「兄さん、覚えていて下さい。私は肉親が逃げようと言ってきたら、どこまでだって逃げますから」
「ま、覚えとくよ」
「ええ、世界すべてを敵にまわしても、私は家族を守ります」
「なんか、物騒な言葉だな」
成人すると、成長も老化も止まる人間たちが住む世界では、人口増加を防ぐために、何かしら秀でた才により永生権を得た者以外は、60 を過ぎたらもの、障害を負ったものは「処理」される。ある日、優等生である神倉ミタマは、クラスメイトの贄川那智に恋をしたが、彼女が怪我を負い、「処理」されることになった。何とか助けたいと妹・涙珠の協力を得て、那智を連れて逃げ出したが……という逃走劇を描いたお話。
いろいろ強引だけれど面白いかな。応用は利かないけれど、学んだことは完璧にこなせるというミタマが、基本的に情けない人として描かれているので、感情移入しにくいところがあるんだけど、そんな彼を好きな妹の涙珠が可愛いんだ。「家族として兄さんが好きです」といいながら、それ以上の思いを感じさせる行動に、にやりとさせられる。冷たいこといいながら、なんだかんだ助けてくれるからアレですよね。
ちなみにミタマの家族は、皇帝を護衛する将軍家だけあって、家族全員戦闘力高いです(除くミタマ)。涙珠は、戯言シリーズでいうなれば一姫みたいな感じかな。ジグザグはしないけど、糸使い。
永生権を手にするための逃走劇は、すべてを捨てていく寂しさを見せながら、順調に進んでいきましたが、まさかこんな形で那智を失いそうになるとは思わなかった。歌い手であり、新興宗教の教主でもある姉を頼り、そこを拠点にして「弱者保護権」を手にしようとしたのに……ある意味、寝取られに近いショックがあるよなあと思った自分がいた。心が痛くてたまらない。
愛とか何とかいいつつも、ミタマの行動は勢いと流されるだけの行動に見えるので、涙珠の言うとおり不合格だよなあ。でも一応見せ場もあって(ちょっと強引だったと思うけど)、ほっと一息。っていうか、ミタマに限らず、才を持つ神倉家やその関係者も、なんていうか子供っぽいところがあるのに力もあるから、無邪気に残虐だったりして、読んでて不安定な気持ちになった。
あとがきによると、このお話は、著者が手がけた初の小説らしい。めぐりめぐって手を入れて出版されることになったみたいですが、なるほどと思うところもあります。まだ終わっていないようなので、続きがどうなるか気になりますね。
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