掛け軸から逃げ出した赤い猫を探してほしいと、カナリヤの管理人が言ってきた。赤い猫は、人間には見えないとはいえ、妖怪連中であれば、見逃すはずがないと判断した雪は、目撃情報を集めるために、妖怪相手の飯屋を一日だけ開業する案を思いついた。もちろん、食事を作るのは、袴田ひとり。はたして、大丈夫なのだろうか……
という「AKANEKO」を含む四編からなる短編集です。
いやあ、いいですね。動きはあまりないんですが、まったりとした雰囲気がたまらなく魅力的です。
個人的に一番良かったのは、第一短編の「RENTATAROU」ですね。お祖父さんが夢に出てきて、不思議な玉を渡されたら、夢から覚めても手元に玉があったというお話。あまり知られていなかったお祖父さんのことが、伊佐たちから思い出話として出てきて、ちょっと切ないものがありましたが、袴田の心遣いというか、本気で思ってるんだろうなあという言葉に、ほんわかと温かいものを感じました。こういう話はうまいですよね。
雪が熱を出して寝込んでしまう「YAMAWARO」は、ちょっと微妙だったかな。何をやりたいのかわかるようなわからないような感じでした。妖怪を袴田があしらうシーンは笑ってしまったけど。
まあ、この話は、雪の弱った姿に、ニヤニヤするお話といっていいかもしれません。心配しまくる袴田君はいい人だね。
あらすじにも書いた「AKANEKO」ですが、コレも良かったなあ。袴田の苦労を考えもせずに、ほいほい企画やら案を出していく周囲の人々ののん気さが楽しいです。特に、雪と玄太郎の賭けが面白かった。何気に雪も負けず嫌いだよなあ。
妖好みの料理が作れるというのは、いいことなのかどうなのかよくわかりませんが、お役に立てたのであれば、袴田もうれしいことでしょう。巻頭イラストの二枚目にある玄太郎のちょこまかっぷりが、とてもかわいいです。お手伝いする姿が、目に浮かびますね。
朝起きたら音が聞こえなくなった少女を描く「MANA」は、今回の短編集では、はじめて他の人の視点から描かれてました。音が聞こえないというのは、普通にありえそうなだけに、淡々と描かれると怖いものがありますね。誰にも言えず、今までと同じように装う少女の不安な態度が伝わってきました。これは気持ちがわかるなあ。
袴田や雪がさっそうと解決したにもかかわらず、関係者にはまるで姿を見せていない裏方っぷりが、このシリーズっぽくて良かったです。名前のこともあるし、いつか再登場してくれるとうれしいな。
今回の短編集は、袴田が出ずっぱりで、伊佐も雪もあまり出番がなかったですね。まあ、雪はいつものことですが。たまには他の人の過去話とかも読んでみたいなあと思ったりしますが、さて、次はどんな話になるんでしょう。楽しみですね。
伊佐と雪 ~おだけしあした~
友谷 蒼
ソフトバンク クリエイティブ(文庫)
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