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[葉山透] 9S <ナインエス> memories

「これは、もしかして闘真か?」 ― 麻耶のアルバムの中でも異端な写真を取り上げて、由宇は麻耶に訊ねた。兄である闘真と始めて出会った日の写真。それは、麻耶にとって人生の転機だったのだ。「あの」闘真から影響を受けるなど、どう考えても家族の身びいきだろうと考える由宇の言葉に、怒った麻耶は、初めて兄と出会ったときの日のことを滔々と語りだして……

幼いころの由宇の話、麻耶と闘真の出会い、蛟とクレールの出会いという「夏の日の空になりたい」「Romantic holiday」「亜麻色の髪の娘」の三編からなる短編集です。

夏の日の空になりたい」は、ADEMに入局したばかりの八代が、回収した遺産を引渡しにNTC研究所で、幼いころの由宇と出会うお話。八代の頼りなさがとてもユーモラスで楽しいですが、十二歳の女の子にやり込められる姿が、なお楽しい。容赦ないな、由宇のセリフにニヤニヤが止まらない。

それにしても、由宇が格好よかった。遺産の力でNTCが陥った窮地に立ち向かうところは、いつもながら興奮な展開でしたが、それよりも良かったのは、長年の努力をふいにすることがわかっていても、目の前で傷つく人を見捨てられない、由宇の優しさが見れたことですね。

彼女の優しさを知った八代が、言い訳かもしれないけれど、せめてもの償いとしてついたささやかな嘘は、王子様が現れるまで彼女を守ってくれたんじゃないかしら。

Romantic holiday」は、十一歳にして婚約者をあてがわれようとしたことに腹を立てて家出した麻耶が、ひょんなことから闘真と出会って、という二人の出会いを振り返るお話です。いやあ、いいなあ。はじめてのお使いじゃないですが、十一歳にして才覚を表しながらも、ひとりで出歩くこともなかった麻耶からしたら、家出なんて大冒険でしかないですよね。
ファーストフードでの勘違いは微笑ましいものでしたが、真目家に生まれたものとしての自覚を持ちすぎて、何事も堅苦しく考えすぎていた麻耶が、少しずつ肩の力を抜いていく展開が、とても素敵。

また闘真がいいところを持っていくんだ、これが。いや、単に外の世界を知らなかったからこそ、頼りになるように見えただけだと思うんですが、麻耶が兄さん兄さんと慕うのは、こういう冒険劇があったからかと、微笑ましくなりました。

それにしても、麻耶にしろ、由宇にしろ、相手の好意を受けると、ツンデレしちゃうところが可愛いったらないなあ。

亜麻色の髪の娘」は、クレールの母である(名前は一緒の)クレールと、蛟の恋を描いたお話です。あー、こういうロマンス大好き。
人体実験を施された体の力を理解してしまったクレールがショックを受けたとき、優しさで包んでくれた蛟と出会えたという展開なんですが、外の殺伐さとは裏腹に、家の中では温かさを見せてくれて、二人の空気が、離れがたい雰囲気が素敵でした。

王道とも言える対決で相手を思いやる気持ちが見えるところは、それしか生きる術を持たない者として、切ないものがありましたが、ハッピーエンドに心温まる思いでいっぱいになりました。

始まりを思わせる「亜麻色の髪の娘」も良かったですが、やっぱり「Romantic holiday」が一番良かったかな。ちょっとコミカルで、ちょっとしんみりさせられる短編集でした。
サイドストーリーで各登場人物が深まると、長編が読みたくなりますね。続きが楽しみです。

9S memories (電撃文庫 は 5-10) - 葉山 透

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葉山 透

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