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[花田一三六] 豪兵伝 戦塵外史 四

雑誌「ザ・スニーカー」やアンソロジーもの等に収録されていた文庫未収録の「大陸もの」を「戦塵外史」シリーズとしてまとめた短編集です。「人斬り」「豪兵伝」「女人像奇談」「工房小話」「最後の仕事」「導く女」「轍の記」「農夫の剣」の八編が収録されています。

いやあ、面白い。やっぱり、この人の作品って好きだなあ。登場人物たちの死に様や生き方に、漢とかいて男と読ませるような芯を感じますね。個人的にこのシリーズは大好きなので、一編ずつ感想を書いてみる。

人斬り
太刀筋から同一人物の反抗とわかりながら、まるで手がかりを残さない人斬りフィードと、彼を追う警吏ダルトお話。正義を担うものとして、人斬りを追い続けていくうちに、人斬りの生き様を、我がことのように知っていくところが興味深い。証拠を見つけたときに「あいつがこんなヘマをするだろうか」と思うんですから、ある種の信頼がそこに見えます。
そんなふたりが、ようやく出会ったときの戦いが、またすごい。ホンの数ページなのに、壮絶なものがありました。敵ながら、という思いはお互いにあったかも知れません。
どちらの男も見事な姿を見せただけに、姑息さがこのふたりの戦いを引き起こしたということが、なんとも皮肉に思えます。

豪兵伝
表題作。長躯な樵が、臨月の妻の元を残して、戦に徴収されたお話。人を殺すことに迷いを持ちながら、妻の元へ、生まれてくる子供の元へ戻りたいがために、向かってくる敵に鉞を振るう姿が、心に痛いです。いつしか迷いをもつ余裕すらなくなる。これが一兵のおかれる立場かと思った次第。大局を語る戦ものは多いですが、ひたすら一兵の心情を描いたところがすごいですね。
城主の息子とのやり取りが、一片の清涼剤でした。彼は、今後どういう道を歩むのか気になったのは余談。

女人像奇談
石工であった男が、ある日突然、女人像を彫り始めるお話。シリーズにおいても、この短編集においても、ちょっと気色が異なるお話ですね。将来を約束した女を相手にしながら、だんだんと女人像へと心惹かれていく様が、なんともホラーテイストです。また、色気という点でも今までで一番強いかも。女と女人像の艶に思わず反応するものがある。

工房小話
拾ってくれた恩から刀鍛冶の親方の手伝いをして、刀を作りながらも、両親を殺した刀を憎む少年のお話。腕を磨きながらも、磨いた刀は憎むという矛盾を背負う少年の苦悩が伝わってきますが、そんな少年を諌めた親方の姿がしぶいなんてもんじゃない。「職人」という言葉の重さを知ることができます。
自分の気持ちを恥じた少年が、一心不乱に刀を打ち続ける姿が、熱い。
これは良かったなあって、ここから後の話は全部良かったんだけど。

最後の仕事
どれも良かったけど、中でも一番好きなお話はこれかも。痩せた土地の領主となった男が、領民のために、新たな作物「芋」を作ろうとするお話。不作の連続で、税を徴収することすら間々ならないときに、知恵を絞り、試行錯誤しながら、新たな道を探すおじいちゃんが格好いい。上からの問い詰めに、決して言い訳せず、それでいて民を守り続ける姿が良かったです。
とはいえ、こういう姿に反応しちゃうのは男だからかもしれない。

「まったく。男ってのは妙なことに熱くなるんだから」

いや、全くもってそのとおり。こういう言葉を投げつつ、信頼を見せてくれる奥さんの言葉が印象的でした。

導く女
まだ「不敗の王」と呼ばれる前のバルディールが、負け戦で落ち延びたときに、助けてくれた女性がいて、というお話。女を知っていながら、遍歴が少ないがために、いろいろ噂されたバルディールですが、実は不器用なだけなんだなと思うばかり。助けてくれた女とのどこかズレた会話は、真面目なやり取りなはずなのに、面白おかしい。僕だったら、文句なしで惚れちゃいますが、おそらくバルディールも惚れてたんだろうなあ。それでも、彼女の立場を考えて行動した姿に、国を治める人の正しき姿を見ました。
最後の夫人との言葉に、ごちそうさま。

轍の記
食料などを運ぶ荷駄隊が、襲われたときのお話。いや、戦ものの場合、補給がいかに大切かということを説く物語は多いですが、補給隊そのものの話ってのは珍しいかも。四百人の部隊に付く荷駄隊は、十五人。そのほとんどが人夫であり、戦えるのは五人ほどしかいないという状況で、本体から隔離されたら、どうなるかは想像に難くない。

にもかかわらず、敵の伏兵をやり過ごし、敵国の村人の策略にも負けぬ将軍の才と、人夫をも鼓舞する人望把握技術がすばらしい。この話を第三者ではなく、人夫から聞くというスタイルが、いい感じに、戦の恐ろしさと将軍への信頼とを伝えてくれましたね。
生きているということは、ただそれだけで素晴らしいものなんだと、胸に響きます。

農夫の剣
傭兵として名を馳せた「先生」が、農夫になり、同じく傭兵であるシェンナに農夫を勧めて……というお話。傭兵という生き様は、「戦塵外史 二」でも出てきましたが、そのあたりの虚しさが描かれています。命を育む農夫との対比もまた興味深い。
「先生」の妹とシェンナの初々しい恋物語も素敵でしたが、若きシェンナが、「先生」の教えや母の思いを理解していく様が、とてもよかったです。
はたして、「農夫になるか」と言われた彼が選んだ道は……読んでからのお楽しみってことで。

いやあ、面白かった。特に、後半は、どれもこれも魅力的で、引き込まれっぱなしでした。っていうか、気色の違う「女人像奇談」以外は、全部面白かったんですけどね。

戦塵外史シリーズは、シリーズといいつつ、世界観が同じだけなので、どれから読んでも問題ないので、興味があったら、手にとって見てください。オススメです。たまに、他の巻とのちょっとした繋がりがあったりしますが、そのときはニヤリとできて楽しいですよ?

角川スニーカーや雑誌など、今まで出版されていた「戦塵外史」は、これで終わりらしいですが、新たに書き下ろしで二作が出るとのことで、すっごい楽しみ。ちょっと時間がかかるかもとのことですが、いつまでも待ってますよ!でも、なるべく早くお願いします。

戦塵外史四 豪兵伝 戦塵外史  - 花田一三六

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Comment:2

ジャラル 2007-11-18 (日) 13:35

「戦塵外史」シリーズ、今回はアンソロジーや『ザ・スニーカー』に掲載された作品が初の文庫化です。良い話が多いのですが、『工房小話』の剣を川に入れて切れ味を見る」エピソードは、時代劇ファンならお馴染みの「村正と正宗」のエピソードで、名匠正宗が弟子の村正に「お前の剣は妖刀だ。」と諭す話がそのまま使われているのが気になりました。以前読んだ時は、流石に単行本にする時は修正すると思ったのですが・・・。他の話が及第点なので気になりました。私も書き下ろしの次巻楽しみです。

deltazulu 2007-11-19 (月) 20:01

「村正と正宗」というエピソードだったとは知りませんでしたが、ああいった話は、時代劇等でよく見かけるので、個人的にはそんな気になりませんでした。

書き下ろしの次巻、楽しみですよねー。わくわく。

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