「この家にはね、家神さんがおるんよ。庭に祠があるじゃろ。あそこに住んでおられるのさ。その他にもね、やーろずの神々と言うて、色んな神さんがおるんだ。悪い神さんもおる。善い神さんもおる。だがね、家神さんが悪い神さんから澄ちゃんを護ってくれるのさ」
幼いころ、そう教えてくれたおばあちゃんが先日亡くなり、お通夜の席で、大学生になった澄香が、庭でグズグズと泣いていたら、突如声をかけられた。振り向くと何と和服姿の男が、小さな祠の屋根にあぐらをかいているのだ。こんなところに座れるなんて人ではないと思うけど、悪いものにも思えない。恐る恐る返事をしたら、変な男は、自分は家神だと名乗り、あろうことか、澄香の家に行くと言い出して……
おばあちゃんの家を護る家神の棲んでる祠が取り壊されるというので、女子大生の澄香が、一人暮らししている家に連れて帰ったら、家神の力のおかげで、家の中にいた神様たち(つまりは八百万の神々)が目覚めてしまって、というお話。
あー、楽しい!なんて明るくて、なんてキュートな神様たちなんだろう。
- 黄色いパーカーを着た底抜けに明るい「道祖神」
- ご本を読んでとおねだりする、幼い男の子の「便所の神」
- きちんと料理せよと説教する頑固じじい(だけど小人)の「かまどの神」
など、実際に目に見えたら迷惑かもしれない八百万の神々と、わいわいやってる姿がとても楽しい。お化けとかホラー映画とか大の苦手な澄香が、素でツッコミまくるんですから、神様たちのほのぼのさがわかると思います。いや、ほんと楽しい。読んでて、何度も吹き出してしまいましたよ。
連作短編形式で物語が進んでいくので、一編ずつ主題となる神様が違うんですが、初っ端は「節分の段」というタイトルどおり、「節分の鬼」のお話。最近の子は豆まきしないし、鬼を怖がらないので、弱ってしまったという「節分の鬼」から、情けない姿(よれよれスーツ)で頼まれて、近所に住んでる大家さんの子と豆まきをすべく、仕方なしに澄香が立ち上がるんですが……
まさか、こんなオチが待ってるとは!
予想をはるかに上回った結末に、本気で吹きました。
個人的に超お気に入りなのは「雛の段」。実家から雛人形が送られてきたら、お内裏様とお雛様が喧嘩して、離婚騒動に?というお話。もう、初っ端の喧嘩しながら登場するシーンでやられました。なんて可愛いんだ、こいつらは!「まろ」とか言いながら、外へナンパしにいくところは、ほんと転げまわりましたよ。
どうせなら気が済むまでと、外へ出たら、ミカちゃん人形とかフィギュアとかに声をかけたりして、ニヤニヤがとまらなかったですけど、一番笑ったのは「ふ」「じ」「や」な店の前にいるペコリちゃん人形を相手にしたところです。かっけー、ペコリちゃん、かっけー。僕まで惚れそうになった。
ま、そんな騒動を起こしながらも、実はお互い……というお約束な気持ちが見えてくるところは、ほんとあったかい気持ちになれて、最後は、ごちそうさまでした。
という、いい話でも、ちゃんとオチを持ってくるところが素敵。
このほか、呪いのわら人形(源さん)の「忌み神の段」、地域の平和を護る道祖神の正体を巡る「道祖神の段」、初詣とお守りに宿る神様の「和合の段」、そして神無月を迎えた神様たちと、家神の真実を描く「家神の段」が収録されてます。
どれもこれも楽しく、時に切ない思いもあったりするんだけど、最後にほんのり温かい気持ちにさせてくれて、ほんと良かった。はじめは迷惑に思っていた神様たちとの澄香にとって大切なものとなっていくのが伝わってくるところとか、素晴らしいですね。最後の最後のセリフがまた泣かせてくれるんだ。
あー、楽しかった。文句なしでオススメ。
もともとは「へいじつや」というサイトで発表されていた小説だとかで、一部読めたりするので、気になる方は書籍版「やおろず」情報ページをご覧いただければと思います。
他にもWebに小説が載ってますが、できれば本になってほしいなあ。
やおろず
古戸 マチコ
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