やけに酒の周りが早いとおもったら、どうやら体調が悪かったらしい。これがいつもの食事であれば、気分が悪いことを訴えればよいが、今日はそうも行かない。ちょっとした祝いの席ということもあるが、羊飼いの娘がいるからだ。連れである行商人好みの、貧相にして従順そうな小娘を目の前にして、無様をさらすわけにはいかない。
だが、すでに体はいうことを聞かず……
- 屋敷を追い出された少年と少女が、海を目指して歩いていく「少年と少女と白い花」
- 買いすぎた林檎に悩むホロをつれて、買い物に出かける「林檎の赤、空の青」
- 具合が悪くてダウンしたホロの視点から描かれる「狼と琥珀色の憂鬱」
という三編からなる物語集です。
いやあ、楽しいですね。いつもと同じく、それでいていつもと違うホロの姿が見れて、ホクホクしちゃいます。
「少年と少女と白い花」では、世間知らずな少年少女が、あまりに闇雲に歩いてるのを見ていられず、思わずホロが手助けするんですが、小さな子を相手にしても、いつものように、男をからかうホロの姿が、楽しく、小憎らしい。
まだまだ子供でしかない少年を、時にやさしく、時にからかいながら、いつの間にか、成長させてしまうところは、さすが賢狼と思わなくもないけど、少年の男気を利用するのは、ちょっと酷いよねーと思わなくもない。ま、少年からしたら、少女への思いを確認できたことで、良かったんだろうけど。
いつもとはちょっと違って、子供に対して慈しむようなものを感じたのは、贔屓目かしら。
「林檎の赤、空の青」は、買いすぎた林檎を抱えて、うんうんうなっているホロを見かねて、ロレンスがホロを連れて、服を買いにいくというただそれだけなのに、なんと魅力あふれる会話をしてくれるんだろう。センスあふれるやり取りに魅了されまくりです。主導権を握ったつもりが、鮮やかに切り返されて、降参するロレンスのやれやれ気分が、たまらんなあ。
それと、短いお話の中にも、商売ネタがきっちり仕込まれてるあたりが見逃せない。一見、損をしたかのように思えるけど、全体で見ると得をするとは、ああ、なるほど奥が深い。商売だと結構先まで読めるロレンスですが、ホロとの間だといつだって負けちゃうあたり、惚れた弱さってやつですかね。
最後の会話もお後がよろしいようで。
体調を崩したホロが寝込むお話をホロ視点で描いた「狼と琥珀色の憂鬱」は、もう最高でした。うわー、嫉妬してる!ホロが羊飼いのノーラ相手に嫉妬してる!普段、ロレンスを手玉に取ってる余裕を見せているけれど、実は、こういう激しい感情が渦巻いていたのかと思うと、にやついて仕方がない。
そんな状態だったので、寝込んでしまったときに、ロレンスの心配を逆手にとって、自分の元へ引きつけようと画策するホロの頑張りが、楽しくて可愛くて。
また、ロレンスが致命的なぐらい女心に鈍いから楽しいんだ。ホロのモーションに、すーぐ赤くなっちゃう純粋さを持っているのに、あそこまで示唆されながら気づかぬのか!と、思うところが多々あって、まったく困ったヤツです。なるほど、本編でも時折ホロがふくれるわけだと、納得しまくり。
そんな鈍い相方だけど、賢狼ホロをもってしても、手綱を握りきれないからこそ、一緒にいて楽しいんでしょうね。「林檎の赤、空の青」では、ホロの笑顔にロレンスが魅了されていましたが、この短編では、ロレンスの笑顔にホロが魅了されてて、お似合いのカップルっぷりに、温かい気持ちになれました。
ああ、素晴らしい!
ホロかわいいよ、ホロ、というフレーズを思わず口ずさんでしまう短編集でした。
次にどんな物語を見せてくれるのか、楽しみで楽しみで仕方が無い。
狼と香辛料 (7)
支倉 凍砂
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