七人いた選皇侯も今や三人。ここで一気に相手を叩くと、ゼルツタール公とゼッキンゲン公は考えていたが、そこへ横槍を入れてきたのは、三十年間、静観を続けていたヴァルネミュンデ公だった。しかも、今さら両者に講和を進めるという愚にもつかない提案を持ち出してきたのだ。いったい彼の思惑は何なのだと困惑しながら、ひとまず選皇侯が集まり、話し合いをすることになったが……
皇国を我が手に。そう考えた七人の選皇侯が、それぞれ光皇を立てて争う七皇戦争と、平民だったジグルドが剣を取り上り詰めていく過程を描く過去編の第三弾。今回は、ジグルドが元帥となり、ギュンターとの間に生まれが溝が深まっていく中、残った三人の選皇侯が集まり……というお話。
いやあ、やってくれる!
なんといっても一番の見所は、講和の道はないかと、選皇侯のひとりが提案して、生き残っていた選皇侯が集まるところですね。誰もが、自分たちの正当性を掲げて、相手に悟られるのをわかっていながら、切り込んでいく駆け引きが、とても面白かった。
ちょっと茶化しすぎだろと思うところもあるんだけど、各勢力が、本当の意味でのトップを表に出すことが出来ない状況が、いい具合に、三すくみという状態を作り上げたんだろうなあ。
そんな中、ひとつ抜きん出たのが、今まで選皇侯の争いに介入していなかったヴァルネミュンデだったってところが、またいいんだ。さすが年の功というべきか、好々爺と見せながら、さらりと相手の追及をかわし、自分の追及に取り込んでしまう手腕に惚れ惚れです。そして、二者を絶句させる切り札の使い方も。
切り札の正体には、うすうす気づいていただけに、どこで切るのかという緊張感が、物語を盛り上げてくれて、ああ、楽しい。
この駆け引きだけでも面白かったのに、一瞬にして将棋盤ごとひっくり返すような出来事が待ち構えているとは思いませんでした。ああ……せめて、あのご老人は生きていてほしかった……。あるいは、彼女も……。
もし、この二人のうち、どちらかが生きていたら、未来は大きく変わったでしょうね。
そして、もうひとつ。一大事の中、ギュンターとジグルドの間に生まれた溝が、いや、溝を生んだのは、ギュンターの心なんですが、このあたりが泥沼にはまっていくところは、なんともやるせない気持ちになりましたね。
嫉妬、プライド、夢。何もかもが足かせになってしまうように思えるのは、それだけジグルドの背中が眩しかったからなんだろうなあ。
わかっているけれど、それでも、このしがらみの行く末は気になるところです。
それにしても、巻を追うごとに分厚くなっていく本シリーズですが、いわば番外編と言ってもいい過去編が三巻も続くとは思わなかったなあ。しかも、まだ終わらないんですから驚きです。どうやら次なる十巻で、過去編の決着をつけるらしいので、楽しみに待っていたいと思います。
っていうか、本編も早く届けて欲しいな……。
ゆらゆらと揺れる海の彼方 9 (9) (電撃文庫 こ 7-9)
近藤 信義
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