「言っておくがな、アレス。毎日のようにお主と訓練していたわしには分かる。お主の剣の太刀筋、戦場での立ち居振る舞い、それはすべてお主の訓練と経験の賜だ。お主から何が失われたかは知らぬ。だが、お主が歩んできた道を否定することは出来ぬぞ。それはお主とわしとで作り上げてきた結果だからだ。お主が否定しようとわしが肯定する。それだけは覚えておけ」
貴族と反乱軍の内乱が続くベールセール王国の動乱を描いたシリーズの第十弾。今回は、力を失い、王族殺しの嫌疑を受け、行方不明になったアレスを見つけ出した従者たちが、アレスを立ち直らせようとするお話しです。
ようやく、ようやく戻ってきたか。
うじうじなアレスに苛つきを覚えますが、考えてみたらまだ十八、しかも幼い頃から傍にいてくれた存在がいないというのは……。誰もがアレスに戻ってきて欲しいと願い、いろいろな形でアプローチするも、手応えがないのは周囲の人たちからしてもきついと思いましが、あえてどっしり構える年配者を見ると、なるほど人生経験とはこういうものかと思う次第です。
説得と言うよりは、自らの過去を語る形でアレスの心を動かそうとするアプローチで、アレスの父の話、ミーアの話、シオーネの話、そして従者としてずっと傍にいたドワーフ・ガルムスの話がありましたが、たぶん一番心を動かしたのは、ガルムスがパンドラの気配に気づいていたことだったと思います。たしかに彼女の力があったから切り抜けることができたことは多々ある。でも彼が培ってきた力は、決してそれだけじゃない。
理解しながらそれでも一歩踏み出すことに躊躇していたアレスでしたが、やはり人の言葉で動くんですね。クラウディアの代わりとなった少女がハッした言葉が押した背中は、きっとこれから多くの人が見ることになると思います。
初めての挫折から立ち直り、失った力はあるけれど、それ以上に得たものがあり。背中を預けられる存在がいるということは、彼にとって大きな支えになると思います。
「英雄再起」というタイトルから想像したような興奮度はありませんでしたが、着実に堅実にアレスの支えを書いてくれたので、次はきっと……と思わせてくれます。王都の話とジェレイドの事もあるので、これから楽しみですね。
火の国、風の国物語10 英雄再起 (富士見ファンタジア文庫)
師走 トオル
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