鬼ヶ島の頭領を討ち取り、鬼たちを駆逐したのは桃生という若者だった。頭領の子である温羅は、囚われの身となったが、神器を奪うために、桃生の部下の犬が温羅を閉じ込めていた村を襲った。
騒ぎに乗じて逃げ出そうとした温羅だが、再び囚われの身となり、神器奪還へ協力させられることになった。囚われていたときに唯一、食事を与えてくれた少女とともに……
誰もが思い浮かべるであろう日本の昔話や神話をモチーフにした物語ですね。これは面白い。
頑なに人間を恨みながらも、心の奥まで憎みきれていない温羅の葛藤が伝わってきます。恨む相手を「人間」と一括りにできないのは、梓の純粋さに触れたからでしょうね。人間を恨む鬼の心が、梓というひとりの少女によって溶けていく展開に思わず頬が緩む。シリアスな場面が多いんですが、この二人の交流には心が温まるなあ。
もう一人の同行者である川楊が、またいい味を出しているんですよね。一歩引いたところから出してくるさりげないお節介は、気づいていても受けざるを得ない。その計算高さにニヤリ。下っ端といいながら、底を見せない胡散臭さがたまりません。
展開としては先が見えているようで肝心なところ見えないような、なんとも言えないもどかしさを感じます。主役クラスの二人が単純なだけに、その他の人の思惑が妙に深く見える。実際にはそれほどでもないんだけれど、見せ方がうまいなあ。ここであれと繋がるのか、と気づいたときは、思わず膝を打ってしまいました。
もったいないと思ったのは、説明が若干省略されている感じを受けることですね。受賞作ものって枚数の規定があるからか、どこか削らないといけないんだろうなと思うわけですが(違うかもしれないけど)、この物語であるならば細部にも拘って欲しかったと思います。
いや、それにしても満足な一品です。きれいに終わってはいますが、温羅と梓の今後は読んでみたいなあ。できれば川楊つきで。
第十八回ファンタジア長編小説大賞の大賞作品。
戦鬼 ―イクサオニ―
川口 士
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