催眠術のテレビを見て、おおーって思った綾さんが、本を買ってきた。本を読んだぐらいじゃ……と思いながら、綾に頼まれて、練習台となった健一だが、なんと驚いたことに、あっさりと掛かってしまった。しかも寝ている間に、綾さんが掛けた暗示とは、周囲の人が好きな人に見えるようになるといったもので……
- 催眠術によって、会う人会う人が千夜子ちゃんに見えてしまうという「僕と綾さんと千人の千夜子ちゃん」
- 考えなしの発言で人を怒らせてしまう咲良が、八雲狭霧と仲良くなる「私とお嬢様とメガネなお仕事」
- 蛍が夫となる圭一郎と遊園地にいく「私と圭一郎と恐怖の館」
- 友人たちとプールにいった鈴璃が、エリと出会った「私とエリさんと嫌でも目立つ自分」
- 刻也が入院した母親のお見舞いに行く「私と有馬君と病院での出会い」
という五編からなる短編集です。
ああ、いいなあ。どの話も、淡々と会話をしているだけなのに、とても惹かれるんですよね。のほほんとした空気に浸っているとき、ふいに見せられる心情の変化が、ハッとするほど印象に残ります。この妙が魅力のひとつなんだろうなあ。
一編目の「僕と綾さんと千人の千夜子ちゃん」はいいなあ。周囲の人が全員自分の好きな人に見えるという暗示をかけられたとき、それが千夜子ちゃんだったことに嬉しくなりました。っていうか、本人の自信のなさには、どうかと思ったけど、繋がれた手の温かさが伝わってくるような千夜子ちゃんとのやり取りが良かったです。
面白かったのは「私と圭一郎と恐怖の館」でしょうか。実は怖がりだった蛍が、そのことを言えずにお化け屋敷に入って、というところに、蛍の意外な姿を見た気がして、ニヤニヤ。でもこの強気っぷりがいいですね。
夫となる圭一郎は、なんともつかみ所のない人だなあ。あらゆることをソツなくこなす余裕っぷりが、いっそ気持ちいいぐらいですが、なんとなくこの人の雰囲気は健一に似てる気がする。素敵なカップルになりそうな予感を思わせるラストが素敵でした。
一番好きなお話は「私と有馬君と病院での出会い」かな。お見舞いにいった先でのやり取りに、息子を思う母親の気持ちが伝わってきて……。リンゴひとつで、こんなに感情を揺さぶられるとは思わなかった。でも、それに気づかないから、刻也は刻也なんですよね。昔に比べれば、良くなってると思うし、友人話を聞いたお母さんもそのことはわかってるでしょうから、これからもきっと、温かくみ守ってくれるんだろうなあ。
刻也と冴子の過去のお話にも、ちょっと触れられてましたね。いろいろと重そうなものを感じさせてくれますが、このあたりは、いずれ語られるのかしら。
ただ、一編目をのぞくと、ほとんど同じテンポなので、さすがにちょっと物足りなくはあったかな。一日一編ずつ読めばよかったかもしれない。とはいえ、普段は見えない脇役たちの複雑な内面が見えるお話は、とても興味深かったので、このあたりが本編にどう繋がってくるのか、気になるところです。
それにしても、あとがきの面白さは異常。
ROOM NO.1301しょーとすとーりーず・ふぉー
新井 輝
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