「咲希は、何を憎む」
いびつに笑う。シロの目の中に、苦しんでいるのか悲しんでいるのか起こっているのか判別のつかない私の顔がある。
「あなたと同じく、己が属する世界の全てを」
この小さく狭い世界を。
「君は、そんな恐ろしい言葉ですらも美しくする」
九月の夜、森の中で出会った喋る白い狼に結婚を申し込まれて……自分の世界に居場所のない狼と少女の恋を描いた物語です。
あー、これ最高。こういう雰囲気大好き。
森の中で狼と出会い、襲ってくるのかと思ったら、狼が喋りだすんですが、それに驚きつつも冷静に返す少女の会話のセンスだけで、やられてしまいました。強いはずの狼が、少女の小悪魔っぽい囁きに負けてしまうところとか、ほんといい。
ただ、こんな少女が学校へ行けば、浮くことは想像に難くなくて。学校内で降りかかる出来事について、毅然とした態度を貫く少女・塚木咲希の姿は、気高く、それでいて強がってるようで……。
なまじ狼のシロと過ごす姿が微笑ましく、歳相応の可愛らしい少女として目に写るだけに、やるせない気持ちになります。
「つらくないかなその生き方」
そう声をかけた転校生の少女の気持ちがとても良くわかりました。
ひょっとしたら、傷を舐めあうような関係から始まったのかもしれませんが、いつしかお互いを大事に思い合い、大事だと思うからこそ遠ざけてと、すれ違いが見えるところは、淡々と描かれながらも辛いものがありましたね。シロという存在が大きくなっているにもかかわらず、側にいないとき、素直に呼びかけることができない咲希に不器用な思いが見えて。
不器用さが戦いを呼び、愛するものを手に入れるために、あるいは守るために、叫びながら血を流しながら戦う姿は、狂気のように思えて、そのくせ寂しさを感じるものがありました。
いやあ、良かったなあ。狼と少女の恋物語が、これほどまでに悲しく美しく描かれるとは思いませんでした。
この一人と一匹が、このあとどういう道を歩んでいくのかは、読んでみたい物語のひとつになりそうです。
第4回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作。
この広い世界にふたりぼっち (MF文庫 J は 6-1)
葉村 哲
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