「まあ聞けよ。……おまえ『あの夜』のことをしらないだろ」
ハンプニーは静かに話を続けた。
「例の<神様が居なくなった夜>ってやつだよ。知ってるか?」
十五年前、神は世界を捨てた。人は死なず、生まれることのない世界で、死の安らぎを与える存在は墓守だった。父はおらず、母を無くした少女アイは、優しい村人たちに囲まれて、墓守を勤めていたが、人食い玩具―ハンプニーハンバートと名乗る少年が現れた日から、優しい世界は崩壊して……第21回富士見ファンタジア大賞大賞受賞作。
これはとても良かった。
村人とアイとのやり取りに温かいものを感じて、どんなお話になっていくのかと思ったらいきなり悲劇が待ち受けてるんですが、手を下したものの思惑が見えないまま話が進むので、もどかしく思っていたのに、気づけば引き込まれている、読まされてしまっているんです。
墓守としての誇りを傷つけられ、アイデンティティが壊れるような、衝撃的な出来事があっても、決して折れることのなかった少女の強さに魅せられたんでしょうね。
それと、アイにつきまとわれ、激しく突き放したと思ったら、優しさを見せたりするハンプニーの矛盾しながらも一貫したものを感じる行動に、何か感じるものがあったのかも知れません。伏線なんて上等なものに気づくような頭はしていませんが、それでも、この村に秘密があることは伝わってきましたから。
二人で旅をするにつれて、はじめはアイの心のうちが語られていたのに、気づけばハンプニーの心まで見えてくるからやるせなくなるんです。ただ生きていたいと願っただけなのに。
言葉のあやから始まった親子のような関係が、時折本もののように見えたのは、似たもの同士な空気を感じたからかも知れません。
何も知らずに幸せに暮らしていた少女が、全てを知って恐怖を抱えていた男と出会ったことで、最後に幸せを掴めたことは、良かったと思います。たとえ、そこに堪えきれない涙が待ち受けていたとしても。
あのシーンには、いや、あのシーンに行く前に、どんな結末が待ち受けているかは見えていたから、読み進めるのが辛くて、涙して、でも読まずにいられないものがありました。
アイと共に涙して、でも墓守としての誇りを忘れなかったアイの姿に、彼女をこれまで支えてくれた人たちの思いを感じて、幸せな温かさに包まれました。
いやあ、よかった。これはとても素敵な物語ですね。とってもオススメ。
神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)
入江 君人
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