暑くて寝苦しい夜。ふと智春が目を覚ましたのは、どこからか、しくしくとすすり泣く声が聞こえてきたからだ。幻聴にしてはあまりにリアルで、恐る恐る出所を探ったら、鳴桜邸を空家だと思って忍び込んできた同級生だった。なんでも、好きな人がいるのに、政略結婚させられそうになって家出してきたのだと言う。悩み相談を朱理さんに持ちかけたところ、いいアイデアがあると彼女は笑って……
身代わりでお見合いしたり、喫茶店で働いたり、ストーカー撃墜のため部長と付き合ったり、佐伯家の別荘へ行ったりと、番外編以外、すべて智春が女装するという連作短編です。
いやあ、楽しい楽しい。バレたら人としておしまいと言う大変な状況の中、始めは人助けのために女装したのに、その後は女装をネタに脅迫されて、困難を押し付けられる様が笑えます。朱理が楽しそうに嫌がらせするんですが、あれだけ女装が似合ったら、無理ないかも。
こういうとき、男にモテるのはお約束だと思うんですが、それがまた楽しい限り。
面白かったのは、女装した智春に対して、いつもと違う一面を見せてくれる人がいるところですね。特に佐伯兄妹。普段のクールさとは別の方面を見せてくれたお兄さんもいいですが、女同士の気安さで、好きな人のことをほのめかしちゃう佐伯妹が可愛かった。誰のこといってるのか、気づいてあげてよ、智春!
最後の短編「メモリー」は、同じように智春が女装する羽目になるんですが、操緒の姉、水無神環緒を探すという本編にリンクしていくお話でした。嵩月の弱点が見えたりして可愛いとかあったけど、あんま進展なかったかな。いや、謎は増やしてくれましたか。
遠い過去にあった未来の話が聞けそう……ってところで続いちゃったので、彼女は何者なのかしらと気になるばかり。次あたり、結構動きそうな感じなので楽しみ。
で、そのあとに番外編「ずっとキミを見ていた」という智春が中学生の頃の淡い恋話が載ってました。智春×樋口をBL妄想する露崎波乃に振り回されて怒りを見せるという、ちょっと珍しい智春の感情が見えてましたが、積極的に出られると頷いちゃうのは、このころから変わらないんだなあ。
いきなりの露崎の行動に微笑ましさを覚えつつ、でも操緒の表情に謎を感じていたら、まさかそういうことだったとは思わなかった。ノートに書かれた言葉が、胸にグッとくる。
でも、最後にはオチをつけてくれちゃうのね。ああ、なんか露崎らしいとか思いつつ、切なさが素敵な読後感に変わりました。
あー、面白かった。最近のアスラクラインは、重い(重過ぎる)お話が多かったので、こういう息抜きがあるとホッとします。欲を言うなれば、もっと嵩月分が欲しかったけど。
ま、それはともかく、次作で誰がどう動いてくるのか楽しみですね。
アスラクライン 9 (9) (電撃文庫 み 3-24)
三雲 岳斗
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