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[冲方丁] スプライトシュピーゲル Ⅳ テンペスト

「なぜ答えて下さらないのです?あなたは、どなた―」
『……少し驚いただけだ』遮られる ― 余計なことは喋るなと言わんばかりの声音 ― やおら、こちらの意を汲んだように言った。『いいぜ。あたしが誰か教えてやる』
思わずぎゅっと携帯電話を耳に押し付けたところへ、驚くべき答えが到来した。
『ミリオポリス憲兵大隊、遊撃小隊ケルベロス小隊長、涼月・ディートリッヒ・シュルツ。お前と同じ特甲児童だ。羽は生えてねえけどな』

凶悪犯罪やテロが多発しているオーストリアの首都であるミリオポリスで、特甲を手に治安の維持にあたるMSS邀撃小隊の活躍を描く物語の第四弾。今回は、MSSの小隊長を務める鳳と、時々MSSをお手伝いしてた冬真が、デートまがいをする「フロム・ディスタンス 彼/彼女までの距離」と、エルファシル紛争における戦犯法廷で証言する七人の証人とそれを保護するMSSに敵の刃が襲い掛かる「テンペスト」からなるお話です。

最高傑作!!!

あまりにも面白くて、がっつり引き込まれて、530ページを超える物語なのに、あっという間に読み終わってしまいました。読み終わったあとのこの興奮をどう冷ませばいいのかわかりません。ああ、すごいものを読んでしまったという感覚にゾクゾクするものがあります。

いつものごとく、怒涛の戦いがあったりするんですが、それよりもまず引き込まれたのは、変則的なTRPGです。集まった証人たちが、暇つぶしにゲームをしようと言い出して、証人+MSSメンバー+ニナで勝負するんですが、開始数分で、しっかりものの鳳までが引き込まれるのもわかるぐらい、魅力的なゲームなんですよ。

現実ではないとわかっているのに、それでも、賽の目によって導かれた自分のコマの運命の恐ろしさと、楽しさを感じます。キーワードとなった「水」ひとつで、涙が流れるほどの感動を覚えたのは僕だけじゃないはず。
このお話が延々と続いても、たぶん、文句なかったと思うぐらい面白かった。

もちろん、これは証人たちとのゲームであって、本来の仕事はまた別で。

護衛。その仕事の過酷さと辛さが、これでもかと前面に出てくるから、圧倒されてしまう。
ついさっきまでゲームで楽しんでいた人が、あふれる優しさで包んでくれた人が、圧倒的存在感で魅了してくれた人が、倒れていく悲しみは、耐え難いものがあります。絶望に打ちひしがれながら、それでも己の職務のために、立ち向かうMSSの姿が、重くて苦しくて。

ただの敵ならまだしも見えない、しかも圧倒的火力を誇る敵に、さすがの鳳も心が折れそうになったんですが、ここで彼女を立ち直らせたのが、もうひとつの特甲児童MPBだってところが、すごかった。はじめは、無礼な相手に怒りを覚え、言葉を重ねていくにつれて、わかりあっていくところに、しびれるばかり。
あちらもあちらで大変なことがあるようなので、そのあたりは、オイレンシュピーゲルで明かされることを楽しみにしてます。

で、禁断のレベル3やもうひとりのトラクルなど、いろいろなことが見えてきて……と思ったら、二転三転どころか、七転八転してるんじゃないかってぐらい、次から次へと展開が転がっていくところは、まさにジェットコースターノベルですよ!
最終章なんて、怒涛の展開でありながら、ページをめくる度にドラマが待ち受けていて、涙ぐみながら大興奮してました。あの共闘の素晴らしさは、二つのシリーズを読んできたからこそだよなあ。

いやあ、面白かった!
今まではどちらかと言ったら、オイレンシュピーゲルのほうがいいなあと思ってたんだけど、今回ので一気に逆転しました。いやまあ、このシリーズは、オイレン/シュピーゲルあわせてのお話だとは思うけど、その二つあわせても、今のところこの作品が最高傑作じゃないでしょうか。

また最後がよかった。MPBとの距離もさることながら、鳳とふたりの隊員との距離が、もっと近づいてきたんじゃないかしらと思えるものがありました。
このシリーズは、あと二冊で終わるとのことですが、「仲間」たる距離感は、ずっと魅せてほしいなと、そう思いました。

スプライトシュピーゲルIV  テンペスト (富士見ファンタジア文庫) - 冲方 丁

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