マルクがホッと胸をなで下ろすと、ドミニクが何か思い出したようにポンと手を叩く。
「ああ、でも、今日はアイシャもいっしょに行った方がいいと思うよ」
「何故、そのような危険を?」
「……あの、マルクさん?今、危険って」
精霊に対価を捧げ、異能の力を手に入れた契約者たるお嬢様のエルミナと執事・マルクが繰り広げるコミカルなシリーズの第五弾。今回は、<アルス・マグナ>が見せる夢に囚われたエルミナが、過去の記憶を追体験するという形で語られる短編集です。
- マルクがカナメと共に彼女の服を買いに行く「瑠璃猫の求める羽衣は」
- マルクのよくある災難な一日を描く「災厄は日常の隣に」
- 口座を開設しにいったら銀行強盗と遭遇する「灰と共に散りぬ」
- 酒蔵にエルミナを案内したら「暗闇に潜むものは」
- マルクと出会う前の過去に、エルミナがマルクと出会う「そして、揺り籠は落ちる」
これは楽しかった。
みんなのマルク大好きっぷりと、そんな乙女心に気づかないマルクの唐変木っぷりにニヤニヤがとまらない。女性陣のお互い苦労するよね的なため息とかいいですよね。といいつつ、カナメにしろ、エルミナにしろ、みな、ちょっとだけマルクと接近するシーンがあって、楽しい限り。
そんなマルクが、実は何かと姑息だったりするから困ります。屋敷にある高価なものを売ったらいくらになるかとか、ゲーム初心者相手に賭け事を持ちかけるとか。百年の恋も覚めそうな卑怯さなのに許せてしまうのは、すべて自業自得になってくからなんだろうなあ。「灰と共に散りぬ」の燃え尽きる様は、思わず同情したくなるものがありました。
どの話も面白かったけど、個人的には「そして、揺り籠は落ちる」が好みでした。
「もの」に宿る過去を追体験していくという設定で、マルクのコートが見せる過去は、エルミナと出会う前の、ちょっとぐれたマルクが、現在のエルミナと出会うという、タイムスリップものっぽいストーリィ。エルミナはマルクを知っていても、マルクはエルミナを知らないので、少しチグハグなところがあるんですが、夜の町を一緒に歩き回るうちに、居心地が良くなっていくという展開が素敵でした。
隣にいたい、その願いが叶うところは、神様の贈り物なのかな、なんて思ってしまいますね。
戻ってきた後、エルミナがマルクにしたことに、きゃーっと叫びたくなった僕がいます。
さあ、次は眠り姫編の最終巻らしいので、どうなるか楽しみですね。
影執事マルクの迷走 (富士見ファンタジア文庫)
手島 史詞
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