「私、誰に聴いてもらわなくてもいい」南はいった。「とにかく演りたい」
それは自分のヴァイオリンにプライドを持っている、一人の音楽家の言葉だった。僕はその力強さに打たれた。
「うん演ろう」僕はいった。「とりあえず明日から、二人で合わせてみよう」
音楽一家に育ち、チェロを始めたちょっぴり鼻につく男の子が、高校一年の春に、音楽の出来る仲間と姿勢の綺麗な女の子と出会って……という青春物語。
これは面白かった!
自分は他人と違うんだという感じの中学生が、芸高に落ちて、二流どころの音楽学校へと進学したら、周囲は女の子ばかりで、表面上クールにしながらも、実際はドキドキとかニヤついてしまうんだけれど、さらに好きな子が出きちゃったら、そりゃもうね!
目ざとい女の子にバレつつも、そんなじゃないと言いながら、だんだんと恋を自覚して行く様が、照れくさくてしょうがないけど、楽しいんだなー。ああ、こういう恋って大好きだ。
でも、恋だけじゃない。音楽模様もいいんです。学校内ではトップクラスに演奏できたとしても、オーケストラとして合わせるとなると、ただ弾ければいいというものではなく、毎日毎日練習して、それでも追いつけなかったりするんだけど、彼女のヴァイオリンを聴いて、また仲間に刺激されて、自分も頑張ろうとする姿には、まだまだ傲慢さはあるんだけれど、それ以上に努力も実感できて、ガンバレと応援したくなった。
まあ、恋の嫉妬から動揺することもあったり、一緒に演ってみたら、ぶつかり合いみたいなケンカが始まることもあるんだけど、それはどちらも演奏することに対して真剣だからで。ちきしょーといいながら、ちょっとずつ、音が重なりあっていく。素敵じゃないか。弾き方ひとつで、性格も伝わってくるから、音楽の力を感じます。
演奏するシーンは、どんなときでも心に響きました。バラバラだったオーケストラがまとまったとき、無謀に思えたトリオが音を奏でたとき、そして褒めることをしないお祖父さんの弾いた曲。感激ものでした。
それにしても、ここにでてくる人たちは、みな魅力的でした。いや、まあ、某先輩はさておくとして、倫理先生・金窪さんと、クラスメイトの鮎川さん、美少年の伊藤くんなどなど、こういう人達と一緒の空間にいられることが羨ましく思います。
さて、素敵な始まりでしたが、あと二冊つづくということは、ここからさらなる波乱が待ち受けているのでしょう。どうなるのか楽しみです。
船に乗れ!〈1〉合奏と協奏
藤谷 治
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