海岸沿いにあるジャンクパーツ置き場で、知り合った真冬が、ある日、僕のクラスに転校してきた。ピアニストとして名を馳せていながら、ピアノを触ろうとせず、超絶技巧なギターを弾いている彼女は、友人もおらず孤立していたが、よりによってぼくが密かに使っていた空き教室を乗っ取ったのだ。それだけならまだしも、ぼくの人生の半分以上を注ぎ込んだロックンロールを馬鹿にしたのだ。なんとしても、ロックのすごさを教えて、ぎゃふんと言わせてやると決意したぼくは、ベースと手にして彼女に勝負を持ちかけたが……
これは素晴らしい青春物語だなあ。音楽を通じて、少年・少女が心を通わせるというお話なんですが、ギターにしろ、ピアノにしろ、ベースにしろ、知らない曲もたくさんあるのに、なぜか心に音楽が響いてくる、そんな感じの物語でしたね。
思わず原曲が聞きたくなるなあ……と思ったら、作者の杉井さんが、blogで曲紹介をしてくれてます(「ネタバレがあるので、本編と合わせて、曲が出てきたらこっちを確認する、みたいなめんどくさいやり方推奨」だそうです)。
ピアニストなのになぜかギターを弾いているとか、一切ペンを手に取らないのに決してサボることなく毎日学校へ通う姿とか、なんとなしに少女の行動に目がいってしまう、ナオの心情がいいですね。なんとなく気になるという感じが、とてもよく分かります。
普段は無気力なのに、思わずベースを手にとってしまったのは、ロックを馬鹿にされたという気持ちもあるかもしれないけど、真冬が相手だったからこそでしょうね。
そんなナオのやる気を引っ張りあげた神楽坂先輩がまた素敵なんだ。自称革命家として、不遜な態度を崩さないけれど、目的のために謀略を企てる手腕は最高でした。ちょっと万能すぎるきらいがあるけれど、彼女の言葉に、心奮わされることが幾度あったことか。脇役でありながら、抜群な存在感を見せてくれた彼女の物語も読んでみたいと思いました。
真冬については、あれだけサインがあったのに、ぎりぎりまで気づけなかった自分に突っ込みたくなりましたが、これはむしろ、勝負を挑んだ際の展開に引き込まれて、真冬のことなんかコロッと忘れてたからだと思います。神楽坂先輩に乗せられて、三人で曲を奏でたとき、そして、勝負へと挑んだあのベースとギターのセッションには、鳥肌が立つほどの感動がありました。
これだけでも素晴らしいと思いましたが、さらにもうひとつの感動を見せるべく、少女の内面が見えていく展開にやられました。始まりの場所へ戻ってきて、再び響いたフーガに、グッとさせられました。
いやあ、面白かった。最後の最後でいい感じに、希望を思わせるものがあったりして、嬉しくなっちゃいましたね。名もなきクラスメイトたちも、魅力的でした。
続編はないと思いますが、もしあったら、迷わず手に取ると思います。
オススメ。
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