歪みながらも不思議と繋がっていく展開は、なんとも言えないものがあるなあ。心の揺れ具合に、足元が定まらない感じがあって、引き込まれます。
ところどころ、わざとやってるんじゃないかなと思うぐらいイタイ描写があったりするんですが、それがだんだんと心に響いてくるところが良かったです。
従妹の灼の姿がまたいじらしいんだ。
兄さんとケイイチロウを慕い、トモエの行動に怒りをあらわにする姿には、家族以上の思いを感じられるんですが、ケイイチロウは、トモエを気にしてて……。決して報われないわけじゃないんだけれど、思いの丈を明かすところには、彼女の健気さを感じて、ちょっとグッとくる。
前作とは独立したお話といってもいいと思いますが、例の話は同じように入ってきて、また別の歪んだ心理には、なんとも言えない気持ち悪さを感じたなあ。ギリギリ理解できてしまうからかしら。
それでも「最も性質の悪い嘘」に、正面から向かい合う決意をしたのは、自分の思いに気づいたからだという、そこへ至るまでの道のりが、とてもすばらしいと思いました。
恋物語だけでいうなら、前作の方が好みなんですが、それでも読まされてしまいましたね。
次作も同じように登場人物が入れ替わるのかしら。それとも、繋がりから物語を見せてくれるのかしら。いずれにせよ、大いに楽しみですね。
カッティング ~Case of Tomoe~ (HJ文庫 は 1-1-2)
翅田大介
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