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[手島史詞] 影執事マルクの手違い

「お嬢様。本日の予定に変更はございませんか?」
「……ない」
「それでは、こちらのお客様にはお引取り願うということでよろしいでしょうか?」
エルミナは、戸惑うように瞬きをしたが、それから少しだけ口元を緩めた。
「……失礼のないように丁重にお送りしたまえ」

ヴァレンシュタイン家に潜り込むべく執事に扮して、当主・エルミナを暗殺しようとして、見事返り討ちにあったマルク。しかも、エルミナには返り討ちしたという意識もない。絶対の契約書にサインをしてしまったものの、何とか逃げる手段はないかと考えながら執事の仕事を続けていくうちに、だんだんとエルミナのことが気になって……精霊に対価を捧げ、異能の力を手に入れた契約者たるお嬢様のエルミナと執事・マルクが繰り広げるコミカルな物語。

いやあ、面白い。

裏の世界でそれなりに腕に覚えのあるマルクですが、幼いころから苦労に苦労を重ねて、職を転々としてきたおかげで、執事というか屋敷内を切り盛りすることが、実は結構うまかったりして、何とかエルミナの勢力から逃げ出そうと思いながら、ついつい執事業に精を出してしまう姿にニヤニヤしてしまいます。油断を誘うためとか、手なずけておいたほうがという理由をつけては、エルミナや使用人であるアイシャの世話を焼いてしまうんですから、まったくもって、根が優しいというかなんというか。それにしても、マルクの入れる紅茶は美味しそうだなあ。

絶対服従の契約書にサインをしてしまったことで逃げることができない。それはそれで間違いではないんだけど、だんだんと契約書がなくとも、執事として過ごす日常に安らぎを覚えていき、そんな自分に困惑して、ついエルミナを狙うものに力を貸してしまうあたりに混乱する思いを感じますが、最後の最後で、間違ってはいけないところを引き返すことができたってのが、マルクのいいところだと思います。

無表情キャラで心情つかみにくいけど、使用人たちのことを使用人以上の存在として見ているエルミナの優しさもまたマルクの心を動かしてましたよね。マルクのために、アイシャのために。そんな思いが見つかったときの気恥ずかしそうな姿は、とても印象に残ってます。

そして最後のバトル。あれほどの戦いを繰り広げて、傷つきながらも倒れることなく、主人の前では礼を忘れなかったマルクが最高でした。そりゃね、今まであまり心動かすことがなかったエルミナが笑ってくれたんだから、それだけで仕える身としては、守るべき理由として十分ですよね。いつの間にやら通じ合うような雰囲気ができてて、とても良かったです。いやあ、面白かった。

今回はマルク話ばかりでしたけど、エルミナもいろいろ過去を持ってるようですし、どうやら次巻ではそのあたりのことが描かれるようです。しかも、二人の関係も……?何気にアイシャも入ってきそうな雰囲気がありそうなので、ヴァレンシュタイン家の中が楽しいことになりそうですね。もちろん、賢者の石の行方も気になりますし、続きがとても楽しみです。

影執事マルクの手違い (富士見ファンタジア文庫 て 1-1-1) - 手島 史詞

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