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[樹戸英斗] なつき☆フルスイング! ケツバット女、笑う夏希。

肩を壊し、野球部を辞め、目標がなかった智紀が、バッティングセンターで憂さを晴らしていたとき、突然女から声をかけられた。ピチピチの野球のユニフォームを着て、胸の膨らみを強調していた二十代前半ぐらいのその女を無視したら、いきなり金属バットで殴りかかってきた。しかもその破壊力たるや、アスファルトが陥没するほどだ。
大慌てで逃げたものの、夏希と名乗った女は、どうやら智紀ではなく、智紀に憑いている夢魔を祓おうとしているようで……

悩みを抱える少年少女に対して、幻想的な夢を与えるために取り憑いた夢魔を、金属バットのように見える「夢魔砕き」で追い払うというお話は、サブタイトルの「ケツバット女」からは想像もできないぐらいの青春物語でした。

甲子園という目標があり、それがもしかしたら手に届くかもというときに起きた肩の故障で、野球部をやめた智紀が、ひょっとしたらという思いを抱いたのに、実はそれが夢魔の仕業だったというのは、何とも残酷ですよね。もう一度「夢」を見たいと思うのは、心の弱さとはまた別のものなんじゃないかと思いましたが、野球をやっている人間が羨ましく、わかっていても妬んでしまう気持ちがよく分かります。

自棄になった智紀に対して、夏希が諭すように話しかけるシーンは、とても印象に残っています。傍若無人のように見えるけれど、実際そういうことも多いんだけど、決してそれだけじゃない夏希の優しさが素敵です。上を見るのもいいけれど、足元も疎かにしちゃいけないですよね。

智紀の話だけじゃなく、留学していた年上のクラスメイトの話や、幼馴染姉妹の話など、複数の話からなる連作ものでしたが、個人的にもっとも良かったと思ったのは、二編目のバレエで世界を目指したけれど、二度の故障で、糸が切れた千尋と、その妹の美姫子の話でした。
お互いの間にある見えない溝は、実は自分が作ったもので、そのことに気づかないまま、でも相手と何とか近づきたい。すれ違ってる様が、何とはなしに感じられる微妙な空気が良かったです。

三編目は、意外な話から幕を開けて、と思ったけど、割と前振りがあらかさまだったような気がしないでもない。それはともかくとして、夏希の秘密が明かされるお話でしたが、主人公の、なんていうか、独善的な行動が非常に気になりました。そんな考え方するような感じじゃなかったので、違和感バリバリ。
まあ、気持ちは分からなくもないけどってことで、ちょっと微妙だったところもあるんですが、話の中核はとてもシリアスで、自分たちに何ができるかと悩みながらも、友人のために動くところが素敵でした。

心の中なんて、自分でもなかなかわからないことだったりしますが、悩みを正面から捕らえて、手をとり合って乗り越えていくという物語は、とても良かったですね。個人的にオススメです。
第13回電撃小説大賞銀賞受賞作。

なつき☆フルスイング!―ケツバット女、笑う夏希。 (電撃文庫) - 樹戸 英斗

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