そのマンションの最上階である十一階はね、ここ数年、一世帯も住んでないんだ ― という朱門の言葉から、袴田がそのワケありのマンションの十一階に住居を移すことになってしまった。それも、ひとりで。何かあったらどうしようと不安を抱えながら、新しい生活がスタートしたが、ある日、笹緒に呼び出されたら、雪たちに内緒で、他人の家に忍び込んで欲しいといわれて……
長き時を経た妖怪の雪と伊佐の元に、修行僧を目指す高校生・袴田が弟子入りして……という、人と人あらざるもののハートフルファンタジーの第四弾。
今回は、カナリヤの中でも門外不出のモノがとある古い家に流れてしまい、その家の娘に異変が起きた「AIKO」、事業に失敗した男が、目の前のお金持ちそうな家から飛び出してきた男の子・玄太郎を誘拐してしまう「TATSUYA」、 日に日に人あらざるものたちが現れるようになったマンションで知り合った階下に住む少女・美希の姉の話が失踪したという「MIKI」、好きな人の名前をいまだ呼ぶことができない少女の思いと迷いが描かれる「MAAKO」という、四編からなるお話です。
「AIKO」では、久しぶりにヒメの言動が見れてうれしかったですが、ちょっとファンタジー過ぎるかしら。ああ、でも、お菓子の家は見てみたい。
意外や意外な思いをしたのは、二話目の「TATSUYA」ですね。子供を誘拐するときの王道手段(お菓子で釣る)に面白いようにひっかかる玄太郎ですが、誘拐されているとは気づかずに親愛の目で見られたら、やましいことをしている人にとっては、心痛むものがありますよね。子供らしいまっすぐさに、迷う誘拐犯の姿がおかしくも切ない。
伊佐や雪が、誘拐のことを気づきながら、むしろ便宜を図るようなことをしてるところには、何があるんだろうと不思議に思いましたが……、ああ、そういうことだったのか。ふと昔を思い出し、自分の大切なものが胸に仕舞われていることを気づかせる展開が良かったです。
雪の手品の小憎らしさに、じんわり。
一番良かったのは「MIKI」かな。得体の知れないものがうろついているという、ホラーテイストな雰囲気がありながら、どこかユーモアも見せてくれるのは、袴田のもたらす雰囲気のせいかしら。マンションの階下に住んでる女の子に、変質者と怪しまれるところとか、思わず笑ってしまいました。
ただ、一般の人たちに少しずつ、〝何か〟が忍び寄るところは、ドキドキだったなあ。早く雪たちを呼ぼうよとせっつきたくなったのは、僕だけじゃないはず。
最後にちらりと見えた伊佐の心情については、切ないものを感じますが、きっと、今は、まだ今は、彼にその思いはないと信じたいですね。
最後の「MAAKO」は、「MIKIでの出来事が影響となったもので、お話としては良くあるものでしたが、ちょっと切なく、たっぷり温かいものを見せてくれるのは、このシリーズらしいですよね。特別何があるわけじゃないけれど、そこにあると読みたくなるものがあるので、今後も楽しみ。
伊佐と雪 ‾たましいのゆくところ‾ (GA文庫 ゆ 1-4)
友谷 蒼
ソフトバンククリエイティブ(文庫)
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